目撃者、モブ

みけねこ

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目撃者、生徒

女子生徒の証言

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「ちょっとー! 買い物行くのなら調味料もおねがーい!」
「え~? やだめんどくさーい!」
「休みの日ダラダラするだけでしょ⁈ シャキシャキしなさい!」
「もう~」
 私の実家は学園の近くにあるパン屋だ。すぐに帰ってこれる距離だから帰ってきて家の手伝いしなさいって言われて渋々帰ってきたら、ゆっくりすることも許されずにパシられてる。
 私だって学園で頑張ってるのよ? 将来お母さんたちのお店の手伝いをしたいから勉強だってちゃんとしているし。だから家に帰ってきた時ぐらいちょっとゆっくりさせてほしかったのに。
 でも母は強しなので。父はまぁまぁって言ってくれるけどいつも母に押し負けているので。逆らうと後々が大変なので。渋々自分の買い物ついでに頼まれた調味料も買いに行くことにした。
「んも~! なんでよりにもよって重いものなの⁈」
 自分の買い物はちょっとだったのに。頼まれた調味料が重かった。プンプンしながら歩き慣れている道を歩く。スリがまったく出ないってわけじゃないけど、いざという時はぶん回せば鈍器になるこの調味料をぶちかませばいい。
「近道しちゃお~っと」
 普段裏道は流石に女子一人だと危ないから、あんまり行かないようにって言われてるけど。でも今のお昼の時間帯は本当に人がいないし、いざとなったら急いで表に出て「たぁすけてぇーッ!」って叫べばなんとかなる。
 ということで、この重い荷物からさっさと開放されるべく裏道を通ることにする。まだお昼だから裏路地だからといってそこまでの薄暗さもない。迷うことなく近道を突き進んでいく。
「……?」
 ところだが、何やら物音が聞こえる。あと僅かに声も。いやそういうのまだ遭遇したことはないけどあるといえばあると聞いてはいた。まさか自分が遭遇するとは。
 そういうの家でやんなよ~って思いながら、一応気を遣ってなるべく静かに移動する。
「ん、んっ……」
 マズいどうやら私が普段通っている道と近いみたい。ごめんなさい盗み見するわけじゃないんです近くを通り過ぎるだけなんです。
「っ⁈」
 とある道を横切ろうとして、慌てて壁際に隠れた。そこからこっそりと覗き込む。
 い、いやいや。いやいやいやいや。どことな~く、なんとな~く、聞き覚えがあるようなないような、そんな声だったな~とは思った。思ったよ?
 でもさっきパッと見た感じ、ものすっごく見覚えのある顔で慌てて私は隠れる羽目になったのよ。いや、だって。声を必死に堪えているほう。
 どう見ても同じクラスのアシエ君じゃん……!
 え、じゃあなになになになに。このえっちな声出してるのアシエ君ってことにならない? え、嘘。アシエ君には悪いけど正直アシエ君って本っ当にどこにでもある顔。綺麗でもなくまぁブッサイクってわけでもないけど。でも大らかだし性格が悪いわけじゃないから気軽に話しかけることができる。
 そんなザ・普通のアシエ君が、こんなエッチな声出してるってこと?
 一旦頭を整理するために隠れたけど、もう一度そろそろと顔を出してみる。もしかしたら、見間違いかもしれないし。
「……ッ‼」
 見間違いじゃなかった。間違いなくアシエ君だ。アシエ君が壁に手をつけて、後ろから誰かに覆い被さられている。私の後ろから光が差し込んできてるから正直顔もよく見える。
「ぁっ……んっ……」
 火照った顔は気持ちよさそうにしてる。必死に声を堪えようとしてるけど、後ろの人が容赦なく動いていた。っていうか後ろの人誰。絶対男の人だけど一体誰。
 帽子被ってるしアシエ君の髪に顔を埋めてるから顔がよく見えない。もうちょっとなんだけどな~ってできる範囲で見える場所に移動しようと思ったら、後ろの人が少しだけ顔を上げた。
「~ッ⁈」
 声を上げなかったことを褒めてほしい。必死に自分の手で口を塞いだ私の瞬発力を褒めてほしい。
 庶民の服を着て、髪も染めてるけど。でもあの顔見間違うわけがない。去年の交流会でとんでもないイベントに鉢合わせしたことを私はまだ鮮明に覚えている。だってあんな大勢の前でフラれるとは誰も思わないじゃん?
 あの時大注目されていた王子が今アシエ君を後ろから抱きしめて、あれなのよ。腰、振ってんのよ。
「外だと随分スリルがあるな」
「んっ、ふっ……で、も、誰か……ぁっ、通ったらっ」
「この時間帯あまり人が通らないんだろう?」
「んあっ! あっ」
「でも声は抑えていたほうがよさそうだな」
 そう言ってアシエ君の口に手を当てて、そのまま覆い隠すのかと思いきや指を突っ込んで舌で遊んでる。
 いや私という人が通ろうとしていたから。アシエ君は声抑えようとしてるのにその声に興奮してまた強く突き上げてるの王子だから。
 服着たままっていうシチュエーションがまたえっちっていうか。見たらいけないってわかってるんだけど。私の目はしっかりと凝視していた。
「ふ、ぁ、あっ……うぇるすっ……んんっんっ」
「はっ……気持ちいいか? アシエ……」
「ぁっ……ぅ、んっ……きもち、いいっ……」
 王子がそんなに愛しそうにアシエ君の名前を呼ぶなんて知らなかったし、アシエ君がそんなえっちな顔と声をするなんて思いもよらなかった。
 っていうか二人がそういう関係だってことまったく知らなかったし気付かなかった。そもそも一体どこで交流したんだろう。私たち庶民は一方的に偉い人のことを知ってるけど、でも向こうが多くいる庶民のことをわざわざ覚えているわけでもなさそうだし。
 とか思ってる間にぐちゅぐちゅやらぱちゅぱちゅやら音がどんどん激しくなっていってる。
「あっぁっ、うぇるすっ、いく……いく、いくっ」
「ああっ……イけ、アシエっ……!」
「はぁっ、あっん、んんぅっ!」
 ビクンッてアシエ君の身体が大きく仰け反って、その後もビクビクと動いている。イく前にアシエ君が王子に顔を上げたから王子はすかさずキスをして、アシエ君のえっちな声が外に漏れることはなかった。
 ……もしかしてアシエ君、ナカでイッたの? 普段普通の男子なのに、イく瞬間すっごく可愛かったんだけど。
 男子でも女子みたいに気持ちよくなるって聞いたことはあるけど、それが本当のことだってことをこの目で確認してしまった。
 アシエ君の痙攣が収まるのを待って、息を詰めていた王子がゆっくりと腰を引いていた。服で隠れていて二人の大きさは私には見えない。あ、いや、別に頑張って見ようとしてるわけじゃないんだけど。
「アシエ……」
「ん……」
 お互い見つめ合って、ゆっくり顔を近付けようとしているところ慌てて私は目を逸した。流石に見すぎ聞きすぎ。これ以上第三者で他人である私が見ていいもんじゃない。
 それに物音立てないように同じ体勢で見ていたものだから、ぶん回せば鈍器になるほど重い調味料が入っている袋が私の腕にめり込んでいた。痛い。今更ながら痛い。
 細心の注意を払って物音一つ立てず、ゆっくりとその場を通り過ぎる。熱っぽい、でも楽しそうな会話をしている二人の声が聞こえてきたけど、それ以上盗み聞きすることはなかった。

 昨日のあれは夢だった?
 あの日慌てて帰った私は急いで鈍器の調味料をお母さんに渡して、ダルかったけどお店の手伝いをしつつ半ば放心していた。確かにこの目で見てこの耳で聞いたけど、現実が飲み込めなかったというか無意識に深く考えないようにしてたというか。
 だって、とってもえっちでしたし。それを同じクラスの男の子で見るとは思わなかったし。
 あの雰囲気からしてきっと二人は付き合ってる。でもきっと学園内で二人が付き合ってる人を知っている人いないんじゃないかって思うほど、一切そんな気配を二人とも感じさせなかった。まるで匠の技のように。
 確かに派手にフラれた王子をたまたま見た時すっごく落ち込んでいるようだったけど、しばらくしてからたまたま見たらケロってしていてびっくりした。やっぱり王族ってメンタル強いんだな~とか思ってたけど。
 今なら納得なるほどですよ。王子のことを元気にさせてくれる人がいたってわけですね。それが大らかなアシエ君だったというわけですよ。
 なんで自分でも敬語になってるのかわけかんないけど、つまりそういうことなんだろう。わかってはいるけど休み明けの教室、自分の席に着いてついついボーッとしてしまう。いやだって、すごかったし。
「おはよー」
「はよー!」
 次々にクラスの子たちが入ってきてお互い挨拶してる。みんな休み明けの爽やかな挨拶だ。そうそう、こっちが私にとっての現実。
「おはよう~!」
 一際明るい声にハッとする。声のするほうをバッと見てみたら、いつも一緒につるんでる三人が明るく挨拶を交わしていた。
 そう、さっきの元気な声はアシエ君だ。私がいつも聞いてる声はあの声。
 ちょっとドキドキしつつ視線を向けずアシエ君の気配を探る。何を言おう、アシエ君の席は私の隣だった。鞄が置かれた音が聞こえて、自然に自然にと自分に言い聞かせながらいつもと同じように挨拶するべく顔を上げる。
「おはよう、アシエ君」
「はよ!」
 ニカッと笑うアシエ君はいつも見てるアシエ君だ。ほ、本当に昨日のは幻だったんじゃないかって、そう思えてきた。だってアシエ君があまりにも普通だったから。
「……アシエ君、今日の一限目の授業当たるんじゃない?」
「えっ⁈ やばい、俺わかんねぇ。コソッと教えて」
「私もわかんないかも」
「そしたら応援だけして」
 文句を言うこともなくこうして相手をさり気なく気遣えるところはアシエ君の長所だと思う。そういえばジャック君とオリバー君もアシエ君のこと大らかだって、ちょっとおつむがあれだけど人間性は悪くないって言ってた。
 確かに友達として一緒にいたら気を遣うこともなく楽しいんだろうな~。とか思いながらアシエ君の横顔見てたら。
「ぃっ……!」
 声上げなかった自分を褒めてほしい。ただちょっと顔が変になったけど。
 いやいやいやいやだってだって私は昨日のこと幻~とか思おうとしてたのに。何もかもアシエ君の様子が普段とまったく変わらないから、私が妄想してただけかな~とか思ってたって妄想だったとして私は同じクラスの男子で何を妄想してるんだって話になってくるけど。
 そういう思考に行きそうになっていたのに、そんな私に現実を知らしめてきた。あのですね、見えてるんですよ。襟に隠れているところからチラッと。
 見えたんですよ、キスマーク。
 王子って完璧な人のイメージで、でもあの交流会で恋愛面に関してはポンコツなのかな? とか思ってたけどその実むちゃくちゃ独占欲丸出しじゃないですかやだー!
「ア、ア、ア、アシエ君……?」
「ん? どうった?」
「いやその、ちょっと、あの」
 ちゃんと隠れているようで、でも私が見つけてしまったんだから他の人が見つけてしまう可能性だってある。だから。
「み、見えてる」
 ツン、と自分の首筋を指差してみた。そしたらアシエ君は一瞬目を丸くして首を傾げたけど、すぐに「ああ」って納得した声を出して自分の襟元を正した。こ、これは……手慣れている……!
 それと、心の中でもう一つ謝る。これ実際言葉にしたら昨日の私の行動がバレちゃうから、心の中でこっそりと。
 ごめんねアシエ君。私、アシエ君と王子がえっろいえっちしているところを見てしまった、目撃者です。
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