龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第5話ー4 Bパート

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 雀の鳴き声に目が覚める、久しぶりに目覚し時計より先に起きてしまった。お屋敷に居た時はもっと早くに起きて姉様と一緒に朝の散歩や鍛錬をしていたけどコチラに来てからは朝起きるのが苦手になってしまった気がする。時計を見るとアラームの鳴る時間より5分ほど早い6時25分、私はアラームのスイッチを切ると鏡台の前に座り自分の姿を確認する。今日は寝癖が着いていないのでゆっくり支度が出来そうだった、普段は目覚まし時計を無意識に止めてしまい二度寝してしまいそうになるのを彼が起しに来る事が多い。私はコチラの勉強が苦手だから少し遅い時間まで復習しないと授業に追いつけない、そんな日の翌日は決まって彼に起してもらう事になっていたが今日は逆にびっくりさせてあげられそうだ。この制服に着替えるのも大分慣れた、少しスカートの丈が短いのが気になるけどコチラ側の学生服はこれ位が普通なのだと聞いて最初は少し露出し過ぎではないかと思いはしたが郷に入れば郷に従えとの諺がある位なので私も次第に慣れてしまった。鏡の前で襟元やリボンの歪みを確認して彼がいつ入って来ても可笑しくない様に待ち構えるけれど彼の部屋からノックの音が聞こえてこない。普段の彼は私より遥かに早く起きて毎朝の鍛錬を行ってから私を起しに来てくれるが今日はその様子が無い。少し心配になり私は彼の部屋と繋がる扉を叩いた、しかしまったく反応が無い。仕方なく扉を開け部屋の中を見るとベットに横になる彼の姿に安堵して息を吐く。昨晩テーブルで彼が書いていた符紙が大量に出来上がっていた、私はそれを見て何が有ったか察した。
ベットの横に行き彼の寝顔を見る、寝息を立てる彼の顔を見ると頬が緩んでしまう。

 コチラに来て早一月そして彼と知り合って一月私は彼の人なりが最近良く分かってきた。
面倒臭がりの癖に根は真面目で人の見えない所で努力する。そんな彼を私は信頼している。それに変に頑固で時々凄く子供っぽい。そんな彼に私はいつも守られている。
「月子…」
急に名前を呼ばれてドキッとする。寝ている彼は凄く素直で寝言をよく喋る。今日も彼の夢に私が登場している、それが妙に嬉しくて少し顔が熱くなる。いつまでもこの寝顔を見て居たくもなるけれど時間が許してくれない、そろそろ起して食堂に行かないと授業に遅れてしまう。
「勇吾君、起きて!」
「あぅ、月子?今何時?・・・つっきこ!月子に起こされるなんて!」
「人にアレだけ言っておいて自分は寝坊するなんて勇吾君は子供ね?」
私に起されて珍しく動揺を隠し切れない彼を見るのが楽しくてもっと弄って上げたいけれど本当に時間が無いので早く着替える様にと言って私は自分の部屋に戻る。扉を閉めると彼の部屋からバタバタと着替える音が聞こえてくる私は一人苦笑しながら先に食堂に向かう。テーブルの上の携帯電話をポケットに入れて鞄を手に取ると玄関のドアノブに手をかけるとポケットの携帯電話にメールが入る音、確かめると彼から短い一言『ありがとう』そっけないけど彼らしいメールを見て私は玄関を出る。

一足先に食堂に着くといつもの席にいつものメンバーが私達の分の席を確保して待っていてくれた。
「おはよう、おや、今日は月子君が先かい?珍しいね、彼は?」
「おはよー!月ちゃん!」
「おはよう御座います。」
輝兼さん、五六八ちゃん、正兼君は私の大切な友人達で毎日と言って良いほど食事を共にする。三人は御兄弟で三光院家と言う日本の東北地方では有名な一族だそうです。一番上の輝兼さんはゴーレムメイカーとして日本でも指折りの術者でこの学園で勇吾君と互角に戦える数少ない学生の一人。五六八ちゃんはお兄さんの輝兼さんと違い土属性の術式を格闘術と合わせた特殊な戦闘方法を使う、私と戦い方が似てるのでとても参考になる、実は五六八ちゃんのお陰で食事の量がとても増えてしまっているけど一緒に食事が出来る人が増えたのはとても嬉しい。
最後に正兼君は輝兼さんと同じゴレームメイカーで輝兼さん曰く本当は凄い才能があるそうです。いつも輝兼さんや五六八ちゃんのフォローに回ってる縁の下の力持ちさん。凄く礼儀正しいけどたまに凄い毒舌で二人を窘めているのを見かける。
「おはようございます。勇吾君は寝坊したので今慌ててこちらに向かっていますよ。」
「なるほどね、徹夜で何かしていたのかな?勇吾クンらしい。」
私が席に着くと輝兼さんは笑っていた。私よりもずっと彼との付き合いが長い輝兼さんは何があったか凡そ把握しているのだろう。
そんな輝兼さんが私だけに聞こえるようにそっと小声で話しかける。
「勇吾クンはアレで意外と男の子なんだ、月子クンの前ではね。」
「どういう意味ですか?」
「女の子の前では男の子はカッコいい所見せたいものだよ。これは僕が言ったと言う事は内緒にしてね。怒られてしまうから。」
おどける様に笑うと輝兼さんが視線を食堂の入り口に移す、そこには少し息を切らせて入ってくる彼の姿が見えた。普段は優等生の鑑のように制服をキチンと着ている彼が今日は若干乱れていた。ネクタイも曲がっているし襟もよれている。
「間に合った!寝坊するの何年振りだよ。悪い待たせたか?」
「始めて見ました!兵頭先輩が寝坊するなんて。」
「そうだよね、今朝のランニングで会わなかったの初めてかな?」
息を整えながら席に着く彼を珍しそうに見る五六八ちゃんと正兼くん。
「さて、お寝坊さんが来た所で朝食にしようか。」
「三光院!くっ、この屈辱は今日は甘んじて受け入れよう。」
ニヤニヤしながら勇吾君を眺める輝兼さんと本当に悔しそうな勇吾君。そんな二人のやり取りを笑いながら私たちはカウンターに朝食を取りに行った。その後は輝兼さんが勇吾君をからかいながら突っ込みを入れられるいつもの朝食風景私は五六八ちゃんとちょっと量が大目のメニューを戴きながら今日の実戦演習の事を話した。

 午前中の授業が終わり教室の皆は少し浮き足立っているように見えた。私たちの教室は全員参加する為皆一様に緊張している様に見える。
神代教官が『俺の教室からは不参加する様な腑抜けは居ないと思うが万が一いたらどうしような?』と脅迫にしか聞こえない強烈な圧力を他の生徒にかけていた。勇吾君が言うように私や彼のような戦闘を主体にする生徒は割と少ない。それでも学園長先生が出してきた報酬は破格だったらしく殆どの高等部の生徒は参加を表明した。全部で40組ほどのチームが最終日までに7回の試合を行い勝利数の多いチームで夏休み前の一週間を勝ち抜き戦で優勝者を決める。私と勇吾君は勿論優勝を目指している。対戦相手は直前にならないと分からない様になっているので私も少し緊張している。そんな私の後ろに席で彼は何処吹く風で携帯電話を操作している。
「勇吾君は緊張とかしない?」
私が訪ねると彼は顔を上げていたって普通の面持ちだった。
「多少な、誰が相手になるか分からない状況でガチガチになってたら勝てるものも勝てやしないだろ?いつも道理やるだけだよ。それに…」
彼が携帯電話の画面を見ると輝兼さんとのメールのやり取りが写っている。そこには誰が誰とチームを組んだなどの情報が書かれている。
「情報収集は事前に済ませてある。ある程度の状況は把握しておかないと後手に回るのが一番たちが悪いからな。俺もあいつもこういう根回しは得意なほうなんだよ。あいつの方が一枚上手だけどな。」
私は素直に感心した、そして以外にも策士的な面がある彼に驚いた。
「でもまあ、あくまでも情報は情報で実戦となったら相手がどういう風に戦ってくるかなんて分からないから気休め程度だよ。」
そう言うと鞄を持ち席を立つ。
「あれこれ考えてもしょうがない。昼飯にしよう、それと衣装合わせだ。」
「衣装合わせ?」
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