龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第7話ー7

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「月子さんなら一足先に姉さんに付き添って医務室に行きました。先輩も一緒に行きますか?あの攻撃を受けて大丈夫な訳無いでしょうし…大丈夫そうですね。不死身ですか?」
そんな訳無いだろうとツッコミたかったが実際怪我はほぼ治癒しているので問題は無かった。ここまで異常な回復力を自分で体感すると空恐ろしくも感じる。
「いや、一度控え室に戻ってから顔出すよ。」
「そうですか。では、兄さんを連れて行きますので。」
正兼君は軽く会釈をすると三光院を担いだゴレームを連れて医務室に向かっていった。連れられて行く三光院を見ると目が合う。俺を見て弱々しく笑うあいつにこれ以上かける言葉は無く俺は無言で見送った。歓声はまだ聞こえてくる。不意に見上げた先に劉鴻釣の姿を見つける。わざわざ観客席で見に来ている彼は妙に満足そうな顔をしているように見えた。
それと、VIP席みたいな所で缶ビール片手にニヤついて見ている兄の姿を見つけてしまい何だかどっと疲れてしまう。
「…あとで十子姉さんに言いつけよう。」
昼真から酒飲みながら観戦している不良教師には弟として制裁を与えねば成らない。うん、たまには怒られた方が良いよあの人。
少し気だるい体に発破を掛け俺は試合場を後にした。
          ・
          ・ 
 一方医務室に向かう三光院兄弟。
「あーあ、また勝てなかった。悔しいな、今日こそ勝てると思ったのに…クソ!!クソ!!……悔しいよ…」
輝兼は手で顔を覆いせめて泣き顔は見せまいとしたが涙と嗚咽は止める事が出来なかった。正兼は悔し涙を流す兄の涙が止まるまでゴーレムの進行を止めさせた。数分後少し目を貼らした輝兼が力無く弟に向かって声を掛けた。
「ありがとう。情けない所見せちゃったかな?」
「いえ、兄さんは情けなくないと思います。だけどそこまで悔しい思いをするかもしれないのに先輩との勝負に固執するかが分かりません。兄さんは確かに天才です、ですが兵頭先輩に比べれば明らかに戦闘では一歩劣ると思います。兄さん自身もそれは分かっているんじゃないですか?」
弟の的を居た言葉に苦笑いを浮かべながらもそれでも三光院輝兼には兵頭勇吾に挑戦し続ける理由と矜持がある。

「まーくん、勇吾クンは僕にとって恩人なんだ。世間知らずで天狗だった僕に上がある事を教えてくれた。今日だってそうさ最高傑作だと思っていたあの子でも勝てなかったならまだ僕はもっと上を目指せる。彼に挑み続ける限り僕の成長は止まらない。」
実際彼が作り上げたゴーレムは強かった。昨年までの勇吾なら勝っていたはずだ。その背中に手が届きそうな感覚が有ったからこそこの敗北がとても苦く悔しいのだろう。
「そう言うの…理解できないです。」
少し淋しそうに呟く弟を見て微笑む輝兼。
「まーくんにもライバルが早く現れるといいね。」
兄の言葉に少し驚いた、自分の感情が上手く解析出来ない正兼。でも見透かされている様な気分に成り顔を背けた。
「要りません。そろそろ医務室に向かいます。」
「そうだね、優しく運んでおくれよ。」
輝兼はゴーレムに揺られながらも可愛い弟に早く心許せる友人が出来る事を切に願った。
         ・
         ・
「うがー!!悔しい超悔しい!!あと体がダルイ!右手が痛い!おなか空いた!」
「五六八ちゃん、暴れちゃ駄目だよ。チョコ上げるから我慢して、はいあーん?」
「あーん、甘い美味い!しかし!それだけじゃ足りない!」
全身に医療用の札を貼られ右手は包帯が幾重にも巻かれている痛々しい姿のはずなのになぜかそうは見えない程元気いっぱいの五六八を看病?している月子が医務室に居た。
「うー、右手が痛いのは自業自得だけど全身の気だるさはなんなんだろう?食欲はあるから風邪じゃない!」
「うちが打った暗剄が五六八ちゃんの気を乱しているからだよ、普通は食欲も無くなる筈だけど五六八ちゃんの回復力が凄いって事かな?」
ちなみに暗剄とは外傷を残さず剄を相手に打ち込む事で昏倒もしくは殺傷も可能な武術の奥義の一つとも言われており中国武術の達人と言われる人達の中には牽制の突きで終わらせる者も居た。
「おーい、月子居るか?入っても大丈夫?」
「おっ!ゆうごっち大丈夫だよ!」
「駄目だよ!上着てから!まだ入ってきちゃ駄目だよ!」
医療用の札は直接体に貼り付けないと効果が無い為五六八は礼装を脱いで上半身は何も身につけていなかった。急いで五六八に上着を着させる月子。
「はー、いいよ。」
恐る恐る医務室に入る勇吾、試合直後だった所為か危険察知能力が鋭くなっていたお陰でラッキースケベ→月子の制裁→大怪我は回避された。
「お前な女性としての慎みを覚えろよ。危うく俺がぶっ飛ばされる所だったじゃねぇか!」
「メンゴ!」
てへ、と言いながら可愛らしく舌を出しているが全く反省していない様子の五六八を苦々しく見る勇吾。上着の袖口から見え隠れする治療札の枚数を見て激戦だった事をうかがい知ることが出来た。それを見て月子の体の様子も気になった勇吾は…
「月子、万歳して。」
「なんで?」
「いいから。」
「?こう。」
両手を挙げた月子の上半身の礼装を鳩尾部分まで捲り上げると治療符の貼り付けられている部分を触り骨や内臓に異常が無いか確認する。いきなり上着を捲り上げられて一瞬固まる月子だが腹部や脇腹を直接触られて正気に戻る。
「なっ、何するのよ馬鹿ー!!」
普段ならこの様な行為をされれば間髪入れずに鉄拳制裁だが諸手を上げてしまっている状態な上に肌を触られていると言う状況で非難の声を上げるしか出来なかった。
「んだよ、急にでかい声出すなよ。中々良い治療符使ってるな麻酔効果も付与してるのかあばら少しイッてるけど痛みは無いみたいだ。中も大丈夫か?」
「そんなに触らないでよ。ん!」
勇吾は真剣そのものだが回りから見れば少女の体を弄り続けている変態にも見えなくも無い。大らかな気質の五六八でさえ若干引いている。
「なんか触り方エロイ。」
「何がだよ、触診は基本だろ?それに月子だって分かって、
ま・す・よね?」
只ならぬ気配に恐る恐る上を向くと顔を真っ赤にした月子が拳を握り締め今まさに振り下ろさんとしていた。その拳が自分の顔面に届く刹那の時間にとりあえず謝ろうかなと考えたが。
「ごべ!!」
謝罪の言葉を言い切れずに床に沈んだ。
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