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第十七章

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 そうこうしているうちに、ようやく会場にヘルクヘンセンの国王が顔を出す。
 すると、貴族の方々は現れた国王様に贈り物を献上し始めた。

「え、あれ? 私何も用意していないんだけど……そういえば、これって何の祝賀会?」
『いまさら? でもあの親父も、詳しい話はまったくしてなかったわね』
「あ、大丈夫です。贈り物なら僕が用意していますので」

 レンカイアが懐から綺麗に包装された箱を取り出す。

「これを国王様にお渡ししてください。それでもって今日の宴は下がってもいいそうです」
「ほんとに顔出しだけじゃのっ」
「そういえば、ローゼマリア様は食事には手を出されてませんでしたね。珍しいものも沢山ありますので、食べておくなら今のうちですよ」

「ハッハッハ。わらわの舌はとうに腐っておるからのっ! 味など分からんわ。食っても消化できんしっ」

 満面の笑みでそう答えるローゼマリアに怪訝げな顔を向けるレンカイア。

「ん? なんじゃ」
「いえ、そこ笑うとこなのかな、と」
「ハッハッハ、悲しむより数倍マシじゃろっ」

 そういう問題なのかなと、首を傾げるレンカイア。
 やがてエクサリーを除く全ての貴族が国王へ献上品を贈り終る。
 それを見て、最後にエクサリーが国王の元へ向かう。

「あ奴は来なかったか……しかも、こんな扱いづらい女を差し向けるとはな」

 エクサリーを見て、忌々しげに呟く国王様。

 ゼラトース家に文句を付けようとしても、エクサリーにする話ではない。
 しかも、彼女は仮にも聖皇国の公爵位を持っている。
 無下に扱うわけにもいかない。

 それでも苦し紛れに嫌がらせが口をついて出る。

「うむ、ゼラトース家からの贈り物、確かに受け取った。して……フォートレース家からの贈り物はないのかのぉ。まさか、手ぶらで来た、なんてことはないであろうな?」

 困ったような顔で指輪の中にいるホウオウに相談するエクサリー。

『そこのゾンビ女が持ってる咲狂花でもあげれば? 珍しい花なんでしょ』
「だから誰がゾンビ女じゃっ! これが欲しいのか? 干からびても構わんのなら別によいが……それより、もっとお主が贈るに相応しいものがあるんじゃないか?」
「私が贈るに相応しいもの?」

 そうじゃな。と言うと、ローゼマリアは会場の開けた場所に行く。

『出でよ! シンセサイザー!』

 ソレを見て、ハッと何かを思いつくエクサリー。
 そして国王へ伝える。

「歌を、私は歌を贈ります!」
「歌……? いやいや、そんなものを聞かされても?」

 戸惑った表情で止めさせようとする国王様。
 それを見て、慌ててピクサスレーン出身の貴族達が国王へ進言する。

「いえいえ国王陛下、彼女の歌は値千金の価値がありますぞ」
「ふむ」
「私も以前お聞きしたのですが、それは素晴らしいもので……」

 別の貴族達も口々にエクサリーの歌を勧め始める。

 クイーズが失踪した時、ダンディが実質支配していたヘルクヘンセンは捜査の対象外であった。
 その為、エクサリーのコンサートは、ここ、ヘルクヘンセンでは行われなかった。
 当時、幽閉されていた国王も含め、ヘルクヘンセンの貴族達はエクサリーの歌を知らない。

 だが今や、エクサリーのコンサートは全世界の人々が求めやまない価値が出来てきている。
 彼女の歌を求め、様々な王侯貴族から申し出が行われている。
 それをピクサスレーン国の貴族は知っている。

 カユサルに並び、宴の催しに彼女が出席するということは、最高級のもてなしであるとまで言われている。
 彼女の歌を聞く為だけに世界中から人々が集ってくる。
 しかし、エクサリーは一般市民へのコンサートを優先している為、中々呼び出すことが出来ない。

 ある意味、カユサルのコンサートより貴重なチャンスを不意にしようとしている国王に、無礼だと思っていても、ついつい口を挟まずにはいられなかったようだ。

「分かった、分かった。フォートレース家からの贈り物は、たかが歌である。そう思われても良いのなら好きにするがよい」
「はい、ありがとうございます」

 エクサリーはゆっくりとローゼマリアの元へ向かう。
 歩きながら小声で歌を口ずさみ始める。
 伴奏のない独唱。

 それは、エクサリーの持つハウリングボイスのスキルにより、会場の全ての人々へ伝えられる。

 徐々に、徐々に、大きくなっていく伴奏のない歌声。
 逆に、ざわついていた人々の声は静かになっていく。
 心を締め付ける、透き通るような歌声。

 その歌声は、ローゼマリアの元に辿りついた時、音楽へと変わる。
 ゆっくりと重なっていくシンセサイザーから奏でられるピアノの伴奏。
 清く澄んだ、その音色が会場を支配して行く。

『さてと、そうともなれば舞台も必要よね!』

 エクサリーの足元に幾つもの炎の花が咲いた。
 それは丸い舞台となり、エクサリーをゆっくりと持ち上げ始める。
 歌にあわせて、その舞台からは小さな炎の小鳥が舞い上がって行く。

 それを唖然とした表情で見やる、国王様とヘルクヘンセンの貴族達。

 始めて聞く音色と歌に、誰もが聞き込んでしまう。
 エクサリーの歌を聞いた事のあるピクサスレーンの貴族達も、そんな演出に新たなる感動を覚える。
 音楽は徐々に激しい曲調へ変わっていく。

 それに合わせ、会場を飛び交う炎の小鳥達も動きを激しくする。

 人々の間を縫い、空を、地面を駆け巡る。
 そんな炎と歌に圧倒される会場の人々。
 エクサリーの声が、歌が、そこに居る全ての人々の心へ溶け込んでいく。

 人々は、誰一人として声を発する事もなく、ただ聞き惚れるのみ。

 最後に巨大な火の鳥が会場を埋めつくす。
 その炎は決して熱くなく、ただ暖かな光をもたらすのみ。
 そんな炎に包まれた人々は、ただ恍惚な表情でエクサリーを見つめているだけだった。

「ふう……どうも、ご清聴ありがとうございました」

 エクサリーがその人々に向かって頭を下げる。

 最初はまばらに、徐々に盛大に、拍手が贈られ始める。
 その拍手に、お辞儀を返しながら国王の元へエクサリーが向かう。

「私の贈り物、気にいっていただけたでしょうか?」
「…………うむ、見事であった」

◇◆◇◆◇◆◇◆

「素晴らしいですわエクサリー様! ぜひ今度、我が家の宴でも歌っていただけませんか?」
「こんなに感動したのは始めての事だ! 今度、歌われる際は是非とも招待して頂きたい!」
「なにあんた達、急に態度が変わって……ま、わたくしは只者じゃないと思ってましたのよ、ですから最初に声をかけたのですわ」

 クイーズの父親の思惑とは大きくかけはなれ、随分と貴族達と親密になっているエクサリーである。

「ならちょうど良い! 来週のコンサートに呼べばいいんじゃないかなっ」
「え……来週の? 大丈夫かな?」
「お主が頼めば断れはせぬじゃろっ」

 さっそく呼んでいただけるのですか。と喜ぶヘルクヘンセンの貴族達。
 そんな彼等を複雑な表情で見やるピクサスレーン出身の貴族。

「おい来週って……」
「呼ばれれば光栄かも知れぬが……さすがに場違いも甚だしいのではないか?」

 そう来週のコンサートとは、聖皇国と、新生ファンハート公国の友好を願い、互いの代表者が集う場所。
 そんな場所に、ただ歌を聞きに来ただけ、なんて人達が居ればどう思われることやら。
 彼等がそれを知るのはもう少し先の事である。
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