krystallos

みけねこ

文字の大きさ
上 下
73 / 159

73.打開策

しおりを挟む
『サラマンダ~! もうしっかりしてよね~⁈』
『よかったです。少しは力が戻ったようですね』
 精霊たちもホッとした様子でサラマンダーの周りに集う。今はもうあんなちっさい炎でユラユラと動いていることはない。しっかりとした形に言葉、意識もちゃんとあるようだ。
「上手くいったようだな」
「そうだな」
 精霊たちの様子を見てホッと息を吐き出したウィルを横目に、サラマンダーとデフェール火山の様子をサッと確認する。今まで轟々とマグマが発生することはなかった火山が精霊の力が弱まったことによってここまでになった。ただ、この馬鹿みたいな熱気とマグマの力をサラマンダーは吸収することはできた。
 でも気になることはまだある。取りあえず駄弁っている精霊たちは無視してサラマンダーに視線を向けた。
「力は完璧に戻ったのか」
『そうだ……と、言いたいところだが、まだまだだ。ただ形を成せるまで取り戻すことができたまで』
『あんなちっちゃい炎になるぐらいどんだけ人間に力吸われ続けたんだよ』
 イグニート国ならとことん精霊の力を搾取するだろうよと内心毒づきつつ、今はそれは置いておくとして口を開いたサラマンダーに視線を向ける。
『デフェール火山がこのようになったのは制御していた俺の力が弱まったせいだ』
 精霊の力が弱まったせいで各地の穢れを浄化できなくなり、異変が起こるようになった。今までまんべんなく行き渡っていた力が偏ってしまったことによって、異変が起きるようになったのだろうとサラマンダーは続ける。
 そこでとあることにはたと気付く。大地を支えていた力のバランスが崩れてしまって今に至るわけだが、だがその極端に力が倍増したこのデフェール火山によってサラマンダーはちっさい炎から人語を喋れるぐらいにはなった。ということは、だ。
「他の精霊たちも同じように力を取り戻すことができるんじゃねぇのか?」
『え……⁈』
「……そうか。例えば、アルディナ大陸のサブレ砂漠……!」
 身近なものだったためかウィルはすぐに思い立ったんだろう、ハッと顔を上げると釣られるように他のヤツらも目を丸める。俺も真っ先に頭に浮かんだのがサブレ砂漠だった。
『なるほど、制御を失って力が暴走している大地を逆に利用するというわけか。サブレ砂漠という身近なものがあったというのにすっかり失念しておった』
『そしたらノームはすぐに力を取り戻すことはできるってこと⁈』
『だが完璧というわけじゃない。俺たちの力はあまりにも多く失われてしまっている』
『信仰の力が弱まっていますからね……』
 大地は精霊がいないと維持できないっていうのに、その精霊は人間の信仰心がなけりゃ力を維持できない。もっと万能だったらまだ簡単な話だったのになと思わずにはいられないが、女神の姿が消えてしまったのも痛手なんだろう。
 ともあれ、次の行き先は決まった。他のウンディーネとシルフの力が暴走している場所はわからねぇが、ノームはすぐだ。
「またバプティスタ国に戻んなきゃならないってわけだね。んで、どうするんだ? あたしの船は置いてきてるよ」
 イグニート国に知られることなく拝借した道具でここに飛んできたもんだから、もちろんフレイの船はない。ということは、移動手段は一つしかない。
 短く息を吐きだし、取りあえず精霊たちにはアミィたちの腕に着いているブレスレットに戻ってもらう。俺のは一度引き千切ったままで新たに着けていないからな。
「んじゃサッサとバプティスタ国に戻るか」
「えっと、カイムさん。もしかして……」
「君の負担が大きいんじゃないのか?」
 短く息を吐き出した俺にティエラとウィルが心配げに見てくる。もちろんアミィたちもだがそんな中で気持ち悪いほどキラキラと輝かせている目は、見なかったことにしよう。
 お前も手伝えよと言いたいところだが、この人数のあの距離。手伝わせたところでバプティスタ国に辿り着いた瞬間寝込むのはエルダだ。目的が決まっているのに一人が寝込んだことによっての足止めは痛い。
 後ろ髪をガシガシと掻き、顔を上げる。さっさと移動したあとはさっさと術を使わないとバプティスタ国で騒ぎになる。恐らく俺たちが国にいる間は姿は見せずともずっと監視が続いていたはずだ。道具を使ってデフェール火山に向かうこともウィルが報告していただろう。だが『赤』が突然転移魔術を使って国に入ってくると城の人間たちは警戒する。これ以上の面倒事はごめんだ。
「んじゃ移動するぞ」
 術式を展開し、それぞれの姿がデフェール火山から消える。
「この感覚は慣れないねぇ」
 次に目を開けた時は泊まっていた宿屋の一室だった。転移魔術に慣れているヤツはそうはいないし、術を使えないヤツでも強制的に精霊の力を当てられる。そのせいで身体に負担がかかるヤツもいるんだろう。
「デフェール火山に向かうまでにいた部屋か。僕は早速国に報告してくるよ」
「アミィちゃん、大丈夫でしたか?」
「うん! でももう暑いとこは嫌かも……」
「アミィは雪国出身だからねぇ。フェルド大陸はつらいかもね」
「ああ……もう術を使ってしまうんですか?」
「気持ち悪い目で見てくんな」
 各々が自分の喋りたいことを喋ってるせいでゴチャゴチャしている。ともあれウィルが報告をし終えないと俺たちも動けない。そう時間はかからないだろうってことでそれぞれが待機している状態にはなる。
 青髪が黒髪になったのを確認しつつ少し待っていると、さっき扉の向こうに消えていったウィルが戻ってきた。サラマンダーの力を多少なりとも取り戻すことに成功したことと、今度はサブレ砂漠でノームの力を取り戻すことができるかもしれない。今から向かうっていうことをしっかりと伝えてきたそうだ。
「でも火山、アミィたちがいなるなるまで相変わらず暑そうだったね」
「まだ制御するほど力が戻ってねぇってことだろ」
 こりゃ先が長ぇぞとひとりごちる。もしあのまま火山の力をサラマンダーが吸収して抑えることができれば一石二鳥、と考えていたがそんな上手くできてはいない。
 だが精霊の力が戻れば各地の異変も少しずつ収まってくるかもしれない。精霊だけじゃなくイグニート国の動きや、まだ傷が癒えてないのかヤツが出現したという話を聞かないことなど他にも気にしなきゃならねぇことは色々とあるが。できる範囲のことを徐々に消化していくしかない。
「あ、私思ったんですが」
「なんだ」
 何か言い出したエルダにその場にいた全員がどうせ碌でもないことだろと顔を顰める。当人はもちろんそんな俺たちの表情を気にするわけがない。
「このままサブレ砂漠までまた転移魔術を使えばいいのでは? 貴方の術は前に比べて随分と解術しやすくなったようですし」
 その言葉に盛大に表情を歪めたのがフレイ、ウィルとティエラもあまりいい顔をしていない。
「なんで歩ける場所にいちいち転移魔術使うんだい」
「時間短縮でいいではありませんか。精霊たちもいち早く力を取り戻したいところでしょうし」
「そう何度もあの感覚味わわされると、あたし吐くよ? アンタの服に思いっきり吐くよ? それでもいいのかい?」
「え?」
「それにあれは魔力の消費が激しいんだろう? カイムが『赤』だとしても、彼の負担が増えるじゃないか」
「今後のことを思うと、なるべく温存していたほうがいいのでは……サブレ砂漠でも何が起こるかわかりませんし」
「あの砂嵐はアミィたちが前に行った時よりも酷くなってるよ? 前も大変だったのに」
 次々にそう言葉にされて、珍しくエルダがたじろいている。確かに俺が転移魔術を使ったほうがあっという間だし、ウィルたちが思うほど負担にもなっていない。それだけ『赤』の魔力量は他に比べてずば抜けている。
 ただフレイが言ったように、あれは魔術を使った人間よりも魔力がない人間が強制的に転移させられるほうが負担がでかい。わかりやすく言うと船酔いをするウィル状態。続けるとフレイはきっと酔う。となると、さっき言っていた言葉は比喩とかじゃなくてガチだ。
「歩きだな」
「……ハァ」
 明らかに肩を落とし重々しく息を吐き出したエルダに周りは肩を竦めた。別に俺たちは歩きでも構わない。何かと行動を共にしていつの間にかそれなりの時間を共有していたアミィやティエラもしっかりと体力がついていた。この中で唯一長々と歩きたくないと体力なしでごねるのは、エルダ一人だ。
「安心しな、アンタが疲れたらあたしがおぶってやるよ」
「……私の自尊心を傷付けに来ようとするとは、中々ですね」
「おんぶなんて微笑ましくていいじゃありませんか、クルエルダさん」
 また喧嘩するのかって一瞬嫌な顔をした俺たちだが、穏やかで慈悲深い微笑みを浮かべたティエラにそう言われちゃ流石のエルダも口を閉じた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私たちハピエンを目指します!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:32

最愛の人がいるのでさようなら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,159pt お気に入り:662

そんなの聞いていませんが

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:25

婚約破棄を望みます

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:172

悪役令嬢は、友の多幸を望むのか

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:37

廻る魔女

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:4

継母の心得

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:69,638pt お気に入り:23,372

処理中です...