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歌ってみた動画②

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私の推しはプロゲーマーのルゼーフ。25歳。プロゲーマーとしては若くない方だが、それでも私よりもひと回り年下だ。

ルゼーフの配信にスパチャを贈るとき、真美はマミ~という名を使う。安易な付け方の名だと思うが、ルゼーフがマミ~さんありがとうとスパチャを読んでくれると、本名の真美と呼ばれた様な錯覚を覚え嬉しくなるのだ。

ルゼーフの気持ちが知りたくて始めた歌ってみた動画。
その動画をあげるときの名前もマミ~だ。

まだマミ~のファンはいない。

真美はファンがいないからこそ、またやってみようかなという気持ちになっている。好きに歌えばいいのだ。やりたいようにやればいいのだ。ファンなどこの先もつかないかもしれないが、とりあえず、1980円のスマホ用リモコンの元がとれるぐらいまではやってみよう。

2週間に1回ぐらい。

マミ~の名前で歌ってみた動画をあげた。

最初に歌ったバンドの違う曲。アニメソング。ちょっと前に流行ったアイドルの曲。

視聴回数は、最初にアップしたのが11回。あとはどれも一桁だ。最初の二桁も、紀典が一人で数を稼いでくれたからだ。

次は何を歌おうかなー。ルルルン♪ゼイゼイ♪フーフー♪勝手に作ったルゼーフのオリジナルソングを機嫌良く歌いながらマミ~に変身することを楽しみ始めていた。

結局、推しの気持ちは分からないか。

ファンがつくっていうのは簡単なことではないし、誰でもができることではないのだ。それがわかっただけでもいいではないか。

ファンもいない。注目もされない。怖いもの無しだ。


ルゼーフのオリジナルソング。
歌ってみよう。さすがにチョケ過ぎかな。さすがに誰かに叩かれるかな。そしたら、辞めよう。アカウントも消して、終わりにしよう。自分のスマホに残った動画を、たまに紀典と見て楽しむ程度がきっと私の身の丈にあっているのだ。


動画を撮るときの格好は毎回同じだ。

ルゼーフのオリジナルソングなんて、当たり前だがカラオケの機械で検索しても出てこない。初のアカペラだ。アカペラというほど崇高なものでもない。今回は完全にお遊び動画だ。カラオケ店にあるタンバリンも使ってみよう。少し踊るようにタンバリンを叩きながら、オリジナルの歌をうたう。37歳のおばさん。痛い。痛い動画だ。もう最後なのだ。十分楽しかった。真美はこの動画でマミ~としての活動をやめる気でいた。

いつもは左手に動画を止めるリモコンを持つが、今回はタンバリンを持っている。リモコンは、モニターの下に置いた。

歌い終わって、タンバリンを置いて、リモコンに持ち替え、少し振り返って動画を止めた。
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