ただの主婦ですが、ファンになりませんか

舞浜あみ

文字の大きさ
11 / 21

歌ってみた動画①

しおりを挟む
次の日の朝。

朝ごはんを食べ、ごみ出しをし、夫を仕事に送り出した後、コーヒーでも飲もうかな、そんなことを思っていたその時。
そうだった。

私、アップしちゃったんだ。歌ってみた動画。

どうなっただろう。急に緊張感がおそってきた。

おそるおそる確認してみると、コメント1件。
コメント1件!?
少なくとも一人は見てるんだ、この動画。

「UG:男性の歌声じゃないので新鮮でした」

最初は意味が理解できなかった。私を男だと思ったのかな?いや、違う違う。そうだった。男性ボーカルの曲を歌ったんだった。慌て過ぎだ。落ち着かないと。コメントじゃなくて、視聴回数を確認すれば見てくれた数もわかるんだ。

視聴回数は7回。

UGさんか。剛田牛男さんかな?有名な剛田商店の跡取り息子にも匹敵するパワーネームじゃないか。そんな益荒男がコメントをくれるなんて心強いな、なんてくだらないことを考えながら初めてのコメントを何度も眺めた。

コメントをくれた人の名前も強そうだし、視聴回数もラッキーセブン。よかった。よかった。ホッした。

コメントをくれた人の名前は、そもそもイニシャルかどうかもわからないし、視聴回数も一桁。ホッとした本当の理由は、悪目立ちしたりせず、無難にその他大勢に埋もれられたのだという安堵感だ。

コーヒーでも飲むか。

落ち着きを取り戻しながら、少し冷静になった頭で考えてみた。コメント、なんでくれたんだろう。

剛田牛男さんはきっと律儀な人で、誰にでもコメントを残す人なのかな。悪いコメントではない気がするが、褒めているかといえば、どうなのだろう。男性ボーカルの曲だけど、女性が歌ってるんだ、ふーん、って思った感想を大人が文章にすると「男性の歌声じゃないので新鮮でした」かな。

ファン、ではないか。

このコメントで剛田牛男さんは、私マミ~のファンだわ!なんて勘違いしたら剛田牛男さんを軽く見過ぎだろう。剛田牛男だぞ、軽いわけない。絶対重い。


そうだ。アップしたこと紀典にメールで伝えてみようかな。

「ついに歌ってみた動画アップしちゃった。これがリンク先。暇なときに見てみて。感想お待ちしています!」

もしも叩くようなコメントが来ていたら、紀典にも伝えずに静かにフェイドアウトしてマミ~の歌ってみた動画はひっそりと終わっていたんだろうな。

さぁ家事でもするか。

洗濯機を回している間に掃除機をかけておこう。

洗濯機と掃除機の聞き慣れたうるさい音の中から、スマホの着信音が聞こえてきた。紀典から電話だ。なんだろう。歌ってみた動画だめだったのかな?怒られる?そう思いながら真美は電話に出た。

「もしもし」
「よかったよ、動画。やっぱり上手いよ歌。俺が何度も見て再生数二桁にしておいたから。コメントも来てたね。ゆうじって言うんじゃない?あの人の名前。まあいいや。仕事中だからまたね。」

紀典は早口で言って、一方的に電話を切った。

ゆうじ?誰?コメント?
UGか。

なるほど!UGさんをゆうじさんだと紀典は推測したのだ。確かにその可能性のほうが高そう。少なくとも剛田牛男よりは。真美もゆうじ説に乗っかることにした。

紀典は私の動画を褒めてくれた。でも紀典をファンと呼ぶのも、また違う気がする。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...