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3章 冒険の始まりと動き出す王国

54 依頼を受けるのはいつ以来か

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「試しの剣を抜いてしもうたか。」

 僕から話を聞いた師匠は、一瞬ではあるけれど寂しそうな感情が流れてきた。

「まあ、予測していたうちの一つではある。
 昔会った勇者と外見がそっくりだからの。」

 そういえば似ていると言っていた。
 こうなってくると僕は元魔王と勇者の息子だったりというオチも現実味を帯びてくる。

「僕はどうするべきなのでしょう?」

「それはヌシが決める事じゃ。
 だが教会の思惑通りに動いても良いことは無い。
 もし選定を拒否するのであれば、私から断ろう。」

「帝国には行ってみたいと思っていました。
 僕が勇者かどうか、それと先代の勇者についても気になっています。
 それと魔神ギスケ。」

「まあ、そう急(せ)くものでは無い。
 教会にも準備の時間が必要であろうしな。
 ヌシにももう少し考える時間があっても良かろう。
 まだ課題も終わっておらぬ。」

 そういうと僕に杖を手渡した。

「これから色々なことがヌシの身に降りかかろう。
 その時私は近くにはおらぬだろう。
 これを持って行くが良い。」

 僕は杖を受け取る。
 立派な杖だ。
 賢者の杖程では無いけれど、魔術回路構成補助機能が付いている。

「ありがとうございます。
 使わせていただきます。」

「うむ。
 ヌシは私の弟子じゃ。
 それはいつになっても変わらぬ。
 何があっても必ず戻ってくるのじゃ。」

 なんだか長い別れになるような言い方だ。

「師匠こそどうしたんですか?
 僕はこれから課題をこなしに行くだけですよ。」

 師匠は目を閉じゆっくり頷く。

「そうであったな。
 私も年をとったのかもしれぬ。
 では、気をつけていくのじゃ。」

 こうして僕は課題をこなすべく冒険者ギルドへ赴いた。
 冒険者ギルドは想像通りの雰囲気だった。
 依頼が所狭しと掲示板に張り付いている。
 色や記号で内容が判断できるようになっているのは、字が読めない冒険者に対する対策だろう。
 そして冒険者らしき人達が、依頼を確認や談笑をしていた。

 僕がギルドの中でキョロキョロしていると、数人の冒険者と目が合った。
 気にせず受付へ進む。
 受付はファンタジー世界では良くあるお姉さん・・・では無くおばさんだった。

「冒険者の登録に来ました。」

「あら、その年で。
 あらまあ。
 紹介状が必要になるけど大丈夫?」

 僕は師匠に書いてもらっていた紹介状を出した。

「それじゃ、これに必要事項を記入してね。
 字が読み書きできないようなら、こちらで代筆するわよ。」

「大丈夫です。」

 僕がそう言うと、受付のおばさんは紹介状に目を通した。 
 おばさんはしばらく固まっていた。
 その間に登録に必要な内容を書いていく。

「じゃ、じゃあ登録をするからしばらく椅子にでも座って待っていてね。」

 そういうと焦った様子でいそいそと奥へ引っ込んでいった。
 何やら奥でヒソヒソと話し声が聞こえる。
 恐らく師匠の紹介状が原因だろう。

 いちいち気にしていたら仕方が無いので、僕は依頼を見て回ることにした。
 資材調達のクエストが多い。
 モンスター討伐も何かしらの部位を入手するためのものだ。
 その中に純度の高い魔晶石採取というのがある。
 師匠から教わったものの一つに、広範囲の魔力の気配を感じ取るというのがあった。
 これならば僕にはお誂(あつら)え向きだ。

 そうこうしているうちに登録が終わったようだ。

「オキスさん、登録が終わりました。
 こちらが登録カードになります。」

 さっきとは違う人が出てきた。
 鼻髭が印象的な生真面目(きまじめ)そうなおじさんだ。

「初めまして。
 私はこのギルドの責任者をしております、ビストレスと申します。
 この度は、このようなところへお越しいただいてありがとうございます。」

 この人めちゃくちゃ腰が低い。
 もともとこういう人なのか、それとも師匠のせいなのか。

「この依頼を受けたいのですが。」

 僕は依頼の一つを指さした。

「はい、こちらですね。
 高純度の魔晶石採取の依頼ですか。
 特に期限は設けられておりませんので、手の空いたときで大丈夫ですよ。
 それからこちらがギルドの規約になりますので、お暇なときにでもお読みください。
 それとも口頭で説明いたしましょうか?」

「大丈夫です、後で読んでおきます。」

 僕はギルドの規約が書いてあるしおりを受け取る。
 ということで、無事依頼を受けることは出来た。
 次は仲間捜しをしなければならない。
 さて、見つかるかどうか。





 ぼっち無双は勘弁。
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