龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第8話ー4

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 本戦初日を終えて翌日の早朝。師匠の霊薬を飲んでいるお陰で体調はすこぶる良好で日課のランニングも問題無く出来ている。どうやって飲んだかって?知ってるか?鼻を抓みながら物を食べると味が分からなくなるってヤツ。用はそれをやって飲んだら不思議な事のに大丈夫…嘘だよ。我慢しての飲み込んでるんだよ。試合の後三光院を騙して飲ませた後に引き付け起しているあいつを見てやっぱり確信したね。あれは人類が飲んではいけないものだって。でも効果は凄いんだよな…あの味さえ何とかなればな…
「ねえ勇吾クン、なんでうちまで走っているのかな?」
「なんだ、修行に付き合うって言ったの嘘か?それに…」
「なによ?」
「自堕落全開でスナック菓子食べていたら贅肉着くぞ。」
「うっ!いつもは間食しないもん。昨日はたまたまだよ。」
俺の言葉に若干焦りながらも反論してくる月子だけど実際の所は人間の俺と龍族クォーターの月子では消費するカロリーとかは全然違うのかもしれないのであの大食いで太らないのも納得出来る…かもしれない。??だとしたら月子以上に食べている彼女は…いやこれ以上はなんか怖いので止めておこう。

 学園をぐるっと一周して大体10キロ程の道程なんだが月子は難なく付いて来た。筋力は普通だけど体力や足運び、体幹のバランスの良さは俺以上だろう。よほど師に恵まれたのだと思ってしまう。どんな修行をしてきたのか聞いてみたくなった。
「初めは姉様が体が弱いうちの事を思って健康体操のつもりで教えてくれたのが最初かな。3歳ごろかも?」
「太極拳みたいなものか?」
「そっ、ゆっくりと足首から膝、腰から背中、腕や手首で円を描いて氣を錬るんだって…こんな感じに。」
月子が見せてくれた動きは俺の知る太極拳とよく似ていた。
俺も真似して月子と見比べると彼女の動きはとても洗練されていて思わず見入ってしまう。一般的に太極拳は健康を維持する為の体操の側面が強いけど実際はこれほど氣を練り上げる事に特化した武術は無い。
「一年程続けていたら自分でも分かるくらい元気になって、体を流れる氣を感じたり経絡の位置が分かるようになったのを姉様に話したら姉様凄く喜んでくれて『小月シャオユエは天才だ!叔父上に稽古をつけて貰おう!』それからは姉様と一緒に師父に師事してるんだよ。」
 天才、確かに月子の才能は凄い。俺が師匠に氣の練り方を教わってもそれを体感出来るようになったのは随分後で氣の使い方を意識する様になったのは十子姉さんに師事してからだった気がする。俺の場合は4年掛かった。
「でも最初の3年間はずうっと一つの型しか教えて貰えなくて毎日、毎日これだけ繰り返していたよ。でも今なら分かるよ。これがとても大切だって事が…」
月子が見せてくれる最初に教わったその型の意味。武術の核に成る動きを最小、最短で纏めた動き。足捌き体捌き重心の移動全てが凝縮された無駄の無い型だった。月子も天才ならこれを作り上げた人はそれ以上だろう。
「月子の師匠って龍族なんだろ?でも龍族の人が武術をやるってあんまり聞いた事ないけど?」
「そうだね。うちと姉様と師父くらいだと思うよ。」
龍族、彼らは武術を必要としない。種族として地上最強、生れながらの強者だ。末端の龍族にだって高位の術者が束になってやっとこさ勝てるかどうかだろう。そんな龍族の王家の血筋であろう月子の叔父は何故わざわざ武術をやるのか疑問だった。

「うちも聞いた話だけど…叔父上様は少し昔に人に変化して此方の世界を旅していた時期があってその時にこの武術を習ったらしいの。本当はお爺様の後を継げるほどの方なのに全くそう言う事に興味がみたいで王宮を抜け出しては一人で此方の世界を見て回られたみたい。」
「確かに変わった人だな。次期黄龍帝の座に興味無しか…
じゃあ、月子達の武術は人が作り上げた武術って事か?」
「そうだよ。うち達が使うこの『龍把拳』は元は『静把拳』と言って旅先で出会ったお年を召したお坊様に習ったそうで叔父上様は旅先でその方に負けたそうなの。」
信じられない話を聞いている。龍族のしかも次期黄龍帝候補が人間に負けた!?本当にその坊様人間ですか?
「人の姿のまま勝負して一撃も入れられなかったって。叔父上様は人の戦う技術とお坊様の人柄に感服して弟子入りしたの。叔父上様はその後のお坊様との話をいつも楽しそうに話されていたわ。お坊様、つまりうちにとっては大師父が亡くなるまで此方の世界で共に旅を続けたんだって。」
俄かに信じられないが月子の叔父さんが言うならそうなんだろう。まあ確かに世界各地には竜退治の話はいくつかある。
この話もその一つだと思えばいいのかな?真正面から龍を倒す拳法家か…世界は広い。

 ランニングを終えて月子と軽く組み手をした後は汗を流してから食堂に向かう。既に一学期の授業は無いのでこの時間から食堂に来ている生徒も疎らだった。今日の本戦は午前中の第三試合のみで成杜先輩のチームと小松先輩のチームが行われる。抽選でシード権を引いた留学生の劉鴻釣チームは明後日の準決勝で今日の勝者と試合になる。やはり妙に気になるチームだ。特筆して能力がずば抜けている訳でも無い、しかし底が見えない不気味さと劉鴻釣、彼があの時見せた俺への表情が気になっていた。
「…勇吾くーん、要らないの?要らないならうちが食べちゃうよー、いただきます!」
「こら!人が考え事している隙になにフルーツヨーグルト取ろうとしてんだよ。何だよその目…あげないよ。駄目だってそんな目をしても…分かったよ。」
 …最近月子に対して甘くなってないか俺?まあ我侭言ってくれるのも悪い気がしないしこの後明日の試合に向けての最終調整にも付き合って貰うのだから多少の事なら目を瞑りたい所なんだが…
「まって月子。俺言ったよね。今月お財布もうピンチだって。お願いだから無言で食券機見るの止めて。」
「みっ見てないよ!さーてお腹も一杯になった事だし修行修行!アデリアさーん今日の日替わりランチなんですか?」
そう言いながら既にランチを射程圏内に入れているのは何故何だろうな?…今食べたばっかりだよな?
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