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第3章 王都ラーメン編

02.盗賊村

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「旅人先生は、旅人なんじゃろ。ワシも若い頃はよー旅をしたもんじゃ。剣一本もってーー」

「そうですよ、旅人ですよ。さぁ今日も、全身を動かしましょうね」

 もうかれこれ、同じ質問を数日続けている。

 治療院の手伝いを始めてみたが、すごく大変だった。若い奴らは治せばそれでいいが、ある程度歳をとった人の治療をしたあとは、術後のサポートをしなくてはいけないそうだ。
 このおじいさんの場合は、長く下半身を痛めていたらしく、親分が根本の治療後も、時間をかけて体の筋肉を治療術で再形成させたそうだ。
 もうだいぶ良いみたいで、俺はほとんどストレッチに近いことしかしていない。
 すごいな。治療師の人って。尊敬するわ。

「はい、今日はここまでにしましょう」

「旅人先生、いつもありがとうございます。さぁ、おじいちゃん、帰ろう」

 お孫さん(若い女性)が迎えにきている。



 この村の年齢比率は、高齢者も一定数いるが、若者が多い。
 近くの村から出稼ぎに来るものもいるし、親分や幹部に弟子入りしに来る奴もいるという。遠くからも来るそうだ。
 盗賊の幹部は、名の知れた元冒険者や、剣豪もいるらしく、道場のようなものまでこの村にはあるそうだ。
 今度見せてもらおう。

 また、驚くことに、誰の首にも賞金がかかっていないそうだ。
 どんな魔法をつかってるんだ。
 初登場時のあの親分の悪者ぶりといったら、マジでただのくそ盗賊じゃねーかって感じだったのに。
 あれは、親分の趣味らしい。悪趣味だ。


 治療院の手伝いが落ち着いたので、村を見て回る。
 のんびりと村を歩いていると、道場の前にきた。道場といっても簡易的なものだが、数十人の若者が稽古をしている。
 道場の中央に、剣豪っぽいご老人が木刀を持ってたっている。
 向こうも気がついたようで、こちらによってきた。

「朝は世話になったのう、旅人先生。ようこそ我が道場へ。ごゆるりと見学なされ」

 あ、俺がリハビリ担当してるおじいちゃんじゃん。
 この人が剣豪だったのか・・・全然、雰囲気が違う。
 俺が呆然としていると、お孫さんが洗濯物を干そうと建物から出てきたところ、こちらを見つけて近づいてきた。

「あら、旅人先生じゃないですか、朝はどうも」

「あの、だいぶ、印象が違う・・・」

 挨拶も忘れ、本音をいってしまった。

「あぁ、驚きますよね。おじいちゃん、剣を持つと人が変わるんですよ」
 
 じいさんは、すごいとしか言いようがない。魔法で強化してないのに、信じられない動きをしている。まって、そんな動いて大丈夫なの?
 俺は、絶対に勝てないと思う。一撃でやられそうだ。
 門下生もかなり強そうだ。この村の防衛力は、だいぶ高いと思う。

 しばらく道場を見学させてもらって、ちょうど怪我した門下生がいたので治療して、別の場所へと向かった。
 
 ここは、商店街ができる予定のエリアだ。
 今まさに建物が作られている。

「お、旅人先生だ」

 治療院にきた人がちらほらいて、こちらに挨拶してくれ、術後の経過をきいたり雑談をした。

 この辺に、たしかあの夫婦が入居してるはずだ。
 お、いたいた。ちょうど、店の内装を作っているところのようだ。
 ご主人さんがいたので、声をかける。

「どうも」

「旅人先生じゃないですか、その節はありがとうございました」

「いえいえ、私はなにもしてませんよ、全部親分さんがやったことですので」

 そういえば今更だが、この村では旅人先生で通ってる。

「どうですか、お店の方は、何かお手伝いしましょうか?」

「お気持ちありがとうございます。自分たちで作ることに意味があるとおもってますので大丈夫です。といっても、まだまだ、始めたばっかりでやることはいっぱいあるんですがね。準備ができたら、よろず屋のようなものを始めようと思います。知り合いの商人にも定期的にきてもらおうと思います。」

「それは、楽しみですね。頑張ってくださいね」


 ご主人さんに見送られて、商店街予定地を抜けた。
 気がつくと村の外れまで来ていた。

 ちょうど森から数人が台車を引いて出てきた。
 ボアが乗っている。大物だ。久しぶりにみたな、こいつ。
 あの中で、一番後ろにいるのが、たぶん、凄腕の元冒険者なんだろう。装備も、佇まいも違う。
 村の食料とかは、この人たちが担当しているのだろうか。
 周りの警戒とかも、やってるんだろうなきっと。
 

 そして、村の端に沿って歩いていると、魔術師と思われる人たちが数人で、瞑想してる。
 その先には、職人たちが物作りをしているエリアもあった。

 治療院の近くまで戻って来ると、ひらけた場所で子供達が、文字を教わっていた。先生は復調した奥さんだ。

 みんな自分たちができる仕事を、自ら進んでやってる。
 そして、どんどん村の拡張が行われて、森が切り開かれている。
 もうこれは、村じゃないだろう。
 たぶん、半年後にきたら、だいぶでかい規模の街になっているんじゃないかな。
 その時も、盗賊をやってるのだろうか?
 どうする気なんだろうな。あとで聞いてみよう。



 大衆食堂のような店に入り、カウンターに座る。
 途中で近くのテーブル席の若いやつらが挨拶してくれた。気さくな感じがいいな。
 周りのテーブル席はわいわいやっている。職種関係なくいろんな人間が仲良さそうにしてる。

 注文したオススメの料理と、エールが出てきた。
 ボア肉のシチューだ。間違いなく、うまいやつだ。

 しばらくすると、親分がきた。近くの奴が軽く挨拶して自分たちの話にもどっている。媚びへつらうとかないんだな。
 むしろ、親分が過剰に絡んでいってる。

 親分は俺を見つけよって来る。

「よぉ。どうだ、この村は」

「すごいですね。なんというか、みんな自分たちがやることがわかっていて、自ら動いてる感じがすごいです。俺にはついていけないですよ。」

「そうかそうか。もともと何もなかったからな。自分らでやらないとってところはあるな。今の状態が悪いとはおもわねぇが、必死すぎるんだよな。訳ありなのかしらねーが、後がないとでもおもってるんだろう。まぁ俺に言わせれば、生きてりゃどうとでもなるんだがな。」

 まぁあんたなら大概のことはどうとでもなりそうだなと思う。

「そういえば、気になったことがあるんですが」

「どうした」

「この村、もう規模的に村ではなくなってきてると思うんですね。どんどんでかくなってますし。この状態で、ずっと盗賊村を続けるんですか?」

「んなわけねーだろ。将来的には領主に話つけて、ここを街にしようと思ってるんだ。その為の資金集めと、この辺の開発と治安維持、街つくる為の協力者集めを同時にやってる感じだな」
 
 どうやら、襲っている商人や通行人たちと話をつけて、協力者になってもらっているようだ。
 やり手すぎるだろう。この親分。
 

「で、どうだ。この村に来る気になったか?」

「お誘いありがとうございます。自分には、どうしてもやらなきゃいけないことがありますので無理です。補給もできましたし、そろそろ旅に戻ろうと思います。」

 旅を理由にしたが、周りの自主性に俺がついていけるか不安になった。


「そうか、残念だ。まぁ、気が向いたら、よってくれ。いつでも歓迎するぜ」

「ありがとうございます。街づくり頑張ってくださいね」


 この話の後も、親分と酒をのんでしばらく雑談をした。

「そういえば、最初お会いした時、気配を消してたと思うんですが、どうしてわかったんですか?」

「あぁ、俺のスキルだな。俺は、周りの生き物の位置をだいたい把握できんだ。気配を消しても無駄だな」

「なんですか、そのチートは」

「チート?よくわからねーが、このスキルと運のおかげで、俺は今まで生き延びてきたんだ。あぁ、あと、じいさんがお前に気がついてたようだ。」

 じいさんとは、剣豪のおじいさんのことだろう。流石だな。しかもあの場にいたのか、あのじいさん。

「あの方は、どういった経緯でこちらに来られたんですが」

「偶然だな。たしか近くの村が閉村したらしくてな。孫と一緒にきたんだ。んで、腰と足を痛めてずっと隠居してたらしいんだが、俺が治療してやったら、あんな元気になっちまった。まさか剣豪だったとはな、ゲヘヘヘ」

 あそこだな、たぶん。あといつも思うが、親分の笑い方は下卑た感じがすごい盗賊っぽい。

「偶然ですか、すごいですね」

 たぶん、この親分の運補正は相当なものだろう。

 雑談をしていると、親分の昔話を聞くことができた。昔、治療師でありながら傭兵をやっていたそうだ。治療に際して術を使うだけではなくて全般的な知識が豊富なのは、実地(戦場)で習得してきたからなのだろう。生きてればどうにかなるとかいう考え方も、この辺の影響が強そうだ。
 どうやら、ここの領主にも昔、傭兵で雇われたことがあるらしい。相手は覚えているか知らないが、それなりに活躍はしていたらしく、領主を治療術で助けたらしい。
 その辺から、交渉のきっかけを作ろうとしているそうだ。やり手すぎるだろ。

 だいぶ飲んで、今日はお開きになった。
 代金は、親分がおごってくれた。


 そして、何事もなく宿に戻って眠りにつく。
 明日は、診療所のみんなと患者さんに挨拶して、午後あたりに出発しようと思う。またお別れか。
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