龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第8話ー7

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『実戦演習本戦も5日目の準決勝です!この試合も毎度同じみ綴谷が実況をお送りします。そして今回はなんと特別解説として学園長先生をお招きしています。いやー駄目もとで頼んでみるものですね。頼んだ手前こう言うのもなんですが上のVIP席の方は宜しかったのですか?』
綴谷が観客席の後方にVIP席を覗くと白いスーツの学園長がこちらに向かって手を振っている。
『分身を置いてきているので大丈夫。あそこ高過ぎるから良く試合見えないのよね。それと冷房の温度少し高くない?暑くて仕方ないわ…脱いじゃおうかしら?』
学園長がスーツの上着に手をかけると解説席の周りの生徒達がざわつき始める。長い黒髪の隙間から白い肌が見え全方向無作為に色香が放出され始める。
学園長こと九重環が『傾国』と呼ばれる由縁の性質、いや業と言われるかもしれない。無自覚のまま男性を魅了してしまう。僅かながら漏れでた微量の色香でさえ既に十数名の男子生徒が前後不覚な状態に陥っている。
『スタッフー!!冷房下げて!!申し訳有りません学園長、ココで脱がれると健全な男子学生がおかしな事になるので止めて下さい…ホントマジで!』

『ごめんなさいね、気を付けるわ。』
綴谷が偶然?持っていた消臭スプレーを周りに振り掛け捲くりなんとか騒動は鎮静化した。おっとりとした口調で謝罪している学園長を恨めしそうに見る綴谷だが手に巻いている時計を見ると抗議する時間も余り無いのに気が付く。
『ふーう、そろそろ両陣営の入場になります。今回の優勝候補伽島柾陰と香澄千草チーム対現役特技武官兵頭勇吾と銀色の閃光白銀月子チームの対戦です。両チーム学園内でも屈指の実力者達です。実質的な決勝戦と言っても過言ではないと思うのですが学園長はどう思われますか?』
『白銀月子さんは今年に入っての入学者なのでその実力は今回の演習でしか見ていませんが他の3人は学園開校以来のとても優秀な生徒達です。特に伽島君は実技演習で無敗。これは生半可な修練では成し得ない素晴らしい事です。あとの二人も学業実技共に大変優秀な二人です。そんな彼らの試合なのですからどちらが勝ってもおかしくないでしょう。』
『当たり障りの無いコメントありがとう御座います。しかし我々が独自のルートで調べた結果、圧倒的に伽島・千草チームに軍配が上がるとの予想が出ていますが?』
先程の意襲返しなのか少しとげのあるコメントを返した綴谷だったが学園長は意に関せずコメントを返す。
『いい?勝負に絶対は有り得ない。圧倒的な実力差が有っても相対した時点でどちらが勝つかは分からないものよ。それが例えば像と蟻ほどの実力差でも蟻が象に勝ってしまう事が起こり得る、1万分の1なんて奇跡に近い確立が起こるのが勝負というものよ。』
『なるほど!勝負は終わるまで分からないと…勝負は時の運と言う事でしょうか?。』
『あら、綴谷さん。それは違うわ。勝利を得る為に負ける事を拒否し続ける事ができる者が勝利者なの。勝負に時の運なんて存在しないのよ。』
学園長の言葉の意味が分からない綴谷は首を傾げる。
『では何がその奇跡のような確立を引き寄せるのですか?』
学園長は綴谷の言葉に少し考えると何かを思い出したのか、その彼女の顔を見たものは身が竦む思いをしただろう。とても美しくそして愉悦を孕んだ笑顔で言葉を続ける。
『意地よ、絶対負けたく無いと膝を折る事を自身に赦さないとんでもなく意地張りの蟻が像を殺すの。』
その笑顔を見た綴谷は体の芯から震えがしていた。綴谷一族は最も古い術者の系譜の一つとしてこの国の表と裏の歴史の一つ一つを備に記録し続けた。彼らの祖先の一人はかの『古事記』編纂折にも稗田阿礼に協力したと伝わっている。
そして、その一族の記録の中にも存在する学園長と同一の存在である『大妖』を隣で微笑む彼女の中に再確認し背中にじっとりと汗を掻きながら内心震えていた。
『・・・あっ!そろそろ準備が整ったようです皆様両チームを拍手でお迎え下さい!!』

 試合会場の扉の先から観客席の声が洩れ聞こえて来る。
体をほぐしながら入場の合図を待つ勇吾と月子、その顔にはほんの少し緊張と闘志に満ちた目が輝いている。
「そろそろか、月子。合図聞き逃さないでくれよ。」
勇吾はそう言うと月子に向けて握り拳を差し出す。
「勇吾君こそ夢中になって忘れないでよね。」
差し出された拳に自分の拳を合わせる月子。
会場の準備が整った。扉が開き怒号の様な歓声が二人を包み込むがその声は二人には届いていない。そう、既に二人の意識は視線の遥か先でこちらに向かってくる対戦相手の二人に向けられているからだ。伽島柾陰・香澄千草、二人の気迫が遠く離れた二人に伝わって来ている。特に千草の月子への殺気にも似た気迫を受けた月子は冷静で居ながらも静かに闘志を滾らしている。お互い臨戦態勢である。
 
 『では!準決勝開始です!!』
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