龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第8話ー5

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 朝食を取った後は月子との組み手を何度も繰り返す。鈍ってしまった感覚を取り戻す為に五甲兵装術は封印し自分の感覚を磨ぎ直す事に腐心した。一度着いた癖は中々直らず元の感覚を取り戻すのは昼近くまで掛かってしまい何度も月子に吹き飛ばされてしまった。
 感覚を取り戻せた実感も有り体の錆の様な物も取れた気がした。あれだけ殴られた後でも心なしか体が軽かった。
昼食は珍しく俺も大盛りで頼んでしまったが体が求めていたんだろうか?珍しく平らげる事が出来た。追加デザートを買いに行こうとする月子を静かに牽制し午後の修行に戻る。
一昨日くらいから夏季限定のデザートメニューが始まったらしいがまだ食べていないのと月子が懇願してきたが却下すると自分の財布を珍しく開けて中を確認している。可愛いがま口財布の中身は小銭が少々しか入っていなかった。無計画ココに極まる。悲壮感を漂わせている月子が可哀想になってしまったので…
「…はぁ~本戦終わったら好きなだけ食べさせてやるから今日は我慢しろよ。」
「ホント!ホントにホント?!やったー!」
こういう所はまだ子供だよな。そして俺も甘いな…後にこの甘さが俺のお財布を直撃し酷い目に合う事が目に見えているのにな…凄く嬉しそうにしている月子の姿を見つつ密かに財布の中身を確認する……!ヤバイです!

 午後は師匠も指導に来てくれて三光院達との試合の反省点を踏まえての訓練になった。俺は術式の基礎と最適化、魔力をもっと効率良く使えるようにする事が必要と言われた。身体強化を常に最大限に行いつつ五甲兵装術も使いこなす事。
割とこまめな魔力管理を要求される。一方月子は防御と回避の強化が課題になった。実は月子、初手で押し込まれた時の対処の仕方が弱い。月子の戦法は一撃必殺かつ連撃で相手を封じ込める力技に頼る所がある。力の差が有る相手ならそれで十分だろうけど次の試合はあの二人。逆に格上の相手には通用しないだろう。
「月子殿、集中力が落ちているぞ。どの様な状態になっても常に視野を広く、感覚を鋭く。この程度の小石を避けられぬのであれば次の試合で地に伏す事になるぞ。」
師匠は俺と月子の組み手の最中にも不意を着いて石を投げてくる。段々と投げる頻度と速度を上げていく師匠にわが師ながら容赦が無いなと思って居るとたまに俺にも投げてくるので気が抜けない。明日が試合だから時間が無いからと言って付け焼刃を赦さない所が師匠らしい。

 数時間後、流石と言うべきなんだろう。月子は見違えるほどの上達を見せた。知覚の強化は一朝一旦で出来るものじゃない五感全てを強化しつつそれに見合う身体能力を要求される。最初は感覚と体が追いつかない事が壁になり鋭くなりすぎた感覚に酔ってしまう。これを自分の中で上手く折り合いを着けないといけない。正直コツと言うのが無く個人差が大きいのでアドバイスのしようが無い。
「大変宜しい。月子殿、今の感覚を忘れぬように…それにしても勇吾、お前は及第点だ。練成速度が遅い、魔力を使いすぎる、まあ多少良くなったがな。」
「俺への当たり強すぎませんか!俺も褒められて伸びるタイプだと思うんですけど!」
「馬鹿者!出来の良い子と悪い子には教育の仕方が変わって当たり前だ。我輩も月子殿の様な出来が良く聞き分けの良い子が弟子に欲しかった。勇吾も昔はあんなに良い子だったのに今では…はぁー。」
うわ、マジの溜息吐きやがったな!ムカツク!!…でもまあ術式の最適化は割りと難航した。今まで槍などを一つ練成するのに使っていた魔力を何とか半分ほどに出来るようになった。目標としては3分の1にしたかったがそれでもこれで今までの二倍は練成出来る計算になる。何だかんだ言って流石は師匠だよな。教え方が上手い。アルバイト感覚で担任してる誰かさんも見習って欲しいものだ。

「ぶえくしゅーん!!うが!!」
「汚い、手を押さえてクシャミをしろ。粗忽者。」
職員室の一角で大げさなクシャミをしている神代礼司に目つきの悪い不機嫌そうな痩せ過ぎの男が抗議する。
「すんません。誰か俺の悪口言ってる気がするんすよ。」
「されるだけの事をして来ているだろうお前は。」
射殺す様な目つきで礼司を見る男は喋りながらも手を休めず黙々とパソコンで作業を続ける。
「人聞きが悪い事言わないでくださいよ。白沢はくたく先生。」
「しらさわだ。その呼び方をするな、僕には過ぎた名だ。」
「相変わらず謙虚っすね。御大達だって認めてるでしょ。」
「武部先生や赤司先生が認められても僕にはまだ荷が勝ちすぎている。それより手が止まっているぞ、報告書は今日中に出せ。終わるまでは帰さん。」
「うへぇー、やりますよ。こう言う仕事苦手なんだよな。外に出張ってる方が俺に向いてる。」
「苦手でもやれ。給金を貰っている以上それも仕事だ。」
暫く黙々と手を動かしている二人だったが礼司が小さな声で呟く。
「偽装術式は出来ました。この程度の声ならあのババァの耳には届きません。」
「口が過ぎる。目上の女性に対してもっと敬意を払え。それで、やはり彼女が裏で動いているのか?」
「上手く隠しているようですがね。入学式前日に白銀月子を襲わせたのもあのババァの差し金でしょう。」
「相変わらずだな傾国。お前の賭けが勝るか彼女の罠が勝るか…とんだ化かし合いに巻き込まれたものだ。」
白沢が少しだけ笑うと礼司は目を丸くして驚いた。
「笑えるんですね。初めて見ました。」
「下らない事を言う暇が有るなら仕事をしろ。」
白沢は死神の様な眼差しで礼司を睨むと再びパソコンに向き合い仕事を開始する。
 
 実戦演習本戦の裏側で大人達の水面下の戦いも始まっていた。その事を俺たちが知ったのは決勝戦の後だった。
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