勇者と魔王は人生を謳歌する

みけねこ

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12.喧嘩はよくない

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「高台に避難しろ!」
「まったくこの間修復したばっかりだっていうのに!」
「兵糧はあるか?!」
 最近曇りばかり続くなと思ったときだった。慌ただしく飛んできたのは精霊であるミウィちゃん。
「まずいまずい勇者! 精霊同士が大喧嘩始めちゃったわ!」
 その言葉を聞いて真っ先に王様に報告して、そして王様から街の人たちに知らせてもらった。
 正直精霊同士の喧嘩、しかも大喧嘩となると最も被害を喰らうのは私たち人間だった。マナの濃い同士が精霊界で争いを勃発させるとこっちは嵐が起こったり地震が起こったり水が干上がったり噴火したりとも大わらわ。この間の洪水だって水の精霊と土の精霊が派手に喧嘩をしたからだ。
 そしてミウィちゃんがすっ飛んできた翌日、連日に続く豪雨だった。
「今回水の精霊同士が喧嘩してんのよ!」
 らしい。しかも精霊同士の喧嘩なんて些細なことが多いらしくて、普段はのんびり暮らしているせいか一度頭に血がのぼるとストップが利かないとかなんとか。今回はお気に入りの場所をめぐっての喧嘩らしい。
 ぶっちゃけ、私たちにとっては甚だ迷惑だ。
 でも精霊も精霊で自分たちが大喧嘩したことによって人間界に被害が出ようともお構いなし。そもそもあまり不干渉なため関心もほぼない。自分たちは好き放題に喧嘩してるくせにこっちのことは気にも留めず、こっちはこっちで被害が出ないようにとバタバタするしかない。
 ぶっちゃけ、ものすっごく腹立つ。
「だぁ! また氾濫しそうだ!」
「土魔法使える奴呼んでこい!」
 女子ども、または身体の弱い人たちをすぐに高台のほうに避難させ、残っている人たちでなんとか氾濫を止めようとしている最中だった。
 私も雨の中ローブを被りつつ氾濫しそうになっている川へと急ぐ。この間の洪水のせいで堤防が崩れて魔王の助けも借りつつやっと修復し終えたっていうのに、それがまた崩れそうだ。私がたどり着いた頃には土魔法を使える人たちが必死に壁を作ろうとしているけれど、間に合いそうにない。
「『スエロ・パレー』!」
 土魔法を発動させて一気に土の壁を作り上げる。周りから歓声の声があがって「ありがとう!」っていう声が聞こえたけど、ここだけじゃまずいと急いで上流のほうへと移動した。前みたいにまた大岩が転がってしまったら同じ被害が起こってしまう。あのときは周辺の畑が駄目になった。
 加速の魔法を使って急いで移動すれば、貯水場がもう溢れる寸前。さっきの作った壁が台無しになってしまうし一気に水が街に流れ込んでしまう。
「貯水場全部壁で囲う? でも範囲広いな……壁を作ったところで雨が降り続けていたら……」
 壁を作るより穴を空けてそこに流し込んだほうがいいのか。でもそうすると今度は地盤が緩くなる。海に続くまで穴を空ければいけるかもしれないけどそっちだと今度は時間が足りない。
 そうこうしているうちに雨は降り続くし水かさが増していく。どうしよう、火の魔法を使って蒸発させる? でも今度は水蒸気が発生してまた雨が降るかも。頭のいい人周りにいないかなと思っても王様は街の対応で忙しいしミウィちゃんは私が急いで来てしまったせいで今頃必死に飛んできてる。
 蒸発させて、雨を降らせないように上に壁を作るか。大きな魔法を立て続けに使わなきゃならなくなるけど、でもまぁ、数日寝込むかお腹がとてつもなく空くぐらいだろうしなんとかなるかもしれない。そう思って手を掲げた。
「『ロ・エタンドル』」
 私が口を開くより先に声が聞こえた。途端に目の前にあった水があっという間に消え失せて大地が剥き出しの状態になる。
 上を見上げてみれば、よく見るマントがヒラヒラと風に待っていた。しかも私はローブ姿でもすっかりびっしょり濡れてるっていうのに、そのヒラヒラマントはまったく濡れていない。
「びしょ濡れだね」
「本当だよ」
 降りてきたその人物が、苦笑をしながら濡れている私の髪に触れる。滴り落ちていた雫が消えて髪も乾燥していた。
「精霊は俺たちよりもずっとたちが悪いんじゃないか? 人間のことなんてお構いなしだ」
「ミウィちゃんみたいに優しい子がたくさんいればいいのに」
「妖精に比べて精霊はプライドが高いからねぇ」
 魔王が触った箇所から乾燥していく。一体どんな魔法なのか、勇者と魔王じゃ魔法の質も違うから相手の魔法の仕組みもいまいちわからない。
「……水丸ごと消しちゃったけど、もしかしてマズかった?」
「貯水場だからね。でもこの雨だったらすぐに貯まると思う」
「ちょっと勇者~! 速すぎぃ~! って、ゲッ、魔王もいたの?」
「そんな顔を見て『ゲッ』だなんて、泣けてきちゃう」
「魔王に涙腺なんてあったのね」
 ものすっごく嫌そうな顔をしているミウィちゃんだけど、すっごく頑張って飛んできてくれたらしい。疲れた顔をして私の肩に止まって羽を休ませている。
「ミウィちゃん、この雨ってあとどれぐらい続くの?」
「どうやら喧嘩が収まったようだから、明日ぐらい雨は上がると思うわ。まったく、まさかこんなに人間界に影響があるなんて。精霊も知っておいたほうがいいんじゃないかしら」
「そしたら君からそう言ってくれるかい? 魔族も人間も精霊界に干渉できないからね」
 魔王の言うとおり、精霊界から人間界に干渉しようと思えばできるけどその逆はできない。ミウィちゃんとこうして喋れているのもミウィちゃんが自分から私たちに関係を持ってくれようとしてくれているからだ。
 まぁでもなんかよくわからないけど、ちゃんとした手順を踏めば話ぐらいはできるらしい。ただその手順っていうのがものすごく面倒臭くて数百年前にはちゃんと『召喚士』っていう職業があったらしいけど、今はもう廃れてしまっている。私も召喚士には会ったことがない。
「精霊は人間に関心はないくせに、影響は与えるんだね――理不尽だ!」
「確かにねぇ」
「で、でもあたしたち妖精が精霊がいるからあんたたちも魔法が使いやすくなってるんだからね! 多少なりともあたしたちの力借りてるんだから!」
「ハイリスクローリターン」
「まったくそのとおり」
「くっ……! なんで妖精のあたしがこんな苦しい思いしなきゃいけないのよっ……! 精霊のほうが非があるっていうのにっ……!」
 でもミウィちゃんはそんな精霊に仕える身だから精霊に対して大きくでることもできないか。私が王様に対して「おかしくないですかぁ?! 勇者への餞別って武器だったり防具だったりするのに渡してくるのが魔王への手土産なんておかしくないですかぁ?! しかもお酒‼」だなんて、心の中では思っていても実際には口には出さなかったし。
「取りあえず、王様に氾濫の心配はないっていう報告しなきゃ。魔王も手伝ってくれたし、一緒に来る?」
 私一人じゃこんなに早く対処できなかったし今回もまた魔王の手を借りたし、王様にしっかりと報告するために魔王がいたほうが説明が早くていいと思ったんだけど。私の提案に魔王は困った顔で笑って頭を左右に振るだけだった。
「ただでさえ大変だっていうのに、俺が街に現れたら人間はびっくりするでしょ? 勇者から言っておいてくれる?」
「うぅーん……わかった、そういうことなら」
「そっちの妖精もいるから困ったら頼るといいよ」
「フン、あたしはあんたよりも勇者の役に立つんだから」
「いいかい勇者、ああいうのを人間は『ツンデレ』っていうらしい。ツンがひどかったら俺に言うんだよ?」
「……? うん、わかった」
「ちょっと! あたしはツンデレじゃないし勇者も『うん、わかった』じゃないの! なぁーに魔王の言うこと素直に信じちゃってんのよ! このおバカ!」
「勇者のこの純粋なところがいいんじゃないか」
「くっ……! 魔王のくせに正論ですって……?!」
 なんか二人で話盛り上がっているみたいだけど、でも精霊の喧嘩が終わったからとはいえまだ雨は振ってるからね。明日までこの状態ならまだ注意するに越したことはないんだし。
 でも魔王とミウィちゃんの仲がよくなってよかったってにこにこしていたら、私の顔に気付いたミウィちゃんから平手打ちをもらった。そんな小さな手で平手打ちされても痛くも痒くもなんともないんだけど。
「それにしても……全然ゆっくりできないなぁ。私もっと悠々自適に過ごしたいのに……」
「よしよし勇者、可哀想に」
「ちょっと甘やかさないの! 普段からのんびり過ごしてんだからこういうときこそしっかり勇者として働きなさいよ! このグータラ人間!」
「とても傷付いた」
 胸を押さえて「しくしく」と口に出していると魔王がそっと肩を支えてくれて「およよ」と口に出していた。
「ほら勇者が傷付いているよ。ちゃんと謝ってそこの妖精」
「だぁかぁらぁーッ! 甘やかさせるなってのッ!!」
 ものすごくプンスカ怒っているミウィちゃんにもう一度「しくしく」と言ったら今度は平手打ちを二発もらった。正直風が当たったぐらいで全然痛くも痒くもないけれど。
 そんなプンスカ怒っているミウィちゃんを肩に乗せて、手伝ってくれた魔王にもう一度お礼を言って今度こそ私たちは王様に報告するためにお城へと向かった。
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