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当事者、モブ
モブの証言「ピンチには王子を」
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「さっきのすごかったねぇ」
「だな~」
教室を移動している時すっげぇ怒鳴り声が聞こえて、ジャックとオリバーと目を合わせてその声がしたほうに視線を向けた。どうやら反省文を書かされた生徒がその反省文を忘れたプラス、逃走してそして先生に捕まったらしい。一般学部じゃたまに見る光景だった。
「マジで先生怖かったな~」
「ね~」
「……そういえば、二人が怒ったところを見たことがないな」
オリバーがそんなこと言い出して、今度はジャックとだけ目を合わせる。
「オリバーは怒ったらちょー怖ぇけどな」
「目が釣り上がるよね」
「それは何度教えてもまったく理解してくれないからだろ!」
「まぁまぁ」
「まぁまぁ。いつも感謝してるよ、オリバー。お菓子食べる?」
「もので釣るんじゃない! まったく」
ご覧の通り、オリバーはよくプンプン怒る。ただオリバーが怒る時は勉強を教えてる時に俺たちの返事が「ふぁ?」ってなっている時で普段そんなプンプン怒らない。
「僕ねぇ、怒るの得意じゃないんだ。怒ってたらなんだか涙が出てきちゃって。どんどん悲しくなってくるんだよ」
「ジャックっぽいな~」
「それだったらお菓子食べて幸せな気分になってるほうがいいかな」
「ジャックらしい」
「でもアシアもあんまり怒ることってないよね?」
ジャックの言葉にオリバーも「そうだな」って頷いていた。確かに二人の言う通り二人の前で怒鳴ったこと一度もなかったような気がする。
「俺も怒るってのはなー。だってすっげぇ疲れるじゃん」
怒鳴るのにもまず腹の力を入れなきゃいけないわけで。正直疲れると思う。あと俺の場合あんまり怒る状況にならない。
「アシエはそうでも親父さんから仕事中とか怒鳴られたり注意されたりするんじゃないのか?」
「まぁ父ちゃんからの注意は職人として必要なことだし、俺としたら怒られてるって感覚はねぇのよ。オリバーもそうじゃねぇの?」
「うちの父さんはアイデアを絞り出すのに忙しくて俺に注意してくることってあまりないんだ」
「僕のところは二人とも普通だからな~。いつもみんなで美味しいもの食べてにこにこしてる」
「平和だな~」
どうやら俺たち三人は学園でよっぽどのことがない限りあそこまで怒鳴られるってことはなさそうだ。平和で何よりだな~って三人でにこにこする。
「アシエ・オーディ!」
「うぇえ⁈」
「言ったそばから」
なんでか俺、怒鳴り声で呼び止められたんだけど。さっき平和だな~って言ったばっかりなんだけど。
別に怒られる覚えなんてこれっぽっちもねぇんだけどなぁ。と思いつつ、一応声のするほうを振り向いてみたらだ。
何やら美人が腕組んで仁王立ちで立ってる。
「……ここは一般学部校舎だぞ。貴族はどこでも立ち入り可なのか」
「さぁ?」
「アシエ、あの人に何かしたの?」
「あ~」
何かしたといえばしたような、されたような。そういえば向こうが前屈みで走り去ってからこうして顔を見るのは初めてかもしれない。
「面を貸せ」
貴族らしからぬ物言いである。流石に突然貴族側の生徒に呼び止められたもんだからジャックもオリバーも心配そうな顔をしてる。
「大丈夫? アシエ……」
「大丈夫大丈夫。いざという時は俺のほうが力あるし背負投するわ」
「そっちのほうが後々大丈夫じゃないような気がするが」
「ちょっと行ってくるわ」
明らかに呼んだにもかかわらずすぐ駆け寄ってこない俺にイライラしているようだし。二人に手に持っていた教材を持ってもらってすぐに美人のところに向かう。
「場所を移す」
俺の返事を待たずにスタスタ歩いていく美人はせっかちさんなんだろうか。まだ心配そうに見てるジャックとオリバーに手を振ってそのまま美人の後ろをついていった。
辿り着いた先は屋内運動場だ。ここは時間はずらされているけど貴族も庶民も使える共有スペースだ。美人はそのまま近くにある倉庫のほうに入っていく。
如何にも他の誰かに聞かれたくありません~みたいな行動してるんだけど。っていうか王子に見つかったら美人のほうはピンチなんじゃ。あ、それもあってわざわざ隠れることができそうな場所かとピンと閃いて納得した。
同じように倉庫に入ってったら美人はようやく振り返ってきた。何やら真剣なお顔だ。
「お前に聞きたいことがある」
「はぁ」
「くっ……相変わらず間抜けな返事だ……! ……まぁ、いい」
腕を引っ張られて立ち位置がクルッと変わる。気付けば壁が俺の背中についていた。
「聞きたいことってなんですか?」
「そ、それは……その……あれだ……あの、ど」
「ど?」
「どうやったら、あの顔になるんだ!」
「どの顔?」
美人がどんな顔をしてほしいのかまったくわからん。あの顔とはどの顔だと疑問に思うのが普通だと思うんだけど。
ものすっごく言いにくそうだったけど絞り出して言いました、っていう様子の美人にちょっと悪いことしちゃったかもしれない。でもどの顔かわかんないし。俺に聞かれて美人は顔を真っ赤にしてプルプル震えだすし。
「ど、どの顔だって⁈ それはあれだっ! あ、あの時、お前と王子が、その、あの、キ……ス……した時だっ」
「ああ! あの時の手のひら大丈夫でした?」
「え? あ、ああ、言われた通り冷やしたら腫れも痛みも引いた……じゃなくて!」
すっごい痛い痛い言ってべしょべしょ泣いてたから腫れも痛みも引いてよかったなぁってにっこりする。そして尚更真っ赤になる美人。あの時のこと恥ずかしかったのかもしれない。
「どうやったらあの顔になるんだっ?」
「どうやったらって言われてもー」
「あ、あれか? 同じことをすればあの顔になるのかっ? お、お前にキスをすればっ!」
「えっ⁈ あなたと俺とですか⁈ 流石にそれは駄目だと思う!」
「なぜだ! 王子とはしていただろう⁈」
「王子だからしていたんでしょーが!」
気付けば思いっきり肩を押されて壁に押し付けられてる。美人のほうが少し背が高いから上からの圧が強い。しかし美人はどの角度から見ても美人だなと無駄に感心してしまう。
って感心している場合じゃない。顔真っ赤にしてプルプルしながらも美人がどんどん顔を俺のほうに近付けてくる。
「ちょ、ちょっとだけ。先っぽだけ……」
「その言い方だと別の意味合いになってくるぅ!」
「別に、減るものではないだろう……?」
「いいから落ち着いて!」
マズいこのままだと本当に背負投。落ち着かせるためにどーどー言ってもまるでのぼせているみたいに見つめてくる。美人はどんな表情をしても美人だ。
とか言ってる場合じゃなくて。迫ってくる美人の肩を掴んでグググと押しやってみるも、意外にも押しのけられないし寧ろ俺の制服掴んで離されないようにしている。背負投待ったなし。
でもこのまま力任せにしたら美人の骨折っちゃうぅ~! 責任問われても多分庶民の俺の言い分は受け入れられないかもしれない!
「こ、ここを擦ればいいのか……?」
と美人が手を伸ばそうとしている先はベルトの下だ。あの時王子がグリグリするから無駄に美人が知識得ちゃってるじゃねーの!
ごめん美人! そして後々問題になるかもしれないから父ちゃん母ちゃんそしてシューさんごめん! 俺、今から背負投する!
多方面にまず心の中で謝罪して、そして美人の肩を掴んでいた手を襟元と袖のほうに移動させた。
「うわぁ⁈」
「何をしているんだッ!」
悲鳴を上げた美人は後ろに思いっきり引っ張られてびっくりしたのか、目が丸くなってる。その更に後ろには如何にも全力で走ってきましたと言わんばかりに息切れして汗もちょっと掻いてる王子の姿。
よかった、王子が思いっきり美人の首根っこ掴んで引っ張ってくれなかったら背負投は実行されているところだった。
「危惧していたが、その通りだったな……!」
何を危惧? って首を傾げたけど王子はそんな俺の反応を見て苦虫を噛み潰したような顔をした。ちなみに美人は未だに猫みたいに首根っこ掴まれている。顔は真っ青。
「牽制するためにと思っての行動だったが……逆効果だったようだ」
「お、王子……」
「え? 何? なんの話?」
渋い顔をしてる王子にすっかり弱腰の美人。いや確かに王子に凄まれれば誰だって圧に押されるかもしれないけど、それにしても。しかも二人だけ何やら通じ合ってるし二人の顔をキョロキョロ交互に見ては首を傾げるしかない。
「一対一でアシエと会うのはやめてもらおうか」
「し、しかし王子……申し訳ございません。せめてもう一度拝見したく……」
「却下だ。誰にでも見せるものじゃない」
「あっ……その表情も、大変素晴らしく……」
「……あ! わかった!」
王子が目をまん丸くしてバッと俺のほうを見てきたけど。俺はピンと閃いた。
「王子推しが止まんねぇんだな⁈」
「は?」
「え?」
「ほら、美人は王子のことが好きだったわけじゃん。んで、今王子の怒った顔を見てときめいているわけよ。多分『色んな表情見たい~』とかそんな感じの」
「……」
「……間違ってはないけど」
「でしょ⁈」
「いやだがな、今回は……まぁいい。気付いてないのならそれでいい」
「お、王子、そこをどうにか」
「どうにかせん。アシエはそのままでいい」
「俺にわかるように説明してくれる?」
いい閃きだと思ったけどどうも掠っただけっぽい。ならどういうことだよってふと美人を押しのけて俺の傍に来た王子を無意識にマジマジと見てしまう。
「どうした? アシエ。間に合ったと思ったが何かされたか?」
「いや大丈夫なんだけどさ。王子って怒った顔も整ってんだなぁってしみじみ思っただけ」
「っ……!」
「うっ」
王子はサッと赤面して、なぜか美人は胸を押さえている。ついさっきジャックとオリバーで怒った時の話をしていたもんだから、つい王子の顔を見てしまった。
いやそれよりも、もしかして美人は王子の色んな顔を見たい。だから俺とチューした時の顔ももう一度見たい。そういうことだろうか。
「今ここで王子とチューすればいいってこと?」
「っ! ぜひぜひ!」
「ぜひじゃないお前の目の前ではやらない。アシエ、そういうのは二人っきりの時だけだ。そうじゃないと腰が砕けるところを見られるということになるんだぞ」
「……確かに!」
「くっ……!」
今度は何やら悔しそうな顔。さっきからのぼせたような顔になったり真っ青になったり悔しそうになったり、美人は大変だ。しかも美人だからどの表情をしてもまったく崩れないという。
王子の怒った顔も確かにおっかないけど、まぁでも顔がいいからやっぱカッコいいんだよなぁってジッと見ていると、ちょこっとだけ赤かった顔がじわじわと更に赤くなっていくのが見えた。ちょっとキュンときた。
「だな~」
教室を移動している時すっげぇ怒鳴り声が聞こえて、ジャックとオリバーと目を合わせてその声がしたほうに視線を向けた。どうやら反省文を書かされた生徒がその反省文を忘れたプラス、逃走してそして先生に捕まったらしい。一般学部じゃたまに見る光景だった。
「マジで先生怖かったな~」
「ね~」
「……そういえば、二人が怒ったところを見たことがないな」
オリバーがそんなこと言い出して、今度はジャックとだけ目を合わせる。
「オリバーは怒ったらちょー怖ぇけどな」
「目が釣り上がるよね」
「それは何度教えてもまったく理解してくれないからだろ!」
「まぁまぁ」
「まぁまぁ。いつも感謝してるよ、オリバー。お菓子食べる?」
「もので釣るんじゃない! まったく」
ご覧の通り、オリバーはよくプンプン怒る。ただオリバーが怒る時は勉強を教えてる時に俺たちの返事が「ふぁ?」ってなっている時で普段そんなプンプン怒らない。
「僕ねぇ、怒るの得意じゃないんだ。怒ってたらなんだか涙が出てきちゃって。どんどん悲しくなってくるんだよ」
「ジャックっぽいな~」
「それだったらお菓子食べて幸せな気分になってるほうがいいかな」
「ジャックらしい」
「でもアシアもあんまり怒ることってないよね?」
ジャックの言葉にオリバーも「そうだな」って頷いていた。確かに二人の言う通り二人の前で怒鳴ったこと一度もなかったような気がする。
「俺も怒るってのはなー。だってすっげぇ疲れるじゃん」
怒鳴るのにもまず腹の力を入れなきゃいけないわけで。正直疲れると思う。あと俺の場合あんまり怒る状況にならない。
「アシエはそうでも親父さんから仕事中とか怒鳴られたり注意されたりするんじゃないのか?」
「まぁ父ちゃんからの注意は職人として必要なことだし、俺としたら怒られてるって感覚はねぇのよ。オリバーもそうじゃねぇの?」
「うちの父さんはアイデアを絞り出すのに忙しくて俺に注意してくることってあまりないんだ」
「僕のところは二人とも普通だからな~。いつもみんなで美味しいもの食べてにこにこしてる」
「平和だな~」
どうやら俺たち三人は学園でよっぽどのことがない限りあそこまで怒鳴られるってことはなさそうだ。平和で何よりだな~って三人でにこにこする。
「アシエ・オーディ!」
「うぇえ⁈」
「言ったそばから」
なんでか俺、怒鳴り声で呼び止められたんだけど。さっき平和だな~って言ったばっかりなんだけど。
別に怒られる覚えなんてこれっぽっちもねぇんだけどなぁ。と思いつつ、一応声のするほうを振り向いてみたらだ。
何やら美人が腕組んで仁王立ちで立ってる。
「……ここは一般学部校舎だぞ。貴族はどこでも立ち入り可なのか」
「さぁ?」
「アシエ、あの人に何かしたの?」
「あ~」
何かしたといえばしたような、されたような。そういえば向こうが前屈みで走り去ってからこうして顔を見るのは初めてかもしれない。
「面を貸せ」
貴族らしからぬ物言いである。流石に突然貴族側の生徒に呼び止められたもんだからジャックもオリバーも心配そうな顔をしてる。
「大丈夫? アシエ……」
「大丈夫大丈夫。いざという時は俺のほうが力あるし背負投するわ」
「そっちのほうが後々大丈夫じゃないような気がするが」
「ちょっと行ってくるわ」
明らかに呼んだにもかかわらずすぐ駆け寄ってこない俺にイライラしているようだし。二人に手に持っていた教材を持ってもらってすぐに美人のところに向かう。
「場所を移す」
俺の返事を待たずにスタスタ歩いていく美人はせっかちさんなんだろうか。まだ心配そうに見てるジャックとオリバーに手を振ってそのまま美人の後ろをついていった。
辿り着いた先は屋内運動場だ。ここは時間はずらされているけど貴族も庶民も使える共有スペースだ。美人はそのまま近くにある倉庫のほうに入っていく。
如何にも他の誰かに聞かれたくありません~みたいな行動してるんだけど。っていうか王子に見つかったら美人のほうはピンチなんじゃ。あ、それもあってわざわざ隠れることができそうな場所かとピンと閃いて納得した。
同じように倉庫に入ってったら美人はようやく振り返ってきた。何やら真剣なお顔だ。
「お前に聞きたいことがある」
「はぁ」
「くっ……相変わらず間抜けな返事だ……! ……まぁ、いい」
腕を引っ張られて立ち位置がクルッと変わる。気付けば壁が俺の背中についていた。
「聞きたいことってなんですか?」
「そ、それは……その……あれだ……あの、ど」
「ど?」
「どうやったら、あの顔になるんだ!」
「どの顔?」
美人がどんな顔をしてほしいのかまったくわからん。あの顔とはどの顔だと疑問に思うのが普通だと思うんだけど。
ものすっごく言いにくそうだったけど絞り出して言いました、っていう様子の美人にちょっと悪いことしちゃったかもしれない。でもどの顔かわかんないし。俺に聞かれて美人は顔を真っ赤にしてプルプル震えだすし。
「ど、どの顔だって⁈ それはあれだっ! あ、あの時、お前と王子が、その、あの、キ……ス……した時だっ」
「ああ! あの時の手のひら大丈夫でした?」
「え? あ、ああ、言われた通り冷やしたら腫れも痛みも引いた……じゃなくて!」
すっごい痛い痛い言ってべしょべしょ泣いてたから腫れも痛みも引いてよかったなぁってにっこりする。そして尚更真っ赤になる美人。あの時のこと恥ずかしかったのかもしれない。
「どうやったらあの顔になるんだっ?」
「どうやったらって言われてもー」
「あ、あれか? 同じことをすればあの顔になるのかっ? お、お前にキスをすればっ!」
「えっ⁈ あなたと俺とですか⁈ 流石にそれは駄目だと思う!」
「なぜだ! 王子とはしていただろう⁈」
「王子だからしていたんでしょーが!」
気付けば思いっきり肩を押されて壁に押し付けられてる。美人のほうが少し背が高いから上からの圧が強い。しかし美人はどの角度から見ても美人だなと無駄に感心してしまう。
って感心している場合じゃない。顔真っ赤にしてプルプルしながらも美人がどんどん顔を俺のほうに近付けてくる。
「ちょ、ちょっとだけ。先っぽだけ……」
「その言い方だと別の意味合いになってくるぅ!」
「別に、減るものではないだろう……?」
「いいから落ち着いて!」
マズいこのままだと本当に背負投。落ち着かせるためにどーどー言ってもまるでのぼせているみたいに見つめてくる。美人はどんな表情をしても美人だ。
とか言ってる場合じゃなくて。迫ってくる美人の肩を掴んでグググと押しやってみるも、意外にも押しのけられないし寧ろ俺の制服掴んで離されないようにしている。背負投待ったなし。
でもこのまま力任せにしたら美人の骨折っちゃうぅ~! 責任問われても多分庶民の俺の言い分は受け入れられないかもしれない!
「こ、ここを擦ればいいのか……?」
と美人が手を伸ばそうとしている先はベルトの下だ。あの時王子がグリグリするから無駄に美人が知識得ちゃってるじゃねーの!
ごめん美人! そして後々問題になるかもしれないから父ちゃん母ちゃんそしてシューさんごめん! 俺、今から背負投する!
多方面にまず心の中で謝罪して、そして美人の肩を掴んでいた手を襟元と袖のほうに移動させた。
「うわぁ⁈」
「何をしているんだッ!」
悲鳴を上げた美人は後ろに思いっきり引っ張られてびっくりしたのか、目が丸くなってる。その更に後ろには如何にも全力で走ってきましたと言わんばかりに息切れして汗もちょっと掻いてる王子の姿。
よかった、王子が思いっきり美人の首根っこ掴んで引っ張ってくれなかったら背負投は実行されているところだった。
「危惧していたが、その通りだったな……!」
何を危惧? って首を傾げたけど王子はそんな俺の反応を見て苦虫を噛み潰したような顔をした。ちなみに美人は未だに猫みたいに首根っこ掴まれている。顔は真っ青。
「牽制するためにと思っての行動だったが……逆効果だったようだ」
「お、王子……」
「え? 何? なんの話?」
渋い顔をしてる王子にすっかり弱腰の美人。いや確かに王子に凄まれれば誰だって圧に押されるかもしれないけど、それにしても。しかも二人だけ何やら通じ合ってるし二人の顔をキョロキョロ交互に見ては首を傾げるしかない。
「一対一でアシエと会うのはやめてもらおうか」
「し、しかし王子……申し訳ございません。せめてもう一度拝見したく……」
「却下だ。誰にでも見せるものじゃない」
「あっ……その表情も、大変素晴らしく……」
「……あ! わかった!」
王子が目をまん丸くしてバッと俺のほうを見てきたけど。俺はピンと閃いた。
「王子推しが止まんねぇんだな⁈」
「は?」
「え?」
「ほら、美人は王子のことが好きだったわけじゃん。んで、今王子の怒った顔を見てときめいているわけよ。多分『色んな表情見たい~』とかそんな感じの」
「……」
「……間違ってはないけど」
「でしょ⁈」
「いやだがな、今回は……まぁいい。気付いてないのならそれでいい」
「お、王子、そこをどうにか」
「どうにかせん。アシエはそのままでいい」
「俺にわかるように説明してくれる?」
いい閃きだと思ったけどどうも掠っただけっぽい。ならどういうことだよってふと美人を押しのけて俺の傍に来た王子を無意識にマジマジと見てしまう。
「どうした? アシエ。間に合ったと思ったが何かされたか?」
「いや大丈夫なんだけどさ。王子って怒った顔も整ってんだなぁってしみじみ思っただけ」
「っ……!」
「うっ」
王子はサッと赤面して、なぜか美人は胸を押さえている。ついさっきジャックとオリバーで怒った時の話をしていたもんだから、つい王子の顔を見てしまった。
いやそれよりも、もしかして美人は王子の色んな顔を見たい。だから俺とチューした時の顔ももう一度見たい。そういうことだろうか。
「今ここで王子とチューすればいいってこと?」
「っ! ぜひぜひ!」
「ぜひじゃないお前の目の前ではやらない。アシエ、そういうのは二人っきりの時だけだ。そうじゃないと腰が砕けるところを見られるということになるんだぞ」
「……確かに!」
「くっ……!」
今度は何やら悔しそうな顔。さっきからのぼせたような顔になったり真っ青になったり悔しそうになったり、美人は大変だ。しかも美人だからどの表情をしてもまったく崩れないという。
王子の怒った顔も確かにおっかないけど、まぁでも顔がいいからやっぱカッコいいんだよなぁってジッと見ていると、ちょこっとだけ赤かった顔がじわじわと更に赤くなっていくのが見えた。ちょっとキュンときた。
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