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8.街へお忍び
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そういえば、とはたと思った。そういえば私はよく魔王城に遊びに来てるけど、魔王が街に遊びに来たのを見たことがない。千年前とは違って良好的な関係を築けているとはいえ、やっぱり魔王が急に街に現れたらびっくりするものかのかも。よく知らないけど。
でも他の魔物はよく顔出してるし普通に買い物して普通に食事して普通に人間と飲んでってしている。そしたら魔王も遊びに行ったってよくない? という感じなんだけど。
「ってことで。魔王、街に遊びに行かない?」
「えぇ? 唐突だね」
「嫌? それとも魔王は街に行ったらいけませんみたいなルールでもあるの?」
「そんなルールはないけど……」
魔王城を離れたらダメ、みたいな感じでもなさそうな反応に、もしかしたらやっぱり街に行くのがあんまり好きじゃないのかもしれないと肩を落とす。魔王が遊びに来たら面白そうだけど無理強いはできない。
「行けないんだったら今度お土産持ってくるね」
魔王が私にお菓子を作ってくれたりはたまた料理上達のために手伝ってくれたりと色々とお世話になってるから、少しでもそのお返しをしたかった。魔王は私よりもずっと長い時間を生きているから、もしかしたら知らないものもそうないかもしれないけど。
それでも私が魔王城に来て今の魔物たちの様子を見て知ったように、魔王にも今の人間がどんな感じなのか知ってもらいたかった。もしかしたら中には魔王も知らない料理があるかもしれないし、新しい野菜も誕生しているかもしれない。
何をお土産にしようかな、と色々と考えていたら何やらもぞもぞ動くものが目の端に映る。なんだろうと思って視線を動かしてみれば、そのもぞもぞと動く物体は魔王だった。
「あ、あのさ、勇者……」
もぞもぞというか、モジモジとしている魔王に首を傾げつつ次に出てくる言葉を待った。
「わぁ、いい天気」
朝早く起きてきっちりと準備をしていたらお母さんから「あんたが早く起きるなんてめずらしい」とか言われたけど。確かに私は朝が苦手でゆっくり起きてベッドの上でまったりするというダメっぷりを発揮してるけど。でも世の中そういう人間だっているわい。
そんな私が頑張って起きて、いつも朝食を作ってくれるお母さんに感謝しつつ朝食を完食――いつも量が足りないと思ってるけどきっとそれはお母さんにも伝わってる。それでも量は変わらない――家の外に出てみれば、近所のおばあちゃんから「あらあら今日は早いのね」と言われてしまった。そんな、私が早く起きるとめずらしいとか何か降ってくるんじゃないかみたいな反応はやめてほしい。
街の中ですれ違う人と挨拶をしながら――やっぱりみんな驚いた顔で見てくる。でも気にしない――目的の場所まで歩いていく。ちなみに今日はミウィちゃんは遊びに来ないらしい。
「いつでも遊びに来る暇人だとは思わないでよねっ!」
とか言ってたけど、妖精または精霊たちは精霊界で日々まったり過ごしていることを知っている。っていうことで、本人は口にはしなかったけどミウィちゃんはいつも暇人なはず。
もしかしたら人間界のマナな精霊界のマナに比べて少し薄いから、その補給に行ったのかもしれないけれど。
そうこうしているうちに約束していた場所にたどり着いて、たくましく立っている大樹の麓に腰を下ろしてみた。いい天気だし爽やかな風が吹いている。すっごくいい散歩日和だ。
「お、お待たせ~!」
日差しがぽかぽかしてて風がそよそよして気持ちいい、とウトウトとしてきてもう少しで寝そうってときにそんな声が聞こえてぱっちりと目を開ける。視線を向けてみれば右手を上げて私がわかるように大きく振ってくれている。
「わぁ。普通のおじさんみたい」
「ぐふっ。だ、だって勇者が角があってあの格好じゃ目立つからって……」
「うん、似合ってるよ」
「へっ? そ、そう?」
照れたように後ろ髪をポリポリ掻いているところを見てみると、本当に普通のおじさんみたいだ。
でもその正体は人間に变化した魔王。魔王は私のお誘いに乗ってくれた。
「いやぁ、こうやって街の来るの何千年ぶりすぎて緊張するよ」
「大丈夫だって。パッと見本当に人間なんだから。魔王だってバレないって」
「そ、そうかな?」
まぁマナがよく見える人には気付かれるかもだけど。でも今更魔王だからと言って倒そうっていう発想をする人はいない。「あ、なんだ魔王か」程度で終わるはず。そもそも魔王とわかって喧嘩売る人なんてまずいないと思うし、勇者である私が一緒にいるんだったら尚更。
「ほら、いい散歩日和だし早速行こ?」
「う、うん。ああ緊張する……大丈夫? 俺変なところない?」
「キョドっているとイケナイコトしてる人みたいだから、堂々としてたほうがよくない?」
「えっ?! それは困る……堂々……堂々ね」
だって魔王の見た目が中年ぐらいの人だし、私は十六歳になったばかりだし。魔王が挙動不審になればなるほど怪しい人に見えてしまう。
まぁまぁ、気にせずに行こ。と魔王の手を掴んで引っ張れば「わわっ」と慌てた声が聞こえてきたけれど、大人しくついてきてくれた。
「わぁ……結構賑わってるね」
「城下だからね。何か食べたいものとかある? あと見たいものとか」
「こうやって歩いて見てるだけでも楽しそうだけど……あ。あれって何かな」
「ん? ああ、なんか美味しそうな果物があったからって、それを使ったパフェを新しく出したみたい」
あちこち楽しそうにキョロキョロと見ている魔王の隣で、私も初めて魔王城に行ったときこんな感じだったんだろうなぁと思いつつ一緒に露店に立ち寄る。どんな実なのかよくわからないけど、プチプチ食感が人気らしい。お店の人に二つ頼むとニヤニヤしながら「デートかい?」とか言ってきた。
そうか、男女二人で仲よさげに歩いていたらそんな感じに見られるんだ。と思いつつ早くパフェくれないかなと思っている隣で、「デ、デート?!」って声をひっくり返している魔王が顔を赤くしていた。私より長生きしてるのにそういうとこ照れるんだ。よくわからん。
パフェを二つ受け取って、一つを魔王に渡す。早速食べてみればそこまで甘さが強くない生クリームと、そしてよく知らないプチプチ食感の果物がちゃんとマッチしていて美味しい。
「美味しい」
「美味しいね! このフルーツは確か……南のほうの大陸にあったんじゃないかな。輸入できるようになったんだね」
「そうなんだ?」
やっぱり魔王は物知りだなぁ、と思いつつ魔王がパフェを半分食べた頃私は完食していた。正直一つじゃ足りないけど仕方がない。お腹いっぱいに食べていたら懐が空っぽになってしまう。
ちなみにソレーユ国と魔王城があるこの場所は、周りが海で囲まれている島だったりする。大陸と言いたいけど他所の大陸に比べて小さいらしく、他所の地図では「ソレーユ島」とかなんとかの書かれ方だとか。いや島というわりには歩いて一周なんてことはできないし、魔法で飛んでも一日で一周できないんだけど。他所の大陸ってどんだけ広いのって感じ。
魔王がパフェを食べ終わるのを見計らって、再び散策に戻る。やっぱり数千年ぶりの街ということで色々と変わっていたらしい。そもそも建物が立派になっているし、予想以上に人間と魔物の交流が盛んでったようで驚いていた。
「魔王、お腹空いてない? どっかのお店に入って昼ご飯――」
色々と歩き回ったあとにどっちかのお腹がくぅ、となって時間もいい感じだし昼ご飯でもとお店に目を向けたときだった。すぐ傍にあった飲食店にはテラスがあって、開放的にご飯を楽しめる場所でもあったんだけど。
なんだかそのテラスに、何やら見覚えのある姿が。周りの人はまったく気にしてないけど向こうも私たちに気付いたみたいでバッチリと視線が合ってしまった。いやいや、普通の格好してるけど。街に溶け込む格好してるけど。
あれってどう見ても、この国の王様。
「あれ? 王じゃないかい?」
「……あっ! やはりまお……こほんこほん。まさかこのような場所で会うとはな!」
危ない王様もう少しでこんな街のど真ん中で「魔王」と呼ぶとこだった。一応念の為にってお互い街の中では「魔王」と呼ぶのはやめとこうと決めておいたのに、それが王様のせいでダメになるところだった。
わっさりしてる白ひげを撫でてのんびりしている王様は、まるでどこぞの国のとある時期に現れるおじいちゃんのような容姿だったけど。おいでおいでと私たちを手招きして、呼んでるんだったらと王様が座っているテーブルに同席する。
多分、うまくいけば王様の奢りになるはず。やったね。いつもより少し多めの量頼もう、とメニューを開く。
「まさか私の代でこうして街の中で君と会うとはなぁ」
「勇者に誘われたんだ、街に行ってみないかって。ああ、この間はお酒をありがとう。美味しかったよ」
「そうであろうそうであろう! なんせ自信作だったようじゃからな!」
二人が話に盛り上がっている隣で早速お昼ご飯を注文する。魔王はどうするんだろうと視線を向けたらそれに気付いた魔王が「君と一緒で」とか言ったけど、そしたら結構多い量に……まぁ、魔王が残したら私が食べればいいかと同じものを注文する。
「立派なグレープに育ったんだね。あの土地があそこまで潤うなんて大変だっただろう?」
「そこはおぬしと勇者のおかげじゃなぁ。あんな荒れ果てていた大地を整地してくれたのじゃ。あとはせっせと毎日欠かさず世話をしておれば、実はそれに応えてくれる。そして素晴らしい酒の出来上がりというわけじゃ」
「君たちのそんな姿を見習って、今では魔物も頑張って野菜を作るものたちが増えてきたんだ。人間たちを『先生』と呼んでね」
「おお、それはよいことじゃの!」
「お待たせしました~。ミートスパゲティ五人前を二つですね~」
「ありがとう」
二人の会話の中にさっと持ってきてくれた店員さんにお礼を言いつつ、お皿の上にこんもりと盛られたミートスパゲティを受け取る。もう一皿を魔王のほうに置いてあげれば一瞬視線を向けた魔王の顔が「えっ?」と驚いたけど、よく確認もせずに私と同じものをと言った魔王が悪い。
「王様、奢りありがとうございます」
「おぬしは相変わらずふてぶてしいのぉ。生まれたときから変わらん」
言質は取った。ここの食事は王様持ちだ。手を合わせて感謝しつつ、そしてこの美味しいミートスパゲティになってくれたことにも感謝して早速口に運ぶ。トマトの風味とお肉の香ばしさが広がってとっても美味しい。
「美味しい!」
「一体その細い身体のどこにその量が入って行くのだろうなぁ」
「えっと、勇者のこの食事量は元から……?」
「驚くであろう? 幼き頃よりこれだ。勇者の母親が大層苦労しておったなぁ」
多分だけど、『勇者』っていうこともあって一般的よりもマナの消費が激しいのかもしれない。少し動けばすぐにお腹空くし多少の量なら足りないし。食事量イコールマナの貯蓄量なのかどうかはわからないけど。とにかく私はよく食べるらしい。
二人が私の話をしていたり、国周辺の状況を話し合っているうちに五人前をぺろりと平らげてしまった。スッと隣を見てみれば魔王がまだ一人前行くかどうかの量しか食べていない。まだまだお皿の上にあるミートスパゲティからスッと魔王の顔に視線を移す。まだまだお喋りに夢中でこっちに気付いてない。ジッと、魔王の横顔を見つめてみる。
「……」
「……」
「……俺はもう、お腹いっぱいだから……勇者、食べるかい?」
「ありがとう」
「即答じゃな。待っておったろう」
「食べ物無駄にできませんから」
ススッと自分が食べていたミートスパゲティを私の前に置いてくれた魔王に感謝しつつ、結局私は九人前のスパゲティを食べきった。その間に魔王と王様もいい時間を過ごせたようで、お店に出る直前に「また遊びに来ておいで」と一言言い残して王様も城へと戻っていった。
太陽が傾き加減の頃、私たちは最初に待ち合わせしていた大樹のところまで戻っていた。
「どう? 楽しかった?」
「うん。久しぶりに来てみるものだね。色んなものが見れて楽しかったし、何よりやっぱり人間は強いなぁって思ったよ」
「そうなの?」
「そうだね」
にっこり笑う魔王に首を傾げる。力で言ったら圧倒的に魔物のほうが強いんだけれど、魔王が言いたいことはそうじゃないらしい。それはやっぱり数千年も生きて、そして人間も見てきたから色々と思うところがあるのかもしれない。
しばらく街の風景を楽しんでいた魔王だけれど、ふとなぜか私のほうを見てきた。どうしたんだろうと見上げてみればその顔がゆるく微笑む。
「街の中で、君の名前を聞かなかったなぁ」
「え?」
「……ううん、なんでもないよ」
そっと視線が外されて、きっと何かを聞こうとしたところで魔王は言ってくれないかもしれない。私もそれ以上言及することはなく同じように街に視線を向ける。夕日が当たって赤く染まるのは街の中だけじゃなくて、港がある海もだった。波も穏やかでキラキラと宝石のように輝いている。
「それじゃ、そろそろ戻るね。遅れたらバルレに怒られちゃう」
「厳しそうだったもんね、あの人」
「ははっ、しっかり者だよ」
少し影がある場所に行く魔王の後ろをついていってみる。魔王がスッと腕を上げて振りかぶれはその姿はあっという間にいつも見ているものに変化した。
「帰り気を付けてね」
「あはは、魔王にそう言うのは君ぐらいだよ。それじゃ勇者、また遊びに来てね」
「うん、明日行く」
「わりとすぐでびっくりだよ」
そしたらお菓子作って待っておかなきゃ、魔王がそう言い残して姿を消した。夕日が傾いて目の前はわりと暗くなっている。その暗闇にただただジッと視線を向けた。
でも他の魔物はよく顔出してるし普通に買い物して普通に食事して普通に人間と飲んでってしている。そしたら魔王も遊びに行ったってよくない? という感じなんだけど。
「ってことで。魔王、街に遊びに行かない?」
「えぇ? 唐突だね」
「嫌? それとも魔王は街に行ったらいけませんみたいなルールでもあるの?」
「そんなルールはないけど……」
魔王城を離れたらダメ、みたいな感じでもなさそうな反応に、もしかしたらやっぱり街に行くのがあんまり好きじゃないのかもしれないと肩を落とす。魔王が遊びに来たら面白そうだけど無理強いはできない。
「行けないんだったら今度お土産持ってくるね」
魔王が私にお菓子を作ってくれたりはたまた料理上達のために手伝ってくれたりと色々とお世話になってるから、少しでもそのお返しをしたかった。魔王は私よりもずっと長い時間を生きているから、もしかしたら知らないものもそうないかもしれないけど。
それでも私が魔王城に来て今の魔物たちの様子を見て知ったように、魔王にも今の人間がどんな感じなのか知ってもらいたかった。もしかしたら中には魔王も知らない料理があるかもしれないし、新しい野菜も誕生しているかもしれない。
何をお土産にしようかな、と色々と考えていたら何やらもぞもぞ動くものが目の端に映る。なんだろうと思って視線を動かしてみれば、そのもぞもぞと動く物体は魔王だった。
「あ、あのさ、勇者……」
もぞもぞというか、モジモジとしている魔王に首を傾げつつ次に出てくる言葉を待った。
「わぁ、いい天気」
朝早く起きてきっちりと準備をしていたらお母さんから「あんたが早く起きるなんてめずらしい」とか言われたけど。確かに私は朝が苦手でゆっくり起きてベッドの上でまったりするというダメっぷりを発揮してるけど。でも世の中そういう人間だっているわい。
そんな私が頑張って起きて、いつも朝食を作ってくれるお母さんに感謝しつつ朝食を完食――いつも量が足りないと思ってるけどきっとそれはお母さんにも伝わってる。それでも量は変わらない――家の外に出てみれば、近所のおばあちゃんから「あらあら今日は早いのね」と言われてしまった。そんな、私が早く起きるとめずらしいとか何か降ってくるんじゃないかみたいな反応はやめてほしい。
街の中ですれ違う人と挨拶をしながら――やっぱりみんな驚いた顔で見てくる。でも気にしない――目的の場所まで歩いていく。ちなみに今日はミウィちゃんは遊びに来ないらしい。
「いつでも遊びに来る暇人だとは思わないでよねっ!」
とか言ってたけど、妖精または精霊たちは精霊界で日々まったり過ごしていることを知っている。っていうことで、本人は口にはしなかったけどミウィちゃんはいつも暇人なはず。
もしかしたら人間界のマナな精霊界のマナに比べて少し薄いから、その補給に行ったのかもしれないけれど。
そうこうしているうちに約束していた場所にたどり着いて、たくましく立っている大樹の麓に腰を下ろしてみた。いい天気だし爽やかな風が吹いている。すっごくいい散歩日和だ。
「お、お待たせ~!」
日差しがぽかぽかしてて風がそよそよして気持ちいい、とウトウトとしてきてもう少しで寝そうってときにそんな声が聞こえてぱっちりと目を開ける。視線を向けてみれば右手を上げて私がわかるように大きく振ってくれている。
「わぁ。普通のおじさんみたい」
「ぐふっ。だ、だって勇者が角があってあの格好じゃ目立つからって……」
「うん、似合ってるよ」
「へっ? そ、そう?」
照れたように後ろ髪をポリポリ掻いているところを見てみると、本当に普通のおじさんみたいだ。
でもその正体は人間に变化した魔王。魔王は私のお誘いに乗ってくれた。
「いやぁ、こうやって街の来るの何千年ぶりすぎて緊張するよ」
「大丈夫だって。パッと見本当に人間なんだから。魔王だってバレないって」
「そ、そうかな?」
まぁマナがよく見える人には気付かれるかもだけど。でも今更魔王だからと言って倒そうっていう発想をする人はいない。「あ、なんだ魔王か」程度で終わるはず。そもそも魔王とわかって喧嘩売る人なんてまずいないと思うし、勇者である私が一緒にいるんだったら尚更。
「ほら、いい散歩日和だし早速行こ?」
「う、うん。ああ緊張する……大丈夫? 俺変なところない?」
「キョドっているとイケナイコトしてる人みたいだから、堂々としてたほうがよくない?」
「えっ?! それは困る……堂々……堂々ね」
だって魔王の見た目が中年ぐらいの人だし、私は十六歳になったばかりだし。魔王が挙動不審になればなるほど怪しい人に見えてしまう。
まぁまぁ、気にせずに行こ。と魔王の手を掴んで引っ張れば「わわっ」と慌てた声が聞こえてきたけれど、大人しくついてきてくれた。
「わぁ……結構賑わってるね」
「城下だからね。何か食べたいものとかある? あと見たいものとか」
「こうやって歩いて見てるだけでも楽しそうだけど……あ。あれって何かな」
「ん? ああ、なんか美味しそうな果物があったからって、それを使ったパフェを新しく出したみたい」
あちこち楽しそうにキョロキョロと見ている魔王の隣で、私も初めて魔王城に行ったときこんな感じだったんだろうなぁと思いつつ一緒に露店に立ち寄る。どんな実なのかよくわからないけど、プチプチ食感が人気らしい。お店の人に二つ頼むとニヤニヤしながら「デートかい?」とか言ってきた。
そうか、男女二人で仲よさげに歩いていたらそんな感じに見られるんだ。と思いつつ早くパフェくれないかなと思っている隣で、「デ、デート?!」って声をひっくり返している魔王が顔を赤くしていた。私より長生きしてるのにそういうとこ照れるんだ。よくわからん。
パフェを二つ受け取って、一つを魔王に渡す。早速食べてみればそこまで甘さが強くない生クリームと、そしてよく知らないプチプチ食感の果物がちゃんとマッチしていて美味しい。
「美味しい」
「美味しいね! このフルーツは確か……南のほうの大陸にあったんじゃないかな。輸入できるようになったんだね」
「そうなんだ?」
やっぱり魔王は物知りだなぁ、と思いつつ魔王がパフェを半分食べた頃私は完食していた。正直一つじゃ足りないけど仕方がない。お腹いっぱいに食べていたら懐が空っぽになってしまう。
ちなみにソレーユ国と魔王城があるこの場所は、周りが海で囲まれている島だったりする。大陸と言いたいけど他所の大陸に比べて小さいらしく、他所の地図では「ソレーユ島」とかなんとかの書かれ方だとか。いや島というわりには歩いて一周なんてことはできないし、魔法で飛んでも一日で一周できないんだけど。他所の大陸ってどんだけ広いのって感じ。
魔王がパフェを食べ終わるのを見計らって、再び散策に戻る。やっぱり数千年ぶりの街ということで色々と変わっていたらしい。そもそも建物が立派になっているし、予想以上に人間と魔物の交流が盛んでったようで驚いていた。
「魔王、お腹空いてない? どっかのお店に入って昼ご飯――」
色々と歩き回ったあとにどっちかのお腹がくぅ、となって時間もいい感じだし昼ご飯でもとお店に目を向けたときだった。すぐ傍にあった飲食店にはテラスがあって、開放的にご飯を楽しめる場所でもあったんだけど。
なんだかそのテラスに、何やら見覚えのある姿が。周りの人はまったく気にしてないけど向こうも私たちに気付いたみたいでバッチリと視線が合ってしまった。いやいや、普通の格好してるけど。街に溶け込む格好してるけど。
あれってどう見ても、この国の王様。
「あれ? 王じゃないかい?」
「……あっ! やはりまお……こほんこほん。まさかこのような場所で会うとはな!」
危ない王様もう少しでこんな街のど真ん中で「魔王」と呼ぶとこだった。一応念の為にってお互い街の中では「魔王」と呼ぶのはやめとこうと決めておいたのに、それが王様のせいでダメになるところだった。
わっさりしてる白ひげを撫でてのんびりしている王様は、まるでどこぞの国のとある時期に現れるおじいちゃんのような容姿だったけど。おいでおいでと私たちを手招きして、呼んでるんだったらと王様が座っているテーブルに同席する。
多分、うまくいけば王様の奢りになるはず。やったね。いつもより少し多めの量頼もう、とメニューを開く。
「まさか私の代でこうして街の中で君と会うとはなぁ」
「勇者に誘われたんだ、街に行ってみないかって。ああ、この間はお酒をありがとう。美味しかったよ」
「そうであろうそうであろう! なんせ自信作だったようじゃからな!」
二人が話に盛り上がっている隣で早速お昼ご飯を注文する。魔王はどうするんだろうと視線を向けたらそれに気付いた魔王が「君と一緒で」とか言ったけど、そしたら結構多い量に……まぁ、魔王が残したら私が食べればいいかと同じものを注文する。
「立派なグレープに育ったんだね。あの土地があそこまで潤うなんて大変だっただろう?」
「そこはおぬしと勇者のおかげじゃなぁ。あんな荒れ果てていた大地を整地してくれたのじゃ。あとはせっせと毎日欠かさず世話をしておれば、実はそれに応えてくれる。そして素晴らしい酒の出来上がりというわけじゃ」
「君たちのそんな姿を見習って、今では魔物も頑張って野菜を作るものたちが増えてきたんだ。人間たちを『先生』と呼んでね」
「おお、それはよいことじゃの!」
「お待たせしました~。ミートスパゲティ五人前を二つですね~」
「ありがとう」
二人の会話の中にさっと持ってきてくれた店員さんにお礼を言いつつ、お皿の上にこんもりと盛られたミートスパゲティを受け取る。もう一皿を魔王のほうに置いてあげれば一瞬視線を向けた魔王の顔が「えっ?」と驚いたけど、よく確認もせずに私と同じものをと言った魔王が悪い。
「王様、奢りありがとうございます」
「おぬしは相変わらずふてぶてしいのぉ。生まれたときから変わらん」
言質は取った。ここの食事は王様持ちだ。手を合わせて感謝しつつ、そしてこの美味しいミートスパゲティになってくれたことにも感謝して早速口に運ぶ。トマトの風味とお肉の香ばしさが広がってとっても美味しい。
「美味しい!」
「一体その細い身体のどこにその量が入って行くのだろうなぁ」
「えっと、勇者のこの食事量は元から……?」
「驚くであろう? 幼き頃よりこれだ。勇者の母親が大層苦労しておったなぁ」
多分だけど、『勇者』っていうこともあって一般的よりもマナの消費が激しいのかもしれない。少し動けばすぐにお腹空くし多少の量なら足りないし。食事量イコールマナの貯蓄量なのかどうかはわからないけど。とにかく私はよく食べるらしい。
二人が私の話をしていたり、国周辺の状況を話し合っているうちに五人前をぺろりと平らげてしまった。スッと隣を見てみれば魔王がまだ一人前行くかどうかの量しか食べていない。まだまだお皿の上にあるミートスパゲティからスッと魔王の顔に視線を移す。まだまだお喋りに夢中でこっちに気付いてない。ジッと、魔王の横顔を見つめてみる。
「……」
「……」
「……俺はもう、お腹いっぱいだから……勇者、食べるかい?」
「ありがとう」
「即答じゃな。待っておったろう」
「食べ物無駄にできませんから」
ススッと自分が食べていたミートスパゲティを私の前に置いてくれた魔王に感謝しつつ、結局私は九人前のスパゲティを食べきった。その間に魔王と王様もいい時間を過ごせたようで、お店に出る直前に「また遊びに来ておいで」と一言言い残して王様も城へと戻っていった。
太陽が傾き加減の頃、私たちは最初に待ち合わせしていた大樹のところまで戻っていた。
「どう? 楽しかった?」
「うん。久しぶりに来てみるものだね。色んなものが見れて楽しかったし、何よりやっぱり人間は強いなぁって思ったよ」
「そうなの?」
「そうだね」
にっこり笑う魔王に首を傾げる。力で言ったら圧倒的に魔物のほうが強いんだけれど、魔王が言いたいことはそうじゃないらしい。それはやっぱり数千年も生きて、そして人間も見てきたから色々と思うところがあるのかもしれない。
しばらく街の風景を楽しんでいた魔王だけれど、ふとなぜか私のほうを見てきた。どうしたんだろうと見上げてみればその顔がゆるく微笑む。
「街の中で、君の名前を聞かなかったなぁ」
「え?」
「……ううん、なんでもないよ」
そっと視線が外されて、きっと何かを聞こうとしたところで魔王は言ってくれないかもしれない。私もそれ以上言及することはなく同じように街に視線を向ける。夕日が当たって赤く染まるのは街の中だけじゃなくて、港がある海もだった。波も穏やかでキラキラと宝石のように輝いている。
「それじゃ、そろそろ戻るね。遅れたらバルレに怒られちゃう」
「厳しそうだったもんね、あの人」
「ははっ、しっかり者だよ」
少し影がある場所に行く魔王の後ろをついていってみる。魔王がスッと腕を上げて振りかぶれはその姿はあっという間にいつも見ているものに変化した。
「帰り気を付けてね」
「あはは、魔王にそう言うのは君ぐらいだよ。それじゃ勇者、また遊びに来てね」
「うん、明日行く」
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そしたらお菓子作って待っておかなきゃ、魔王がそう言い残して姿を消した。夕日が傾いて目の前はわりと暗くなっている。その暗闇にただただジッと視線を向けた。
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同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
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