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3.魔王討伐(初めてのお使い)へ ③
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思わず口をパカンと開けて目の前にある門を見上げてみる。城の門も立派なものだったけどこの門はまさしく『ザ・魔王城』。禍々しいしよくわからない装飾もされてるし、正直に言っちゃうと、趣味悪ぅとすら思ってしまう。
「え、ガチのやつじゃん……」
「帰っていいよ?」
「あんなトラップまみれの道を帰れると思う?!」
歩いていると突然この妖精さんに話しかけられてそして勝手にここまでついてきたんだけど。怖いなら帰ってもいいし、と思いながらちらりと視線を横にずらす。
妖精さん、忘れたのかな。あのトラップまみれの道以外に一般人でも通れる道があるって言ってたの。帰りそっちから帰ればいいのに、と思ったけど妖精さんはブルブル震えながら私のマントの中に入ってきたから、まぁいいか、となって視線を門に戻した。
コンコン、とよくわからない趣味のドアノッカーでドアを鳴らす。しばらく待ってみればギィィィ……と重々しい音を立てて扉は開かれた。たったそれだけなのにこの妖精さんは「ヒッ」と短い悲鳴を上げてマントの更に奥へと隠れる。
「あ! 勇者ですね! お待ちしておりました~!」
「お。ジャック・オー・ランタン」
扉の向こうに現れたのは、この薄暗い中でもふんわりとした光を発しているジャック・オー・ランタン。本当にランタンの役割してる。
「魔王様のところへご案内します。ボクのあとをついてきてくださいね!」
「ね、ねぇ勇者。大人しくついていっていいの? 魔王城だって、ダ、ダンジョンぐらいあるんじゃない……?」
「ダンジョン? もちろんありますよ!」
コソコソと聞いてきた妖精さんだけど声はしっかりと向こうにも聞こえていたらしい。ふわふわと浮かぶ物体がくるりとこっちに振り返る。
「大昔はちゃんと勇者を追い出すダンジョンとして機能していたんですけどね、今となってはボクたち魔族の住宅地ですよ。だから案内はできないんです、ごめんなさ~い」
「ゆっくりしているところお邪魔するのも悪いしね」
「わぁ! お心遣いありがとうございます!」
「……何この会話」
本来ならそのダンジョンを突破してからの魔王の王座へと続く道に行くらしいんだけど、残念ながら今そのダンジョンは一般人立入禁止。っていうことで、とジャック・オー・ランタンが示した場所に浮かんでいたのは魔法陣だった。
「あの魔法陣は魔王様がいらっしゃるところへの直通なので、こちらを使いますね!」
「すっごい便利」
「魔族が快適さを求めてるってあたし的にはすっごい違和感……」
少しダンジョンを突破したかったな、とかは思ったけど。でもそんな我儘言うわけにもいかないし。ここは大人しくジャック・オー・ランタンのあとに続いて魔法陣に乗るしかない。転移魔法が施されている魔法陣は一瞬だけ視界が揺らぐ程度で、すぐに別の場所へと私たちを飛ばしてくれた。
「ボクが案内できるのはここまでなんで、真っ直ぐ行ってあの扉を開けてください」
「魔物が魔王への道を阻まないなんて、変な感じ」
「そう? 平和でいいじゃん」
妖精さんが聞いたっていう話は本当に大昔前だったみたいで、今の私たちにとってはこれが普通だから特に違和感も何もないんだけど。
案内してくれたジャック・オー・ランタンが魔法陣で戻ろうとしているところを手を振って見送り、言われたとおり真っ直ぐ歩いて目の前にある扉の前に立ってみる。この先に魔王がいるらしい。私が扉に手をかけた瞬間、妖精さんは慌てたようにピュッとマントの中に隠れた。
扉を押してみれば少し重みを感じて、グッと小さく押す腕に力を込める。ギィ、と重々しい音を立てて開かれた扉の向こうには、魔王城では見たことのない光景。その中心に、堂々とその人は立っていた。そして――
「新しい勇者?! いらっしゃい、待っていたよ!」
黒髪で身長も私より高い。顎髭もあって人間でいうと普通の中年のオジサン。だけど、その頭には魔族を象徴するかのように漆黒の立派な角が二本生えている。
そんな魔王がパァアアアッ! って光り輝いた眩い笑みを浮かべて、両手を広げて私たちを迎え入れた。
「初めまして。今の勇者です」
「あっ、これはご丁寧にどうも。魔王です、よろしくね」
「これは王様に頼まれたお土産です、お納めください」
「ああこれはわざわざどうも」
「……商談か何か?」
深々と魔王とお辞儀をしたあと、王様に持たされた風呂敷をスススと魔王に渡す。勇者からの手土産っていうのに魔王は特に警戒することなく受け取って、迷うことなく風呂敷の布を解こうとしていた。まぁ、中身は私も確認済みだし怖いものなんて何も入ってなかったから問題はないけど。
パッと出てきた木箱に首を傾げつつ、その下の紙に気付いた魔王はぺらりと手紙を手にとって字を目で追い始めた。
「ふむふむ……ああ、わざわざいいのに。あの程度俺たち魔族にとっては大したことじゃなかったんだし」
「でも上流から流れてきた大岩を粉砕してくれたって」
大雨で溢れてしまった貯水所から色んなものが溢れてきて、そんな中でも川の流れをせき止めようとしていた大岩を粉砕してくれたのが、魔王だったらしい。私は直接現場を見たわけじゃないけどあとに見に行ったら確かに膨大な魔力が使われた形跡があったし、それだけ大きなことを魔王がやってくれたって証拠にもなっていた。
じっと魔王を見上げてみると、魔王は邪悪さの欠片もない顔でにこっと笑った。
「俺たちは壊すのは得意だからね。お、でも美味しそうなお酒だなぁ。ありがたく受け取るよ。ソレーユの王にもお礼言っといてくれる?」
「もちろん」
「あっ! こんなところで立ち話でもなんだし、こっちに座って」
この扉開けてびっくりしたんだけど、目の前には綺麗な花々が咲いていて、その中心部にテーブルと椅子と用意してあった。魔王城にこんな場所あったんだ、と驚きつつも更に驚いたのはテーブルに乗っているものだ。
ケーキにクッキー、美味しそうなお菓子にお洒落なティーカップ。ぶっちゃけ私は勇者ではあるけれど暮らしは至って普通だったから、そんな豪華なものを見たのは初めてだった。
「手紙読んで、次の勇者って女の子なのかな? って思って色々と準備してみたんだ。甘いものとか、大丈夫かな?」
「大好き」
「そうよかった! あ、よかったら食べてみて。そこの妖精もどうぞ。君にとっては清いマナっていうわけじゃないから口に合わないかもしれないけど……」
「え、遠慮するわ……」
「そっか……」
しょんぼりする魔王が可哀想に見えて、肩口から顔を出していた妖精さんにじとっと視線を向ける。確かに妖精とか精霊は綺麗なマナしか好まないとか聞いていたけど、こんな美味しそうなものも食べれないなんて。私の視線を受けて妖精さんは戸惑いながらまたマントの中に引っ込んでいった。
椅子に座ろうとすると魔王がサッと椅子を引いてくれる。なんていう紳士っぷり。ありがとう、とお礼を言いつつ椅子に座ると真正面にある椅子に魔王も座った。視線をテーブルの上に移すと本当に色んなものがあって、思わずじゅるっとよだれが垂れる。
「え、どれ食べてもいいの?」
「もちろん! たくさん食べて! そのために作ったんだから」
「え?! まさか魔王が作ったの?!」
さっきから出てきたり引っ込んだり大変そうだな、と思いつつ顔だけ飛び出してきた妖精さんが驚いた声色で魔王にそう言っていた。視線を妖精さんからもう一度テーブルの上に向ける。どれもこれも美味しそうなものばかりで、見た目だって綺麗だ。
魔王はいつの間にかそこにいた魔族の人からポットを受け取り、ゆっくりとお茶を注いでくれながら「そうだよ」と穏やかに続けた。
「魔族は人間と比べて『創生』っていうのは苦手だけどね。でも時間だけはたっぷりあるから、少しずつ学んでいったんだ」
「このマフィンすっごくおいひい」
「食べたのね、勇者……」
「お、美味しい? よかった、これも食べてみて。この中で一番出来がいいと自画自賛してるんだけど」
そう言って差し出されたのはアップルパイ。近くにあったナイフを手に持って刃を入れてみたらサクッとした感覚と共に、ふんわりと甘いアップルの香りが漂った。もうこれだけで十分美味しそう。口の中はアップルパイを望んでよだれがジャバジャバ出てくる。
口に入れてみたら想像どおりサクッとした食感、同時に広がるアップルの甘み。なにこれ、すっごく美味しい。こう言ったら悪いけどお母さんが作ってくれたお菓子よりも美味しい。
「美味しい!」
「よかったぁ! いっぱい作ったからたくさん食べてね!」
直後マントの中からくぅ~と物悲しい音が。視線を向けてみれば妖精さんが顔を真っ赤にしてサッとマントの中に隠れた。
「べ、別に食べたいとかじゃなくて! 勇者がっ、あまりにも美味しそうに食べるからっ」
「美味しいよ? ほら」
「んごっ?!」
何をそんなに頑なに拒否ってんだろう、と思いつつ妖精さんが食べやすいようにサイズを小さく切り取って、その口に放り込んでみる。まだちょっと大きかったのか、妖精さんは咽ながらもなんとか頑張って咀嚼していた。
どうだろう? と魔王と一緒に妖精さんの反応を待ってみる。すると、その小さな喉がごくんと動いた。
「……わ、悪くはないわ」
その言葉で魔王はまたパァッと笑顔を輝かせて、嬉しそうに自分もテーブルの上にあるクッキーに手を付けていた。
ところで、気になっていたことがあるんだけど。
「食材とかどうしてんの? 魔王が街に食材を買いに来たとか聞いたことないんだけど」
それともさっきそこにいた人に頼んでるんだろうか。別に街に魔物が来たところで今となっては普通なことになっていて、人間側は誰も気にしない。普通に魔物に物を売るし、お金はちゃんとした硬貨を受け取るかまたは物々交換をするかだった。
「……それが、恥ずかしいんだけど。実は城内で畑を作ってて……」
「は、畑?!」
「へ~。畑作れる場所があるんだ。土とか大丈夫?」
妖精さんはびっくりしていたけど、そんなに驚くこと? と思いつつ視線を魔王に戻す。
「数十年前……いや数百年前だったかな? 人間をこの城に呼んで畑の作り方を教えてもらったんだ。土はねぇ、確かにここは魔王城だからそこが中々難しいところだったんだよ」
正直魔王城は人間の街に比べて緑が少ない。植物が育つようなマナがあるわけじゃないから、だからこの庭だってここまで綺麗に花を咲かせるのは苦労したはず。
「魔王さえよければ畑見せてくれない? すごく興味ある」
「もちろんだよ! あ、でもまだお菓子はあるけど……」
「ここのを完食してから」
「こんなに食べれる?」
「もちろん」
甘い物好きだし、それに魔王が作ったお菓子はどれも美味しい。完食なんてお手の物。早速口いっぱいに入れてモゴモゴと口を動かしていたら、魔王は最初こそ目を丸くしていたけれどそれもすぐに嬉しそうにふにゃっとはにかんだ。
「え、ガチのやつじゃん……」
「帰っていいよ?」
「あんなトラップまみれの道を帰れると思う?!」
歩いていると突然この妖精さんに話しかけられてそして勝手にここまでついてきたんだけど。怖いなら帰ってもいいし、と思いながらちらりと視線を横にずらす。
妖精さん、忘れたのかな。あのトラップまみれの道以外に一般人でも通れる道があるって言ってたの。帰りそっちから帰ればいいのに、と思ったけど妖精さんはブルブル震えながら私のマントの中に入ってきたから、まぁいいか、となって視線を門に戻した。
コンコン、とよくわからない趣味のドアノッカーでドアを鳴らす。しばらく待ってみればギィィィ……と重々しい音を立てて扉は開かれた。たったそれだけなのにこの妖精さんは「ヒッ」と短い悲鳴を上げてマントの更に奥へと隠れる。
「あ! 勇者ですね! お待ちしておりました~!」
「お。ジャック・オー・ランタン」
扉の向こうに現れたのは、この薄暗い中でもふんわりとした光を発しているジャック・オー・ランタン。本当にランタンの役割してる。
「魔王様のところへご案内します。ボクのあとをついてきてくださいね!」
「ね、ねぇ勇者。大人しくついていっていいの? 魔王城だって、ダ、ダンジョンぐらいあるんじゃない……?」
「ダンジョン? もちろんありますよ!」
コソコソと聞いてきた妖精さんだけど声はしっかりと向こうにも聞こえていたらしい。ふわふわと浮かぶ物体がくるりとこっちに振り返る。
「大昔はちゃんと勇者を追い出すダンジョンとして機能していたんですけどね、今となってはボクたち魔族の住宅地ですよ。だから案内はできないんです、ごめんなさ~い」
「ゆっくりしているところお邪魔するのも悪いしね」
「わぁ! お心遣いありがとうございます!」
「……何この会話」
本来ならそのダンジョンを突破してからの魔王の王座へと続く道に行くらしいんだけど、残念ながら今そのダンジョンは一般人立入禁止。っていうことで、とジャック・オー・ランタンが示した場所に浮かんでいたのは魔法陣だった。
「あの魔法陣は魔王様がいらっしゃるところへの直通なので、こちらを使いますね!」
「すっごい便利」
「魔族が快適さを求めてるってあたし的にはすっごい違和感……」
少しダンジョンを突破したかったな、とかは思ったけど。でもそんな我儘言うわけにもいかないし。ここは大人しくジャック・オー・ランタンのあとに続いて魔法陣に乗るしかない。転移魔法が施されている魔法陣は一瞬だけ視界が揺らぐ程度で、すぐに別の場所へと私たちを飛ばしてくれた。
「ボクが案内できるのはここまでなんで、真っ直ぐ行ってあの扉を開けてください」
「魔物が魔王への道を阻まないなんて、変な感じ」
「そう? 平和でいいじゃん」
妖精さんが聞いたっていう話は本当に大昔前だったみたいで、今の私たちにとってはこれが普通だから特に違和感も何もないんだけど。
案内してくれたジャック・オー・ランタンが魔法陣で戻ろうとしているところを手を振って見送り、言われたとおり真っ直ぐ歩いて目の前にある扉の前に立ってみる。この先に魔王がいるらしい。私が扉に手をかけた瞬間、妖精さんは慌てたようにピュッとマントの中に隠れた。
扉を押してみれば少し重みを感じて、グッと小さく押す腕に力を込める。ギィ、と重々しい音を立てて開かれた扉の向こうには、魔王城では見たことのない光景。その中心に、堂々とその人は立っていた。そして――
「新しい勇者?! いらっしゃい、待っていたよ!」
黒髪で身長も私より高い。顎髭もあって人間でいうと普通の中年のオジサン。だけど、その頭には魔族を象徴するかのように漆黒の立派な角が二本生えている。
そんな魔王がパァアアアッ! って光り輝いた眩い笑みを浮かべて、両手を広げて私たちを迎え入れた。
「初めまして。今の勇者です」
「あっ、これはご丁寧にどうも。魔王です、よろしくね」
「これは王様に頼まれたお土産です、お納めください」
「ああこれはわざわざどうも」
「……商談か何か?」
深々と魔王とお辞儀をしたあと、王様に持たされた風呂敷をスススと魔王に渡す。勇者からの手土産っていうのに魔王は特に警戒することなく受け取って、迷うことなく風呂敷の布を解こうとしていた。まぁ、中身は私も確認済みだし怖いものなんて何も入ってなかったから問題はないけど。
パッと出てきた木箱に首を傾げつつ、その下の紙に気付いた魔王はぺらりと手紙を手にとって字を目で追い始めた。
「ふむふむ……ああ、わざわざいいのに。あの程度俺たち魔族にとっては大したことじゃなかったんだし」
「でも上流から流れてきた大岩を粉砕してくれたって」
大雨で溢れてしまった貯水所から色んなものが溢れてきて、そんな中でも川の流れをせき止めようとしていた大岩を粉砕してくれたのが、魔王だったらしい。私は直接現場を見たわけじゃないけどあとに見に行ったら確かに膨大な魔力が使われた形跡があったし、それだけ大きなことを魔王がやってくれたって証拠にもなっていた。
じっと魔王を見上げてみると、魔王は邪悪さの欠片もない顔でにこっと笑った。
「俺たちは壊すのは得意だからね。お、でも美味しそうなお酒だなぁ。ありがたく受け取るよ。ソレーユの王にもお礼言っといてくれる?」
「もちろん」
「あっ! こんなところで立ち話でもなんだし、こっちに座って」
この扉開けてびっくりしたんだけど、目の前には綺麗な花々が咲いていて、その中心部にテーブルと椅子と用意してあった。魔王城にこんな場所あったんだ、と驚きつつも更に驚いたのはテーブルに乗っているものだ。
ケーキにクッキー、美味しそうなお菓子にお洒落なティーカップ。ぶっちゃけ私は勇者ではあるけれど暮らしは至って普通だったから、そんな豪華なものを見たのは初めてだった。
「手紙読んで、次の勇者って女の子なのかな? って思って色々と準備してみたんだ。甘いものとか、大丈夫かな?」
「大好き」
「そうよかった! あ、よかったら食べてみて。そこの妖精もどうぞ。君にとっては清いマナっていうわけじゃないから口に合わないかもしれないけど……」
「え、遠慮するわ……」
「そっか……」
しょんぼりする魔王が可哀想に見えて、肩口から顔を出していた妖精さんにじとっと視線を向ける。確かに妖精とか精霊は綺麗なマナしか好まないとか聞いていたけど、こんな美味しそうなものも食べれないなんて。私の視線を受けて妖精さんは戸惑いながらまたマントの中に引っ込んでいった。
椅子に座ろうとすると魔王がサッと椅子を引いてくれる。なんていう紳士っぷり。ありがとう、とお礼を言いつつ椅子に座ると真正面にある椅子に魔王も座った。視線をテーブルの上に移すと本当に色んなものがあって、思わずじゅるっとよだれが垂れる。
「え、どれ食べてもいいの?」
「もちろん! たくさん食べて! そのために作ったんだから」
「え?! まさか魔王が作ったの?!」
さっきから出てきたり引っ込んだり大変そうだな、と思いつつ顔だけ飛び出してきた妖精さんが驚いた声色で魔王にそう言っていた。視線を妖精さんからもう一度テーブルの上に向ける。どれもこれも美味しそうなものばかりで、見た目だって綺麗だ。
魔王はいつの間にかそこにいた魔族の人からポットを受け取り、ゆっくりとお茶を注いでくれながら「そうだよ」と穏やかに続けた。
「魔族は人間と比べて『創生』っていうのは苦手だけどね。でも時間だけはたっぷりあるから、少しずつ学んでいったんだ」
「このマフィンすっごくおいひい」
「食べたのね、勇者……」
「お、美味しい? よかった、これも食べてみて。この中で一番出来がいいと自画自賛してるんだけど」
そう言って差し出されたのはアップルパイ。近くにあったナイフを手に持って刃を入れてみたらサクッとした感覚と共に、ふんわりと甘いアップルの香りが漂った。もうこれだけで十分美味しそう。口の中はアップルパイを望んでよだれがジャバジャバ出てくる。
口に入れてみたら想像どおりサクッとした食感、同時に広がるアップルの甘み。なにこれ、すっごく美味しい。こう言ったら悪いけどお母さんが作ってくれたお菓子よりも美味しい。
「美味しい!」
「よかったぁ! いっぱい作ったからたくさん食べてね!」
直後マントの中からくぅ~と物悲しい音が。視線を向けてみれば妖精さんが顔を真っ赤にしてサッとマントの中に隠れた。
「べ、別に食べたいとかじゃなくて! 勇者がっ、あまりにも美味しそうに食べるからっ」
「美味しいよ? ほら」
「んごっ?!」
何をそんなに頑なに拒否ってんだろう、と思いつつ妖精さんが食べやすいようにサイズを小さく切り取って、その口に放り込んでみる。まだちょっと大きかったのか、妖精さんは咽ながらもなんとか頑張って咀嚼していた。
どうだろう? と魔王と一緒に妖精さんの反応を待ってみる。すると、その小さな喉がごくんと動いた。
「……わ、悪くはないわ」
その言葉で魔王はまたパァッと笑顔を輝かせて、嬉しそうに自分もテーブルの上にあるクッキーに手を付けていた。
ところで、気になっていたことがあるんだけど。
「食材とかどうしてんの? 魔王が街に食材を買いに来たとか聞いたことないんだけど」
それともさっきそこにいた人に頼んでるんだろうか。別に街に魔物が来たところで今となっては普通なことになっていて、人間側は誰も気にしない。普通に魔物に物を売るし、お金はちゃんとした硬貨を受け取るかまたは物々交換をするかだった。
「……それが、恥ずかしいんだけど。実は城内で畑を作ってて……」
「は、畑?!」
「へ~。畑作れる場所があるんだ。土とか大丈夫?」
妖精さんはびっくりしていたけど、そんなに驚くこと? と思いつつ視線を魔王に戻す。
「数十年前……いや数百年前だったかな? 人間をこの城に呼んで畑の作り方を教えてもらったんだ。土はねぇ、確かにここは魔王城だからそこが中々難しいところだったんだよ」
正直魔王城は人間の街に比べて緑が少ない。植物が育つようなマナがあるわけじゃないから、だからこの庭だってここまで綺麗に花を咲かせるのは苦労したはず。
「魔王さえよければ畑見せてくれない? すごく興味ある」
「もちろんだよ! あ、でもまだお菓子はあるけど……」
「ここのを完食してから」
「こんなに食べれる?」
「もちろん」
甘い物好きだし、それに魔王が作ったお菓子はどれも美味しい。完食なんてお手の物。早速口いっぱいに入れてモゴモゴと口を動かしていたら、魔王は最初こそ目を丸くしていたけれどそれもすぐに嬉しそうにふにゃっとはにかんだ。
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