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第25話 ライバル登場

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 ここ最近僕はある人に付き纏われている。誰かと言うと……。

「嶋くぅん! やっほ~」

「……こんにちわ、木浦先輩」

 そう、彼女がその問題の人。彼女の名前は木浦 亜子。僕の一つ年上で中学三年生。何故先輩に付き纏われているかと言うと、ほんの些細な出来事だった。

 僕は放課後校門を通り過ぎた時に偶然先輩が男2人に囲まれているのを見つけた。僕は何も考えずその男たちに声を掛けた。

「あのー、ここで、そういうことすると、不味いんじゃ……」

「あん? んだこいつ! 今この子とお話し中なんだよ。邪魔すんじゃねーぞ!!」

 威嚇……ホントに醜いな……。僕はそう心の中で呟きながら、威嚇してきた男の腕を掴んで思いっきり引っ張って路上に転ばせた。昔ちょこっと合気道を経験したことがあり、投げ技には自信があった。

 僕が今まで『シスコン』で虐めにあっていないのはただお姉ちゃんの存在だけではない。自分の事は自分で守れるようお姉ちゃんに合気道を教わっていたのだ。まぁ、お姉ちゃんは本格的に中学卒業まで道場に習っていた。両親が襲われても退治出来るようにと……。

 そのお蔭で僕はい虐められずにすんでいた。まさかここで僕の隠しスキルが役に立つとは思いもしなかったが。投げつけられた男が襲い掛かろうと僕に向かってきたが、僕はそれスルリと軽くよけ流してまたその男を付き飛ばした。もう一人の男も僕に向かって拳を振りかざしたが、僕は相手の手首を掴んでひと捻りして地面に体を叩きつけた。

 二人は腰を抑えながら僕を侮辱する言葉を吐きながら逃げて行った。僕は絡まれていた人の方を振り返って声を掛けた。

「大丈夫ですか?」

「……はい。有難う御座います。二人ともしつこくって……」

 僕はその人に「気を付けて」と言ってその場を立ち去った。なんだか漫画やドラマに出てきそうな話だが、実はこれ以上女子に絡むとお姉ちゃんが心配と言う名の嫉妬をしてしまうかもしれないという恐怖に襲われて急いで帰宅したのだった。

 それから助けた人がこの先輩だということが分かったのはその後の事だった。朝の朝礼で体育館に向かっていた僕に声を掛けたのが先輩。絡まれた時の礼が言いたかったと言って手紙を貰った。跡から読むように言われて僕はその日の昼休みにその手紙を読んだ。

『この間は助けてくれて有難う。私は三年の木浦亜子と言います。君は二年の島真治君だよね。ちょっと調べさせてもらいました。それでお礼がしたいので来週の水曜日の放課後私と付き合ってほしいです。お返事は今日の放課後、駐輪場で』

 何なんだ、これ。知らない人に僕の事を調べられた上に『付き合ってほしい』などと……これはまさか、告白なのか? これってラブレターなのか? 僕はそう思ってしまいその日の放課後、待ち合わせ場所の駐輪場へ向かってしまった。

「嶋君、来てくれてありがとう」

「あ、あ、あの~……これ、見たんですけど……」

「うんっ。だからここへ来てくれたんでしょ? それでね、今度の水曜日に……って聞いてるの? 嶋君」

 僕がぼーっとしてしまいほとんど先輩の話が耳に入ってこなかった。あの手紙に書いてあった『付き合ってほしい』という単語だけが頭の中をぐるぐる駆け巡っていたのだった。僕の態度が気になった先輩は僕の服の袖を引っ張った。

「ねぇってばっ。聞いてるの? 人の話……」

「ああ、すみません。聞いてなかったです……」

「はぁ……ちゃんと聞いててね。もう一回言うけど、駅前の喫茶店でケーキをご馳走するから、来てくれないかな」

 え……? それだけ……?

「……それだけ、ですか? 付き合うって……」

「そうよ。何かほかにある?」

 ああ、そっかぁ、僕は勘違いしていたんだ。付き合うって、一緒にどこかに行くことなんだ。そう思ったら僕のテンションが一気にがた落ちてしまった。先輩が言う喫茶店に行くことを約束した僕はその場で先輩と別れた。


 そして今日、先輩とその約束の日。

「お待たせ。それじゃ、行こっか」

 先輩はそう言うと僕の前を持ってたカバンをぶらぶらさせながら歩いていた。僕は先輩の後ろについていった。駅前の喫茶店に着いた僕たちは店員さんに席を案内され、お互い向き合う恰好で席に座った。

 この店のケーキセットを頼む先輩。僕は黙ったまま外の景色を眺めていた。通り過ぎる人たち。大人も子供も学生も。いそいそと駅へ向かったり、またその逆を歩いていたり。ぼーっとしている僕に先輩が話しかけてきた。

「嶋君。私と一緒じゃ楽しくない?」
 
 唐突な質問の驚く僕。

「……いえ、そんなことは……」

 それ以上言葉が出ない僕。店員が頼んだケーキセットをテーブルの上に並べた。コーヒーを一杯口に含む。

「にがっ!! 」

 僕は口を横に開いて舌を出しながら水を口に入れた。砂糖とミルクを入れ忘れていたのを気づかずに口に入れていたらしい。そこまで僕のテンションは下がったままだった。期待していたことが現実と違い過ぎることに愕然としている僕に先輩が心配そうに見つめていた。

「大丈夫? なんだか変よ? 楽しくないみたい。私結構モテるんだけどなぁ~」

 先輩はそう言いながらコーヒーを一口飲んでから小さなフォークを使ってショートケーキを口に運んだ。美味しそうに笑顔で食べる先輩。確かに可愛い。モテるだろうなぁとはすぐに分かる。

 そんな人が僕の事を好きになる訳がない。それに、僕にはお姉ちゃんが居る。どうせ潰されるだろう。僕はそう思いながらケーキを食べた。

 喫茶店で30分くらい過ごした後僕たちは店の外に出た。もうここで別れるのかな。僕はそう思っていると、先輩が僕の傍によってきた。先輩は僕より少し背が低い。上目遣いで僕を見ながら小さな口がゆっくり開いた。

「あのね……これは私の個人的な事なんだけど……」

 そう話し出した先輩。僕は黙って先輩の話に耳を傾けていた。

「私、嶋君の事が好きみたい。助けてくれた時からずっと気になってたの」

 その言葉を聞いた瞬間僕の瞳が大きく開いて後ろによろけてしまった。あまりにもビックリする話だった。予想していないことが僕の目の前に起こっている。僕は何も言えず黙っていると先輩が僕の制服の胸元を掴んでグイッと引っ張った。引っ張られた反動で僕は先輩の顔に近づいていき、先輩は僕の頬にちゅっとキスをした。

「これも、助けてくれたお礼……それじゃ、またねぇ」

 先輩はそう言って僕と離れて大きく手を振って走り去っていった。僕は唖然としながらもキスをされた頬に手を当てながら先輩の後ろ姿を見つめていた。お姉ちゃんにされるキスとまた違った女子がするキス。急に意識しだして心臓がバクバク大きく鼓動を鳴らしながら動き始める。

 その夜。僕は頭の中で先輩の顔とキスされた時のことを思い浮かべながらベッドの上で仰向けに寝ていた。キスされた頬にそっと手を当てる。何故かにや付く僕。そこへお姉ちゃんがいつもの調子でやって来た。

「真ちゃぁん。………どしたの? 何だかにやついてるけど。何かいい事でもあったの?」

 あ……しまった。お姉ちゃんにはさっきの事と先輩の事を隠さないと。また何時ぞやで無理やり別れさせられたことを思い出す。

「ああ、何でもない。ちょっと友達と話してたことが面白かったから。思い出し笑いかな」

「……………ふーん、そう」

「何? 何か用でもあるの?」

 僕は慌ててベッドから起き上がって椅子に腰かけた。机に置いてあった教科書を開きながら、今から勉強するから、という雰囲気を出してお姉ちゃんを部屋から追い出す作戦に切り替えた。

 しかしお姉ちゃんは、僕のベッドに座り自慢の足を組み両手を組んで僕の方を睨んでいる。お姉ちゃんの勘は鋭い。どうせバレるのなら、いっその事ばらしてスッキリした方がいいのか、それともだんまり通すか。僕は悩みながら教科書をペラペラめくっていると、お姉ちゃんが僕に話しかけてきた。

「真ちゃん……女の子の匂いがする。どこかで会ってたでしょ。私知っているよ……」

「ははは………そうだよね。GPSでチェックしてるんだから」

「誰かな? 教えてくれないかな……」

 お姉ちゃんの声が怖すぎる。このままだんまり通すとなると、お姉ちゃんは次の手を出すだろう。僕は観念してお姉ちゃんの方を向いて話をした。

「……先輩、木浦亜子先輩とお茶してた。この間絡まれてた女子の話をしたと思うけど、その人がその日のお礼がしたいって言われて……」

「ふぅぅん。それで……?」

 怒ってる。めちゃ怒ってる。目が怖い。口元が笑ってない。

「それで……ケーキセットを奢ってもらった。それだけ……」

「……それだけ? そのあとは?」

「何もないよ。その場で別れて帰って来た。それだけ……」

 お姉ちゃんは僕の目をじーっと見ながら動かない。数秒間の出来事だったと思うが、僕にとっては数分間に感じた。お姉ちゃんは右でと上げて僕に手招きした。

 僕は椅子から立ち上がってお姉ちゃんの前に立ち止まり、お姉ちゃんを舌から見下ろす恰好で、お姉ちゃんは僕を見下ろす格好になった。

「真ちゃん……私のここに頭置いて」

 お姉ちゃんは自分の太ももをぽんぽんしながらそう僕に言った。僕は黙ってお姉ちゃんの言う通り頭をお姉ちゃんの太ももに置いて寝ころんだ。温かいお姉ちゃんの太もも。

 それにお姉ちゃんの香りが鼻を擽る。僕は左耳をお姉ちゃんの太ももが当たるように寝ていると、急にお姉ちゃんの両手が僕の顔をぐっと掴んで正面を向けられた。上から見下ろすお姉ちゃん。髪の毛で顔が隠れててお姉ちゃんの表情がよく分からない。

「真ちゃん。私の事、好き?」

 いつもより音程が低い声で僕にそう訊ねた。

「う……うん……す、好きだよ……お姉ちゃん……」

「じゃぁ、キスして……」

 なんでそうなる。……でもおかしい。お姉ちゃんがキスしてって言う言葉。いつもだったらちゅうしてって言ってた。もしかして………見てた? 僕に先輩がキスするところを見てたのか? でももしそうだったとして、このおねだりは納得がいく。僕はそう思いながら上からのぞき込む様に僕を見つめるお姉ちゃんの目を見た。

「……何処に?」

「ここ……」

 お姉ちゃんは自分の唇に指を当てた。リップクリームを塗ったのか、なんだかぷっくりと膨らんでいるように見えるお姉ちゃんの唇。ほんのり赤い唇から舌をチロっと出して僕を誘惑してくる。ただでさえ、膝枕で頭にお姉ちゃんの柔らかさを感じて、お姉ちゃんの香りが鼻を通り、目でお姉ちゃんの唇と舌。もうドキドキが止まらない。

「……触れるだけのキス……だよね??」

 僕は小さな声でそうお姉ちゃんに訊ねると、

「……だぁめぇ」

 とお姉ちゃんも小さな声で僕にそう言ってスーッと顔を近づけて僕の唇にチュッとキスをした後、僕の閉じた唇をお姉ちゃんの舌でこじ開けてそのまま僕の舌をチロチロとしてきた。

「……!! ダメだって……」

 僕はお姉ちゃんの顔を持ち上げて距離を空けた。お姉ちゃんは舌をだしながら潤んだ瞳で僕を見つめた。

「だって……こうでもしなきゃ……真ちゃん……取られちゃう……そんなの……やだもん……」

 今にも涙がこぼれてきそうなくらい。もう……何でここまで僕に構うのさ。僕は普通の姉弟で満足してるって言うのに。

 でも、もし逆だったとしたら? もしお姉ちゃんが他の男とキスしている所を目撃したら? 僕はどうするだろう。今のお姉ちゃんみたいにするだろうか……分からない。でもこのままお姉ちゃんを放っておけない。

「分かったよ。僕は誰にも取られない。お姉ちゃんだけだから……」

 いつもなら気持ち悪い台詞だと思っていたのに、今日はそんな気分にならなかった。僕はどうしたんだろうか。お姉ちゃんの事が好き……異性として好き……? 

 そんなことを考えながらお姉ちゃんを宥めていた。お姉ちゃん、僕はどうしたらいいかな。本当にこれでいいのかな。僕たち、本当の恋人にはなれないんだよ? 

 それでもお姉ちゃんはいいの? そんなことを黙って泣いているお姉ちゃんに心の中で問い続けていた。

 それから数日が経過した。
 先輩からの告白を断ることを決心した僕は先輩に「ごめんなさい」と言った。しかし、先輩は笑ながら僕に話をした。

「やっぱり……嶋君のお姉さんがダメって言うんでしょ? でもそれっておかしいよねぇ。私諦めないから。絶対嶋君が好きだもんっ!!」


 それからだ……。先輩がこうして僕に付き纏ってくるようになったのは。僕は半ば諦めモードで先輩の絡みをスルーしながら学校生活を過ごすことになってしまった。また、僕に女難の相が出ているらしい。

 はぁ………彼女、もう無理かも。


 お姉ちゃんが僕に構い過ぎて、僕もどうしたら良いのか分からなくなってきました。このままだと僕は『シスコン』になってお姉ちゃんを束縛してしまうことになるかもしれません。

 僕はお姉ちゃんの『ブラコン』のようにはなりたくないですっ! どうしたら良いのでしょう。誰か真剣に僕の相談に乗ってくれまんか!! 近親〇姦なんて無理ぃぃぃぃぃ!!!


 お姉ちゃん、新たなライバルが誕生しました。さぁ、これからどうなるのでしょうか、僕……。
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