龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第6話ー3

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リーグ戦後半も特に荒れる事無く俺達は全勝し本戦出場を決めていた。もちろん三光院達も危なげ無く駒を進め本戦開始は一学期終了後に始まる事になった。出場チームは7チームで俺達と三光院、伽島先輩と千草先輩、成杜先輩チーム、里見家のお嬢さんチームと小松先輩チーム、それと劉鴻釣率いる留学生チーム。どのチームも曲者揃いで実力者ばかり、その中でも伽島先輩と千草先輩は少し因縁がある、と言うか伽島先輩との試合で去年負けているので何とかリベンジしたいと思っている。
それと妙に気になるのが劉鴻釣、試合運びは非常に合理的で殺伐としているが何故か目が離せなかった。この戦略が正しいと思う反面どこか彼らの戦略の違和感が拭えなかった。

 後半戦が始まる前から普段の修行に加えて師匠との居残り特訓が始まった。どうせ基礎訓練の倍増かと思いきや珍しく新しい術を教えると言ってきた。
「勇吾、今持っている符紙を全部我輩に渡せ。」
「別にいいけどさ、何を教えてくれるんだよ?」
俺は制服のポケットに入れてある10枚束の符を師匠に渡した。すると師匠はそれを燃やす。
「ああっ!なにすんだよ!勿体無い!」
「今からお前は符の補助無しで五甲兵装術を霊力が無くなるまで行わせる。まずは戈、槍、剣、盾、弩の順に最効率、最速で生成してみろ。」
俺は言われた通りに5種類の武具を生成する、魔力を両手に集中させ造りたい武具をイメージする。頭の中でイメージの形がハッキリすると自然にその武具を作り出すことが出来る。この術が始めて師匠に教わった術でもあり俺の唯一無二の術でも有る。集中を切らさない様に連続で造り出す、師匠の止める声が聞こえるまで黙々と造り続けること30分、俺の周りには無数の武具が散乱していた。
「そこまで、どうだ勇吾まだ続けられるか?」
「…ま、まだいける。」
強がってはみたものの本当は魔力も集中力も限界に近かった。
枯渇しかけている体内魔力を補充しようと自然魔力を体に取り込もうとして体中の血が駆け巡り急激な疲労感に膝が折れそうになっていた。
「なら最後に残った魔力で『陣』をやってみろ。加減はするな魔力を空にしろ。」
「師匠、流石にそれは…俺死ぬぜ?」
術師の場合、魔力=生命力であり生きる為に多少は残すのが普通なんだけど今師匠は俺にほぼ死ねと言ってきた。
「死ぬわけ無かろう、魔力が空になるのは表面上で実際は生命活動分は必ず残るのが人の体だ。特に術者は無意識で枷を付けているので真の意味での魔力の枯渇はありえないのだ。」
「でも師匠は俺に使いきれと言ったじゃないか?」
「この修行はお前の魔力貯蔵量の底上げが目的だ。限界まで使い切った先にお前の中にある魔力源を励起させれば今の倍以上の術の行使が出来る。その為には一度黄泉の入り口くらいに立たねばならぬ。」
黄泉…つまり死の国の入り口に立てと言う事か…やっぱり死にますよ!
「ぐずぐず言ってないでやるのかやらぬのか!」
「くそ!やるよ!その代わり早めに蘇生しろよな!」
「そこは案ずるな取って置きの霊薬を用意してある。」
妙に自身ありげな師匠の顔に一抹の不安を残しながら俺は深く呼吸をし集中する。師匠が言った『陣』は武具を一挙に大量に生成する奥義みたいなもので俺の魔力が満タンならば半径百mに剣や槍を降らせたり生やせたりする広域術で正直あまり使う機会がない。
「戈牙陣!」
俺の周囲に無数の戈が牙の様に地面から生えさせるが10m四方に達した時異変が起きた。
全身から急速に力が削げ落ちていく感覚に激しい吐き気を覚えながらも歯を食い縛り術の維持を続けるが目の前が真っ暗になり膝から崩れ落ちる。
息が覚束ない、体が動かせない、心臓の音だけがやけに聞こえる。その心音も少しずつ遅くなっていく。完全に魔力が無くなった、ピクリとも動かせない体を誰かが支えてくれている、きっと師匠だろう。唇に何か湿ったものを感じた瞬間、猛烈な不味さと苦さと筆舌にし難い歯が溶けそうな甘さが口の中に広がり俺は息を吹き返す。
「死んだけど!なんか別の意味で死ぬはこれ!!」
「良薬口に苦しと良く言ったものだ。ふむ、久方振りに作ったが悪くなかった様だな。」
死にかけていた体は動けるまでに回復し魔力もほぼ全快になっている。涙目のまま師匠を睨むと師匠の手に黒くドロッとしたものが入った小瓶を持っていた、ああその妖しい薬を俺に飲ませたのか!
「なにそれ!まだ月子が作った胡麻饅頭の方が食えるわ!」
ちなみに月子の一番の得意(特異)料理の胡麻饅頭は苦笑いをしないと食べられない一品です。いや別に不味いなんて言ってません。
「これは我輩の父上が作っていた万能霊薬を我輩なりに作り直したもので効果も倍になっている。姑娘に仙桃を都合して貰って3日掛けて作った一品だ。」
おいおい、仙桃ったらアッチ側の高級フルーツで食べれば寿命が延びるまで言われていてコッチじゃ一個数十万円の食べれる宝石とまで言われている。普通に食べても魔力の回復を促すと聞いているんだけど何でそのまま食わせてくれないんだ?
「租借出来ぬほど死に掛けているのに食べさせられる訳無かろう。それにこの小瓶一つに付き10個分の仙桃を煮詰め瑤草を刻み扶桑の根を乾燥させた粉末を入れ煮込んでいるのだぞ並みの霊薬ではこうも行くまい。」
「凄いよね!もう値段聞くのが怖いくらいだけど、そう言う問題じゃないんだよ!味!あ・じ!もう少し何とかならないの!生き返って口に残る不味さでもう一回死にそうだった!」
「そんなに不味かったか?どれ…こんなもんであろう。昔良く友人達に飲ませていたが皆不満は言わなかったぞ。」
昔の人は舌が丈夫なんだろうか?実際聞いてみたいが流石にそこまで長生きな人など早々居ないけど…一人居た!
「それじゃあ、学園長も平気なのか?学園長ー!」
「聞こえておる。しかし妾は非常に健康体であるので惜しい事だが遠慮しておこうか。それに非常に貴重な霊薬なのでな。」
俺の声に答える様に何もない場所から姿を現す学園長、この鬼不味い霊薬を過去に食べた事がありそうだったから本音を聞いてみたかったのだがやんわり断られてしまった。しかし師匠が思いの外この本当は毒じゃないかと思われる霊薬の出来に自信が有るのか学園長に食い下がる。
「別に少しくらいなら良いじゃないか姑娘。幼い頃のお主に良く作ってあげた折には喜んでいただろ?」
師匠は小瓶から小さな匙に二滴ほど垂らすと学園長に差し出すがその黒々とした液体を見て固まる学園長。
「哥哥、その大変嬉しいのですが…」
「ほら口を開けなさい。あーん…」
「はう!あ、あーん…」
師匠に促されて口を開ける学園長の顔は何とも言えない表情をしている、嬉しい半分恐ろしい半分?とにかく顔が引きつっているのは分かる。優しく口に運ばれた激マズ霊薬を飲み込む学園長の顔を見ると意外な事に涼しい顔をしている。
「結構なお手前でした。哥哥の作って下さるお薬はいつも美味しいですね。それでは書類仕事が残っているので戻ります。」
表情を崩さず戻ろうする学園長、だけど俺はその異変に気が付いた。膝が笑っている!表情で悟らせない為にそれ以外の処に異常が現れている!ああ、やっぱり不味いんだ、きっと師匠の友達も小さい頃の学園長も我慢してたんだ。

後日本当の事を聞いた時に語った学園長の談
「恐ろしいな、思い出補正と言うのであろう?記憶の改竄に近くないか?哥哥はああ言っておったが周りの皆は哥哥が山に仙桃を取りに行くと聞いただけで逃げ出すものがいたほどだぞ。
病の者など健康の振りまでするし果ては子供の躾けに用に貰いにいく親が出たほどだった。妾?いやーどうだったかのう?」

『もう直ったの、元気なの、哥哥お願いだからお薬いらないの!いい子にするから!お師匠様のゆう事きくから!お薬イヤー!!』
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