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5.魔王、襲撃?される
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「最近の魔王はどうなってんだ?!」
魔王っていうのは魔族の中でも最も力を持つ者だ。人間を蹂躙し破壊し滅ぼし灰と化すのが本来の魔族の本能だっていうのに、もうずっと魔族は腑抜けたまま。そうなってしまったのは何もかも、魔族の長である魔王が腑抜けになっちまったから。
襲うな、壊すな、殺すな、そんな言葉ばかり散々言われ続けてきたがもう我慢ならねぇ。なんで本能を抑えて生きなきゃなんねぇんだ。
「あの魔王が悪い……腑抜けちまって、全然戦わねぇせぇできっと弱くなっているに違いねぇ!」
それなら。それなら力のある奴が長になるべきだ。そうだ、それこそが魔族。力でねじ伏せるのが俺たちだ。
そうなると、今の魔王は邪魔でしかない。邪魔な奴は消せばいい――力の弱い奴なんかに用はない。
***
「どうかした?」
勇者がお気に入りのクッションの上でくつろぎながら俺にそう訪ねてきた。もう勇者がここに遊びに来るようになって回数はもう両手足りない。すっかりとリラックスしている勇者は俺が作ったお菓子を食べて、マナが足りない大地に自分のマナを分けてあげたりと色々と手伝ってくれている。
だからといって、今回の件も手伝ってもらう。なんてことできるはずがない。部下からの報告にそっと息を吐きつつ、でも下手に隠すよりは言ったほうがいいかと口を開いた。
「いやねぇ、俺の命を狙っている魔族がいるみたいなんだ」
「……へ? 魔王の命を?」
「そう」
「それってさ、私たちが王様の命を狙う。みたいな感じだよね? そんな魔物いるの?」
「それがいるらしいんだ。部下が知らせてきた」
最近じゃそう滅多になかったけどほんの一昔はよくあることあった。元より血の気が多い魔族だ、戦いたくてウズウズしているのに魔王が許可しないから人を襲いたくても襲えない。積もりに積もった欲望が爆発して人間に襲いかかろうとしていた奴は被害が及ぶ前に俺の部下が止めていたし、直接俺に歯向かってくる奴はそのまま俺が対応した。
今回はまだ俺に歯向かおうとしているようだからまだマシなほうだな、とふむと顎に手を当てて思案する。どうしようかな、ここに来た時点で簡単に反撃するのが一番楽でいいけど。
ちらりと視線を向ければ、ここに魔物が襲いかかってくるかもしれないっていうのにそれでもまったりしている勇者の姿。それもそうだ、だって彼女は勇者なんだから。ただ心配しているのは一点、俺を殺そうとしているこいつが果たして勇者の存在に気付いているのか。気付いていたら、きっと勇者にも襲いかかる。
「ねぇ勇者。やっぱり心配だから街に戻ってもらっていいかな?」
「心配? ……私を?」
「うん。これは言わば魔族同士の抗争だし勇者に火の粉が飛ぶのは嫌だからさ」
勇者を遠ざけようとふんわりとした表現で伝えてみたけど、もしかして勇者は気付いてるかな。俺に視線を向けてきたかと思うと瞬き一つすることもなく、ジッと穴が空くほど見つめてくる。どう出るのかな、と待っていると勇者はクッションから身体を起こした。
「わかった。邪魔にならないように街に戻っておくね」
「ああ、ごめんね?」
やっぱり伝わっていたか。それもそうだ、魔族同士が戦うとなるとそれはもう、あちこち破壊するだろうし近くにいれば確実にとばっちり受けそうだ。
「謝ることないよ。大変だね」
「そこまで大変じゃないんだけどね? 済んだら連絡するから」
「うん」
勇者との連絡手段は昔人間が作ってくれたレターセット。魔法が練り込まれていて手紙を書けば指定されている場所に勝手に送り届けてくれる便利なもの。前に勇者が俺に送ってくれた手紙もそうだった。俺から勇者宛に書けばそれは勇者がいる街の酒場に届けられる。
それじゃあ、と帰ろうとしている勇者に手を振って見送って、さてと城の中に戻る。折角のんびりと生活しているのにそれを邪魔されるのは面白くない。さっさと来てくれないかなぁ、と自室に戻ってのんびりとお茶を飲んで喉を潤した。
「出てこいッ魔王‼」
「おお、思ったより早く来たみたいだね。よかったよかった」
お茶を飲み干して試作で作ったチーズケーキを食べているときだった。城の中にそんな声が響き渡ってよっこらしょと椅子から立ち上がる。この声の響き方からして城に入ってきて早々に叫んだのかな。
俺から向かうのも面倒だし向こうの足元に魔法陣を展開させ、強制的に魔王の座の前まで移動させて俺も同じように転移する。さて、軽くビンタでもすればいいかななんて、視線を上げてみれば……だ。
「……え?」
「この腑抜けた魔王め、貴様など魔王に相応しくないッ! こいつを傷つけられたくなけりゃさっさと自分の心臓を抉り出せッ!」
なるほど? 自分の手で俺を殺すよりも俺が自死したほうが早いし何より簡単。その発想は悪くはない、とは思ったんだけど。
その魔物に囚われて首をギリギリと締め付けられている人間は……さっきまでクッションでのんびりしていた、街に帰ったはずの勇者だった。
「いや帰ってる途中でいきなり現れて」
「そのまま捕まって戻ってきちゃったってこと? おっちょこちょいだねぇ」
「何をダラダラ駄弁っている! お前は人間を傷付けねぇんだろ? こいつを殺されたくなかったらさっさとしろッ‼」
「ふむ……ところで君」
俺たちに近く種族か、と思いつつ未だに勇者の首を締めているその魔物に声をかけてみる。向こうはまったりしている俺に苛ついているのか段々こめかみに血管を浮かべていたけど、余裕なのはきっと俺じゃなくて向こうのほう。
「その子、誰だか知ってるの?」
「……はぁ? ただの人間だろうが。なんだ? この細っこい腕を折ってほしいのか?」
「ああ、なるほど」
気付いていないのか。そうか、それはご愁傷さまだ。人間に習って両手を合わせて「ナム」としていると向こうは更に怒り狂った。
「ふざけんじゃなぇ! 人間を襲わねぇ魔物はもう魔物じゃねぇんだよッ! テメェなんざさっさと死――」
「可哀想に。無知とは時として残酷だねぇ」
「は……? ――ィギャアアアッ?!」
唐突に響き渡った悲鳴に尚更ナムナムと手のひらを擦り合わせる。さっきまで意気揚々と俺を殺そうと、そして自分が捉えていた人間を殺そうとしていた魔物は、いとも簡単に床に叩き伏せられて尚且右腕の骨を折られていた。
「馬鹿だねぇ――君が囚えていたのは、勇者だよ」
コツコツと足音を立てながら近寄り、上から押さえつけられてくぐもった声しか出せない魔物の近くで屈み込んで上から見下ろす。
「無知な君にもう一つ教えてあげよう。勇者のレベルは魔王である俺と一緒だよ――つまり、最高値であるレベル99」
脂汗か冷や汗かわからないけどただただダラダラと汗を流している魔物ににっこりと笑みを向ける。そんな魔物のレベルは15。その低さでよく俺に単体で歯向かおうとしたものだ。しかも俺と同レベルの勇者を人質に取るなんて、よくそんな余裕なことできるなぁってある意味感心した。
「まったくもう、最近君みたいな無知な子が増えてて嫌になるよ。おーいバルレ」
部下の一人である魔物の名を呼べばスッと現れて俺の傍らで膝を付け頭を垂れた。
「彼の処理、任せたよ」
「はっ」
「勇者勇者、あとは俺の部下に任せていいよ」
今度は勇者の近くに歩み寄ってトントン、と肩を叩いたんだけどどうも勇者が倒れている魔物から退く素振りを見せない。首を傾げてもう一度トントン、と叩いてみたけどやっぱり動いてくれない。
「勇者?」
「――え? ああ、うん。わかったんだけど。私も勇者だからかな、身体が勝手にこいつを倒そうとする」
「わわっ、怖いね」
それもそうだ、魔族が本能で人間を襲いかかろうとするように、きっと魔族から人間を守ってきた勇者は反射的にそういう行動を起こしてしまうんだろう。例え数千年前からそういう争いがなくなったとはいえ、それでも彼女は勇者として生まれてきたのだから。
勇者の腕に手を添えてみるとようやく力が緩まって、泡を吹いて気絶している魔物の上から退いた。勇者に怪我していないか俺もチェックして、首に締め付けられていた痕が残っていた若干表情を歪める。
「ごめんね、勇者」
「ううん、このくらいすぐ治るから」
と言いつつ勇者は早速回復魔法を使って首にあった痕を綺麗に消し去った。流石は勇者。俺たち魔族は耐久度はあるけど回復魔法が使えない。重症を負えば追い詰められるのは魔族のほう。
部下でるバルレが気絶して魔物に向かって舌打ちしつつ、魔法の鎖で縛り付けそのままズルズルと引き摺っていく。それを目で追いつつ、隣にいる勇者は小さく口を開いた。
「なんで争いを起こそうとするかな」
「どうしてもああいう輩は出てくるもんなんだよね。別に魔族みんながああいう考えってわけじゃないんだけど」
「それは人間だって同じだよ。平和な国に攻め込もうとする国だってあるし」
「……何も起こらない平凡な日々が、一番いいっていうのにね」
「そうだよ」
やんわりと返した俺に対し、勇者ははっきりと返した。見上げてくるその瞳の奥も力強さが宿っている。
料理は苦手でお菓子どころか食べ物はよく食べて、畑仕事の手伝いはしてくれるけど基本クッションの上でまったりのんびり過ごしている勇者。そこだけ見たら勇者とは思えなくて普通の人間の女の子だ。
でもやっぱり、この子は勇者なんだなぁとしみじみと思う。勇者の紋章が浮き出るから簡単に勇者になれる、ってわけじゃなさそうだ。やっぱり勇者たらしめる何かがあって、今まで会ってきたそれぞれの勇者にそれは備わっていた。
魔王として、勇者である彼女と戦うなんてこと。そんなこと絶対に起こってほしくはないし起こしてもならない。見つめ合っているのに何も言わずにいる俺に首を傾げている勇者の前でひっそりと心に誓った。
魔王っていうのは魔族の中でも最も力を持つ者だ。人間を蹂躙し破壊し滅ぼし灰と化すのが本来の魔族の本能だっていうのに、もうずっと魔族は腑抜けたまま。そうなってしまったのは何もかも、魔族の長である魔王が腑抜けになっちまったから。
襲うな、壊すな、殺すな、そんな言葉ばかり散々言われ続けてきたがもう我慢ならねぇ。なんで本能を抑えて生きなきゃなんねぇんだ。
「あの魔王が悪い……腑抜けちまって、全然戦わねぇせぇできっと弱くなっているに違いねぇ!」
それなら。それなら力のある奴が長になるべきだ。そうだ、それこそが魔族。力でねじ伏せるのが俺たちだ。
そうなると、今の魔王は邪魔でしかない。邪魔な奴は消せばいい――力の弱い奴なんかに用はない。
***
「どうかした?」
勇者がお気に入りのクッションの上でくつろぎながら俺にそう訪ねてきた。もう勇者がここに遊びに来るようになって回数はもう両手足りない。すっかりとリラックスしている勇者は俺が作ったお菓子を食べて、マナが足りない大地に自分のマナを分けてあげたりと色々と手伝ってくれている。
だからといって、今回の件も手伝ってもらう。なんてことできるはずがない。部下からの報告にそっと息を吐きつつ、でも下手に隠すよりは言ったほうがいいかと口を開いた。
「いやねぇ、俺の命を狙っている魔族がいるみたいなんだ」
「……へ? 魔王の命を?」
「そう」
「それってさ、私たちが王様の命を狙う。みたいな感じだよね? そんな魔物いるの?」
「それがいるらしいんだ。部下が知らせてきた」
最近じゃそう滅多になかったけどほんの一昔はよくあることあった。元より血の気が多い魔族だ、戦いたくてウズウズしているのに魔王が許可しないから人を襲いたくても襲えない。積もりに積もった欲望が爆発して人間に襲いかかろうとしていた奴は被害が及ぶ前に俺の部下が止めていたし、直接俺に歯向かってくる奴はそのまま俺が対応した。
今回はまだ俺に歯向かおうとしているようだからまだマシなほうだな、とふむと顎に手を当てて思案する。どうしようかな、ここに来た時点で簡単に反撃するのが一番楽でいいけど。
ちらりと視線を向ければ、ここに魔物が襲いかかってくるかもしれないっていうのにそれでもまったりしている勇者の姿。それもそうだ、だって彼女は勇者なんだから。ただ心配しているのは一点、俺を殺そうとしているこいつが果たして勇者の存在に気付いているのか。気付いていたら、きっと勇者にも襲いかかる。
「ねぇ勇者。やっぱり心配だから街に戻ってもらっていいかな?」
「心配? ……私を?」
「うん。これは言わば魔族同士の抗争だし勇者に火の粉が飛ぶのは嫌だからさ」
勇者を遠ざけようとふんわりとした表現で伝えてみたけど、もしかして勇者は気付いてるかな。俺に視線を向けてきたかと思うと瞬き一つすることもなく、ジッと穴が空くほど見つめてくる。どう出るのかな、と待っていると勇者はクッションから身体を起こした。
「わかった。邪魔にならないように街に戻っておくね」
「ああ、ごめんね?」
やっぱり伝わっていたか。それもそうだ、魔族同士が戦うとなるとそれはもう、あちこち破壊するだろうし近くにいれば確実にとばっちり受けそうだ。
「謝ることないよ。大変だね」
「そこまで大変じゃないんだけどね? 済んだら連絡するから」
「うん」
勇者との連絡手段は昔人間が作ってくれたレターセット。魔法が練り込まれていて手紙を書けば指定されている場所に勝手に送り届けてくれる便利なもの。前に勇者が俺に送ってくれた手紙もそうだった。俺から勇者宛に書けばそれは勇者がいる街の酒場に届けられる。
それじゃあ、と帰ろうとしている勇者に手を振って見送って、さてと城の中に戻る。折角のんびりと生活しているのにそれを邪魔されるのは面白くない。さっさと来てくれないかなぁ、と自室に戻ってのんびりとお茶を飲んで喉を潤した。
「出てこいッ魔王‼」
「おお、思ったより早く来たみたいだね。よかったよかった」
お茶を飲み干して試作で作ったチーズケーキを食べているときだった。城の中にそんな声が響き渡ってよっこらしょと椅子から立ち上がる。この声の響き方からして城に入ってきて早々に叫んだのかな。
俺から向かうのも面倒だし向こうの足元に魔法陣を展開させ、強制的に魔王の座の前まで移動させて俺も同じように転移する。さて、軽くビンタでもすればいいかななんて、視線を上げてみれば……だ。
「……え?」
「この腑抜けた魔王め、貴様など魔王に相応しくないッ! こいつを傷つけられたくなけりゃさっさと自分の心臓を抉り出せッ!」
なるほど? 自分の手で俺を殺すよりも俺が自死したほうが早いし何より簡単。その発想は悪くはない、とは思ったんだけど。
その魔物に囚われて首をギリギリと締め付けられている人間は……さっきまでクッションでのんびりしていた、街に帰ったはずの勇者だった。
「いや帰ってる途中でいきなり現れて」
「そのまま捕まって戻ってきちゃったってこと? おっちょこちょいだねぇ」
「何をダラダラ駄弁っている! お前は人間を傷付けねぇんだろ? こいつを殺されたくなかったらさっさとしろッ‼」
「ふむ……ところで君」
俺たちに近く種族か、と思いつつ未だに勇者の首を締めているその魔物に声をかけてみる。向こうはまったりしている俺に苛ついているのか段々こめかみに血管を浮かべていたけど、余裕なのはきっと俺じゃなくて向こうのほう。
「その子、誰だか知ってるの?」
「……はぁ? ただの人間だろうが。なんだ? この細っこい腕を折ってほしいのか?」
「ああ、なるほど」
気付いていないのか。そうか、それはご愁傷さまだ。人間に習って両手を合わせて「ナム」としていると向こうは更に怒り狂った。
「ふざけんじゃなぇ! 人間を襲わねぇ魔物はもう魔物じゃねぇんだよッ! テメェなんざさっさと死――」
「可哀想に。無知とは時として残酷だねぇ」
「は……? ――ィギャアアアッ?!」
唐突に響き渡った悲鳴に尚更ナムナムと手のひらを擦り合わせる。さっきまで意気揚々と俺を殺そうと、そして自分が捉えていた人間を殺そうとしていた魔物は、いとも簡単に床に叩き伏せられて尚且右腕の骨を折られていた。
「馬鹿だねぇ――君が囚えていたのは、勇者だよ」
コツコツと足音を立てながら近寄り、上から押さえつけられてくぐもった声しか出せない魔物の近くで屈み込んで上から見下ろす。
「無知な君にもう一つ教えてあげよう。勇者のレベルは魔王である俺と一緒だよ――つまり、最高値であるレベル99」
脂汗か冷や汗かわからないけどただただダラダラと汗を流している魔物ににっこりと笑みを向ける。そんな魔物のレベルは15。その低さでよく俺に単体で歯向かおうとしたものだ。しかも俺と同レベルの勇者を人質に取るなんて、よくそんな余裕なことできるなぁってある意味感心した。
「まったくもう、最近君みたいな無知な子が増えてて嫌になるよ。おーいバルレ」
部下の一人である魔物の名を呼べばスッと現れて俺の傍らで膝を付け頭を垂れた。
「彼の処理、任せたよ」
「はっ」
「勇者勇者、あとは俺の部下に任せていいよ」
今度は勇者の近くに歩み寄ってトントン、と肩を叩いたんだけどどうも勇者が倒れている魔物から退く素振りを見せない。首を傾げてもう一度トントン、と叩いてみたけどやっぱり動いてくれない。
「勇者?」
「――え? ああ、うん。わかったんだけど。私も勇者だからかな、身体が勝手にこいつを倒そうとする」
「わわっ、怖いね」
それもそうだ、魔族が本能で人間を襲いかかろうとするように、きっと魔族から人間を守ってきた勇者は反射的にそういう行動を起こしてしまうんだろう。例え数千年前からそういう争いがなくなったとはいえ、それでも彼女は勇者として生まれてきたのだから。
勇者の腕に手を添えてみるとようやく力が緩まって、泡を吹いて気絶している魔物の上から退いた。勇者に怪我していないか俺もチェックして、首に締め付けられていた痕が残っていた若干表情を歪める。
「ごめんね、勇者」
「ううん、このくらいすぐ治るから」
と言いつつ勇者は早速回復魔法を使って首にあった痕を綺麗に消し去った。流石は勇者。俺たち魔族は耐久度はあるけど回復魔法が使えない。重症を負えば追い詰められるのは魔族のほう。
部下でるバルレが気絶して魔物に向かって舌打ちしつつ、魔法の鎖で縛り付けそのままズルズルと引き摺っていく。それを目で追いつつ、隣にいる勇者は小さく口を開いた。
「なんで争いを起こそうとするかな」
「どうしてもああいう輩は出てくるもんなんだよね。別に魔族みんながああいう考えってわけじゃないんだけど」
「それは人間だって同じだよ。平和な国に攻め込もうとする国だってあるし」
「……何も起こらない平凡な日々が、一番いいっていうのにね」
「そうだよ」
やんわりと返した俺に対し、勇者ははっきりと返した。見上げてくるその瞳の奥も力強さが宿っている。
料理は苦手でお菓子どころか食べ物はよく食べて、畑仕事の手伝いはしてくれるけど基本クッションの上でまったりのんびり過ごしている勇者。そこだけ見たら勇者とは思えなくて普通の人間の女の子だ。
でもやっぱり、この子は勇者なんだなぁとしみじみと思う。勇者の紋章が浮き出るから簡単に勇者になれる、ってわけじゃなさそうだ。やっぱり勇者たらしめる何かがあって、今まで会ってきたそれぞれの勇者にそれは備わっていた。
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