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第5話ー4 Bパート2
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「これじゃ足りないか?」
彼が袋いっぱいのサンドイッチや菓子パンを持って午後の専行学部で使っている教室に入ってきた。本当はいつも通りに食堂で食べたかったけど今日は時間が無いと彼に言われて仕方なく教室での昼食になった。
「こんなに買い込まなくてもうちは大丈夫だよ?」
と言いながらも袋の中にたくさん入っている色々な種類のパンに目を奪われてしまう。
「たまには生協のパンも悪くないだろ。牛乳も買ってきたぞ食べようぜ。」
学園に来て以来食堂以外では食べた事が無かったので少し新鮮な感じがする、それに私たち以外誰も居ない教室で二人っきりの食事はちょっとだけドキドキした。
程なくしてお腹一杯になった私を何処か驚いた表情で見る勇吾君、最近食後にこの表情を見る機会が多いのは何故だろう?
「…少しは残ると思ったがやはりな。」
折角買って来てくれたのに残すのは勿体無いと思ったからがんばって食べたのに、本当はお腹結構一杯なんだよ。
「嘘吐け、さっき空になった袋を二度見しただろ。このお腹の何処に入るんだよ?」
じっと私のお腹を凝視してくる。本当はもうちょっと食べれるけど余り食べ過ぎるのははしたないと思ってセーブしているのだけど…
「そんな事より衣装合わせって何の事?」
「さらっと話し変えてきたな!まあいいか、実戦演習で着る専用制服の合わせだよ。こればっかりは支給されたヤツをそのまま着る訳にもいかないからな。体型に合わせるのと戦い方に合わせてのカスタマイズもしないと特に月子はな。」
「いま、凄く無礼な事考えたでしょ!」
言いがかりだよ~♪などと言ってそっぽを向く彼を問い詰めようとすると教室に誰か入って来た。
「イチャイチャするのはこれが終わってからにしな。」
気だるそうな声をさせながら始めて見る女生徒が入って来た。だらしなく着崩した制服と眠そうな目が特徴的な女性だ。
「イチャイチャなどしていません。あのどなたですか?」
「紹介する、3年生の百地三園先輩。一応この専行学部の教室長なんだけど自分の研究室から滅多に出て来ないから月子は始めて会うけどな。今日は月子の専用制服のカスタマイズに来てもらったんだ。」
大きな欠伸をしながら彼に紹介された百地先輩は今にも寝てしまいそうなほどフラフラしている。
「ここ一週間地獄だったぞ、どいつこもいつも無茶言いやがる。まあ、当面の研究費は稼げたからな…そこのちんまい嬢ちゃん。」
フラフラとした足取りで私に近づいてくると百地先輩は私をじっと眺めるとニヤリと笑う。
「兵頭に頼まれた時は耳を疑ったが、へへっなるほどね。嬢ちゃんこいつに感謝しな、アタシがあんたに最高の一着を作ってやる。」
「余計な事言わないでいいからさっさとやって下さいよ。擬似エリクサーでドーピングしながら7徹してるんでしょ?先輩そろそろ本当に死にますよ?」
百地先輩の顔を良く見ると目の下にはクマが出来ていて顔はげっそりとしている。
「余計なお世話だ、稼げる時に稼ぐのが職人なんだよ。よし!仕立てるから手前は外に出てろ!それと、覗くなよ?」
勇吾君は百地先輩に追い出されて教室の外で待つ事になった。初対面の人と二人っきりになるのは少し緊張する。緊張し強張っている私を余所に百地先輩は淡々と準備を始めている、そして百地先輩は持ってきた鞄の中から色々な道具を取り出し始めた。
「それじゃあ、嬢ちゃん服脱げ。下着まででいいから全部脱ぐなよ。」
「ここでですか!」
「たりめーだろ?服着たまんまじゃ採寸も合わせも出来ねーよ。」
「でも…」
私は教室の外にいる勇吾君の後姿を見る、すると百地先輩がまたにやりとしながら私の顔を見る。
「あれの視線が気になるか?見られたくないか?それとも見られたいのか?ははっ、可愛いねあんた、野郎の何処が好いのか分からないがせいぜい気張りな。でも。」
盛大にからかわれ見透かされた気がしたけど百地先輩の顔は単にからかっていると言う訳ではなくどちらかと言えば私を心配している様にも見えた。何故そんな顔をするのか分からなかった。だからつい聞いてしまった。
「先輩は勇吾君の事で気になる事があるのですか?私はまだ勇吾君の事を少ししか知らないから…」
「気になるね…そうだね。準備がてらの世間話程度の事だと思って聞き流しな。アタシも野郎と一緒で中等部から編入組であいつと会ったのは高等部に進学して何処の学部に入ろうかって迷ってた頃だ。」
下着姿になった私に少し厚手の紙で出来た雨合羽の様な服を被せてくれる先輩。その服の至る所に術式が書き込まれている。
「アタシの家の家業は呪具、礼装、武器に防具を造って卸すのを商いにしていてね、アタシは商売云々より物を造り出す方が好きな達で神代の宝具を超える物を造る事を目指していた。そんな時に野郎が学園に入って来たと同時に新設されたこの学部の見学に来たのが奴と最初に合った時だ。」
私を囲むように床に粉状の物で何重にも円を描いていく。
「羌先生の神代遺産の復元がアタシの目指している物に近づいて行くと確信して教えを請う事にしたんだがそこに居たのが尻に蒙古班が残っている坊主頭のクソガキが!もー目も当てられねぇくらいムカつくガキで
クソ真面目な上にガキの癖に腕も立つ、んで優等生ぶった口の利き方するだろ、何度喧嘩したかわかったもんじゃない。」
「さっきから聞こえてるぞ!」
勇吾君が廊下からコチラに話しかけてきた。それに対して百地先輩が不敵な笑みをしながら言い返す。
「聞こえるように言ってんだバーカ!今は多少マシになったけどな。」
「今も優等生の振りしてますよ。」
「つーきーこー!余計なこと言わない!」
再び廊下から不満そうに声を上げている勇吾君が可笑しくて顔が緩んでしまう。百地先輩は声を小さくして話を続ける。
「真面目ぶって大人ぶっても根はまだまだガキんちょだってのがだんだん分かって来てよ、あいつには家の後ろ盾が無いからな。この学園は実力主義だって言うが実際の所は家の格みたいなのが幅を利かせているのも事実だったから神代の旦那の弟分って事でイチャモン着けて来る奴を実力で捻じ伏せ様と無理してたんだよ。」
百地先輩が思い出すかのように目を細めて廊下に立っている勇吾君を見る。その表情に少しドキッとしてしまう、先輩の表情が凄く優しく見えてしまい、胸が苦しくなった。
「あいつが特技武官の資格を取れた時は素直に喜んだ…だけどそれが余計にあいつへの風当たりが強くなって一悶着があった。」
「聞いてます、輝兼さんとの事ですよね。」
「テルの奴は気のいい男だからな。奴のお陰で勇吾への当たりはだいぶ和らいだ。アタシも安心してさ珍しく奮発してアイツ用の戦闘礼服を造ってやったんだがその時に普通は絶対組み込まない術式を施させられた。それがよりにもよって羌先生にだ。理由は分かってた、テルとの一戦で見せた異常な凶暴性…昂ぶっていただけだと思っていた奴が大半だろうがアタシは一瞬青ざめた羌先生の顔を見ちまったからただ事じゃないと思った。組まされた術式は感情を抑制する為のものだ。」
勇吾君のそんな姿を一度も見たことが無い私には俄かに信じられなかった。私と訓練している時もそんな兆候は見られなかった。
「多分だけど精神的なリミッターは掛けられてるだろうな。嬢ちゃんとの訓練での事は、単に野郎が甘ちゃんなだけだ。まあ、これは言わぬが花って奴だ。」
「?どういう事ですか?」
「これ以上は野暮ってなもんだ。アタシが言いたい事は野郎の枷が外れた時に嬢ちゃんが心配だって事だよ。」
百地先輩はそれ以上の事は話してくれなかった。その後は黙々と作業が行われた。百地先輩は術式を発動させると私が着ている服に床に巻かれた粉が纏わり着いてきた、服に着いた粉は染み込んでいき少しずつ服の形が出来上がっていく。30分ほどで出来上がった私専用の服は思いの外軽く動きやすくてそれに凄く可愛いデザインに戸惑ってしまう。
「いいじゃねーか、ちょっと乙女成分出ちまったが悪くねえ。ほら、野郎に見せに行って来な。」
「凄く緊張します…笑われたらどうしよう。」
「それは絶対無いよアタシが保証する。へっへっ、アイツどんな顔するか見ものだぜ。」
百地先輩が凄く意地の悪そうな顔をしながら私の背中を押してくる、勇吾君のいる廊下まで私はされるがまま押されていく。普段の彼ならきっとそっけない態度だろう。自分自身でも似合っているか分からない、彼の反応に脅えている自分に気が付いたのはこの後だった。
「あのね、勇吾君…変かな?」
私の声に振り返って私を見る彼の表情に私自身も驚くほど胸が高鳴ってしまった。一瞬だけど初めて見た彼の表情。私から直ぐに視線を外してもう彼の顔がどんな顔をしているかは見えない。
「似合ってるかな?」
「に、似合ってるけどなんか、その、駄目だ!」
「何が駄目なの!」
煮え切らない彼の言葉にむっときた私は彼の視線の先に移動するが直ぐにまた別のほうに顔を背けて私を見ようとしてくれない。
どうしてもちゃんと見て貰いたい私と頑なに見ようとしない彼との攻防戦が数分続いていたその時に後ろから百地先輩が勇吾君に向けて空のビンを投げつけたところで終わりを告げる。
「この馬鹿!女がおめかしして手前の前に立ってるのその態度は何だ!男だったらドンと構えて言うべき事を言え!」
先輩の言葉に勇吾君は少しぎこちないけど私を見てくれた。
「良く似合ってる…似合ってる、だけども少しは派手じゃないかな?いや動きやすそうだからいいと思うけどスカートの丈とかちょっと短くないかなーと?俺としてはもうちょっと普通な感じでも良いと思うかなーと?」
「何言ってんだ、スカートの丈は制服の丈と変わらねぇぞ、お前いい加減認めろや。」
「何がですか!」
百地先輩が意地の悪そうな顔で彼を見る、その目にうろたえて一歩後ずさる勇吾君。
「嬢ちゃんが思った以上に可愛かったから照れてますって。」
先輩のその言葉に勇吾君の顔が真っ赤になったのを見て内心ガッツポーズをしてしまった。その後色々言い訳をしながら百地先輩と口喧嘩を始めた勇吾君、普段見せない表情を見せてくれる彼を見つめながら私は先程の彼の表情を思い出しては頬が火照る想いを反芻していた。
この後に控えている実戦演習の緊張など忘れるほど私にとってかけがいの無い時間になった。
彼が袋いっぱいのサンドイッチや菓子パンを持って午後の専行学部で使っている教室に入ってきた。本当はいつも通りに食堂で食べたかったけど今日は時間が無いと彼に言われて仕方なく教室での昼食になった。
「こんなに買い込まなくてもうちは大丈夫だよ?」
と言いながらも袋の中にたくさん入っている色々な種類のパンに目を奪われてしまう。
「たまには生協のパンも悪くないだろ。牛乳も買ってきたぞ食べようぜ。」
学園に来て以来食堂以外では食べた事が無かったので少し新鮮な感じがする、それに私たち以外誰も居ない教室で二人っきりの食事はちょっとだけドキドキした。
程なくしてお腹一杯になった私を何処か驚いた表情で見る勇吾君、最近食後にこの表情を見る機会が多いのは何故だろう?
「…少しは残ると思ったがやはりな。」
折角買って来てくれたのに残すのは勿体無いと思ったからがんばって食べたのに、本当はお腹結構一杯なんだよ。
「嘘吐け、さっき空になった袋を二度見しただろ。このお腹の何処に入るんだよ?」
じっと私のお腹を凝視してくる。本当はもうちょっと食べれるけど余り食べ過ぎるのははしたないと思ってセーブしているのだけど…
「そんな事より衣装合わせって何の事?」
「さらっと話し変えてきたな!まあいいか、実戦演習で着る専用制服の合わせだよ。こればっかりは支給されたヤツをそのまま着る訳にもいかないからな。体型に合わせるのと戦い方に合わせてのカスタマイズもしないと特に月子はな。」
「いま、凄く無礼な事考えたでしょ!」
言いがかりだよ~♪などと言ってそっぽを向く彼を問い詰めようとすると教室に誰か入って来た。
「イチャイチャするのはこれが終わってからにしな。」
気だるそうな声をさせながら始めて見る女生徒が入って来た。だらしなく着崩した制服と眠そうな目が特徴的な女性だ。
「イチャイチャなどしていません。あのどなたですか?」
「紹介する、3年生の百地三園先輩。一応この専行学部の教室長なんだけど自分の研究室から滅多に出て来ないから月子は始めて会うけどな。今日は月子の専用制服のカスタマイズに来てもらったんだ。」
大きな欠伸をしながら彼に紹介された百地先輩は今にも寝てしまいそうなほどフラフラしている。
「ここ一週間地獄だったぞ、どいつこもいつも無茶言いやがる。まあ、当面の研究費は稼げたからな…そこのちんまい嬢ちゃん。」
フラフラとした足取りで私に近づいてくると百地先輩は私をじっと眺めるとニヤリと笑う。
「兵頭に頼まれた時は耳を疑ったが、へへっなるほどね。嬢ちゃんこいつに感謝しな、アタシがあんたに最高の一着を作ってやる。」
「余計な事言わないでいいからさっさとやって下さいよ。擬似エリクサーでドーピングしながら7徹してるんでしょ?先輩そろそろ本当に死にますよ?」
百地先輩の顔を良く見ると目の下にはクマが出来ていて顔はげっそりとしている。
「余計なお世話だ、稼げる時に稼ぐのが職人なんだよ。よし!仕立てるから手前は外に出てろ!それと、覗くなよ?」
勇吾君は百地先輩に追い出されて教室の外で待つ事になった。初対面の人と二人っきりになるのは少し緊張する。緊張し強張っている私を余所に百地先輩は淡々と準備を始めている、そして百地先輩は持ってきた鞄の中から色々な道具を取り出し始めた。
「それじゃあ、嬢ちゃん服脱げ。下着まででいいから全部脱ぐなよ。」
「ここでですか!」
「たりめーだろ?服着たまんまじゃ採寸も合わせも出来ねーよ。」
「でも…」
私は教室の外にいる勇吾君の後姿を見る、すると百地先輩がまたにやりとしながら私の顔を見る。
「あれの視線が気になるか?見られたくないか?それとも見られたいのか?ははっ、可愛いねあんた、野郎の何処が好いのか分からないがせいぜい気張りな。でも。」
盛大にからかわれ見透かされた気がしたけど百地先輩の顔は単にからかっていると言う訳ではなくどちらかと言えば私を心配している様にも見えた。何故そんな顔をするのか分からなかった。だからつい聞いてしまった。
「先輩は勇吾君の事で気になる事があるのですか?私はまだ勇吾君の事を少ししか知らないから…」
「気になるね…そうだね。準備がてらの世間話程度の事だと思って聞き流しな。アタシも野郎と一緒で中等部から編入組であいつと会ったのは高等部に進学して何処の学部に入ろうかって迷ってた頃だ。」
下着姿になった私に少し厚手の紙で出来た雨合羽の様な服を被せてくれる先輩。その服の至る所に術式が書き込まれている。
「アタシの家の家業は呪具、礼装、武器に防具を造って卸すのを商いにしていてね、アタシは商売云々より物を造り出す方が好きな達で神代の宝具を超える物を造る事を目指していた。そんな時に野郎が学園に入って来たと同時に新設されたこの学部の見学に来たのが奴と最初に合った時だ。」
私を囲むように床に粉状の物で何重にも円を描いていく。
「羌先生の神代遺産の復元がアタシの目指している物に近づいて行くと確信して教えを請う事にしたんだがそこに居たのが尻に蒙古班が残っている坊主頭のクソガキが!もー目も当てられねぇくらいムカつくガキで
クソ真面目な上にガキの癖に腕も立つ、んで優等生ぶった口の利き方するだろ、何度喧嘩したかわかったもんじゃない。」
「さっきから聞こえてるぞ!」
勇吾君が廊下からコチラに話しかけてきた。それに対して百地先輩が不敵な笑みをしながら言い返す。
「聞こえるように言ってんだバーカ!今は多少マシになったけどな。」
「今も優等生の振りしてますよ。」
「つーきーこー!余計なこと言わない!」
再び廊下から不満そうに声を上げている勇吾君が可笑しくて顔が緩んでしまう。百地先輩は声を小さくして話を続ける。
「真面目ぶって大人ぶっても根はまだまだガキんちょだってのがだんだん分かって来てよ、あいつには家の後ろ盾が無いからな。この学園は実力主義だって言うが実際の所は家の格みたいなのが幅を利かせているのも事実だったから神代の旦那の弟分って事でイチャモン着けて来る奴を実力で捻じ伏せ様と無理してたんだよ。」
百地先輩が思い出すかのように目を細めて廊下に立っている勇吾君を見る。その表情に少しドキッとしてしまう、先輩の表情が凄く優しく見えてしまい、胸が苦しくなった。
「あいつが特技武官の資格を取れた時は素直に喜んだ…だけどそれが余計にあいつへの風当たりが強くなって一悶着があった。」
「聞いてます、輝兼さんとの事ですよね。」
「テルの奴は気のいい男だからな。奴のお陰で勇吾への当たりはだいぶ和らいだ。アタシも安心してさ珍しく奮発してアイツ用の戦闘礼服を造ってやったんだがその時に普通は絶対組み込まない術式を施させられた。それがよりにもよって羌先生にだ。理由は分かってた、テルとの一戦で見せた異常な凶暴性…昂ぶっていただけだと思っていた奴が大半だろうがアタシは一瞬青ざめた羌先生の顔を見ちまったからただ事じゃないと思った。組まされた術式は感情を抑制する為のものだ。」
勇吾君のそんな姿を一度も見たことが無い私には俄かに信じられなかった。私と訓練している時もそんな兆候は見られなかった。
「多分だけど精神的なリミッターは掛けられてるだろうな。嬢ちゃんとの訓練での事は、単に野郎が甘ちゃんなだけだ。まあ、これは言わぬが花って奴だ。」
「?どういう事ですか?」
「これ以上は野暮ってなもんだ。アタシが言いたい事は野郎の枷が外れた時に嬢ちゃんが心配だって事だよ。」
百地先輩はそれ以上の事は話してくれなかった。その後は黙々と作業が行われた。百地先輩は術式を発動させると私が着ている服に床に巻かれた粉が纏わり着いてきた、服に着いた粉は染み込んでいき少しずつ服の形が出来上がっていく。30分ほどで出来上がった私専用の服は思いの外軽く動きやすくてそれに凄く可愛いデザインに戸惑ってしまう。
「いいじゃねーか、ちょっと乙女成分出ちまったが悪くねえ。ほら、野郎に見せに行って来な。」
「凄く緊張します…笑われたらどうしよう。」
「それは絶対無いよアタシが保証する。へっへっ、アイツどんな顔するか見ものだぜ。」
百地先輩が凄く意地の悪そうな顔をしながら私の背中を押してくる、勇吾君のいる廊下まで私はされるがまま押されていく。普段の彼ならきっとそっけない態度だろう。自分自身でも似合っているか分からない、彼の反応に脅えている自分に気が付いたのはこの後だった。
「あのね、勇吾君…変かな?」
私の声に振り返って私を見る彼の表情に私自身も驚くほど胸が高鳴ってしまった。一瞬だけど初めて見た彼の表情。私から直ぐに視線を外してもう彼の顔がどんな顔をしているかは見えない。
「似合ってるかな?」
「に、似合ってるけどなんか、その、駄目だ!」
「何が駄目なの!」
煮え切らない彼の言葉にむっときた私は彼の視線の先に移動するが直ぐにまた別のほうに顔を背けて私を見ようとしてくれない。
どうしてもちゃんと見て貰いたい私と頑なに見ようとしない彼との攻防戦が数分続いていたその時に後ろから百地先輩が勇吾君に向けて空のビンを投げつけたところで終わりを告げる。
「この馬鹿!女がおめかしして手前の前に立ってるのその態度は何だ!男だったらドンと構えて言うべき事を言え!」
先輩の言葉に勇吾君は少しぎこちないけど私を見てくれた。
「良く似合ってる…似合ってる、だけども少しは派手じゃないかな?いや動きやすそうだからいいと思うけどスカートの丈とかちょっと短くないかなーと?俺としてはもうちょっと普通な感じでも良いと思うかなーと?」
「何言ってんだ、スカートの丈は制服の丈と変わらねぇぞ、お前いい加減認めろや。」
「何がですか!」
百地先輩が意地の悪そうな顔で彼を見る、その目にうろたえて一歩後ずさる勇吾君。
「嬢ちゃんが思った以上に可愛かったから照れてますって。」
先輩のその言葉に勇吾君の顔が真っ赤になったのを見て内心ガッツポーズをしてしまった。その後色々言い訳をしながら百地先輩と口喧嘩を始めた勇吾君、普段見せない表情を見せてくれる彼を見つめながら私は先程の彼の表情を思い出しては頬が火照る想いを反芻していた。
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