龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第6話ー1

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『前期実戦演習リーグ戦も前半戦を終えて本戦出場が確実視されているチームが出揃ってきました!学園長の甘い言葉に騙されて参加したは良いけれど地獄を見ているチームが多い中、危なげ無く勝ち進むのはやはり御幸ヶ原学園の中でもこの人在りと言われる彼らが率いるチームでした。』
 
 『これより紹介するのは特に要注目のチーム、私が好みと独断で選ばさせていただきました!あれ?俺達勝ち進んでるけど選ばれないの?っとお思いの方々はもっと目立つか個性を持ってください!
まずは高等部3年生、軍神の末裔『伽島柾影』と彼の従姉妹で同じく軍神の末裔である『香澄千草』の最強コンビ。伽島選手は昨年の実技演習では他を寄せ付けない圧倒的な実力を見せ学園トップに君臨しました。一方、香澄選手は体調不良の為実技演習を辞退していましたが噂では同門対決を避ける為ではないかと囁かれています。何にせよ実質学園のナンバー1,2のチーム!強くない訳が無い!!』

 『続いて高等部2年のイケメン坊主『成杜静淋』率いる密教系方術チーム、校内を歩けば黄色い声が飛び交う超絶イケメンだがこの歳で煩悩を超えて来たかのような涼しい振る舞いに再び学園の女子達は桃色吐息!しかし戦う姿は不動明王、一切の手心無く相手を打ちのめすその姿に戦意を喪失する者も多いはず!』

 何故か俺の部屋に集まって校内番組を見ている俺達、3試合終わってどの有力チームも軽い小手調べで勝ち進んでいる。次の試合を週末に控えた前日に予選のハイライトが放送されていた。三光院兄妹弟が夕食後に突然俺の部屋を訪ねてきた時にはびっくりした、五六八が大量のお菓子を持って有無を言わせず月子の部屋側から突入して来たのでなし崩しに5人で放送を見る事になった。
 ちなみに最初の試合の後俺と月子はお互いの事をちゃんと話し合った。俺は月子の正体を知らないまま護衛役を受けた事、それを黙っていた事とどうやって月子の正体を知ったのか、その辺の事を喋った時にまた怒られてしまった。
「次は本当に許さないからね…き・い・て・ま・す・か!」
「…はい、もうしません。」
小一時間ほど正座させられてお説教。しばらくして落ち着いたところで月子が少しずつ話し始めてくれた。
「うち、物心着いた頃には竜宮殿は私達が住んでいた世界のお爺様のお城の事だけど、そこで姉様と暮らしていたの。」
 窓の外に視線を移した月子、幼い頃を思い出しているのだろうか?それとも故郷を思い出しているのだろうか?彼女の心中を図りかねるが俺はその横顔をただ黙って見つめている。
「お父さんとお母さんはうちが生まれて直ぐに事故で亡くなって身寄りの無いうちを黄龍のお爺様が引き取ってくれたの。こっちのお爺様とお婆様は私が生まれる前に無くなっていたから身寄りはお婆様のお父さんの黄龍お爺様だけ。うちこう見えても4分の1は龍族なんだよ。」
どこから見ても普通の女の子と変わらない、月子の横顔に少しだけ暗さが混じる。龍族それも王族となれば話は違ってくる。王族は血の濃さを尊ぶ傾向にある、だけど月子はいくら黄龍帝の直系に当たるとしても人の血が混じった半端者と扱われていたらしい。そんな彼女を育て守ってくれたのが普段から話に出てくる『姉様』と呼んでいる、
『黄飛麟』彼女も黄龍帝直系の孫娘で月子とは従姉妹に当たる。外務省外界部のデーターにも重要人物として名前が出ている程で人物欄には「物腰は静謐にて優美、聡明で実直な言動」と書かれている。
しかし月子曰くそれはあくまでも外交用の顔らしい普段は王族らしからぬほど庶民的で料理がとても上手で武術も竜宮殿の中で5本の指に入る強さとか怒ると凄く怖いとかでも過保護なくらい優しいくて月子を謂れの無い迫害からいつも守ってくれていた。彼女の話をする月子の顔は誇らしげで見ている俺も共感できた。俺も同じような境遇だからだろう、礼司兄や十子姉さんの話をするとこんな顔をしているかも知れない。

 それが一月前の夜の事、俺も月子に対しての後ろめたさは無くなり前より距離が近くなった気がした。護衛対象と言うより背中を預けられる戦友みたいな感じに思っている。五六八と一緒に仲良くTVの画面を見ている月子を見ながら不意に過ぎる月子を狙うと思われる対象が何なのかが解らないままである事に一抹の不安を感じていた。
「ねえねえ、五六八ちゃん達が紹介されてるよ。」
TVモニターには丁度三光院兄妹弟の紹介が始まっていた。

 『さて、高等部の実力者達に負けず全勝している今年度高等部1年生のルーキー達、その中でも際立っている彼らを紹介しましょう!
中等部からその才能は異端の天才!日本に於けるゴレームメイカーで彼の名を知らぬ者は居ないと言っていいでしょう、三光院輝兼!そして天才の妹は別の天才だった!豪快な土属性術式と野生の獣じみた格闘術、三光院五六八!さらに兄と姉の影に隠れに目立たないが正確無比なゴーレムメイカーでありその愛らしいルックスからお姉様方のファンが多い三光院正兼キュン!!不肖この綴屋文河も大大ファンですよー!!』

 カメラワークが妙に正兼君を追っかけ過ぎのVTRを見ている本人はうんざりしているが兄と姉は大喜び。二人に抱きつかれて鬱陶しそうにしているがでもその顔は満更でもないみたいだ。

 『そして昨年中等部実技演習の不動のトップ、現役特技武官としてその実力を余す事無く見せ付ける男!兵頭勇吾!!昨年の特別演習の際中等部でありながらあの伽島柾陰氏に肉薄する戦いを見せてくれました。そして皆様も記憶に新しいと思います!今期高等部に飛び級入学してきた噂の彼女!!そして兵頭勇吾のお姫様!白銀月子!!』

二人して噴出してしまう。その紹介の仕方はどうかと思う!月子は顔を真っ赤にしながら第1試合の時のVTRを見ている。そんなに何度もあの時の映像を流さなくてもいいだろ?俺もだんだん恥ずかしくなってきた。

『鮮烈でした、あの兵頭君がまさかのお姫様抱っこしての登場、しかも抱っこされているお姫様は最近男子生徒たちに噂されていた少女だったのですからなお驚きです。兵頭君も密かに女性ファンが多い人物でしたのでヤキモキされている女子も多いでしょがこの彼女一筋縄では行きません!!その可憐な容姿に似合わない閃光の如き格闘術で見るものを圧倒してきました。ただのお姫様じゃありませんよ!」

 振り返れば第一試合は俺達の圧勝に終わった。
田宮先輩が弱かったと言う訳ではなく月子の実力を甘く見ていた彼の慢心が勝敗を分けた事になる。田宮先輩以外の生徒は一斉に式神を召喚し月子への集中攻撃を始めたが並の式神では月子に傷一つ付けられる訳も無く、月子の拳で一体一撃のペースで潰され各自五体ほど潰され戦意喪失。一方俺は言うと二匹の虎を模した式神を相手にしつつ田宮先輩の攻撃を避けていた。前回と変わらない戦法だけど確実に式神の強さは上がっていた、けれどコチラも前回と同じパターンで勝たせてもらった。式神使いが最もしてはいけない事の一つとして盾であり剣である式神を倒される事と接近を許す事。これは遠距離を主体とする術者全般に言えることでもある。近接戦闘が不得手の場合間合いに入られた場合、往々にして負けが決まる。

 虎の式神の鋭い爪と牙を交わしながら少しずつ間合いを詰めていくと同時に式神2頭の攻撃の回転数も早まる。主を守るために攻撃の密度が濃くなる一方で田宮先輩の遠距離攻撃の回数は減っていく。式神自体が俺と田宮先輩との射線を封じてしまっているからだ。もちろん俺が紙一重で回避しながら式神たちの動きを誘導している、はっきり言えば月子の攻撃よりもずっとぬるい、感覚強化だけで十分避けれることが出来る。田宮先輩との距離が俺の間合いに入るのを見定めてまずは式神達を封じる。この虎型の式神達の攻撃パターンは常に左右対になってお互いの視覚をカバーするように攻撃をしてくる事が解ったのでこれなら術を使うまでも無いと判断した。俺は一匹目の虎の攻撃を横に回りこみ避けると同時にがら空きの腹を蹴り空中に打ち上げる、やられた同胞に一瞬気を取られた二匹目の虎に向かって間合いを詰め肘を眼と眼の間にある急所に向かって打ち下ろしグラついた所を掌打で側頭部を打ち抜き式神の霊核部分がある胴体の中心部へ抜き手を放ち直接霊核を破壊する。打ち上げたもう一匹はまだ息がある、打ち上げただけでダメージは大して通って無い。落ちてくるタイミングに合わせて横腹に霊核ごと打ち抜く様に拳をねじ込むと虎は吹き飛びながら符に戻り四散した。丹精込めたであろう己の式神を失って動揺する田宮先輩の隙を逃がす訳も無く一足で間合いを詰める。
ここで勝負は決まった。拳が届く距離まで詰められた田宮先輩が降参の意思を示すと改めて俺達の勝利宣言がアナウンスされる、項垂れながら帰る田宮先輩が一瞬俺を振り返り睨まれたが、まあ去年は帰り際に口汚く言い訳していた田宮先輩からすれば静かに済んで良かった。
符も消費せず二人とも怪我も無かったので完全勝利と言っていい出来だった。
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