龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第9話ー1

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寝付きは悪い方ではないそれでも月子の事やちぃ姉ちゃんの事を考えると目が冴えて殆ど眠れなかった。うとうとし始めた時には空は白み始め日課のランニングの時間だった。眠い目を擦りベットから体を起すと最初に目が行くのは月子の部屋と繋げている扉だった。昨日の夜に見た泣き腫らした月子の顔が蘇る、彼女の事を分かっている気がしていただけで結局は何も出来ずにいる自分が歯痒くなり無償に苛立った。

 足取りが重い、まだ昇りきらない朝日が妙に眩しく感じていた。睡眠不足とスッキリしない気分を抱えたまま惰性でランニングを続けていると背中に激痛が走った。
後ろを振り向くと何故か怒っている五六八が睨んでいる。
「勇吾っち、無視すんな!ボクが何回もおはよー!って言ってるのにどういうつもりだこんにゃろー!!」
痛みの原因は彼女の放った蹴りだった、見ると背中に足跡がついていた。よっぽど声を掛けてくれたのだろう、ボーっとしていた所為で全く聞えていなかった。
「ごめん、本当に気が付かなかった。」
「何だよその顔、クマ出来てるぞ。大丈夫か?もうしょうがないなこれ飲んで元気出せ!」
五六八は腰に下げているポーチから水筒を取り出して俺に差し出してくれた。以外に気が利くなっと思いつつ有り難くいただく事にするが蓋を取り注ぎ口を開けた途端、眩暈を覚えるデジャブが頭を過ぎる。
「…これどこの誰が作った劇薬ですか?」
「ボクの最近の一押しドリンクでお師匠先生に分けて貰ってるんだぜ!」
出た!そしてまさかの感染者が出現していた。冗談だと思いたかった、しかし彼女の顔は嘘や悪意ではなく完全善意で俺に勧めて来ている。俺は今どういう顔をしているだろう?顔が引きつってなければいいな…満面の笑顔で俺が飲むのを見ている五六八の善意を裏切る事は出来ない。
「・・・イタダキマス。」

 喉に残り絡みつく果肉、口の中を蹂躙し続ける独特な苦味エグミ酸味に悪意の甘味、そして暫くは取れない鼻に着く危険臭・・・前よりヤバクなってる!!改良されてねぇよ!いやされてるけど悪いほうに進んでるから!何考えてんだ師匠は!コップ代わりの蓋一杯で体の疲れは吹き飛んだけど精神的なダメージは蓄積された気がした。しかも俺の横で水筒から直に喉を鳴らして飲んでいる五六八を見ているだけで気が滅入りそうになる。
「念の為に効くけど我慢して飲んでるんだよな?」
「ガマン?なんで?美味いじゃん、ちょっと癖が有るけどまあそれが癖になるって言うか。よし!元気百倍!」
これをスポーツドリンクの様に飲み干せる君が俺にとっては恐怖の対象だ。
「どうかした?まだ元気でないの?もう一杯いっとく?」
「いやいや、肉体的には大丈夫だ!…ただちょっとな、気掛かりな事があってな。なあ五六八、頼みがあるんだけど聞いてくれるか?」

 五六八に頼みたい事は勿論月子の事だ。俺では触れられない事で思い悩んでいる気がする、なら彼女の友人である
五六八なら少しは月子も悩みを打ち明けられるのではないかと思いついた。他力本願になってしまうのは情けない話だが少しでも月子が元気になるならこの際何でもいい。
「喧嘩してるって訳じゃ無さそうだね。」
「喧嘩だったら良かったんだけどな。」
二人で芝生に腰を下ろして汗を拭きながら昨日起きた事を話した。五六八も真剣な顔をして俺の言葉に耳を傾けてくれた。
「けっこう深刻な状態だね。うん、分かった。月ちゃんの事は任せて!それと、勇吾っちも話を誰かに聞いてもらった方がいいと思うよ、兄ちゃんあたりが良いんじゃない。
それじゃ行って来るぜ!!」
「おお、今直ぐにか!助かるよって!もう行っちまったのか。早いな、でもそっち食堂なんだけど…任せるか。」
土煙を上げながら勢い良く走り去っていく彼女に月子の事を託した俺は五六八の後姿を見送った。一人残った俺だったがどうにも部屋に戻る気にもなれず、ましてや朝食を食べる気も起きない。このままフラフラするのもどうしたものかと考えているとポケットの携帯電話が着信を告げている。発信者を見ると三光院からだった。

「おはよー、マイフレンド。マイシスターから君の相談に乗って欲しいと電話があってね、人目が着くトコだと話し難いだろう?鍵は開いているからその気になったら何時でも来たまえ。」
「話が早すぎて助かる。変に気回すんじゃねぇよ、でもそう言ってくれるのはマジで助かる。着替えたらそっち行くから。なんか買ってくるか?」
「君こそ気を使いすぎだ。珈琲入れて待ってるから手ぶらでいいよ。」
まったく、三光院兄妹の連絡の早さには驚かされる。行き先が決まった俺は自室に戻り軽く汗を流してから制服に着替える。着替えている途中でもついつい月子の部屋の扉を見てしまう。いつもなら彼女を起す時間なのに今日はノックすら躊躇している。いつもの様に声を掛ければ月子もいつもの様に眠そうな目を擦りながらドアを開けてくる。だけど昨晩の彼女の様子を思い出すと体が強張り声が出て来ない。自分がこんなにも臆病なんだと自覚する。それでも意を決して声を絞り出す。
「…おはよう、月子。」
反応は無かった。それでも声を掛け続ける。
「具合はどうだ?昨日は色々有り過ぎてあの後ちゃんと話が出来なかっただろ…お前が何に悩んでいるのか分からない、だから分かりたいと思ってる。月子、頼りないかもしれないけど少しは俺を頼ってくれ。」
月子が動く気配は無かった、まだ寝ているかもしれない。
それでも言わずに居れなかった、五六八に頼ってしまったが出来る限り俺も月子に何かしてやりたかった。
「…少し出てくるから、何かあったら直ぐ連絡しろよ。」
少しだけ反応を期待していたけど扉の向こうからの反応は無かった。仕方なく俺は部屋を出て三光院のところへ向かう事にした。
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