残365日のこおり。

tonari0407

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第6章

【R-18】話のあと 8月2日③

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 あいりは水川の右隣に寄り添ってくっついていた。
 水川は抱き締めたかったけれど、彼女に無理させたくなくて、温もりを感じるだけで我慢した。その代わりにあいりの首元に顔を埋めていると、それさえも抗議の声があがった。

「あの、優くん、私昨日身体拭いただけで臭うかもだから、あんまりくんくんしないで?」
 バレないようにそっと匂いを嗅いだのはバレバレだったようだ。

「臭わないよ。俺、あいりの匂い安心する」
 耳元をくんと嗅ぎ、首元にキスすると彼女の身体がぴくんと波打つ。

「優くん」
 再度の抗議の声に、水川は身を引いた。

「ごめん。調子乗った。俺寂しかったから、あいりにくっつけるの嬉しくて」
 水川の声にあいりの手が水川の手を握る。

「私もだよ。優くん」
 彼女の手は水川の手の感触を確かめるように撫で回す。
 それだけで、興奮してくる自分に気づいて、水川は自らを戒めた。

 疲れさせちゃいけない。自分が与えるのは安心ではなく緊張だ。

「あいり。もちろんこおりさんにも聞くけど、俺またここに来てもいいかな?
 もちろん俺の家に帰ってきて欲しいけど、あそこじゃあいりは落ち着けないだろうから、引っ越しも考えてる。
 あいりは少なくとも体調が落ち着くまで、ここにいた方がいい。過ごしやすいように、俺ん家にある服とか持ってくるから」

「優くん」
 あいりの目が俺の目を見つめて、本当にいいの?と問い掛けてくる。

「今度来るときはこおりさんの分もお土産買ってくるから。あの人、何が好きかな?」
 水川が笑うと、あいりは優しく微笑んだ。
 教えてもらったこおりさん情報は本当はあまり知りたくもなかったけれど、それもあいりの好きなものの1つだと思って我慢した。

 向かい合って横になり両手を握って、お互いの指を絡め合う。Tシャツからは胸の輪郭がはっきり見えて、肌を重ねたくなる。
 不意に水川の頭の中にある疑問が沸いてきた。
「身体拭いたって言ってたけど、自分で拭いたの?」
 何となく答えは知っていたけれど、口から出てくる言葉を止められなかった。

「あっ、んと、自分でするって言ったんだけどさせてもらえなくて」
 あいりは水川から目をそらす。

「今日は俺が拭いてあげる」
 水川は彼女の手を口元に持っていって、わざと音が鳴るようにキスをした。

 ちゅっ
 あいりの身体がぴくんと震える。

「ううん、今日はシャワー浴びるから」
「何で昨日は浴びなかったの?」
 恥ずかしそうな彼女の手にキスを落としていく。その度に身体が揺れて可愛かった。

「1回お風呂場でダウンしちゃったから心配されてて」
 言いにくそうにあいりは言った。水川はもっと早くここに来なかったことを悔やんだ。

「あいりちゃん、今日は俺と一緒にお風呂入るか、俺が身体拭くかの2択しかないからね」
 あいりは不服そうな顔をしたが、水川が今度は指を舐めようとすると降参した。

「優くん、心配性」
 あいりの手が水川の頭を撫でる。それが気持ち良くて、水川は目を閉じて心地よい眠りに落ちた。

 ◆

 自然に目を覚ましたとき、水川は自分が何かを思いきり抱き締めているのに気づき、しまったと思った。しかし、それが何かに気づくと少し恥ずかしくなった。

 水川はねこの抱き枕に足を絡ませて抱きついていた。

 右隣にいたはずのあいりの姿はなくて、心配になって、急いで寝室を出る。
 あいりの姿はすぐ見つけることができた。彼女はソファーに横になって目を閉じていた。

「あいり」
 水川が呟くと彼女は目を開けた。

「あっ優くん起きた?ちょっとは疲れとれたかな?」
 柔らかく笑う彼女の声は優しくて、水川はつい甘えたくなった。

「もうちょっとで全部取れるから、少しだけ俺に付き合って?」
 あいりの手を取って、寝室に連れていく。
 ドアを閉めて、水川はベットに座った。目の前には手を握ったあいり。彼女の目を見て懇願する。

「あいり、3分だけ、ほんの少しだけ、優しくするからあいりにくっついてもいいかな?嫌だったら全然いいんだけど」
 水川は口に出したそばから恥ずかしくなって、顔をそらしてしまった。

 そんな水川の顔をあいりの手が優しく方向修正して、彼女は水川にキスをした。ついばむようなキスから、それは深いものに変化していく。水川が座っていたのがいつの間にか押し倒されていて、その上にはあいりが乗っていた。

 彼女の舌が優しく口の中に入ってきて、水川は嬉しかった。夢中で彼女に応えていたら、いつの間にか自然に水川の手はあいりのTシャツの中に消えていた。柔らかくて、でも硬いところもあって、撫で回すと彼女の身体が跳ねるので楽しかった。

 キスの合間の休憩で口を離したときも、手の動きはやめなかった。あいりがとても気持ち良さそうだったから。
「優くん、あっ、気持ち、いい」

 恥ずかしそうに、でも自分からそう口に出す彼女の声は喜びに溢れていた。

「こわいんじゃなかったの?」
 聞いてみると、彼女は首を横に振った。

「こわいけど嫌じゃない。だから、言わなかった。言ったでしょ?嫌なことはちゃんと言うって。全部嫌じゃない。どきどきしておかしくなりそうなだけ」

 そう言って彼女がまたキスの続きを始めたので、3分とかどうでもよくなった。
 3分以上はそうしていた。どのくらい時間が経ったのかは、幸せ過ぎてわからない。

 静かに寝室のドアが開いて、あの男が入ってきて2人の時間は中断された。

「やっと仕事終わった。声聞こえてましたよ」
 そのとき水川はあいりの上に覆い被さっていて、彼女のTシャツは上に捲れていた。水川が顔をあげると、あいりがTシャツを元に戻す。

「あいり、身体大丈夫?」
 こおりの声は優しくあいりに問い掛けて、あいりは戸惑いながらもその声に頷いた。

 水川が動けずにいると、こおりはそのままベットの上に乗ってきた。

「水川さん、あいりのこと癒してくれてありがとうございます。俺も一緒にします」
「えっ?」
 あいりと水川の声が重なる。

「安心する男とときめきをくれる男、2人にされたらあいりはどうなるかな?」
 こおりの手があいりの服を捲った。
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