誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人探求編

28.復讐の物語

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 アウレリウスは、私の墓の前にいた。その表情からは絶望が見て取れる。

(あれが、私の墓か)

 自分の墓をこうして生きている間に見るという経験はそうない。名前はマラカイが掘ってくれたのだろう。よく見ると墓には赤いラインが浮かんでおり、早速誰かが落書きしていったとわかる。

 アウレリウスは、そんな私の墓を綺麗にしようとしていた。

 私の存在に気が付いたのか、生気の宿らない青い瞳と目が合う。けれど、アウレリウスは何も言わず、静かに墓に視線を戻した。
 私は、彼に何も声をかけられない。励ます資格もない。悲しませている原因はすべて私にあるのだから。

 命を差し出してくれた行為を平然と忘れ。
 だというのに嫌われては呆気なくその命を落とし。
 そうして復活したにもかかわらず、復讐を止められることを恐れ何も打ち明けず。

 罪だけを作っていった私が、どうして気休めの言葉をかけられようか。

 やがて、アウレリウスはその綺麗な指で、墓石の前を掘り始める。まるで、私に会おうとするために。

「会長!?」

 私は止めようとした。けれど、アウレリウスは止まらない。指と爪の間に小石が挟まろうと、皮が捲れようと。必死に私の体を求める。それだけが、今この瞬間を生きている原動力とでもいうように。私は流石に見ていられず、腕を掴んで止める。

 アウレリウスは表情を変えず、けれど泣いていた。その双眸から、沢山の涙が零れ落ちていた。そして止めようとている私の腕の拘束を解き、やがて血が出そうなほど、自身の手を強く握りしめる。

「失敗した、失敗した、失敗した。僕が未熟な魔法使いだから、失敗した!!」

 それは、復活のことを指しているのだろう。違う、ちゃんと成功したんだ。そう言ってあげたい自分を抑える。

「僕のせいだ、僕が余計なことをしたから、アリオンは死んだ!!僕がもっと早く優秀な魔法使いになっていれば、もっと早く貴方の隣に立てていれば」

 違う、私は嫌われていたから死んだんだ。そこにアウレリウスは関係がない。

「ごめん、アリオン、本当に、ごめんなさい・・・」

 力なく、ゆっくりと、ただ縋りつくようにアウレリウスは私の墓石を抱いた。
 私は、この子が悲しむだろうことを予測していた。けれど、ここまで苦しむなんて想像もしていなかった。

 もし、私が今このタイミングで正体をカミングアウトしても、きっと信じてはくれないと思う。。誰だって励まそうと苦し紛れの嘘をついてるようにしか思えないだろう。

 私は、いつも、選択を間違えてばかりだ。
 選択を間違えたが結果、恨まれて、殺されて、そして大事な人が苦しんでいる最中に力になれないでいる。

 もっと早く、正体を伝えていれば。
 例えアウレリウスに復讐を止められても、それでもこの子が苦しむより何百倍もマシだった。自分の感情だけを優先して、未来への想像に全く至れていなかった。

 綺麗なその手は血だらけで。感情の行き場が見つからず、ただ体を震わせる。

 やがてアウレリウスは決心したように墓石から離れて目をつむり、手を開いた。その手には魔力が収束し、やがて短剣が出来る。

 そして静かに短剣を逆手に持ち、自分の喉に向かって両手で短剣を突き刺そうとする。

「駄目だ!!」

 私は咄嗟にアウレリウスの喉を自分の腕で守った。結果短剣は私の腕に突き刺さり、一方のアウレリウスは無事だった。自殺を止められ、かといって短剣を奪い返す気力もないのだろう。目の焦点は合わず、ただただ浅い呼吸だけを繰り返す。

 ・・・私の怪我にも気を使えないほど、アウレリウスは消耗しきっていた。もはや生きることを諦めた人間の顔だ。

 でも、絶対に死なせない!!
 お前が私を助けてくれたように、今度は私が絶対に守ってやる!!

 まるで独り言を言うように、ぽつぽつと唇が動く。

「ねえ、アリオン。どうして君は嫌われていたんだろう。君は、ずっとみんなを愛していたのに。ぶっきらぼうで、誤解も生みやすかったけれど、でもその根本には愛があったのに」

 力なく、語り始める。

「アリオンは両親にすら疎まれていた。話を聞くに、弟からすらも疎まれていた。だけれど、生徒のみんなを無事に家に帰そうと努力していた。自分は両親から愛情を十分に受けていないだろうに、それでも家族の愛の素晴らしさを知っていた。僕は、あんなに優しい人を見たことがない」

 いいんだ、それをお前だけが知っていればそれでいい。
 大勢に理解されずとも、大事な人だけが知っていれば、私はそれでいい。

「努力の人だった。不遇な過去だというのに、正当化せず、不正をせずに、まっすぐに努力をしている人だった。けれど、不正という噂がたっていた。アリオンは人を恨んでも仕方がない過去を持っているのに、あの人はいつも清廉だった。だから僕もそれに倣おうと思った」

 それだって、お前だけが知っていればいいんだ。

「だというのに、誰一人アリオンを理解しなかった。その果てが、これだ」

 アウレリウスは、墓を見る。落書きが消しきれていない、その汚れた墓を。

「僕は、学園の全員が許せない。得たものに感謝もせず、ただ不平不満だけを並べていく奴らが!!君をここまで侮辱し続けた学園の連中が、ただただ憎い・・・!!」

 アウレリウスは、赤い塗料を手で拭い、やがて愛おしそうに墓石に口づけをした。涙は、もう止まっていた。けれどその目は暗く、深く澱んでいた。

「魔法使いは、魔法ですぐに物を直すことが出来る。だからこうやって汚したって、すぐに魔法で消せると思っているんだ。手で直すことの労力が分からないからこそ、平気で傷つける。人の心を傷つける痛みにさえ、すぐに治せるなんて勘違いしているんだ。・・・本当に、この世で最も醜悪な生き物だって思うよ」

 以前、立木心愛に手紙を破かれたときにも同じことを言っていた。
 塗料でその手は真っ赤に汚れ、まるで鮮血のようだ。けれどそれにすら気を遣わずに静かに立あがる。
 そして、私の目を見た。

「君はここにいて。危ないから」
「・・・何をするんですか?」
「学園の全員に復讐を。これまで連中が無事に過ごせていたのはアリオンのおかげだというのに、それを否定するということは、つまり平穏の否定。僕が奴らの命を燃やし尽くして、アリオンの正しさを証明しよう」

 アウレリウスはただまっすぐ学園を睨み、足元に真っ黒な炎を出した。

「夜天の業火」

 対象を一瞬で燃やし尽くす、殺戮に特化した闇の魔法。アウレリウスは、学園を炎の檻で皆殺しをするつもりだ。
 闇の魔法は、光の魔法と同様に条件を満たしたものか適正持ちしか使えない。その数少ない適正持ちが私であるが、もう一方の条件とは「強い害意を持っている」ということ。

 そう、他者を傷つける強い意志がなければ闇の魔法は使えない。だから疎まれ、禁止されている。けれどアウレリウスは、その害意をもって、学園に牙を向けるのだ。

 でも、私はそうはさせない。私はアウレリウスに相対するように、立ちふさがる。巾着袋を持ち、アウレリウスに掲げた。

「・・・どいて。君だけは殺したくないんだ」
「駄目です。ローゼルアリオンは復讐を望んでいない」
「いいや、彼は復讐を望んでいる。彼の無念は僕が一番わかる」

 それは確かに、その通りだ。私がなぜこの学園に来たのか。それは復讐を望んでいたからだ。復讐を望んではいること。それは確かに事実だ。

 けれど、私はアウレリウスを巻き込みたくはないんだ・・・!!

 お前だけは、お前にだけはただ幸せに、黒い感情と無縁の世界で生きていて欲しい、それもまた私の本心なんだ!!願わくば、アウレリウスが治める平和な国で、幸せな王として君臨していて欲しい。それを、私の汚い願望で未来を閉ざさないでほしいだけなんだ!!

 痛いくらいのアウレリウスの感情を受け取り、私もまた心が追い付かないでいた。
 一度姿を戻そうと魔力を集めるが、しかし中間考査による無理が祟り、今の私の魔力では大人の姿に戻れない。今が一番戻るべきタイミングであるはずなのに、本当に、私はいつもついていないな。

 私とアウレリウスは、互いに相手に向けて魔道具を掲げる。この勝負は100%、私は敗北するだろう。

 いつかお前に殺されたいと願ったことがあった。それが、こんな状況で実現するとは。二度目に殺されるときにはきっと私に未練はないだろうと、そんな幸せな未来を思い描いていた。

 けれど、ここで死ぬわけにはいかない。アウレリウスを人殺しにさせるわけにはいかない!!

「お願いだ、どいてほしい。君は、アリオンのことを知っている数少ない人間だ。僕は、僕の死んだ後に思いを残してくれる人が欲しいんだ」
「駄目です」
「・・・ごめんね、本当に、ごめんね」

 言葉の説得は不可と判断したアウレリウスは、私に向けて黒い炎を放った。
 ・・・が、熱くない。

「魔道具、燃やさせてもらったよ。これで君は僕を止めることは出来ない・・・・・」

 私の持っている魔道具だけを狙って、魔法を放ったのだ。決して私の命をとらないように、と。
 すると、自身を守る布が消えたその中身は、ひらひらと下に落ちる。

 深紅の羽だ。
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