krystallos

みけねこ

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33.遺跡の浄化―水の精霊―①

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 一応ネレウスに戻り荷物を下ろしたものの、懐に入れていた石を一度取り出してみる。精霊の本来の住処をこの石で浄化する、それはわかったが。そういえばその本来の住処とやらの場所を俺は知らない。セイクレッド湖とかサブレ砂漠じゃないとしたら一体どこだというのか。それを聞きに一度ミストラル国に戻ったほうがいいのか、それともまた別のところに聞きに行けばいいのか。
「もしかしてそれって遺跡のことじゃないかい?」
「遺跡?」
「そう。あたしがあちこちの海を調べている時に見つけたんだよ。各大陸から少し離れたところに遺跡があったんだ。しかも四箇所。数もピッタリじゃないかい?」
「地図で場所を差してもらえます?」
 クルエルダの言葉にフレイが部下に地図を持ってこさせ、テーブルの上にそれを広げる。俺たちにとってはすっかり見慣れたものだが、そういえばアミィにとっては初見のものだ。大陸がこうなっていることをそもそも知らなかったアミィは一体どこかなんなのか聞きたそうにウズウズしている。
 その質問は後にしてもらうとして、先にフレイに遺跡の場所を差してもらった。確かに各大陸に近い場所にそれは存在している。飛空艇セリカの上から見たことのあるやつもあった。
「取りあえず無難に水の精霊のところに行くか」
「そうだね。リヴィエール大陸の近くだし、ミストラル国があたしたちの邪魔をしてくるわけがないし」
「ということはこの大陸から少し西にある遺跡ですかね。アルディナ大陸にも近い気もしますが……まぁ船の姿を隠して行けば大丈夫でしょう」
「ねぇねぇ、ここがカイムと仲良くしている王様がいるとこ?」
 手を精一杯伸ばして指差した場所にフレイは苦笑をもらしながらも「違うよ」と正しいミストラル国の位置を教えている。っていうか一体俺がいつあの王と仲良くしたよと眉間に皺を寄せた。確かに色々と利便を図ってはもらったが。
 フレイは一通り部下に指示を出すと、あとは地図を凝視しているアミィに付き合ってあれはこれやと教えてやっていた。その間クルエルダは船の構造が気になるとか言い出して中に入ろうとしたが、コイツを放っておくと何をしでかすかわかったもんじゃない。フレイもそれをしっかりとわかっているため、自分の目の届く範囲にいろと強く念を押す。
 俺は取りあえずミストラル国の王には精霊の元の住処に向かうことは報告しておいたし、それが終わればやることもなく到着するまで時間を潰すしかない。この船はフレイの部下たちがしっかりと動かしているため手出しの必要はないし、航海も順調だ。
「セリカで行ったほうが早い気もするけどね」
 海を眺めていたら不意に横から聞こえてきた声に、アミィはどうしたと視線を走らせてみると地理の勉強を終えたアミィは船員から食い物をもらっていた。アイツ何かと食い物をもらうなと視線を海に戻す。
「セリカは王から身を隠すように言われてる」
「そうなのかい?」
「ああ。俺が乗っていたことを別の国に知られたら面倒だからな」
 そういえばアミィを助けにセリカから飛び出してから空賊の連中と一度も顔を合わせていなかったなと今更ながら思い出す。頭はミストラル国の王の言葉で何が起こったのか把握できているだろうが、他の連中はそうじゃない。
「……ラファーガのヤツらには迷惑をかけちまったな」
「……! フフッ」
「いってッ⁈」
 唐突に背中をバシンッと叩かれ一体なんだとフレイを睨みつけた。睨まれた当人はというと何が楽しいのかニコニコと笑っていやがる。
「大丈ー夫! 誰も迷惑なんて思ってなんかいないよ!」
「……ハッ。どうだか」
「バッカだねぇ、それ含めての義賊じゃないかい。あたしが同じ立場だったら別に気にしてなんかいないよ」
「それはお前だからだろ」
「ふふん、褒め言葉として受け取っておくよ」
 なんかこういう時のフレイと一緒にいると調子が狂う。隣でずっと無駄に明るい笑顔を向けるフレイに表情を歪め、視線を再び海に戻せば今度は足にドンと何かが当たる。今度は何だと視線を下に向ければピンクの髪が見えた。
「なんだアミィ。おやつタイムは終わったのか?」
「……フレイとばかりイチャイチャしないで」
「はぁ?」
「なっ! ア、アミィ? あたしは別にコイツとそんなことしてないからね⁈」
「おやおや楽しそうですねぇ。私も仲間に入れてもらっても?」
 次から次へと一体何なんだと更に眉間の皺を深くする。暇人かよと思ったが到着するまで全員が暇人だ。それぞれで時間潰しをしろよと言いたくなる。
 神父からいらぬ言葉を習っていたのであろうアミィと、そんなアミィの言葉になぜか困惑しているフレイ。そんなよくわからない空気の中クルエルダがやってきたもんだから二人とも一気に嫌そうな顔になる。が、それで怯むほど軟弱なメンタルをクルエルダも持っているわけじゃない。寧ろ図太いコイツは引くことなく笑顔でグッと更に距離を縮めてきた。
「やはり気になるんですよねぇ、貴方のこと。今はまったくの魔力ゼロですが元の姿に戻った時の身体の仕組みを知りたい。よくよく、それこそ隅から隅まで調べてみたいものです……」
 上から下まで舐め回すような視線に流石の俺も鳥肌が立った。アミィもクルエルダのその視線に気付き嫌そうな顔を隠すこともなく俺にしがみついてくる。
「近寄るんじゃないよ変態!」
「おや、変態は私だけではないのでは? 貴女だってそうでしょ?」
「は?」
 流石にこの言葉には全員の頭の中は「は?」だ。
「貴女だって宝探しに夢中になっているではありませんか。遺跡の居場所なんてそれこそ貴女の『好き』の執念で見つけたようなものでしょう? 宝などそういう類にまったく興味のない人間からしたら貴女も立派な『変態』ですよ」
「なッ⁈ ア、アンタと一緒にするんじゃないよ!」
「私も貴女も同じ変態です、お仲間じゃないですか」
「やめろーッ!」
「変態の議論をここですんな」
 ギャーギャーと騒ぎ始めた二人に――というかフレイが仲間扱いされたくなくて一方的に騒いでいるだけだが――短い息を吐き出す。正直そういう話は何かに熱中したことのない人間にはわからないことだ。
 このまま放置しておくかそれともフレイが拳を突き出す前に止めるべきか、さてどうしたものかと考えていると服の袖を引っ張られる。俺にこんなことするのは一人しかいない。今度は何だと視線を向けた。
「ねぇねぇカイム、二人とも仲良しだね」
「まぁ……そうだな。変態同士通ずるもんがあるんだろうな」
「だから変態じゃないってばーッ!」
「ははは、そう恥ずかしがらなくていいじゃないですか。寧ろ誇ることですよ」
「アンタは黙ってなッ‼」
「頭ーっ!」
 そんな変態同士が談義していると、見張り台から声が降ってきた。船員の一人がフレイに向かって双眼鏡を片手に手を大きく振っている。どうやら遺跡に近付いてきたようだ。
「あれは……遺跡の入り口か? 上から見るとただの島にか見えなかったな」
「そ、入り口しか見てなかったんだけどさ、階段を下った先は随分と奥行きがあるように見えたんだよね」
「ふむ、精霊の力も若干感じますしあれで間違いないでしょうね」
 小島に近付くギリギリのところまでカモフラージュを使い、降りる頃には一旦その魔術は解かれた。恐らく俺たちが中に入っている時は再び姿を隠すために使うんだろうが。
 順調に船から降りた俺たちは遺跡の入り口と思われる場所の前に立つ。確かに精霊の住処、と言われてもなんら不思議じゃない。入り口には特殊な紋章が刻まれており建築に使われている素材も古代の石のような物に見えた。その辺りは詳しくはないが、クルエルダ辺りがさっきからブツブツ言っているもんだからまぁ、あながち間違いじゃないだろう。
「それじゃ、中に入ってみるか」
 俺の言葉にそれぞれが頷き、すっかり朽ち果ててしまっている入り口に俺たちは足を踏み入れた。
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