60 / 61
大8話-17
しおりを挟む
「ああそうだ、お前明日面かせ。柾陰も呼んで来い。」
そう言うと礼司は立ち上がる。缶ビールの空き缶を片手でゴミ箱に投げ入れると見事に入った。
「?それは構いませんけど何の御用ですか?礼司ししょ、神代先生。」
師匠と呼ぼうとした千草をだったが睨みつられたので言い直した。変な処が細かいのがこの男である。
「何チョッとしたアルバイトだ。良い鬱憤晴らしになるかもしれないぞ。」
「別に私は鬱憤など溜まっていませんが。」
少し不満そうに言う千草だがその顔を見ている礼司は意地悪そうな顔をしている。
「そうか?まあそう言う事にしといてやる。でも『月子』の名前を出した時眉間に皺が寄ってたのは気のせいか?」
そう言って手をひらひらしながら席を離れていく礼司を睨みつける千草、図星だったようで顔が赤くなっている。怒りに任せて木製のテーブルに拳をたたき付けると見事粉々に壊れてしまった。
月子は真っ暗な部屋の中ベットの上で膝を抱え丸くなっていた。子供の様に泣いて泣き顔を勇吾に見られそのうえ抱かかえられて部屋に戻って来た。勇吾の声と暖かさに触れるたびに縋り付きたくなりそう思う度に千草の言葉が胸に刺さる「うちは勇吾君の優しさに甘えているだけ。」
呟いた自分の言葉は何度も何度も月子の頭の中を廻っていくそして心も体も重くなる。体を動かす事が出来ないほどに。
だが感覚だけは鋭くなり眠る事が出来ずにいた。
眠ってしまえればどれ程楽だろう、廊下から聞える足音、窓の外から聞える虫の声、全てが煩わしく聞こえてしまう。
耳を塞ぎ更に内に篭ってしまう月子。
どれ程の時間が経ったのか解らないほど真っ暗な部屋で勇吾の部屋と繋がるドアの向こう側に気配を感じた。勇吾がドアの直ぐ向こうに立っている、しかし勇吾は立っているだけでノックをする事もなくそこに立っている。5分以上何もする訳もなく立っていた勇吾から声が掛けられる。
「月子、起きてるか?晩御飯食べてないだろ。おにぎり作って来たんだ食べないか?」
彼の声が聞こえた。それだけで私の体は正直で勝手に動いてしまう。声のする方に手が伸びてしまう。勇吾君を求めてしまう。勇吾君と話したい、勇吾君の顔が見たい、勇吾君に触れたい。だけど、それは私が勇吾君に甘えているだけで勇吾君がうちに優しくしてくれるのはパートナーだから?でも私はそれ以上の存在になりたい。私だけを見て欲しい、私だけに笑いかけて欲しい。何て我侭で身勝手な気持ちだろう、こんな気持ちのまま勇吾君の顔を見られない。きっと今の私は凄く嫌な子だ。あの人が言った言葉が今なら凄く解る、きっとうちは彼との関係を壊すのが怖い。このままでも勇吾君さえいてくれれば幸せだと分かっている。
でもそれは一緒に闘うパートナーのままでいつか別の人が勇吾君の隣に居るのを後ろから見ている事しか出来ない。
そんなのは嫌だ、嫌だ・・・だけどそれを思う権利すら私には無い。だってこの想いを彼に伝える勇気が私には無い。
それでも目の前に在る彼の優しさに縋りたくなってしまう、
なんて卑怯でずるい、弱い存在なんだろう。
結局私は彼の声に返事する事が出来なかった。こんな情けない姿を見せられなかった。扉が少し開いてた。私は彼が入ってくると思い身を強張らせる、だけど直ぐに扉は閉まりそこにはお盆に載ったおにぎりが4つ。食堂で見かけるおにぎりよりも少し大きくて歪な形をしている。直ぐに彼が握ってくれた物だと分かった。そのうちの一つを手に取り一口頬張る、少ししょっぱかった。涙が止め処無く溢れる、彼の優しさが伝わる。さっきだって私に声を掛けようかずっと迷いながら扉の前で悩んでいたはずだ。彼の作った不恰好なおにぎりをもう一口かじる。彼の性格その物のようなおにぎり、
女心には鈍感なくせに優しくて私には厳しい事を言うくせにいつも私を見ていてくれる。どうしてこんなに好きになってしまったのだろう。どうして私はこんなに勇気が無いのだろう。一人ならこんなにも貴方の事が好きと言えるのに。
「好きなの・・・勇吾君の事が大好きなの。」
泣きながらおにぎりを頬張っているうちに私は瞼が重くなっているのに気が付いた。何て単純なんだろう、空腹が満たされて眠くなるなんて・・・本当に嫌になる。
月子の部屋に握り飯を届けて一時間ほど経った。ドアから離れ様子を伺った。食べてくれるだろうか?形も大きさもばらばらで我ながらもう少し器用に作れないものかと思うが味は問題ないはずだ。塩むすびで何を誇らしげに言っているのだろう俺は・・・顔が見たかったが声を掛ける事すら躊躇していた。こんな薄い扉なのに凄く遠くに月子が居る。しばらくするとドアの向こうで物音がした。俺はドアに駆け寄り中の様子に耳を当てると微かに寝息が直ぐそこで聞えた。
ドアを静かに開けると空になった盆の脇で静かな寝息を立てている月子を見つける。今さっきまで泣いていたのだろう目にはうっすらと涙のあとが残る。俺は起さないように彼女を抱かかえてベットに運ぶ。その寝顔を見ながら言いようの無い苦しさを覚える。
「月子、泣くなよ。お前の泣き顔を見ると苦しいんだ。」
そう言うと礼司は立ち上がる。缶ビールの空き缶を片手でゴミ箱に投げ入れると見事に入った。
「?それは構いませんけど何の御用ですか?礼司ししょ、神代先生。」
師匠と呼ぼうとした千草をだったが睨みつられたので言い直した。変な処が細かいのがこの男である。
「何チョッとしたアルバイトだ。良い鬱憤晴らしになるかもしれないぞ。」
「別に私は鬱憤など溜まっていませんが。」
少し不満そうに言う千草だがその顔を見ている礼司は意地悪そうな顔をしている。
「そうか?まあそう言う事にしといてやる。でも『月子』の名前を出した時眉間に皺が寄ってたのは気のせいか?」
そう言って手をひらひらしながら席を離れていく礼司を睨みつける千草、図星だったようで顔が赤くなっている。怒りに任せて木製のテーブルに拳をたたき付けると見事粉々に壊れてしまった。
月子は真っ暗な部屋の中ベットの上で膝を抱え丸くなっていた。子供の様に泣いて泣き顔を勇吾に見られそのうえ抱かかえられて部屋に戻って来た。勇吾の声と暖かさに触れるたびに縋り付きたくなりそう思う度に千草の言葉が胸に刺さる「うちは勇吾君の優しさに甘えているだけ。」
呟いた自分の言葉は何度も何度も月子の頭の中を廻っていくそして心も体も重くなる。体を動かす事が出来ないほどに。
だが感覚だけは鋭くなり眠る事が出来ずにいた。
眠ってしまえればどれ程楽だろう、廊下から聞える足音、窓の外から聞える虫の声、全てが煩わしく聞こえてしまう。
耳を塞ぎ更に内に篭ってしまう月子。
どれ程の時間が経ったのか解らないほど真っ暗な部屋で勇吾の部屋と繋がるドアの向こう側に気配を感じた。勇吾がドアの直ぐ向こうに立っている、しかし勇吾は立っているだけでノックをする事もなくそこに立っている。5分以上何もする訳もなく立っていた勇吾から声が掛けられる。
「月子、起きてるか?晩御飯食べてないだろ。おにぎり作って来たんだ食べないか?」
彼の声が聞こえた。それだけで私の体は正直で勝手に動いてしまう。声のする方に手が伸びてしまう。勇吾君を求めてしまう。勇吾君と話したい、勇吾君の顔が見たい、勇吾君に触れたい。だけど、それは私が勇吾君に甘えているだけで勇吾君がうちに優しくしてくれるのはパートナーだから?でも私はそれ以上の存在になりたい。私だけを見て欲しい、私だけに笑いかけて欲しい。何て我侭で身勝手な気持ちだろう、こんな気持ちのまま勇吾君の顔を見られない。きっと今の私は凄く嫌な子だ。あの人が言った言葉が今なら凄く解る、きっとうちは彼との関係を壊すのが怖い。このままでも勇吾君さえいてくれれば幸せだと分かっている。
でもそれは一緒に闘うパートナーのままでいつか別の人が勇吾君の隣に居るのを後ろから見ている事しか出来ない。
そんなのは嫌だ、嫌だ・・・だけどそれを思う権利すら私には無い。だってこの想いを彼に伝える勇気が私には無い。
それでも目の前に在る彼の優しさに縋りたくなってしまう、
なんて卑怯でずるい、弱い存在なんだろう。
結局私は彼の声に返事する事が出来なかった。こんな情けない姿を見せられなかった。扉が少し開いてた。私は彼が入ってくると思い身を強張らせる、だけど直ぐに扉は閉まりそこにはお盆に載ったおにぎりが4つ。食堂で見かけるおにぎりよりも少し大きくて歪な形をしている。直ぐに彼が握ってくれた物だと分かった。そのうちの一つを手に取り一口頬張る、少ししょっぱかった。涙が止め処無く溢れる、彼の優しさが伝わる。さっきだって私に声を掛けようかずっと迷いながら扉の前で悩んでいたはずだ。彼の作った不恰好なおにぎりをもう一口かじる。彼の性格その物のようなおにぎり、
女心には鈍感なくせに優しくて私には厳しい事を言うくせにいつも私を見ていてくれる。どうしてこんなに好きになってしまったのだろう。どうして私はこんなに勇気が無いのだろう。一人ならこんなにも貴方の事が好きと言えるのに。
「好きなの・・・勇吾君の事が大好きなの。」
泣きながらおにぎりを頬張っているうちに私は瞼が重くなっているのに気が付いた。何て単純なんだろう、空腹が満たされて眠くなるなんて・・・本当に嫌になる。
月子の部屋に握り飯を届けて一時間ほど経った。ドアから離れ様子を伺った。食べてくれるだろうか?形も大きさもばらばらで我ながらもう少し器用に作れないものかと思うが味は問題ないはずだ。塩むすびで何を誇らしげに言っているのだろう俺は・・・顔が見たかったが声を掛ける事すら躊躇していた。こんな薄い扉なのに凄く遠くに月子が居る。しばらくするとドアの向こうで物音がした。俺はドアに駆け寄り中の様子に耳を当てると微かに寝息が直ぐそこで聞えた。
ドアを静かに開けると空になった盆の脇で静かな寝息を立てている月子を見つける。今さっきまで泣いていたのだろう目にはうっすらと涙のあとが残る。俺は起さないように彼女を抱かかえてベットに運ぶ。その寝顔を見ながら言いようの無い苦しさを覚える。
「月子、泣くなよ。お前の泣き顔を見ると苦しいんだ。」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる