誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人探求編

29.慈愛の物語

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「羽根・・・?その羽は僕がアリオンに託した、不死鳥の羽根・・・」

 私たちの間にひらりと落ちたそれを、アウレリウスは凝視する。アウレリウスは黒い炎の魔法を解き、おそるおそる羽根を拾った。

「なんで、君がこれを・・・」

 私は、震えながら羽根を持つアウレリウスの手を、優しく包んだ。土に汚れて、ボロボロの手だ。爪も割れて。小石も挟まっている。私の死を嘆き、ここまで傷つくとは。彼は、状況の把握に時間がかかっているのか、何も言わない。けれど、段々と落ち着いてきているのが分かる。

 今が、真相を話すタイミングだろう。けれど、アウレリウスはふと視線を上にあげた。

「危ない!!」

 どこからか雷の矢が降り注ぐ。アウレリウスは、咄嗟に防御を展開した。

「闇魔法は犯罪なんですよ~。やった!僕はこれで王族を殺して良い免罪符を得ました!!なんといったって、せんせーが一番目をかけているから、本当に気に食わなかったんですよね~」
「マ、ラカイ?」
「ええ、闇魔法の行使を感知しましたので、新魔塔主の僕がやってきたんですよ!ブイ!!」

 こちらに向けてピースをするマラカイ。一方の落ち着きを見せ始めていたアウレリウスは、マラカイの姿を見るやその目にはみるみる怒りの色を含みだす。

「新魔塔主、マラカイ。貴様がアリオンを殺したな」
「はあ?僕程先生を愛している人間はいないだろうが」
「いいや、動機はある。アリオンはお前より優れていた。すると、アリオンを殺さねばお前な魔塔主になれなかった」
「あのねー。僕は遺言で先生から託されてるんですー。積み重ねている信頼が違うんですー!!遺言に何も表記が無かったお前とは天と地ほど格差があるんですけどー」

 突然のマラカイの乱入に、さらに面倒なことになり始めた。マラカイは闇魔法の現行犯としてアウレリウスに殺意を、アウレリウスは私を殺した犯人としてマラカイに殺意を。

 私は、すぐ隣にいるアウレリウスを見上げた。その頬には、涙の痕が通っており、雫はまだ乾いていない。

「アウレリウス」

 私が呼びかけると、突然名前を呼ばれた驚きでこちらを見る。そしてその顔をそっと両手で優しく包み、顔を近づける。彼の涙をぺろりと舐めた。
 体液は感情がこもる場所であればあるほど魔力もたまる。だから魔道具の中には涙という名称の物が多いのだろう。


 私は、魔力を解放し、大人の姿に戻した。


「アリ、オン?」
「ちょっと、せんせー?今の浮気ですよね。他の男に舌を這わすなんて、よくも僕の前でやれましたね」
「マラカイ、お前ちょっと静かにしててくれ」

 私とアウレリウスは向き合う。青い双眸は、驚愕に見開かれていた。そして持っていた羽根を強く握り、勢いよく私に抱擁した。丁度私がアウレリウスの胸元に顔を直撃する形だ。

「アリオン、アリオン、アリオン!!」
「ああ」
「温かい、生きている、ちゃんと僕の前にいる!」
「ああ、そうだよ。お前のおかげで死なずに済んだんだ」

 アウレリウスは私よりも体格が大きい。故に本気で抱き着かれると骨が折れそうだが、けれど苦しんだ分好きにさせてやりたい。
 とはいえ私の姿も長くは持たない。やがてすぐに子供の姿に戻った。

「アリオンがアリオンだったの?じゃあどうしてもっと早く打ち明けてくれなかったんだい?そもそも、なんで命を落として?それに・・・」
「それは、その・・・。言いづらい事情があったんだよ」

 質問を沢山投げかけるアウレリウスを制止する。本気でお前のことを忘れてたとか言えないし、実は復讐しに学園にやってきましたとも言えない。

「その・・・、せっかく子供の姿に戻ったのだから、お前の成長を近くで見ようなんて・・・」
「せんせー、嘘はやめてくださいよー。生徒になって理事長の僕と秘密の恋をしたいっていう動機だったでしょ~」
「あいつのは戯言だから流してくれ」

 本当に子どもの教育の悪い弟子だ。アウレリウスは突然の私の存在に、顔を真っ赤にしたり、先ほど短剣で私の腕を刺したことを思い出して真っ青になり、けれどやはり生きていたことがうれしいのか、頬が桜色になったり、せわしなく表情が変わっている。

 やがて、落ち着いて詳しい事情を聞きたいとでもいうように、じっとこっちを見た。

 ・・・ところで、さっき大人になったせいで早速魔力切れを起こし始めている。本当にこの体はやってられんな。

「アウレリウス、説明の前に数秒くれ」
「え?」

 私はアウレリウスから離れてマラカイの元へ近づき、マラカイも意図を察したのか素直に唇を近づける。そして、ディープキスをした。互いの唾液を分かち合う。私を抱きしめて離さないマラカイを強引に外し、口を拭いて再びアウレリウスの前に移動する。魔力の貯蔵タンクは壊れているものの、生命維持のための魔力のとして体液を貰わねば、体が熱くてムズムズするのだ。

「それでだな・・・」
「ア・・・アリオン・・・、今、き、キス・・・・」

 アウレリウスは、真っ青になって震えながらこちらを指さす。

「あ、ああ。実は光の短剣で殺されたせいで、高魔力持ちの奴から体液を貰わないと、私は魔力切れで動けない体になってしまったんだ。すまない、復活して以来ずっとこいつとキスしてたから、感覚が麻痺していた。お前の前で見せるものではなかったな」
「ふ、復活して以来、ずっとキス・・・?」
「ちょっと~先生~。ガキの前で刺激が強すぎますって!!僕と先生の濃密な大人の関係なんて・・・!!」

 ドヤ顔で私のもとに近づいて、腰に手を回すマラカイ。一方アウレリウスは憎悪の表情と共にマラカイを引きはがした。

「・・・悪いな、マラカイは変態で気持ち悪いけど、危害加えてくる奴では・・・あるな。ちょっと離れていろ」
「嫌ですー。ほかの男と仲良ししてる先生なんて解釈違いですー」
「じゃあ黙っていろ」

 私はマラカイの手を緑の魔法で縛り、猿轡をつけた。うわ、きもい。呼吸が荒くなってこっちのことを凝視してくる・・・。

 そのまま私たちは座り込んでこれまでの経緯の説明をした。
 殺されたこと、犯人を捜していること、そして入学したこと。

 学園皆殺し計画の件は・・・省略した。それを言うと私の代わりに、この子が率先してやると分かったからだ。私はアウレリウスが復讐を止めてくると思っていたが、まさか逆に復讐をやり始める側とは想定していなかった。

 けれどアウレリウスの件を抜きにしても、皆殺し計画に怯んでいる自分にも気が付いていた。

 アバラ、レオ。

 彼らの成長を見て、そして自分なりに考えていこうとする彼らを見て、段々と殺すのは惜しくなってきた。でもそういう変化は、彼らだけではないのだろう。

 試験の時の四人の生徒もそうだった。私のことを一生懸命恩人として広めようとしてくれた。

 そこの墓のいたずらのように、正直この学園に思うところは多い。けれど、復讐とは必ずしも殺すだけではない。その人物の思想を変えることだって、古い思考そのものを殺すことになる。

 私は私のやり方で、この学園に復讐しよう。今度こそ、選択を誤らないように。

「それでアリオンは、犯人に目星はついている?」
「一応現場の物品はマラカイに頼んで押収してあるが、それをお前に見せるつもりはない。経緯は説明したから私からの話は以上だ。これからは一年生のアリオンとして接してくれ。行くぞ、マラカイ」
「え!?アリオンちょっと待って・・・」

 マラカイは拘束具を自らの魔法で破壊し、笑顔でこちらに近寄る。一方アウレリウスは急いで私に駆け寄って肩を掴んできた。

「犯人につながるものを持っているんだよね!?僕にも教えてほしい!捜査は味方が多い方がいいだろう!?僕以上に学園に詳しい生徒だっていないのだし」
「ここからは殺人犯と戦うことになるんだ。お前はまだ子供なのだから勉学に励みなさい」
「子供って、僕は18歳だから成人しているんだけど!子ども扱いをしないでほしい!」
「上の世代からすると18だろうと19だろうと10代は全員等しく子供にしか見えないんだ。アウレリウス、お前は十分私の庇護対象になる」

 特に私の場合は中身が30代だったせいで、より子供にしか見えない。アウレリウスのような幼い子をそんな危険にさらすわけにはいかないんだ。
 アウレリウスは怒りをプルプルとこらえ、覚悟を決めてこちらを見る。そして私の頭を両手で挟んだ。

「・・・むぐっ!!」

 私は、アウレリウスと唇を重ねていた。

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