龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第6話ー4

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 リーグ戦の後半が始まって10日あまり勇吾の修行は変化らしい変化は見えなかった。魔力を全て使い切り死ぬ寸前まで追い込まれ霊薬で回復させられるこれを何度も繰り返し肉体、魔力面では問題が無くとも勇吾の精神は度重なる苦痛と死の直前まで踏み込むと言ったギリギリの修行に疲弊していた。日に日に精悍さを失って行く勇吾の様子を誰よりも心配しているのが同居人であり実戦演習のパートナーの白銀月子だった。
「勇吾君、最近凄く辛そうだよ。うちとの修行の後に羌先生との修行そんなに大変なの?」
肉体面では全快しているが心が弱っている為普段なら早朝のトレーニングを終えた後手早く身支度を終えた後月子に朝の挨拶をするのが勇吾の日課だったがここ数日それが出来ずに運動着のまま床に倒れている。
「やっぱりさ、体だけ大丈夫でも駄目だよな…心も健全じゃないとさ立ち上がれ無いと言うか…」
死んだ魚のような目をしたまま床にうつ伏せで転がっている勇吾に駆け寄り起すのが最近の月子の日課になりつつあった。
「本気で心配になってきたから今日からうちもその修行に参加するからね。ほら、早くシャワー浴びて着替える!」
「月子、脱がしてくれ、そしてシャワーまで引っ張っていってくれ。」
「脱がすって、出来る訳無いでしょ!!馬鹿!!」
顔を真っ赤にさせた月子の一撃を腹部に受けてようやく痛みと共にやる気が戻ってきた勇吾は立ち上がりシャワーに向かう。
ここの所無理やりにでも発破を掛けてもらわないと直ぐに心がだらけてしまっている事を反省しつつも今日の修行の事を考えると憂鬱になっている自信に溜息をつく勇吾だった。

 いつもの学生生活を送った後、実戦演習に参加している生徒達は放課後各々が各自の修行スペースを与えられており訓練や術式の研鑽に励んでいる。公平性を期すため学園長が空間術式で作り上げた各チーム個別空間はチーム以外の者が入れないように設定されているのは各チームの独自の訓練法や秘術や奥義の保全目的も備えている為である。

「はっ!せい!これなら!」
月子の鋭い連撃を全てギリギリで回避する勇吾、避ける事に徹して全ての攻撃を紙一重で避けている。運動能力の強化と察知能力の強化に魔力を全て割いた状態を一時間続ける。防御に魔力を使っていないので一撃でも月子の攻撃が当たれば大怪我では済まない。攻撃する月子も気が気ではなかった、羌先生に手加減無用ときつく言われているので手心を加えず攻撃をしているが勇吾が回避をミリ単位の距離で行う為内心冷や汗を掻きながら続けている。攻撃する月子も避ける勇吾も心身ともに疲れ果てていた。
「よし、そこまで!そう方礼!」
「「ありがとうございました。」」
動きを止めた瞬間に大量の汗を噴出し地面に倒れる勇吾。
「勇吾君!先生、勇吾君が!」
「任せたまえ、てれれってて!我輩特製霊薬!!」
その言葉にうつ伏せで動けない勇吾がびくりと反応する、瀕死の芋虫のように体をくねらせて逃げようと足掻く。か細い声で何かを言っている。
「月子…お願いだ、止めさせてくれ…」
しかし余りにもか細かった為か月子の耳には届く事は無く逆に助けを求めていると勘違いした月子は。
「羌先生、私が飲ませてもいいですか?」
「そうだな、勇吾に飲ませたら君も少し飲むといい肉体疲労にも覿面だからな!」
未だにもがいている勇吾を仰向けにすると月子が霊薬が注がれた小匙を勇吾の口元に近づける。
「恥ずかしいのは分かるけど口をあけて欲しいな?」
少し頬を赤らめながら月子が口を開ける事を促すが勇吾は残った力で全力で抗おうとしている。
「勇吾君?何で開けないの?いい加減にしないとうち怒るよ!ちょっと、本気で開けないつもり?この!」
月子は涙目になりながらも必死の抵抗を続ける勇吾の口を無理やり開かせると匙を口の中に突っ込む。
「ん~!!ん~!!!」
軽い痙攣の後にぐったりと動かなくなる勇吾の姿に一抹の不安を感じ羌先生のほうを見る月子。
「先生、この薬本当に大丈夫なんですか?勇吾君動かなくなちゃったんですが。」
「こ奴は大袈裟なのだ、元来薬というのは苦いものだ。月子殿も舐めてみなさい。」
新たに渡された霊薬が注いである小匙を渡された月子は恐る恐る口に運ぶとその瞬間に口いっぱいに広がる、苦味、酸味、甘味、その全てが月子の許容範囲を超えて思考を停止させつつも口内に残留する無慈悲な味は無理やり現実へ引き戻す。
「せ、先生…これは…駄目です。体と心が弱い人が飲んではいけないものです。ごめんね勇吾君…うち間違ってたよ。」
涙を浮かべながら必死に何かを耐える月子は勇吾を見ながら謝るがそこには気を失っている勇吾…返事はなかった。

 10分ほど後ようやく霊薬ショックから立ち直った二人。

「先生、どう考えても失敗作ですよ。」
「何を言う、父から教わった霊薬の製法に多少アレンジしてあるが効能は間違いない、よって失敗作では無い!」
「自分の舌がおかしいって判断がなんで出来ないんだよ!効能以前に味が駄目だって言ってんだよ!もう罰ゲーム超越してデスゲームだよ!」
「馬鹿者!薬は効能が全てだ!それを味云々で貶めるとは笑止千万!お前は何度この薬で命を繋いでいると思っているのだ!多少不味かろうが感謝して我慢しろ!」
「多少じゃねぇぇぇ!鬼不味いんだよ!人類が口にして良い味じゃねぇんだよ、9割9分9厘受けつけないからな!」
二人とも一触即発の興奮状態で今にも喧嘩を始めそうな勢いの中、月子が間に入る。
「二人とも落ち着いて、勇吾君も言い過ぎだよ。先生も少し大人気ないですよ。」
「「くっ。」」
二人とも多少落ち着いたが無言の睨み合いは続いている。これでは修行もまま成らないと判断した月子が提案してきた。
「それでは先生はこの霊薬をもう少し飲み易く改良していただけませんか?そして勇吾君はその薬が出来るまでなるべく我慢する。」
「分かった、だけどなるべく早くしてくれよな師匠。」
冷静になり尊敬している師に対して珍しく噛み付くような態度を取ってしまったのを月子に言われ少々気まずかったのか素直に月子の案を受け入れる勇吾と。
「月子殿の言にも一理あるな、まあ出来ない事ではないので直ぐにでも取り掛かろう、それまで少し我慢しろ勇吾。」
大人気ないとハッキリ言われ若干の気恥ずかしさを隠すように素直にうなずく羌先生であった。
 

 今夜は早めに修行を切り上げさせた羌先生は私室で霊薬の試作品を作って居ると学園長こと九重環が部屋に入って来た。
「小僧の修行あまり進展がないようですね。」
「致し方あるまい、休眠中の霊核を徐々に励起させるのは根気が要る事だ。今の修行もかなりの荒療治だ、これ以上は難しい
ところだ。」
彼女に振り向く事無く薬研を転がす羌先生に音も無く近寄り顔を近づける環は囁く。
「本当に弟子の事になると甘いのですね。」
「姑娘!不意に近づくな。」
「勇吾の霊核は既に目覚める一歩手前まで来ております。貴方が今一歩踏み込めば直ぐにでも霊核に炎が灯りましょう。」
環は羌先生の首に手を回すと耳元で睦言を囁くように息を吐く。すると薬研を動かす羌先生の手が止まる、羌先生の気の質が禍々しいものに変わりその手が環の首筋を掴み締め上げる。
「俺を篭絡するか姑娘?何を企んでいるかは知らぬがたとえこの様な姿のままでもお前と刺し違える事くらい容易いぞ。」
白い環の首に指が食い込む。
「ああっ、その目です。その目その氣を持って勇吾と対峙なさいませ。貴方が捨て去ったモノを起すのは貴方様自信でしかないのですから。」
締上げられながらも恍惚の表情を浮かべ羌先生を見つめる環を見てその手を離す羌先生、離した手は微かに震えていた。
「そなたの言い分も分かった、だが…」
震える手を見つめながら俯いたまま呟く。
「…この様な事はもう止めるんだ。」
「…申し訳ありません。」
彼の掠れる様に吐き出された言葉が余りにも切実に聞こえた為
環はいつもの態度とは打って変わって静かに頷くだけだった。
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