龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第8話ー3

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 伏姫の加護を受け再び柾陰と千草へ挑む四剣士。その動きは先程とは別物になっていた。鋭さを増す攻撃と絶え間無い連携に観客は思わず息を吞んだ。四剣士は互いに目配せする事無く完璧な連携を行っている、それはまるで相方が次に何をするかが分かっている様な動きである。4人が何故そのような事が可能かと言えば一重に霊玉の力である。霊玉は4人の能力を最大限まで向上させるだけでなく彼らの思考を伏姫
に伝え寸分違わず時間差無しで最的確を4人に伝えているからだった。4人分の思考とそれに伴った戦略を絶えず思考し続ける事が彼女脳にとってどれ程負担になるか想像も出来ない、死地に赴く剣士達と命を削り続ける主君この明確な始終関係こそが彼らを縛り付ける500年の呪い。重く硬い鎖の様に彼らを縛り続ける。

 「獲った!」
志乃の小太刀が柾陰の首筋に迫る、木刀で払う事が出来ないと悟った柾陰は咄嗟に体を捻りその小太刀を素手で掴むと志乃ごと宗佑に放り投げる。
「ちっ、あと少しだったのに。」
「不味いぞ志乃、奴さんの目。ありゃマジになったぜ。」
飛ばされて来た志乃を受け止めた宗佑は彼女を抱えたまま後ろに下がる。柾陰の只ならぬ気配に直感的に距離を取ってしまった。
「お見事!里見の剣士。一瞬背筋が凍った!然らば次は俺のこの剣を奮わせて貰おう。受け止めてくれるな?」
会場に響き渡る大声にすら圧力が掛かる。それをまともに受けた志乃と宗佑には巨大な肉食獣の咆哮に聞こえた。捕食者が獲物に向けて今から食べるぞと言っている様に聞こえた。

 柾陰は八双の構えよりやや低く木刀を水平に寝かせ体の重心を左足に掛ける特殊な構えを取り大きく息を吸い込んだ。
「壱ノ太刀雷光」
一閃、瞬きの中の出来事だった。避ける事も受ける事も出来ぬまま志乃と宗佑は同時に観客席の壁に叩き付けられる。
暫しの残心の後柾陰は薙ぎ払った二人に一瞥する事無く木刀を担ぎ元居た場所に戻って行く。壁に叩きつけられた二人は立ち上がる事が出来ず意識を失った。
「志乃!宗佑!」
二人と霊玉で繋がっている伏姫二人の状態が如何に危険か分かっていた。礼装に刻まれている防御術式は柾陰の一撃で全て破壊され生身の体を守るすべなく壁に叩きつけられた。
体を動かすどころか息をする事もまま為らない状態である。
二人の元に駆けつけたい衝動を堪えながらまだ決着が着いていない道雪と源八の戦いに集中する。

 「火遁、地走り三連!!」「連縄、大蛇舞!!」
地面を火炎の波が重なりながら千草に襲い掛かり逃げ場を奪うように自在に動く鋼鉄製の縄が左右から足元に狙いを定めた。しかし千草は炎の波を恐れる事無く正面から受けて立った。今まで腰に佩いたままの木刀を逆手に握ると居合い抜きの様に切上げる。その剣圧は炎の波を切り裂き道雪の元までの道を作り上げる。割れた波の向こうから此方を見据える千草と目が合った瞬間、道雪は自身の敗北を確信した。何故なら残酷なまでに穏やかな表情で彼を見る千草の顔に脅えてしまったからである。それは絶対的強者の余裕、圧倒的な実力差の前に道雪は動けない。たん!と軽い足音共に千草は一足で間合いを詰める。
「おやすみなさい。」
千草の掌打が道雪の顔面を捉える。決して凄い威力の一撃に見えなかったが道雪はその場に崩れ落ちた。
「道雪!この!!」
千草を捕らえられなかった源八の鋼縄が空中高く舞い上がると勢いに任せて彼女に振り降ろされるが千草は倒れている道雪を片手で持ち上げると自身に振り下ろされる鋼縄に向けて放り投げる。まさか道雪を盾にするとは予想できなかった源八は力任せに攻撃の軌道を変えようとする。
「間に合え!」
二本の鋼綱は道雪を避け地面を叩く。仲間を傷つける事を避けられたが源八の顔は青ざめていた。そう目の前に千草が微笑んで立っているからだ。
「優しいのですね。」
現八が意識を失う前に見た最後のその笑顔がとても恐ろしく見えた。

 「さて、貴女の剣士達は全て倒れました。面倒なので降参してください。」
千草は伏姫に降服勧告を行うが…
「臣下が私の命を全うしたのに私が何もせずに降服なんて出来ますか!」
「そう言うと思っていました。えい!」
千草は伏姫の首筋に手刀で軽く打撃を入れると彼女は力無くその場に倒れてしまった。
「イヤー済まんな千草。女性を攻撃するのはどうにも苦手でな。剣の道に男も女も無いと分かっていても難しい。」
「何言ってるの?さっきアンタガ斬り飛ばした中に女の子居たでしょ?うわ、気が付かなかったの。サイテー!」
「ほんとうか!不味い!大丈夫か君ー!!」

 『いやー何度見ても伽島、香澄チームの圧倒的な強さには惚れ惚れしますね。この戦いを振り返ってどう思われましたか神代教官。』
『地力の差が明確に出たな。里見チームも決して悪いチームじゃないただ相性が悪い。ブルドーザーにレーシングマシンで突っ込んでいったらそら負けるはな。里見の嬢ちゃんがいくら強化術式を付与させても前衛の連中の実力が伴って無ければこの戦い方じゃ嬢ちゃんに負担ばっかり掛かるだけだ。今日怪我した4人、残りの4人。もっと修行しろ。そんなじゃ里見八犬士の名が泣くぞ。』
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