能力チート無しで目指す、現代人的ダンジョン踏破 ~成長するのは斜め上~

ふぉ

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六章 熱血沸騰、第六層

119 栄養を入れてええよう

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 僕は岩塩と砂糖の重さを量り、煮沸したお湯に溶かしていく。ショ糖、塩化ナトリウム、塩化カリウムの水溶液だ。出来ればブドウ糖を使うのが理想なんだけど、生成している時間は無い。

 作ったのは血液と同じ濃度の生理食塩水に糖分を加えた、いわゆる点滴だ。僕は器具を消毒し点滴に必要な物を揃えた。さらにアイボウの冷凍ブレスで煮沸した点滴成分の温度を調節した。

 僕が部屋へ点滴を持って行ったとき、スコヴィルは泣きそうな顔をしていた。

「スコヴィルさん、サドンに点滴をします。お手伝いをお願いします。」

 彼女は僕が持ってきた点滴を見て驚いた表情をした。しかしすぐに設置を手伝い始める。

「えっと、どれが静脈だか分かりますか?心臓に入っていく方の血管です。」
「それならこれです。」

 僕は点滴の成分とか静脈に入れることは知っていたけれど、どの血管が動脈でそれが静脈だかは分からなかった。彼女が知っていて良かった。

「水の動きは魔法で感知できるので、これで合っているはずです。」

 なるほど、流れそのものを追えば確かに一発で分かる。僕は静脈に点滴を刺した。そして固定する。

「サドンの容態はどういう状況なんですか?」
「腸を刃物で刺されています。毒が塗ってあったらしく、周辺の壊死が始まっていました。毒は大部分を取り除きましたが、まだ取り切れていません。壊死している部分の進行も抑えはしていますが、治療は出来ていません。」

 結構深刻な状態だ。それなのにサドンは吹雪の第五層を超えて先回りをしてたのだ。さらにフロアボスの手足を切り取っていく活躍まで見せていた。無茶苦茶だ。もし万全な状態だったらどれだけ強いんだ?

「僕は食事を作ってきます。そうしたらここを交代しましょう。スコヴィルさんも疲れてますよね。」
「私はまだ大丈夫です。」

 彼女はそう言ったが顔色は悪い。あれだけの大魔法を使った後、さらに回復魔法を使い、しかも精神面でもダメージを受けている。ここで彼女にまで倒れられたら、サドンに回復魔法をかける人がいなくなってしまう。

「無理はしないでくださいね。」

 僕はそう言い残し、再びキッチンへ向かう。冷凍してあった豚肉で生姜焼きを作った。そうだ、まだ卵が残っていたな。玉子焼きも作ろう。

「出来ましたよ。ダイニングに用意してあります。」
「ありがとうございます。」
「こっちは大丈夫なので、ゆっくり食べてください。玉子焼きも作りましたよ。」

 料理を作り終えた僕は、スコヴィルにそう伝えた。玉子焼きと聞いて、少しだけ微笑む。それはたぶん玉子焼きよりも、僕が気を使ったことに対しての感謝の笑みなのだろう。

「それとお風呂にも遠慮無く入ってきてください。スコヴィルさんの力が必要なのは、サドンの体力が戻ってからです。何かあったら呼びに行きますので、そのまま寝てください。」
「・・・本当に・・・アフタさんがいてくれて良かったです。」

 そう言い残し、彼女は部屋から出て行った。まあ、戦闘で役に立たないんだから、せめて家事雑用ぐらいはこなさないと。

 自分の食事は部屋に持ち込んであるので、早々に食べる。きちんと食べないと身が持たない。サドンは食べられない分を点滴で摂取することになる。しかし実は点滴はそれほど多くの栄養を身体に送り込むことは出来ない。無理に濃度を上げるとそれは毒となる。少しずつ時間をかけて供給するしか無いのだ。しかも栄養成分がショ糖なので、ますます吸収に時間がかかるのだ。

 僕はしばらくの間、眠っているサドンの様子を見つめていた。もちろん僕はホモでは無いので、見とれたりしているわけでは無い。サドンの顔を見ながらこれからのことを漠然と考えていたのだ。

 AIギスケ。僕はその内部構造を知っている。たぶん開発者だというサドンの予測は当たっているのだろう。しかしアレが、この状況を生み出しているというのはイマイチ信じられない。AIというと人間のような感情を持たせたようなシステムを想像する人もいるかも知れない。しかしあのAIに感情など無い。単純に画像や音声認識の学習効率を高めたシステムに過ぎないのだ。

 もしアレで世界を作るとすれば、ネット上からかき集めたデータをサンプリングして、ある程度の乱数要素を元にそれを再現していく事になるだろう。けれど根本的に無理な部分があるのだ。それは人間だ。この世界の人間は感情に溢れている。いくらあのシステムでも、人間の再現など出来ようはずが無い。コミュ障の僕とはいえ、もし対話している相手がAIを元にしているものだったら、さすがに違和感を持つはずだ。

 この世界のシステム制作者であるボロディアが、変な改造を加えたのだろうか? それともAIギスケの元になっている、ギスケライブラリに知らない仕様が入っていたのだろうか? ちなみにギスケライブラリというのは、オープンソースで公開されていた超高機能の演算ライブラリだ。あれは頭のネジが飛んでいる人間にしか作れないような、異常とも言える芸術作品だった。しかしネットで得た情報によると、制作者が行方不明になったらしく、そのまま開発は止まってしまったのだ。あまりに優秀だから、国外に拉致されたという噂を流す人もいたぐらいだ。

 僕は自分自身や関連する「人」に対する記憶は失われているのに、それ以外の記憶は恐らくほとんど欠落していない。いったい何故、僕だけこういう状況になっているんだろう?

 ふと、サドンの顔色が少しだけ良くなっていることに気がついた。まだ油断は出来ないが、最悪の状況にはなっていないようだった。
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