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柳は緑 花は紅
柳は緑 花は紅 2
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「え?猛?」
雪が大きな黒い瞳を更に見開いて、細い首を傾(かし)げてオレとオレが手に持ってる袋を交互に見る。
凍えそうに冷えた外気の中、真っ白な息を吐きながら佇(たたず)むオレを、同じくらい真っ白な肌の雪が見上げる。
今日は大晦日。周りは帰省だ飲み会だ旅行だと、忙しい時間を過ごしている。オレと雪が所属しているバンドも、事務所で納会を済ませて冬休みに入っている。そんな慌(あわ)ただしい中、オレは同じマンションの雪の部屋を訪れていた。
いつもだったら一緒に実家に帰るところ、雪が今年は一緒に帰らないで明日一人で帰ると言い出した。
オレは一人で帰ってもつまらないし、一人残った雪が心配だったから、同じように帰省を1日遅らせていた。
そして雪の好物の蟹(かに)をわざわざ二匹買って、下の階に住んでいる雪の部屋を訪ねた。
このマンションも雪が一人暮らしするって言い出したから、速攻で空き部屋を探して契約した。もしもどこも空いていなかったら、雪の引越し自体を阻止していた。
雪が何処にも行かないように。オレの目が届く範囲から出ていかないように、手の届く距離に繋ぎ止めて閉じ込めている。
今までは従順にオレの側にいた雪が、最近少し距離を置くようになってきた。今回の一緒に帰省したがらないのも、そういうことだ。
何で急にそんな態度をとるのかさっぱりわからないが、オレは雪を手放す気はないし、誰かに譲る気もないから。
何十年も側にいて、面倒みて、相談のって、オレの庇護下(ひごか)において護(まも)ってきたのに、今更誰かに獲(と)られるなんて冗談じゃない。
なので、オレはわかりやすく、雪の大好物の蟹で釣ろうとしている。
オレが先に帰省していると思っていた雪は、大晦日の夕方に現れたオレをびっくりして見ている。
完全に誰も来ない前提でいたのがわかる格好をしている。
昔から変わらない、適当な黒いスウェット上下を着て、目が悪いから昔から使ってる黒縁のメガネをかけて、髪もぼさぼさのままで、絶対に外には出ない意思を感じる格好だった。
そんな適当な酷い格好をしているのに、昔から部屋着はこんな感じなので、見慣れているせいか、可愛いと思ってしまう。
昔のままの・・・そのままの雪が、堪(たま)らなく愛おしい。
オレは可愛すぎる雪を直視することができず、視線を外らせながら、手にした袋を無駄にガサガサ揺らす。
「・・・実家から蟹送られてきた。食べるだろ?」
「え?・・・あ、うん」
雪はつられて返事をしてしまい、そのままの流れでオレを玄関に招きいれていた。
オレは雪が何か言う前に、さっさと履(は)き古したスニーカーを脱いで蟹を持ったままズカズカとリビングの中央へと、入り込んだ。
リビングはオレの部屋とは違って、綺麗好きな雪らしく、きちんと整理整頓されている。
大きめのテレビはテレビ台にきちんと乗せられ、反対側にあるスチールラックには本やCDなんかがきちんと揃えられている。ローテーブルの上も必要なものだけがあり、綺麗だ。
あまり物を置きたがらない性格がそのまま出ている。
オレはどうしても片付けが苦手で散らかしてしまうので、学生時代は雪が片付けてくれていたのを思い出した。
今は近くに住んではいるけど、距離感は遠くなっちまったからな・・・。
そんなことを考えながら、蟹の入った袋を握りしめた。
本当は蟹は送られてきたものじゃなくて、自分で買ったものだった。年の瀬の混雑の中、息が白くて手足の末端が冷え込む気温の中、人混みをかき分けながら蟹を買って、雪に会いにいく理由を作った。
「え?猛?」
雪が大きな黒い瞳を更に見開いて、細い首を傾(かし)げてオレとオレが手に持ってる袋を交互に見る。
凍えそうに冷えた外気の中、真っ白な息を吐きながら佇(たたず)むオレを、同じくらい真っ白な肌の雪が見上げる。
今日は大晦日。周りは帰省だ飲み会だ旅行だと、忙しい時間を過ごしている。オレと雪が所属しているバンドも、事務所で納会を済ませて冬休みに入っている。そんな慌(あわ)ただしい中、オレは同じマンションの雪の部屋を訪れていた。
いつもだったら一緒に実家に帰るところ、雪が今年は一緒に帰らないで明日一人で帰ると言い出した。
オレは一人で帰ってもつまらないし、一人残った雪が心配だったから、同じように帰省を1日遅らせていた。
そして雪の好物の蟹(かに)をわざわざ二匹買って、下の階に住んでいる雪の部屋を訪ねた。
このマンションも雪が一人暮らしするって言い出したから、速攻で空き部屋を探して契約した。もしもどこも空いていなかったら、雪の引越し自体を阻止していた。
雪が何処にも行かないように。オレの目が届く範囲から出ていかないように、手の届く距離に繋ぎ止めて閉じ込めている。
今までは従順にオレの側にいた雪が、最近少し距離を置くようになってきた。今回の一緒に帰省したがらないのも、そういうことだ。
何で急にそんな態度をとるのかさっぱりわからないが、オレは雪を手放す気はないし、誰かに譲る気もないから。
何十年も側にいて、面倒みて、相談のって、オレの庇護下(ひごか)において護(まも)ってきたのに、今更誰かに獲(と)られるなんて冗談じゃない。
なので、オレはわかりやすく、雪の大好物の蟹で釣ろうとしている。
オレが先に帰省していると思っていた雪は、大晦日の夕方に現れたオレをびっくりして見ている。
完全に誰も来ない前提でいたのがわかる格好をしている。
昔から変わらない、適当な黒いスウェット上下を着て、目が悪いから昔から使ってる黒縁のメガネをかけて、髪もぼさぼさのままで、絶対に外には出ない意思を感じる格好だった。
そんな適当な酷い格好をしているのに、昔から部屋着はこんな感じなので、見慣れているせいか、可愛いと思ってしまう。
昔のままの・・・そのままの雪が、堪(たま)らなく愛おしい。
オレは可愛すぎる雪を直視することができず、視線を外らせながら、手にした袋を無駄にガサガサ揺らす。
「・・・実家から蟹送られてきた。食べるだろ?」
「え?・・・あ、うん」
雪はつられて返事をしてしまい、そのままの流れでオレを玄関に招きいれていた。
オレは雪が何か言う前に、さっさと履(は)き古したスニーカーを脱いで蟹を持ったままズカズカとリビングの中央へと、入り込んだ。
リビングはオレの部屋とは違って、綺麗好きな雪らしく、きちんと整理整頓されている。
大きめのテレビはテレビ台にきちんと乗せられ、反対側にあるスチールラックには本やCDなんかがきちんと揃えられている。ローテーブルの上も必要なものだけがあり、綺麗だ。
あまり物を置きたがらない性格がそのまま出ている。
オレはどうしても片付けが苦手で散らかしてしまうので、学生時代は雪が片付けてくれていたのを思い出した。
今は近くに住んではいるけど、距離感は遠くなっちまったからな・・・。
そんなことを考えながら、蟹の入った袋を握りしめた。
本当は蟹は送られてきたものじゃなくて、自分で買ったものだった。年の瀬の混雑の中、息が白くて手足の末端が冷え込む気温の中、人混みをかき分けながら蟹を買って、雪に会いにいく理由を作った。
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