怪盗デュークとへっぽこ探偵

ひまたろう

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1章 怪盗デュークと至宝のアクアマリン

3.怪盗と再会しました

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 怪盗デューク。僕が探偵業を本格的にできない間は不思議と活動は少なかったらしい。たまに起こしても、いつものようなファンサービスは控えめに、盗るものだけ盗ってすぐに帰っていったようだ。

 僕はメルを町子さんに預け、助手のミハエルと共に予告状が来たという博物館へやってきた。

「愚図。やっときたか。プロならもっと早く来い、仕事だぞ」
「警部。先ほど我々は電話で報を受けたばかりでして」

 警部の名はスカーレット。エメラルドの瞳とウェーブしている赤く長い髪を有し、それこそ僕よりも高い身長をもったαの女性だ。プロポーションも抜群なその女性は、刑事の格好をしつつも胸元第二ボタンまで開けており、胸元を少し見せているため目のやり場に困るほど。
 煙草を吸いながら何かしら手紙を読みつつ僕たちを待っていた。

「ん・・・?なんだそのイヤリングは。赤いな。・・・・・・・・・お前しつこいな。寄りは戻さんと何度も言っているだろうが」
「・・・いえ違います。これは頂き物です」

『寄りを戻す』。そう、僕とスカーレット警部は恋人だった。しかし三年前に振られた。それはもうこっぴどく。赤いイヤリングをしていたため自分のことをイメージしていると思ったのだろう。
 当時僕はスカーレットに振られたことが頭で理解が出来ず、なんども縋り寄ったが、しかし彼女は僕のことをごみを見るような目で簡単に捨てたのだった。

「・・・警部、それは怪盗からもらった手紙でしょうか。僕も拝見しても?」
「いや違う。私の恋人のアルトちゃんからの手紙だ。精一杯の字で私への愛が綴ってある。ふう・・・・可愛いな」

 スカーレットは僕を振った後に女性の恋人を作ったらしい。元恋人であるはずの僕に、堂々と仕事中にのろけてくるんだからたまったもんじゃない。プロだからちゃんと仕事に向き合ってくれ。僕はちょっとむかついたので意地悪をする。

「けれどそのアルトちゃんに会ったことはないんですよね?会ったこともない人にどうして僕が負けるんでしょうかね」
「アルトちゃんは私のだーい好きな処女だと自己申告してくれているからなあ。恋人がいるのに敵の男に簡単に足を開いて胎で種を育てたド淫乱小僧とは全然違ってなあ?」
「うぐ・・・」

 スカーレットはαの女性で、そして自分からすら手を出さない処女厨だった。
『なら僕は男だから捨てるのは童貞だけで済みますよね』みたいなことをスカーレットに言ったら、当時恋人だったにもかかわらず中指を立てられた。彼女は人の下にいたくないタイプなのだ。例えベッドであっても。
 故に警部という立場にして、上の面々すら誰も異を唱えられない絶対的女王となっている。

(今思えば、恋人時代は彼女から肩を引き寄せられてたし、どっちが男だか分らなかったなあ)

「そのアホ面をいつまで私に見せている、非処女の淫乱童貞が。さっさと建物に入って捜査をしろ経産婦浮気男。足を開いてでも怪盗を捕まえてこい、せいぜいその貧相な体で怪盗を誘惑してな」
「警部、今の発言を撤回してください!!先輩の体は貧相ではなく、雄を引き付けるとても魅惑的な体つきです!!」
「やめて、お願いミハエル君。もう、もういいから」

 確かにこっぴどく振られたものの、僕も同じ立場だったら確かに縁を切らなかった自信はない。抱いた記憶のない恋人の胎が段々と大きくなっていって、平常でいられる人間は普通はいない。だから今は落ち着いている。
 スカーレットはミハエルの意見に顔をしかめ、チッと舌打ちをして再び手紙に目を落とした。残念ながら彼女はミハエルの言葉には従う。何故ならミハエルはこの国の警視総監の息子だからだ。そう、ミハエルは優秀故に警察に行っても自力で上がれただろうが、本来であれば親の七光りを存分に使ってエリート街道を歩めたにもかかわらず、その道を捨てて俺についてきているのだ。

「先輩、僕は先輩が非処女でも大丈夫です。最後に僕が幸せにしますから」
「ミハエル君みたいな助手を持てて、僕は本当に幸せだよ」
「助手じゃなくて・・・むう・・・」

 なにやら不満げなミハエルを連れて、僕たちは建物の中に足を踏み入れた。白い石を使った建築で、玄関から入ると受付のカウンターがある。係員に案内され、5階の奥まで進み、僕たちは今回守るべきお宝と相まみえる。

「こちらが今回の予告状にあった『ピンクダイヤ』となります」

 ピンクダイヤ。発掘場所が限られ、ダイヤモンド以上の価値を誇る一級品だ。この博物館にはそういった貴重な品々が取り揃えられている反面、その資金源は海外のマフィアとつながっているとのうわさもある。そういった経緯から、様々な人間の欲が集まり、やがて桃色に染まったという怪談すらある逸品だ。

「今回のお目当てはピンクダイヤですか。珍しいものでもないのにどうして怪盗はこれを狙っているのでしょう」

 今の発言はミハエルの知識がないわけではなく、彼にとってはピンクダイヤなど本当に珍しくないのだ。金持ちなので金銭感覚がバグっている。
 けれどミハエルの疑問は正しいのかもしれない。一説では、怪盗デュークはその名の通り貴族との説がある。現れた時の彼の仕草、手紙に使われている用紙、また着ているものなどから庶民が気軽にできるものでもない。

「ミハエル君、どうして彼がこれを欲しているかはわからない。けれどね、盗む対象がピンクダイヤであるということは、彼は金銭を必要としていないということが分かるんだ」
「え?どうしてですか?ダイヤよりお金を盗んだ方が早いからですか?」
「違うよ、けれどそうやって想像を働かせるのはとてもいいことだよ。ピンクダイヤは希少なんだ。ミハエル君にとってはそうでなくとも、世間ではそうではない。すると、仮に売却しようものなら簡単に足が付く」

 希少なものほど価値は高い。しかし同時に価値が高いものほど誰もが注意を向けるのだ。まとまった金銭をすぐに欲しいものがそういった危険性を冒す必要がないのである。

「ふむ・・・だとするとどうして怪盗はピンクダイヤを?装飾にしても足が付くのでメリットはないですよね」
「そうだね、わからない。なのでとりあえず今回も守りに入るとしよう」

 ここは三階。外壁は博物館らしく装飾が施されており、「やろう」と思えば登ってきやすい。警察は出入り口のあたりを固めており、外壁については手薄だった。仮に上ってきたとしても、気が付いた警備兵が外壁に向かって銃を撃てばいいから。後で外壁を傷つけたクレームは来るだろうが、ピンクダイヤの価値とは比較にならない。多少は目をこぼしてくれるのだろう。

(僕の直感では出入り口からは来ない。すると外壁・・・だろうか)

 怪盗はエンターテインメントを楽しんでいる節がある。今回は三年前でばれた警備員に扮装するといった手口を使ってこないだろう。するとどうしてわざわざ予告状を出したのか。おそらく奇想天外な方法で壁を渡り、注目を引きたい事情があると察する。

「先輩の能力は殺人事件には刺さりますが、怪盗事件には刺さりませんよね。今回のことが終わったら金輪際、怪盗事件は受けないようにしましょう」
「いや・・・。怪盗事件のほうがお駄賃が凄いんだ。特に捕まえた時の報奨金が凄い。僕はお金が欲しい。とても欲しい」
「先輩・・・」

 金銭を欲する僕の気持ちはこの助手には伝わらない。
 さて、この世界には一人一つだけ何かしら特殊能力がある。例えば僕の場合は「真偽眼」だ。相手が嘘をついたときに見抜くことが出来る。ミハエルの言った通り、これは殺人事件には非常に刺さるのだが、一方怪盗事件の時には目の前に怪盗がいて、質問でもしない限り刺さらない。故に僕は一生懸命目を凝らし、情報を拾おうと試みる。うん、外壁を見ても何もわからない。

「ミハエル君、怪盗の予告時間まであとどれくらいかな?」
「40分です」
「となると、そろそろか」

 そこで僕は外壁に違和感を覚える。女神たちの彫刻がされた外壁は、しかしところどころ黒い金属のようなものが付着していた。

「ミハエル君!君はここにいてピンクダイヤを守るんだ!」
「え、は、はい!分かりました!」

 僕は急いで部屋から抜け出し、もっと近づいて二階から違和感の元の黒い金属を確認しようとする。4階はあまり警戒されていないようで、警備はまばらだった。二階の奥の部屋はすぐ真上が5階であるものの、しかし窓が一つしかないためピンクダイヤを奪うルートとは外れる。天井も分厚く、簡単には穴を開けられない。開けられてもすぐに音で見つかるだろう。

 僕は4階の窓から身を半分乗り出し、黒い金属を触って確認しようとした。
 ・・・・・が。
 触れた途端黒い金属からはしゅるしゅると縄が出てきて、僕の手に巻き付いた。あれ・・・?これって・・・。

(怪盗対策の罠じゃ・・・?)

 下の警備兵も僕のミスに気が付いたようで、かわいそうなものを見る目で見ている。そしてすぐに警戒のために視線を戻した。

「は・・・恥ずかしい・・・」

 僕は縄を外そうと一生懸命身じろぎをする。そんな僕の背後から誰かが近づいてきた。よかった、ミハエルだろう。こんなミスを見られるのは恥ずかしいが、ナイフで切ってもらおう。

 ・・・いや待て。ミハエルはこんなコツコツという歩き方はしない。

「三年ぶりかな?君はまたもや自身をピンチにして私を誘っているね」



 三年前僕をレイプし、胎に種を植え付けた憎き怪盗デュークがそこにいた。
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