柳は緑 花は紅

璃鵺〜RIYA〜

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柳は緑 花は紅 1

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もうずいぶん長い時間・・・ずっと猛(たける)が好き。

生まれる前から家が隣同士。生まれた時期は数ヶ月ずれてて、猛が5月生まれでボクは12月生まれだから、学年は一緒。
生まれた時から一緒に育てられてて、乳飲み子の時からずっと、母親同士が協力して子育てしたいたせいで、ベビーベットも同じところで寝かされていた。
父親もそれに安心してか、便乗して、何をするにも何処に行くにも、ボクと猛はずっと一緒だった。

離乳も一緒で、トイレトレーニングとか、公園デビューとか、ありとあらゆることが一緒だった。

猛がずっと側にいて、ボクを守ってくれていた。親もそれが当然のように思っていて、ボクが体調を崩したりすると猛がすぐに気付くので助かると言っていた。
そんな関係だったので、当然のように幼稚園から高校まで同じ学校に通っていた。

ボクは体が小さくて、細くて、顔も女みたいにぱっちり二重で、口唇も厚くてぼってりと真っ赤で、肌も雪のように白くて。
名前が『雪』だから白雪姫みたいな外見がぴったりだって、いつもいつも周りに揶揄(からか)われて、すごく嫌だった。

対して猛は、一重の涼しげな目と、薄い口唇に、男らしい骨太な体格をしていて、すごく羨ましかった。
浅黒い肌も、逞(たくま)しい筋肉質な体も、低い太い声も、ボクとは全部正反対。
ボクがなりたいと思っている『男性』そのものだった。

羨ましかったのに、ちょっと悔しかったのに。

いつの間にか、気がついたら、好きになっていた。

あの薄い口唇でキスして欲しい、太い逞しい腕で抱きしめて欲しい、あの厚い胸に抱きしめられたら死んでもいい・・・。
そんなことを四六時中考えるようになった。こんな風になったきっかけなんて、忘れた。忘れたけど。

いつの間にか、気がついたら、好きになっていた。

こんな感情、バレるわけにはいかない。きっと気持ち悪いって言われる。だから気付かれないように、ひっそりと生きていこうと、猛とは距離を置こうと思っていたのに。
猛は優しいから、ずっとボクの側にいてボクを構ってくれていた。

クラスや部活は違ってても、常にボクのことを気にかけて、一緒に登校も下校もしてくれて、自分の友達の中にいれてくれたり、猛はとにかく、ボクの側にいてくれて。
本当は離れなきゃって判ってても、離れられなかったのは、ボクが猛が好きで傍(そば)にいたかったから。
猛はボクを嫌がったりせず、幼馴染みとして当たり前に受け入れてくれた。

その関係が少し形を変えたのが、ボクが高校生の時にギターに出会ってからだった。
よくあるパターンで、テレビとかネットでライブ映像とか見て、格好よくって憧れて、お年玉とかアルバイトして貯めたお金でギターを買った。

それからギター漬けの日々になってしまい、猛ともあまり会わない日が続いたら、何故か猛がベース買ってボクの部屋に入り浸(びた)るようになった。

二人で音楽のことや、ギターやベースのこと、色々なことを話して共有してずっと一緒にいた。猛が何で急にベースを買ってきたのかはわからないけど、ボクを放っておけなかったからだと、勝手に思い込んでいる。

そのまままた一緒にいるのが当たり前になってしまい、一緒にバンド組んで、紆余曲折(うよきょくせつ)があって今のバンドにも一緒に所属している。

全員個性が強いメンバーの中でも、ボクと同じギター担当で、外見も性格もギタースタイルも正反対の緋音(あかね)は、尊敬もしているし勉強にもなるし大好きだけど、絶対負けたくないライバルでもある。

そしてその緋音・・・ひーちゃんは珀英くんという恋人ができて、これがおかしいくらいに仲が良くてラブラブだ。男同士なのに、男同士とは思えないくらい、でも男同士だからこそなのか、本当に何でもわかり合ってる感じで、一緒にいるのが当たり前って感じが、羨ましかった。

ひーちゃんが機嫌悪い時は珀英くんとなんかあった時で、機嫌がいい時は珀英くんとなんかあった時。
どんなに機嫌悪くても珀英くんから連絡きたら嬉しそうだし、いそいそと家に帰る。ひーちゃんは珀英くんがしつこいから仕方なく付き合ってあげてるなんて言ってるけど、めちゃくちゃ好きなの見ててわかるし、珀英くんもそれをわかってて何も言わない。

そんな二人の関係を間近で見ていて、すごく羨ましかった。

あの二人を羨ましいと思ってしまうのは・・・ボクが猛への想いを自覚しているからだ。
あんな風に好きって言えたらいいなって・・・思ってしまう。

珀英くんが献身的(けんしんてき)にひーちゃんの世話を焼いているのを見たり、異常に甘やかされているのを聞いたり。
珀英くんと付き合い出してから、他人に対して殺気丸出しだったひーちゃんが落ち着いて、人当たりも良くなったのを見てるし。

恋をして全身で愛して、誰かが自分を丸ごと愛してくれることで、あれだけ人間は変われることを、あの二人を見て学ぶことができたし、羨ましかった。

あんな風になりたいと、心の底から思った。

でも・・・告白なんてできない。逆に近くにいすぎたせいか、一緒にいすぎたせいか、告白なんてできない空気を感じる。

どうしたらいいのかわからない・・・それでもこのままは嫌で。

猛に触れたいし、触れられたい。
体も心も、奥の深く、深いところまで、全部触って欲しい。
こんな風に思うボクがダメなんだろう。こんな感情はきっと迷惑だから。言わない方がいい、伝えちゃダメだって、わかっていて。

行き場のない想いを抱きしめて。

全身で抱きしめるしかなかった。
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