勇者と魔王は人生を謳歌する

みけねこ

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14.空中散歩

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「あれ? いない」
 入り口で会ったジャック・オー・ランタン改めジャックくんから「魔王様ならお庭にいますよ~」って聞いたから、言われたとおり庭に来てみたんだけど。前後左右上下、どこをどう見ても魔王の姿は見当たらない。入れ違いだったかなともう一度キョロキョロしてみる。
「おーい! 勇者ここ、ここ~!」
 いきなりグワッと風が吹いたかなと思うと上から聞こえてきた声。視線を空に向けてみればそこには魔王の姿……と、なんかでかい翼。
「……ドラゴン?」
「ごめんねびっくりさせちゃった? いやこのドラゴンが久しぶりにこっちに遊びに来ててね、ちょっと上空一緒に飛んでたんだ」
 バサバサとこっちに風圧与えながらも庭に降りてきて、ドラゴンの背に乗っていた魔王がすっごくいい顔をしながらひょいと地面に降りた。
 正直ドラゴンを見るのはこれが初めてだ。魔王が人間を襲わなくなってからドラゴンたちも自分たちの山に引っ込んだらしく、それ以来人の街に姿を現していないらしい。まぁ、この規模見たら納得する。いきなりドラゴンが街の中に現れたら人は絶対に腰を抜かすわ。
 それにしてもなぜ魔王はわざわざドラゴンの背中に? と首を傾げる。魔族は羽を持っている者は空を飛べるけど、中には魔王みたいに強い魔法が使える魔族も空を飛べる。わざわざドラゴンに乗って飛ばずとも、魔王なら好き勝手に飛べるはずだけど。
 私もまぁ、飛べないわけでもないけど自由自在にってのは流石に無理だし、魔法を使わなきゃ飛べないからわりと使い勝手が悪い。ちょっと魔王が羨ましい、と思いつつなんでドラゴンの背中に? と質問すれば返ってきたのは「一緒に散歩だよ」っていう言葉だった。
「自力で飛べるけどね、こうして一緒に飛ぶのも楽しいものなんだよ――あ! そうだ勇者。勇者も乗ってみる?」
「……乗るって、ドラゴンに?」
「そうそう! 楽しいよ!」
「でもドラゴン嫌がるんじゃない?」
 ドラゴンは魔族だからあんまり人間を好んでいない。だからこそ山にこもるようになっちゃったわけだし。それに勇者はどうやら魔族が嫌うマナの質らしくって、そう多くはないけどやっぱり私のマナで酔っちゃう魔物もいる。
 そんな勇者が背中に乗るなんて、流石にドラゴンも気持ち悪くなっちゃうんじゃない? って心配になる。確かに空を長時間飛ぶのは楽しそうだけど。初めて見るドラゴンに実は内心興奮してるけど。
「勇者はどう? 乗りたい? 乗りたくない?」
「そりゃ……乗ってみたいけど」
「よし! それなら乗ろう!」
「わっ」
 グイッて腕を引っ張られてあれよあれよと魔王の手によってドラゴンの背中に乗ってしまう。大丈夫ですかドラゴンさん、今あなたの心に直接話しかけているつもりです。でもきっと伝わっていないだろうけれど。でも大丈夫ですか、私のマナで気持ち悪くなっていないですか。
「大丈夫大丈夫、このドラゴンはあらゆる魔法の耐性ついてるから。勇者のマナも大丈夫だよ」
「あ、そうなんだ」
 そしたら一安心とホッを息を吐いた。っていやそれいざドラゴンと敵対するなんてことがあれば勇者である私は大ピンチになりますけど。まぁでも争うつもりまったくないから大丈夫か、なんて謎の自信を持ちつつドラゴンさんに「ありがとう」と一言添えて軽く撫でてみた。流石はドラゴン、防具の材料にもなっちゃう皮の硬さと頑丈さだ。
「よいしょ」
「あれ? 魔王も乗るの?」
「勇者一人で乗ったら万が一のとき危ないでしょ? 大丈夫俺がついてるから安心して」
 魔王が勇者に言うセリフじゃないな、と内心つい笑いつつそしたらお願いしようと私の後ろに座った魔王の胸に背中を預ける。魔王は魔法で出現させた手綱をドラゴンにつけて、一言声をかけるとバサッと翼が広がった。
「よーし、しゅっぱ~つ!」
「お~!」
 バサバサと音を立ててドラゴンの足が地面から離れる。徐々に高度が上がって気が付けば魔王城全体を見渡せるほどの高さになっていた。
「適当に飛んで見て回ろうか?」
「そうだね」
 そうして私たちはしばらくの間空中散歩を楽しむことにした。

 空から見たら色んなものが見えて、わりとお城から魔王城まで距離があったんだなとか途中のトラップまみれの道はああなっていたんだなとか。魔王とあちこち指を差しながら辺りを上空から見渡す。
「こう見たらお城って結構海沿いなんだね」
「貿易しなきゃいけないからね。山城とかもあるらしいけれど切り開くのも大変だろうし」
「あ。あっちの森行ったことない」
「あそこは精霊界へ行き来する道があるよ。周辺をユニコーンが守っているんだ。君の傍にいるあの妖精もあそこから行き来してるんじゃないかな」
「そうだったんだ」
「程よく干渉し合わないことでうまくやっていけてる感じだね」
 王様が住んでいる城とその城下の街に、わりと離れたところにあった魔王城。道中に氾濫しそうになっていた川があって、普段行かない場所には魔王の言う精霊界へ通じる道がある森。他にもこうして上から見てみないとわからない、知らない場所がたくさんある。
 レベルアップのために山に登ったり洞窟に入ったりしたことがあったけど、あれはちゃんと城で管理されているダンジョンだった。そこにいればわりとレベルが上がるからそれ以外に行くってことがあまりない。まぁ、どこかに迷い込んで行方知れずになることを未然に塞ぐための手なんだろうけれど。勇者というわりにはあんまり冒険してないなとふと思う。
 まぁ、この国の勇者っていうのは『魔王討伐』のための勇者であって、別に冒険家じゃない。街の酒場にいる冒険者たちもダンジョン攻略ってわけじゃなくて、周辺に何があるのか確認するために行っているようなものだった。冒険者も街の人たちもそして王様も、みんなが考えることは一つ。安心安全に暮らせる生活が一番、だから。
「どうしたの? 魔王」
 そういえば随分と魔王が静かだなと少し視線を後ろに向けて声をかける。え、まさか飛行中に寝たとか? そうなると私がドラゴンさんと仲良くなってお願いを聞いてもらうしかなくなるんだけど。いやもちろん仲良くはなりたいけど。でも世の中には相性ってのがあって。
「――あ、ううん、ちょっと物思いに耽ちゃって」
 あ、よかった起きてた。
「なんか感動することでもあった?」
「うん……人間って、やっぱり色んなものを生み出すなぁって。前にあそこの平原は荒れ果てていて、あそこまで潤ってなかったんだ」
 そう言いながら魔王が指差した場所は、城から少し離れた平原。あれは初心者の冒険者が最初のレベル上げで使う場所だ。別に魔物を討伐するんじゃない、素振りとか筋トレとかそういうのをする場所。
「マナが枯渇していて草も生えてなかった。人間がマナを与え続けたんだろうね」
 あの地が荒れ果てていたなんて、もう一千年も昔の話だ。本にそう書かれていた。今生きている人たちは今のあの草原しか知らない。
「あの川なんてあそこまで伸びていなかった。人間が生活するために使いやすいようにって伸ばしたんだよ」
 魔王の視線の先には、この間氾濫した川とはまた違うもの。あそこは山から水を引いて人々の生活に欠かせない水路となっていた。その形が成したのも、もうずっと昔の話。私にとってあの水路はあるのが当たり前で、大昔の人たちはものすごく苦労したんだろうなっていう考えしかない。
「魔王は、ずっと見てきたんだね」
 私たちとは違って寿命がずっと長い魔族。中でも魔王は力があるからきっと他の魔族に比べて更に寿命が長い。それこそ、自分と同じくらいの力を持っている勇者に討伐されない限り生き続ける。
 とんでもない長さだと思う。魔王が人間を襲わなくなってから数千年経ったと聞いたけど、魔王はそれ以前から存在しているわけであって。そんな、数千年も生きるなんてまったく想像できない。だって私たちは生きてせいぜい百年ぐらいなんだから。
 それは勇者であっても変わらない、マナが多いだけ力が周りよりも強いだけで身体の作りは人間だから。
 そりゃ人間と魔族、そして魔族と同じように寿命の長い精霊たちとは時間の流れが違うに決まっている。私たちが過ごす一年はもしかしたら彼らにとっては一分程度なのかもしれない。
「勇者、俺はね……この平和な時がずっと続けばいいと思うよ。不変なんてものは存在しない。それでも短い時を必死に生き続ける人間たちの頑張った証が、無駄になることはなく踏みにじられることなくずっと続けばいいと思う」
「……うん、私もそう思う」
 きっとそれは難しいことだと思う。魔王が切なそうに見つめていた先は、昔の書物によると小さな村があった場所だ。精霊との親交もあって豊かな村だったらしいけれど、それでも今はそこには何もない。大昔にあれだけ数多くいた召喚士も、今ではめずらしくなっている。変わらないのはとても難しいことだ――でも。
「お互い思いやれる気持ちがあったら、こんな平和な時間が続くかもね」
 支え合って寄り添って助け合ったら。だって魔王がそうやって人間に寄り添うようになってくれたからこそ、今は人間と魔族は争うことなく友好的な関係になった。
 こうやって勇者と魔王が一緒に空中散歩を楽しめるようになったんだから。
「わっ。魔王?」
 急に後ろからギュッとされて、もしかして私落ちそうになってたのかなって慌てて後ろを振り返る。でも魔王は私の肩に頭を乗せて、小さくフルフルと頭を左右に振るだけ。別に落ちそうになっていたわけじゃなさそうでホッと一息。
「どうしたの魔王。なんか人肌恋しくなっちゃった?」
「……ははっ。うん、そうかも」
「ハグすると心が安らぐんだって。でも私今後ろ振り返れないから、降りてからでいい?」
「……ハグしてくれるの?」
「え? 嫌だったら別に無理にはしないけど」
「嫌なわけじゃないよ! ……そうだね、お願いしようかな?」
 わかるわかる、人肌が恋しくなるの。私だってたまに無性にお母さんを抱きしめたくなるときあるし。きっと安心したいからそういう衝動に襲われるんだと思う。
 魔王もそういうのきっとあるよね、降りたら骨を折らない程度にギュッギュ抱きしめてあげようと肩口にある魔王の頭をポンポン叩いてみる。そりゃ魔王だって御長寿で私よりもうんと年上だけど――甘えたいときとか、あるよね。
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