龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第6話ー2

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勇吾達が自分達のVTRに赤面しつつ見ているのとほぼ同時刻学園長の執務室の隣にある彼女の私室で酒盛りしながら大人達3人がTVモニターを見ながら談笑している。
「ちゃんと撮れてるじゃねーか。綴屋の所の撮影用式神すげーなうちにも一台欲しいな。」
「演習の有用性を各庁にアピールする狙いで撮影やら編集も許可したが少々エンタメ過ぎぬかのう?」
「己が動きを振り返りつつ相対する者の動向も探れるならこれもまた有効であるな、しかし綴屋生徒のあの文句は如何なものかな?」
各自ビール、日本酒、紹興酒と三者三様の好みのお酒を傾けつつモニターを見ている。
「伽島と香澄、また化け物じみてきたな。おいおい、剣圧だけで遠距離攻撃を相殺ってババアもうちっと戦力差埋める組み合わせしろよ相手が可哀想だろ?ああ、へタレこんじゃったよ。ありゃしばらく立ち直れねーぞ。ヤベ、これ発泡酒じゃない久しぶりにちゃんとしたビール飲んだ気がする。」
缶ビールを片手にモニターを指差しているのが学園の非常勤講師でありこの国のトップクラスの特技武官である神代礼司。
家では発泡酒の庶民派パパ。外呑みしないで家に直帰したい男
「馬鹿を言うでない、今時の若造が根性が足らんのだ。妾が現役の時分に挑んできた勇者達は力の差を分かり切っていながらも命懸けで挑んでくる、その様な益荒男ばかりだったと言うのに最近の者達ときたら直ぐ諦めてしまう。あらあら哥哥、器が空いておりますよささ。」
礼司の言葉に根性論で返すのはこの学園の管理者であり支配者の九重環その正体は3千年以上生きる歴史の中に名を残す大妖である。お酒は何でもいける派、肴は良い男が有れば何杯でも吞めちゃう恋に生きて国も潰す傾国美人。
「圧倒的に戦闘経験値の差であろうな。場数をもっと踏ませなければ物の役には経たないだろう。その為の演習の機会をもっと増やしてはどうだろう?ここの子供達は皆粒ぞろいの優秀な生徒達だ、長い目で見てはどうかな?これ姑娘近い近い!顔を近づけるな。」
酔った振りをして艶かしいスキンシップに焦っているのは勇吾の師であり学園の特別講師羌先生。実はかなりの神格を持った神だが今はいち公務員、古代も今もお酒には強いけど嗜む位が丁度良い。違いが分かるが女性の気持ちにいま一つの紳士。

 礼司は缶ビールをグッと煽るとテーブルに置かれている今回の出場者名簿を広げて羌氏を見る。
「羌先生、先生の本命は誰ですか?贔屓目無しでお願いしますよ。俺は柾影と千草コンビが鉄板だと思いますが。」
「確かに二人とも隙の無い強さだ。伽島君は剣士としても一流であり伽島神刀流の後継者としても申し分ない実力者だな。それと香澄君もますます切っ先が鋭くなっている。彼女の場合、剣術だけではなく格闘術も修めているからな総合力としては高水準で学園トップだろう。勇吾の姉弟子だからね、やりにくいだろうな。」
礼司と羌先生が本戦の行方を話している最中、環は空になっている羌先生のグラスに紹興酒を注ぎながら二人の話に割ってはいる。
「成杜山の小坊主もなかなか良いではないか顔も声もそそられる。あのお硬そうなところもまた良いのう。ああっ、哥哥睨まないで下さいな生徒には手を出しませぬ。」
「そなたはいつまで経ってもその性根は治らぬな。幼い頃から玄女殿の言いつけを破っては妹達と下界に降りて人の子に恋をして、その度に玄女殿に叱られていたな。我輩が逝った後も散々やらかしているらしいな。」
 彼女の名が歴史の影に度々現れている時には必ず一つの国が滅びる時である。インド、中国、日本とその名を残している。
「致し方無いでしょう、良い男を見れば恋をする。良い男の為ならば何でもしてあげたくなる。妾の場合それが少々やりすぎてしまった程度。」
彼女曰く悪気は無いらしい。しかし国を3つほど滅ぼすきっかけを作った事には変わりは無い。
「静淋な、確かに強い。仏教系界隈じゃ不動明王の化身だとか言われてるからな、ここを卒業したら本山に入って直ぐにでも千日行を始めるらしいって話だ。オッズとしては次点か。」
いつの間にかにテーブルの上には酒の肴が大量に用意されており完全に酒宴の席が出来上がっている。礼司の手には本戦での出場メンバーの予想が書き上がっており各チームの脇に◎や○で印が着いている。
「後半戦を踏まえても柾影、千草チームと静淋のチーム。それと三光院兄妹弟に勇吾、月子ペアがまあ来るだろうな。あとは地味ながら良い仕事するのが里見のお嬢様と小松家の次期当主は影薄いながらも先読みが上手い。二人とも周りが良く見えている、こいつ等みたいなのが現場に居ると安定する。」
タブレットを見ている礼司の視線の先にはもう一つにチームが写っている。中国からの留学生達によるチームが本命チーム同様全勝している。
「劉鴻釣。武術と道術は並程度の癖に対戦相手の弱点を確実に潰してくる。チームメイトもそしてコイツ自身も駒としてしか見てない、冷徹で老練でしたたかな戦略。この歳のガキがこれを出来るってのが恐ろしい。」
礼司は劉鴻釣チームの試合動画を羌先生に見えるようにタブレットをテーブルに置いた。劉鴻釣、彼らの取った戦法は現代に於ける戦術理論とは異なるモノだった。本来なら見方の損失を以下に出さずに勝利するかを求めるものだが、彼らの取った戦略は勝つことを最優先にする戦略である。味方の一人を捨て駒にして相手の布陣や実力を測りチームの要であるはずの劉鴻釣自身さえも囮となって戦場をかき乱し対戦相手を各個撃破するなどのまるで試合ではなく実戦さながらの戦いをしている。試合の内容をじっと見つめる羌先生の顔は苦虫を潰したような顔だった。
「お嫌いですよね哥哥、この様な戦の仕方は…貴方様ご自身が生み出された弱者の戦略。最も効率よく格上を倒す為に自軍の損害を度外視にする、冷徹な軍神の采配。」
九重環は挑発的な言葉とは裏腹に彼を見つめる目は哀愁と同情が入り混じった眼差しだった。
「すまないが我輩はこれで失礼する。姑娘、彼らの仔細を出来る限り早く我輩に報告してくれ。出身地、血縁関係、全ての情報が欲しい。」
「畏まりました。明朝にはお届けいたします。」
部屋を出て行く羌先生の後姿を見つめる九重環の顔は愉悦の表情で歪んでいた。
「ババア、何企んでいやがる?あんたは俺達の計画に乗ったんじゃなかったのか?」
空になった缶ビールが転がるテーブルを挟んで対峙する礼司と環。
「勘違いするでない。妾はあの方の頼みを聞いているだけでお前の計画に付き合っている訳ではない。」
ソファにゆったりと腰を降ろす環、空になっていた杯に手酌で日本酒を注いでいる。
「それに、お前の計画では小月を囮に蚩尤軍の残党と竜宮殿の極右派閥を釣り上げるつもりであろう?よくも御方が許したと
不思議に思っておったが自分の弟すら巻き込むのだからな。」
トロンとした眼差しで礼司を見つめる環、その視線には魔力だ宿っており常人なら簡単に魅了されてしまう。しかし礼司は何処吹く風で新たに缶ビールを開けて飲んでいる。
「俺の目的の半分はあんたを巻き込んだ時点で成立している。後の半分は賭けだったが片一方は釣れたみたいだ、羌先生が動いたって事は四凶の誰かがもうこの学園内部に潜り込んでいるって事だろう?」
「妾は見当が着いている、と言うか妾が見逃した。もうここに到ってはお前の計画は戻れる位置に無いがかまわぬのだろう?
最悪のシナリオになる前にお前がねじ伏せるつもりなら。」
「野暮な事を言うなよ、俺は弟を信じてるんだ。それに羌先生が覚悟決めてくれてんのに俺が茶々入れる訳無いだろ?あんたは別の結末を望んでるのかも知れないがな…」
 
深まっていく夜、礼司、羌先生、九重環の三者三様の思惑が交差する。
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