ワールド・トラベラーズ 

右島 芒

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しばし休憩、野営地ご飯

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 野営の準備と観測塔の設置は思いのほか早く終わった。本来なら小一時間掛かるものだが現地のケンタウロス族の方々やパジャック殿達のお陰でいつもの半分ほどで完了できたのは非常に助かった。
特に観測塔の設置に専念できたのが早く済んだ要因だろう。塔自体の骨組みはとても軽い材質でできているがそれに付属する装置や配線はルーデンスや身の軽いレンが掛かりっきりになってしまう。6トール程の高さの観測塔の上には周囲のマナを感知する装置、この装置が観測するマナの分布率や流れで大まかな土地の形状や生物の有無、そして周囲の次元断層の異常などを把握することが可能だ。
ルデーンスに観測してもらっている間にパジャック殿とレンには集落の周りを索敵してもらっている。そして俺はと言えばマールが寝こけているのを良い事に今日も夕食の準備を始めていた。家を失った方々も居ると聞いたのでならば炊き出しの様に大勢で食べられるモノが良いだろう。
炊き出しと言えば具沢山の煮込みスープが良いだろう。食料の備蓄は心許なくなるがこの際致し方ないイモとドライフルーツは確かここらに隠しておいたのが有ったな、調味料はまだ十分に足りそうだ。干し肉が…少々足りないか。
「ねえねえ、オークのオジサン何してるの?」
声をかけてきたのはまだ幼いケンタウロス族の少年だった。普段見慣れない種族の俺が何をしているのか興味深いのだろう。この世界の原住民であり草原の主たる彼らは以外にも新しいものが好きであったり好奇心が旺盛だ。しかしながら我々の文明圏とは一線を引きつつ昔ながらの生活を続けている。互いの文化を尊重しつつ良き隣人として付き合ってくれているのだろう。折り畳みの調理台とかまどをセットしてエプロンをかけ包丁のセットを取り出し準備が出来た。
「少年、どこかの家にこれくらい大きな鍋を貸してくれるところはないか?教えてくれれば美味い物食べれるぞ。」
「ホント!分かったちょっと待ってて。」
少年は勢いよく走りだして行った、彼が戻ってくる間に下拵えを済ませておく。イモの皮を剥き半分にきる、煮崩れしてもいいように大きめのサイズで切り分ける。ドライフルーツは細かくカットした後麻でできた調理用の袋に入れておく。これはスープにコクとうまみを出すための隠し味に使う。干し肉と根菜類を一口大にカットしてとりあえず手持ちの食材で出来る事はこれくらいか・・・もう何種類か入れると食いでがあるのだがな。無いものねだりも出来んかと思っていると先程の少年が集落の女性陣を連れてきてくれた。なんと鍋だけではなく残っていた食材を提供してくれた。ウサギ肉とキノコ、それに山菜などもいただけた。これは行幸!皆の期待に応えるべく腕によりをかけなければ!

貰い受けた食材と先程と同様にした処理した後私物の数種類の香草を漬けて置いた植物油で軽く炒め水を張った鍋に入れる。煮立ってきたら灰汁を取りつっ頃合いを見計らってこれまた私物の合わせ調味料を入れ味を調整しつつ暫くとろ火でじっくり煮えるのを待つだけだ。少し物足りなさを感じたので小麦粉を水と少々の塩で練り少し残っていたイモを茹で皮を剥いて磨り潰したものを先程の小麦の生地と混ぜてフライパンで焼く。いたってシンプルなパンもどきだが意外と美味い。料理している俺の横で飽きもせずじっと見つめている少年に出来立てのパンもどきにキイチゴのジャムを着けて渡すと目を輝かせながら頬張っている。
「なあオジサンは何で男なのに飯の支度するんだ?普通は女の仕事だろ?」
少年の素朴な質問に俺は思わず苦笑いをしてしまう。彼が生きている集落の中にある男と女の役割分担が明確に出来上がっている社会なら彼の疑問もとても解る。実際俺達の文化圏でもその傾向は強い、男は外で金を稼ぎ女は家で家事をする。だがこの世界を旅する冒険者は男だろうが女だろうが料理の一つも出来なきゃ半人前だ。
「俺が昔所属していた小隊は男ばっかりで食事も食えれば良いって連中ばかりだった。俺も最初はそれで良いと思ってたけどな、それが一月も続くと飽きる。少年、毎日毎日カチカチのパンと塩で煮た豆のスープは耐えられるか?」
俺の問いかけに少年は目をつぶり想像したのだろう心底嫌そうな顔をした。
「だから俺は自分が食事の当番の時にほんの少し手間をかけるようにした。」
料理の腕は素人同然だったが味覚のセンスは悪くなかった、幼い頃からそれなりに良いものを食べさせてもらったから身に付いたものなのかもしれない。どうすれば味が良くなるかは何となく理解できた。悪戦苦闘しながら手を加え味を調え自分の中で何とか及第点が付けれる代物を作る事が出来た。
「上手くできたの?」
「上手くはない、今思えば多少マシになった程度の出来だった。」
それでも仲間達の反応は嬉しかった。少々作るのに時間が掛かった所為もあって腹が減っていたのもあるがそれでも彼らの食べた時のあの顔は今でも忘れない。
「みんなに美味いって言って貰えた。それが嬉しくてな、もうそうなると料理は楽しくなってくるんだ、ああこいつ等にもっと美味い物を食べさせてやりたい。喜んでもらいたいって。」
良い大人がつい昔語りをしてしまった・・・妙に気恥しくなり空を見上げていると少年が俺のエプロンを引っ張る。
「俺にも作れる?」
「出来るとも。」
やはり良いものだ、子供たちの純粋な好奇心に輝かせる瞳と言うものは未知のモノに手を伸ばし学ぶ事に喜びを見いだせる。彼にとってこれも冒険の一つになるのだと思うと胸が熱くなる。さて、何を教えようか?

夕日が水平線に消えかかるころ見回りを終えたレンとパジャック殿達が戻ってきてのを見計らい食事をふるまう事にした。ケンタウロス族のみなにも好評を得て集落のご婦人方もわざわざレシピを聞きに来る方も居たので我ながら上手に出来たと思っている。少し心残りがあるとすればレンとマールの母上殿に習ったミソを持ってきていればと悔やまれる。今回の遠征にはまだ熟成が間に合わなかったので諦めていたのだがこのスープにミソを加えればさらに美味に仕上がること請け合いなのだ。やはり壺ごと持ってくれば良かったか?・・・悔やまれる。
食事が終わり集落の人々は各々家に戻り家を失ったものは近所のモノの家に招かれていった、ダンジョンの捜索が終了してから家の再建手伝うのもいいだろう。何故かマールが妙に気にしていが聞かぬが花と言う事もあるだろう。かまどの種火を枯れ木に移し焚き木を作っておくと誰ともなく仲間たちは集まってくる。レンと一緒にパジャック殿達も来てくれたのでこれより今後のミーティングとダンジョンへの挑戦を話しておく。まずはルーデンスから観測の結果を聞くことにした。
「まずは周囲の状況からね。レンちゃん達にも見回りして貰って分かるとと思うけどおおむね周囲には鋼蟲の反応は無いわ。それとダンジョンの位置はここから約1エイル先、周囲のマナの流動が見られるのを鑑みてダンジョンは生きている。つまり、まだ鋼蟲が出てくる可能性を残してる。ダンジョン自体にどれ程のリソースが蓄えられているか分からない現状でのアタシ達が執る最善手は速攻で攻略する事よ。」
 
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