龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第7話ー4

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『皆様お待たせしました!ようやく大会執行部から対戦カードが決まったようです。うほー!!最初から滾らせてくれますやん。明日の第一試合は熱いですよ!兵頭・白銀チームVS三光院チームだ!個人戦績では過去2回の勝負で兵頭選手が圧倒していますが今回はチーム戦、個々の力量よりもチームの連携、コンビネーションが重要に成っております。個人技量も然る事ながらクレバーに対戦相手を見据える兵頭選手と
今や『銀色の戦姫』の二つ名で呼ばれる白銀月子姫。有り余る力で予選を蹂躙してきた二人の前に相間見えるのは三度目の正直か?天才ゴーレムメイカー三光院輝兼選手!普段食堂で仲睦まじく談笑する姿から想像も出来ないほどの激戦が予想されます。そして五六八選手と正兼キュンとの淀みの無い連携はこの対戦カードの目玉になるはずです。明日が楽しみになってきたー!!』

「マジか、初っ端あいつ等とか流石に予想外だ。」
「強敵だね…ちょっとだけやりにくいね。」
お互い気心が知れた仲であるし手の内も知っている。それ以上に月子にとっては学園での数少ない友人に拳を向ける事に躊躇してしまうかも知れないが…
「月子、友達だからって気を抜いてると痛い目にあうぞ。五六八は嬉々として突っ込んでくる。友達だから本気で勝負!何て事を言うタイプだろ。」
「ふふっ、言いそうだね。五六八ちゃんは真っ直ぐだから。
うん、なら私も真っ直ぐ迎え撃つ。」
月子の顔から不安げな気配は消えた。ただ目下一番厄介なのは正兼君の動向だ。陰日向に二人のアシストに徹している彼を如何にかするのが最優先だろう。五六八は月子に釘付けになるがその後ろには確実に彼が何か仕掛けてくるのは明白。
なら取る方法は少々卑怯だがやり様はある。正直、三光院がまだ見せてない俺を倒す為に作り上げていたゴーレムが未知数なだけに危ない橋になる可能性もある。だけど、この方法なら上手くいけば三光院達の戦力をバラバラにして各個撃破の算段が出来る。
「この後の予定は特になしか…月子、少し体を動かしてから今日は早めに部屋に戻ろう。」
「うん、明日の為に英気を養うよ!と言う訳でチラ。」
「駄目です、今月の特別予算枠はなくなりました。」
先日の大盤振る舞いでお財布の中はとても淋しい状態なのでいくら月子が上目遣いで見て来ても無い袖は触れません。
「えー!」っと文句を言いながら食い下がる月子に対してこの前の大食いを嗜めながら部屋に戻る途中でばったりと三光院達と鉢合わせてしまった。
「よお、まさか一回戦でお前達と当たるなんてな。」
「そうかい?僕としては好都合だよ。」
いつもとは違う。既に俺達との対戦を見据えた状態で俺を見るその表情は久しぶりに見せる本気の顔だ。
「僕は運が良い、何の憂いも無く君と全力で戦える。」
三光院の自信に満ちたその目を見て思わず拳を握り締める。
不本意だがにやけてしまう。普段は鬱陶しいくも騒がしい奴だがこの眼を見せる時だけは本当に怖い。稀代の天才が俺に剥き出しの感情で挑んでくる。去年は紙一重の勝負で何とか勝ちを得たが今回奴は切り札を温存している。あの日俺が三光院の部屋で見たゴーレムは奴の最高傑作なのだろう。
「期待してくれて良いよ。」
「参ったな、さっきまでどうやってお前達連携を崩そうかって考えてたのに…そうも行かなくなっちまった。」
 お互いの目を見てそれ以上語る事はないと判断し俺達は別々に歩き出した。三光院のあの目を見たら作戦なんて馬鹿らしく思えてしまった。先程まで考えていた作戦は月子と五六八の戦いに加勢するであろう正兼に適度に茶々を入れつつ三光院のゴーレムを俺との戦闘に集中させないように月子、五六八、正兼達のを巻き込みながら隙を窺うつもりだった。
忘れていた、たとえこれがチーム戦だとしても俺達二人の勝負でもある。こんなセコイ戦い方じゃあいつに申し訳ない。
「月子、悪いんだが五六八の他にも正兼君の相手もできるか?俺は三光院の相手で手一杯に成りそうなんだ。」
「難しそうだけど任せて。」
二つ返事で返してくれた月子が俺の顔を覗きこむ。
「嬉しそうな顔してる。勇吾君にとって輝兼さんはライバルなんだね。」
「あー、そうかもな。前にさアイツが最初は嫌な奴だったって話したろ。」
「うん。でも途中から凄く仲良くなったんだよね。」
「凄く仲良くは無い!普通。…まあ、信頼してるし友達だとも思ってる。恥ずかしい話、最初にアイツをコテンパンにしてやった時に名門のボンボンをぽっと出の俺が倒してやったん、どうだザマー見ろとか少し思ってた時期があってさ。」
月子と並んで話しながら昔の自分を思い出している。
「意外だよ。勇吾君がそんな事思ってたなんて。」
「だろ?今でも恥ずかしいよ。そんな俺にさ屈託無く近づいて来てくれたのはアイツが初めてだった。負かした相手に友達になろうって言って来たんだ。」
 最初は邪険にしてたけど根負けした俺はいつの間にか普通に話すようになり、気兼ねなく話が出来る唯一の友人になっていた。実技演習を重ねる毎に縮まっていく差に驚きと嫉妬を覚えながらも肩を並べる相手が居てくれる事は俺自身の成長にも繋がった。アイツが俺を追いかけてくれる限り情けない姿を見せる事が無い様にと励みになった。
「月子、加勢はしないでくれ。」
「分かってる、勇吾君を信じてるから。」
俺の意を汲んでくれた月子に感謝しつつ明日の対決に備える事にした。
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