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1章 観測遠征隊
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第百二十三遠征観測小隊日誌ー担当マール・カスミ・ウォードット
王都から出発して今日でちょうど一か月経ちました。今回の遠征も今のところこれといった問題はなく順調に進んでいます。中継都市トコバの旅人の灯は既に遠く肉眼では夜になってようやく見えるくらいまで遠く私たちが今回かなり遠くまで来ていることを実感しています。現在コトバからおおよそ900エイル(1エイル=約一キロ)北東の地点にて野営中。なだらかな丘陵地帯を抜けた先に微かに潮風の香りがする、現測地図によればあと10エイルほど東に進めば海岸線が見えるらしくひそかに私は楽しみにしている。兄さんは潮の香りがあまり好きじゃないけれど私はどこかあの香りが懐かしく感じる。星見塔で観測された深界断層震源まであと少し何事も無ければいいのだけれど・・・
「マール、まだ書いてるの?夕飯できるよ。」
「ハーイ!今行くから。」
兄の私を呼ぶ声が聞こえた、書き終わった日誌をカバンに入れて立ち上がる。夕日が落ちきる前の紫色の空は何度見ても奇麗だ。ぐっと背中を伸ばすと当時にお腹も鳴る、今日もよく歩いた。焚火の明かりの方から良い匂いが鼻をくすぐる。今日の当番は誰だったろう?ふとそんなことを考えた瞬間嫌な予感が頭をよぎる。私はその嫌な予感が外れて欲しいと願いながら私を待っている兄の元へ速足で近づく。
駆け寄る私を見て兄が人懐っこい笑顔で私を見る、ふさふさの毛が生えた少し長い耳、ふわふわの尻尾。この人が私の兄のレン・カスミ・ウォードット。
「お兄ちゃん、今日の夕食当番は隊長だよね。ちゃんと見張っててくれたんだよね?」
私の質問に兄は露骨に目を逸らす、それもそのはず兄の口元にはソースが付いたままなのを私は見逃さなかった。私は手を伸ばして兄の耳を引っ張る。
「お兄ちゃん?な・ん・で・お口の周りにソースが付いてるのかな?」
「まって!話を聞いて!僕は悪くないと思うんだ!隊長の料理が美味しすぎるのがいけない。」
「そんな訳の分からない言い訳が通るわけないでしょ!」
兄の耳を引っ張ったまま私はこのいい匂いの発生源のもとに進んでいく、テントの前には大きなテーブルとありあわせの食材で作ったとは思えない豪華な夕食が並んでいる。一体何食分の食料を使ったのか?少し頭が痛くなる。この野営には不釣り合いなほどの折り畳み式の大きなテーブルも丈夫で軽くて絶対割れない魔術コーティングされているブランド食器の数々とプロ顔負けの調理器具を使い今嬉々として盛り付けしているのが私たちの小隊の隊長のリヒター・バルメオス隊長。
「隊長!またお兄ちゃんを餌付けして好き勝手に料理して!食料の備蓄の事とか少しは考えてる⁈」
「あまりそう大きな声を出すものじゃないよ,マール。可哀そうだからレンの事も放してあげなさい、それと何度も言うようだが夕食を疎かにしてはいけない。食事をとる幸福と明日の活力は等価だと常々語っているはずだが?」
私たちの方に振り返りながら穏やかな笑顔、切れ長な涼やかな瞳とプラチナブロンドの長い髪は風になびいて焚火の日に照らされて輝いて見える。身長2トール(1トール約1メートル)近くのふくよかさの中にしっかりとした筋肉質の肉体を持った偉丈夫のオーク族。
「だとしても計画的な運用は大事なのは分かってるでしょ?前回みたく30リロ(1リロ約1キロ)近く痩せて入院したのは何処の誰かしら?」
「良いダイエットになったなあれは!」
前回の遠征時は酷いものだった。今思い出しても命の危機に直面していたと言っても過言じゃなかった。
一言で言えば帰り道の食料が残り十日以上の道のり半ばで底を付きソコの隊長は餓死寸前の詠唱失調にまで至った。実をいう私も5キロ近く痩せたが兄のおかげで大事に至らなかった。
「あの時だってうちのお兄ちゃんが居なかったら本当にみんな餓死してたからね!」
「確かにな、レンちゃんが居なかったらアタシ達トコバに着く前に鳥の餌だったわね。でもこの料理を作ってくれるリヒターの考えも尊重したいのよねアタシ。」
音もなく私の後ろにいるのは小隊の技術部門兼観測師のルディー、小隊のもう一つの仕事である世界地図製作の重要人物の一人でもあり王立観測所『星見の塔』の研究員もしている。エルフ族特有のスレンダーな体格に加えピチっとした少し派手すぎないかなと思える作業着を違和感なく着こなすところがすごいなと思う。肩にかけた新緑色の髪を三つ編みをいじりながら私たちの話に入ってきた。ちなみにルディーの本名はルーデンス・ララベリウス・ミシュルマルト・メルテヌスサンマリア、だそうです。そして乙女心を持った男性でもある。
「もう!ルディーはどっちの味方なの!」
「怒った顔もキュート♪でも、そろそろレンちゃんのお耳離してあげなさいな。」
ルディーさんは私だけに聞こえるようにそっと耳打ちしてきた。
「レンちゃんを独り占めしたいのも分かるけど。」
その言葉に私は慌てて兄の耳を離す。見上げると少し目じりに涙をためて耳を擦っている。
「ううぅ、ルーさんが言ってくれなかったら僕の耳取れちゃっていたかも。」
「お兄ちゃんごめんね。痛かったよね。」
「冗談だよ、僕が人一倍丈夫なの知ってるだろ。ほらこんな事でしょげないでみんなでご飯食べよう。」
兄はシュンとしてしまった私の頭に手を置き優しく撫でる、兄に頭を撫でられるとつい頬が緩んでしまう。
「さて、うちの妹の機嫌も直ったことだしご飯だ!」
「あっ・・・」
もう少しだけ撫でて欲しかったなんて口に出せる訳も無く私はテーブルに向かっていく兄の背中を少し、ほんの少しだけ恨めしそうに見てしまう。
「マール、ほら冷めちゃうよ。」
「分かってる。」
兄の背中を追いかける、今はそれだけで良いと自分に言い聞かせながら。
少し豪華すぎる夕食、腹立たしい事に隊長が作る料理は本当に困った事に美味しいからムカつく。
何で保存食でこの味を出せるのか不思議でならない。しかも食後の紅茶まで出されるから料理当番の時の自分の料理と比較されると何とも言えない敗北感に打ちのめされる。私が悶々と考えている脇で兄が心底幸せそうな顔をして余韻を楽しんでいるのを見てやっぱりムカついてしまう。私の時はこんな顔しないくせに!その幸せそうなほっぺたをつねってやろうとしたその時隊長がテーブルに地図を広げる。
「さて諸君、明日はいよいよマークポイント、震源地だ。現在我々はこの地点で野営中だ。ここから更に半日かけ簡易観測拠点の設営までが明日の工程だ、ルーデンス何かあるか?」
「そうね、観測結果だと大規模な地形変化の可能性とこれは万が一の可能性だけど深界遺跡・・・ダンジョンが現れてる可能性も捨てきれないわ。」
ルディーの言葉に私は息を呑んだ。
王都から出発して今日でちょうど一か月経ちました。今回の遠征も今のところこれといった問題はなく順調に進んでいます。中継都市トコバの旅人の灯は既に遠く肉眼では夜になってようやく見えるくらいまで遠く私たちが今回かなり遠くまで来ていることを実感しています。現在コトバからおおよそ900エイル(1エイル=約一キロ)北東の地点にて野営中。なだらかな丘陵地帯を抜けた先に微かに潮風の香りがする、現測地図によればあと10エイルほど東に進めば海岸線が見えるらしくひそかに私は楽しみにしている。兄さんは潮の香りがあまり好きじゃないけれど私はどこかあの香りが懐かしく感じる。星見塔で観測された深界断層震源まであと少し何事も無ければいいのだけれど・・・
「マール、まだ書いてるの?夕飯できるよ。」
「ハーイ!今行くから。」
兄の私を呼ぶ声が聞こえた、書き終わった日誌をカバンに入れて立ち上がる。夕日が落ちきる前の紫色の空は何度見ても奇麗だ。ぐっと背中を伸ばすと当時にお腹も鳴る、今日もよく歩いた。焚火の明かりの方から良い匂いが鼻をくすぐる。今日の当番は誰だったろう?ふとそんなことを考えた瞬間嫌な予感が頭をよぎる。私はその嫌な予感が外れて欲しいと願いながら私を待っている兄の元へ速足で近づく。
駆け寄る私を見て兄が人懐っこい笑顔で私を見る、ふさふさの毛が生えた少し長い耳、ふわふわの尻尾。この人が私の兄のレン・カスミ・ウォードット。
「お兄ちゃん、今日の夕食当番は隊長だよね。ちゃんと見張っててくれたんだよね?」
私の質問に兄は露骨に目を逸らす、それもそのはず兄の口元にはソースが付いたままなのを私は見逃さなかった。私は手を伸ばして兄の耳を引っ張る。
「お兄ちゃん?な・ん・で・お口の周りにソースが付いてるのかな?」
「まって!話を聞いて!僕は悪くないと思うんだ!隊長の料理が美味しすぎるのがいけない。」
「そんな訳の分からない言い訳が通るわけないでしょ!」
兄の耳を引っ張ったまま私はこのいい匂いの発生源のもとに進んでいく、テントの前には大きなテーブルとありあわせの食材で作ったとは思えない豪華な夕食が並んでいる。一体何食分の食料を使ったのか?少し頭が痛くなる。この野営には不釣り合いなほどの折り畳み式の大きなテーブルも丈夫で軽くて絶対割れない魔術コーティングされているブランド食器の数々とプロ顔負けの調理器具を使い今嬉々として盛り付けしているのが私たちの小隊の隊長のリヒター・バルメオス隊長。
「隊長!またお兄ちゃんを餌付けして好き勝手に料理して!食料の備蓄の事とか少しは考えてる⁈」
「あまりそう大きな声を出すものじゃないよ,マール。可哀そうだからレンの事も放してあげなさい、それと何度も言うようだが夕食を疎かにしてはいけない。食事をとる幸福と明日の活力は等価だと常々語っているはずだが?」
私たちの方に振り返りながら穏やかな笑顔、切れ長な涼やかな瞳とプラチナブロンドの長い髪は風になびいて焚火の日に照らされて輝いて見える。身長2トール(1トール約1メートル)近くのふくよかさの中にしっかりとした筋肉質の肉体を持った偉丈夫のオーク族。
「だとしても計画的な運用は大事なのは分かってるでしょ?前回みたく30リロ(1リロ約1キロ)近く痩せて入院したのは何処の誰かしら?」
「良いダイエットになったなあれは!」
前回の遠征時は酷いものだった。今思い出しても命の危機に直面していたと言っても過言じゃなかった。
一言で言えば帰り道の食料が残り十日以上の道のり半ばで底を付きソコの隊長は餓死寸前の詠唱失調にまで至った。実をいう私も5キロ近く痩せたが兄のおかげで大事に至らなかった。
「あの時だってうちのお兄ちゃんが居なかったら本当にみんな餓死してたからね!」
「確かにな、レンちゃんが居なかったらアタシ達トコバに着く前に鳥の餌だったわね。でもこの料理を作ってくれるリヒターの考えも尊重したいのよねアタシ。」
音もなく私の後ろにいるのは小隊の技術部門兼観測師のルディー、小隊のもう一つの仕事である世界地図製作の重要人物の一人でもあり王立観測所『星見の塔』の研究員もしている。エルフ族特有のスレンダーな体格に加えピチっとした少し派手すぎないかなと思える作業着を違和感なく着こなすところがすごいなと思う。肩にかけた新緑色の髪を三つ編みをいじりながら私たちの話に入ってきた。ちなみにルディーの本名はルーデンス・ララベリウス・ミシュルマルト・メルテヌスサンマリア、だそうです。そして乙女心を持った男性でもある。
「もう!ルディーはどっちの味方なの!」
「怒った顔もキュート♪でも、そろそろレンちゃんのお耳離してあげなさいな。」
ルディーさんは私だけに聞こえるようにそっと耳打ちしてきた。
「レンちゃんを独り占めしたいのも分かるけど。」
その言葉に私は慌てて兄の耳を離す。見上げると少し目じりに涙をためて耳を擦っている。
「ううぅ、ルーさんが言ってくれなかったら僕の耳取れちゃっていたかも。」
「お兄ちゃんごめんね。痛かったよね。」
「冗談だよ、僕が人一倍丈夫なの知ってるだろ。ほらこんな事でしょげないでみんなでご飯食べよう。」
兄はシュンとしてしまった私の頭に手を置き優しく撫でる、兄に頭を撫でられるとつい頬が緩んでしまう。
「さて、うちの妹の機嫌も直ったことだしご飯だ!」
「あっ・・・」
もう少しだけ撫でて欲しかったなんて口に出せる訳も無く私はテーブルに向かっていく兄の背中を少し、ほんの少しだけ恨めしそうに見てしまう。
「マール、ほら冷めちゃうよ。」
「分かってる。」
兄の背中を追いかける、今はそれだけで良いと自分に言い聞かせながら。
少し豪華すぎる夕食、腹立たしい事に隊長が作る料理は本当に困った事に美味しいからムカつく。
何で保存食でこの味を出せるのか不思議でならない。しかも食後の紅茶まで出されるから料理当番の時の自分の料理と比較されると何とも言えない敗北感に打ちのめされる。私が悶々と考えている脇で兄が心底幸せそうな顔をして余韻を楽しんでいるのを見てやっぱりムカついてしまう。私の時はこんな顔しないくせに!その幸せそうなほっぺたをつねってやろうとしたその時隊長がテーブルに地図を広げる。
「さて諸君、明日はいよいよマークポイント、震源地だ。現在我々はこの地点で野営中だ。ここから更に半日かけ簡易観測拠点の設営までが明日の工程だ、ルーデンス何かあるか?」
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