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犯人探求編
33.亡霊・ローゼルアリオン①
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アウレリウスは私の引っ越しを手伝う気満々だったが、手伝わせるわけがないだろう。ただでさえ生徒会で忙しいのだ。ゆっくり休んでいて欲しい。
なにより愛情に飢えているアウレリウスのことだ。そんなに頑張らなくても私はきちっとあの子に愛情を与えるつもりでいる。愛と献身を等価交換と思って欲しくはないのだ。
故に、今晩のうちに一人で全作業を完了させる。
「ところでアバラもどうして夜に引っ越しを?」
「いや、それがなあ。昼間や夕方とかやと人とすれ違うねん。自分のプライベートな手荷物を他人に見られるの、ちょっと恥ずかしいやん?」
「ああ、夜なら誰ともすれ違わないっていう奴か」
丁度私が死んだことにより、夜間の外出は解禁された。故に、こうして歩いていても誰も咎めることはなくなったものの、だからと言ってすぐに外に出る者はいない。しいて言うなら夜遊びをする者か、天文学の面々くらいだろう。
「ところでおチビ~。知っとるか?幽霊の噂~」
「幽霊?あー・・・」
「出るんやってな。夜になると」
アバラは手をお化けの形にし、ニシシと笑っている。そんな私たちの雑談に後ろから誰かがやってくる。レオだ。
「ちょっと、幽霊なんて話はいいから、さっさと引っ越しするんでしょ?」
「おーレオ!手伝いに来てくれたんか。ありがとうな!」
レオは作業用手袋を付けながらやってきた。浮遊魔法は降ろすときの調整が難しい。例えばタンスを上にあげる際には、引き出しが出ないように空中に浮かべる必要がある。そしてそれを下ろすときには、当然浮遊角度の調整をして下げなくてはならない。故に、一度傷をつけないよう広い場所でおろし、そこから細かい位置はどうしても手作業になるのだ。それを知っているからこそ、レオは手袋を付けているのだ。
まあ、私は魔法の達人だから一発で正確におろせるが。
「レオは幽霊苦手やもんなー。そんななか来てくれて本当頭上がらんわー」
「それはアバラが幽霊を知らないからだよ!!僕みたいな古い家の出身は、邸宅も古くなるの!すると湧くんだよあいつら!!」
「古い家?ほーん?レオってひょっとするとお貴族様の家なんか?」
「そうだよ!!侯爵家だよ!!」
レオは侯爵家なのか。道理で博識だと思った。貴族の家でもない限り、専門の知識を吸収するのは平民には難しい。けれど授業でのレオの細かい知識は平民には出せない物とは思っていたのだ。
うん、侯爵家?
「ひょっとしてレオ。生徒会書記のイヴリンさんって・・・」
「僕の姉さんだね」
「へえ。そうだったんだ・・・」
姉弟揃って平民に対して圧がない。レオがここまで貴族特有の臭みのない人間なら、姉もそうだろうと推測する。
「レオからみたイヴリンさんってどんな感じ?」
「昔から優しくておしとやかで賢くて、とてもいい姉さんだよ」
「だよね・・・。そういう人が国母になるべきなんだよね・・・」
私はレオを見て、威張ること無い出来た人間だと評価している。なんなら貴族出身ということも今初めて知った。そんな人物が姉のことを評価しているのなら、やはり我がアウレリウスの隣にふさわしい人材なのでは。あと彼女は私の悪口を言わなかったし。
「それにしても、アリオンも僕のことをひょっとして平民って思ってたのかな?ここにリンゴの花の刺繍があるでしょ?」
「リンゴの花の刺繍?」
レオのローブの胸元には確かにリンゴの花の刺繍が施されている。そういえばちょくちょくその刺繍を付けている人間を見かける気がするな。
「リンゴの花の花言葉は『優先』。つまり、これを付けている者は貴族っていう目印だよ。偶々フランクに話しかけた相手が貴族だった、というトラブルを避けるために生徒間で勝手にルールを作ってるの」
私は制服を作ることで公平な環境を作った反面、身分制がある以上はそういったトラブルも確かに起きやすい。ただ、ルールというのはその都度柔軟に変えるべきものなので、子供たちが考えた面白い工夫に思わず驚く。ただのおしゃれか何かだと思っていた。
「あれ?君たち、こんな夜更けに何をしているんですか?」
後ろからまた更に違う人物が現れる。我が弟のロージだ。確かに、ロージの胸元にもリンゴの花の刺繍が施されていた。
「副会長さんやん!どうしたん、こんなところで」
「夜間の外出は解禁されたけど、夜の学園は危ないのは本当ですので、すぐに自室に戻った方がいいですよ。なんでも、兄さんの幽霊も出るらしいですから」
「兄さんの幽霊って・・・ローゼルアリオンの幽霊!?」
ロージの言葉に、アバラは驚く。
私の亡霊?いや、私の魂はここにあるから、幽霊として出現するわけがないだろうが。
「兄さんの死亡推定時刻は先週って噂知ってるかな?そのあたりから、長い髪を三つ編みにした男性の幽霊が出るようになったそうですよ」
「ええ・・。夜間外出生徒をぶっ殺すためなんかな。・・・校則って俺たちを守るためかもしれないって思い始めたんやけど、なんやローゼルアリオン、本末転倒になっとらんか・・・?」
とんでもない冤罪である。嘘だろう、私は死後も悪い意味の伝説扱いにされるのか。
「でも安心し。ローゼルアリオンに言いたいことがたくさんあるんや。幽霊になっとるならちょうどええわ」
「・・・それなら確かに、私も言いたいことは沢山あります。ぜひお会いしたいですね」
「副会長殿はお兄さんのこと嫌いなんですよね?なのにわざわざ?」
レオの質問に、ロージはこくりとうなずく。
それは兄である張本人の私としてはぜひとも聞いてみたものだ。けれど、それには弟と亡霊ローゼルアリオンを直接会わせる必要がある、が、そんなものはいないはずなので、私が自ら作るしかないだろう。自分の幽霊を作るってなんだ?
「まあまあ、俺たちは、はよ引っ越し作業せんとあかんからな。おチビ、終わったらお前んとこ手伝いにいったるさかい、それまでは個人個人でやろか」
「僕の方が荷物は少ないと思うから、レオは良ければアバラについてくれるかな?」
「引っ越しですか?こんな暗い時間に?よろしければ私も手伝いますよ」
ロージから申し出がある。本当であれば彼も副会長故に忙しいだろうが、殺人犯の容疑者である以上はこいつからも話を聞いておきたい。それには幽霊騒ぎは絶好のタイミングになる。
「副会長、でしたら僕の手伝いをしていただけると嬉しいのですが・・・」
「アリオン君、はい分かりました。では案内していただけますか?」
アバラ・レオと別れ、私は家に案内する。すでに玄関に荷物はまとめておいてあるため、運ぶだけだ。
「金庫ですか。これは非常に重いのでアリオン君みたいな一年生には辛いでしょう。私が持って先に行っていますね」
金庫外装には魔法無効化がある。すると、これは浮遊魔法では運べない。私の体格は同年代に比べれば小さいので、ロージは自ら引き受けてくれた。
ロージが金庫を抱え、先に進む。私はそのまま何も持たず、後ろからロージの尾行を始めた。ロージは実家通いのようで寮には慣れていないはずだが、事前に場所を知らせると何となく部屋は察したようだ。
学園の裏口に入り、寮の門を通り、寮の入り口を通り、やがて建物の奥で最上階の、許された者だけが入れるエリアに進んでいく。ここは教師か、身分が侯爵以上か、生徒会の面々しか通れない。先ほどアバラは私を手伝うといっていたが、平民の彼ではそもそも入れないのだ。
金庫を私の部屋に置き、やがて私の家へと引き返し始める。そこで私は水魔法を使用した。水蒸気を発生させ、霧を形作る。大人の姿の私に成形し、ロージの前へ歩かせた。
「・・・兄さん?」
幽霊の私に気が付き、ロージは驚きの目をする。さて、お前が犯人であれば特殊な会話が始まるはずだ。どう出る、我が弟よ。
「兄さん、本当に亡くなったんだね。殺されたときの気分はどうだった?」
性格悪いな弟。殺された相手に殺されたときの感想を、普通聞くか?容疑者メーターがぐんぐん上がっていくぞ。
「まあ、最悪だったろうね。聞いたよ、後ろから光魔法で刺されたんだって?兄さんはあっちこっちに恨みを買っていただろうから、そんな日が来るんじゃないかとは思っていたよ」
私は物陰に姿を隠しておりロージの様子はここからは見えない。できればその表情を確認したくはあるが、声色だけで判断するしかないだろう。
「・・・僕はね、兄さんを越えてジェルド教授に認められたかったんだ。ジェルド教授は僕の影に兄さんを感じて僕を遠ざけた。たった弟という理由だけで、あの人は僕を認めてくれなかったんだ」
悲痛な叫びが暗い廊下に響く。声は固く、今にも泣きそうだ。
「だから魔塔主を目指した。僕が魔塔主になって、貴方を殺せばジェルド教授に弟子として認められると思った。けれど貴方は勝手に亡くなってしまった。死んでしまったらあなたの存在はジェルド殿の中で永遠になってしまう。あなたを越える手段がなくなってしまった!あなたは、僕が殺したかった・・・!!」
そういえば・・・と私は思い返す。ジェルドが婚約者として決定したとき、あいつは顔合わせとしてうちの実家へやってきた。その時の私たちの空気はまあ険悪だったが、ソファで向き合って互いに睨みあう私たちの元へ、ロージは遊びに来た。ロージは魔導書をジェルドに渡し、読んでもらっていた。
一人っ子故に年下から懐かれるのが嬉しいジェルドと、呪われた兄を持つロージ。二人はまるで本物の兄弟のように仲良くしていた。
ロージがジェルドに恋愛感情を抱いていたか?いや、私が見るにそういう類の感情ではなかった。そうであったなら、ロージがジェルドの婚約者である私を見る目はもっと憎々しかっただろう。けれど弟が私を見る目は、越えられない壁を見る目だった。
ジェルドには本当に、将来義兄になる人として懐いていたと思う。けれどそれ以上にあこがれの存在として目指していたのだろう。
「魔法同時術式を応用レベルに押し上げた天才・ジェルド。僕は一体どうすればあの人の元で学べるのか。教えてくださいよ、兄さん・・・」
泣きじゃくる弟の声が響く。
魔法使いの弟子というのは、私たちが思っている以上に大きな意味合いを持つ。血の繋がりに匹敵するほどに重い縁を持つ。
私の体を模した霧は何も言葉を発することはなく、ただ空中に霧散した。
ロージには私を殺す動機があった。けれど、あの罪の告白を受けて、殺人にかかわる人間として認識するには少し難しいと思う。私がそう結論付けて場を去ろうとすると、誰かが私の肩を抑える。
「アーリオン」
肩を押す力が強くて振り向けない。けれど、その指先からアウレリウスがめちゃくちゃ怒っていることが伝わってきた。
なにより愛情に飢えているアウレリウスのことだ。そんなに頑張らなくても私はきちっとあの子に愛情を与えるつもりでいる。愛と献身を等価交換と思って欲しくはないのだ。
故に、今晩のうちに一人で全作業を完了させる。
「ところでアバラもどうして夜に引っ越しを?」
「いや、それがなあ。昼間や夕方とかやと人とすれ違うねん。自分のプライベートな手荷物を他人に見られるの、ちょっと恥ずかしいやん?」
「ああ、夜なら誰ともすれ違わないっていう奴か」
丁度私が死んだことにより、夜間の外出は解禁された。故に、こうして歩いていても誰も咎めることはなくなったものの、だからと言ってすぐに外に出る者はいない。しいて言うなら夜遊びをする者か、天文学の面々くらいだろう。
「ところでおチビ~。知っとるか?幽霊の噂~」
「幽霊?あー・・・」
「出るんやってな。夜になると」
アバラは手をお化けの形にし、ニシシと笑っている。そんな私たちの雑談に後ろから誰かがやってくる。レオだ。
「ちょっと、幽霊なんて話はいいから、さっさと引っ越しするんでしょ?」
「おーレオ!手伝いに来てくれたんか。ありがとうな!」
レオは作業用手袋を付けながらやってきた。浮遊魔法は降ろすときの調整が難しい。例えばタンスを上にあげる際には、引き出しが出ないように空中に浮かべる必要がある。そしてそれを下ろすときには、当然浮遊角度の調整をして下げなくてはならない。故に、一度傷をつけないよう広い場所でおろし、そこから細かい位置はどうしても手作業になるのだ。それを知っているからこそ、レオは手袋を付けているのだ。
まあ、私は魔法の達人だから一発で正確におろせるが。
「レオは幽霊苦手やもんなー。そんななか来てくれて本当頭上がらんわー」
「それはアバラが幽霊を知らないからだよ!!僕みたいな古い家の出身は、邸宅も古くなるの!すると湧くんだよあいつら!!」
「古い家?ほーん?レオってひょっとするとお貴族様の家なんか?」
「そうだよ!!侯爵家だよ!!」
レオは侯爵家なのか。道理で博識だと思った。貴族の家でもない限り、専門の知識を吸収するのは平民には難しい。けれど授業でのレオの細かい知識は平民には出せない物とは思っていたのだ。
うん、侯爵家?
「ひょっとしてレオ。生徒会書記のイヴリンさんって・・・」
「僕の姉さんだね」
「へえ。そうだったんだ・・・」
姉弟揃って平民に対して圧がない。レオがここまで貴族特有の臭みのない人間なら、姉もそうだろうと推測する。
「レオからみたイヴリンさんってどんな感じ?」
「昔から優しくておしとやかで賢くて、とてもいい姉さんだよ」
「だよね・・・。そういう人が国母になるべきなんだよね・・・」
私はレオを見て、威張ること無い出来た人間だと評価している。なんなら貴族出身ということも今初めて知った。そんな人物が姉のことを評価しているのなら、やはり我がアウレリウスの隣にふさわしい人材なのでは。あと彼女は私の悪口を言わなかったし。
「それにしても、アリオンも僕のことをひょっとして平民って思ってたのかな?ここにリンゴの花の刺繍があるでしょ?」
「リンゴの花の刺繍?」
レオのローブの胸元には確かにリンゴの花の刺繍が施されている。そういえばちょくちょくその刺繍を付けている人間を見かける気がするな。
「リンゴの花の花言葉は『優先』。つまり、これを付けている者は貴族っていう目印だよ。偶々フランクに話しかけた相手が貴族だった、というトラブルを避けるために生徒間で勝手にルールを作ってるの」
私は制服を作ることで公平な環境を作った反面、身分制がある以上はそういったトラブルも確かに起きやすい。ただ、ルールというのはその都度柔軟に変えるべきものなので、子供たちが考えた面白い工夫に思わず驚く。ただのおしゃれか何かだと思っていた。
「あれ?君たち、こんな夜更けに何をしているんですか?」
後ろからまた更に違う人物が現れる。我が弟のロージだ。確かに、ロージの胸元にもリンゴの花の刺繍が施されていた。
「副会長さんやん!どうしたん、こんなところで」
「夜間の外出は解禁されたけど、夜の学園は危ないのは本当ですので、すぐに自室に戻った方がいいですよ。なんでも、兄さんの幽霊も出るらしいですから」
「兄さんの幽霊って・・・ローゼルアリオンの幽霊!?」
ロージの言葉に、アバラは驚く。
私の亡霊?いや、私の魂はここにあるから、幽霊として出現するわけがないだろうが。
「兄さんの死亡推定時刻は先週って噂知ってるかな?そのあたりから、長い髪を三つ編みにした男性の幽霊が出るようになったそうですよ」
「ええ・・。夜間外出生徒をぶっ殺すためなんかな。・・・校則って俺たちを守るためかもしれないって思い始めたんやけど、なんやローゼルアリオン、本末転倒になっとらんか・・・?」
とんでもない冤罪である。嘘だろう、私は死後も悪い意味の伝説扱いにされるのか。
「でも安心し。ローゼルアリオンに言いたいことがたくさんあるんや。幽霊になっとるならちょうどええわ」
「・・・それなら確かに、私も言いたいことは沢山あります。ぜひお会いしたいですね」
「副会長殿はお兄さんのこと嫌いなんですよね?なのにわざわざ?」
レオの質問に、ロージはこくりとうなずく。
それは兄である張本人の私としてはぜひとも聞いてみたものだ。けれど、それには弟と亡霊ローゼルアリオンを直接会わせる必要がある、が、そんなものはいないはずなので、私が自ら作るしかないだろう。自分の幽霊を作るってなんだ?
「まあまあ、俺たちは、はよ引っ越し作業せんとあかんからな。おチビ、終わったらお前んとこ手伝いにいったるさかい、それまでは個人個人でやろか」
「僕の方が荷物は少ないと思うから、レオは良ければアバラについてくれるかな?」
「引っ越しですか?こんな暗い時間に?よろしければ私も手伝いますよ」
ロージから申し出がある。本当であれば彼も副会長故に忙しいだろうが、殺人犯の容疑者である以上はこいつからも話を聞いておきたい。それには幽霊騒ぎは絶好のタイミングになる。
「副会長、でしたら僕の手伝いをしていただけると嬉しいのですが・・・」
「アリオン君、はい分かりました。では案内していただけますか?」
アバラ・レオと別れ、私は家に案内する。すでに玄関に荷物はまとめておいてあるため、運ぶだけだ。
「金庫ですか。これは非常に重いのでアリオン君みたいな一年生には辛いでしょう。私が持って先に行っていますね」
金庫外装には魔法無効化がある。すると、これは浮遊魔法では運べない。私の体格は同年代に比べれば小さいので、ロージは自ら引き受けてくれた。
ロージが金庫を抱え、先に進む。私はそのまま何も持たず、後ろからロージの尾行を始めた。ロージは実家通いのようで寮には慣れていないはずだが、事前に場所を知らせると何となく部屋は察したようだ。
学園の裏口に入り、寮の門を通り、寮の入り口を通り、やがて建物の奥で最上階の、許された者だけが入れるエリアに進んでいく。ここは教師か、身分が侯爵以上か、生徒会の面々しか通れない。先ほどアバラは私を手伝うといっていたが、平民の彼ではそもそも入れないのだ。
金庫を私の部屋に置き、やがて私の家へと引き返し始める。そこで私は水魔法を使用した。水蒸気を発生させ、霧を形作る。大人の姿の私に成形し、ロージの前へ歩かせた。
「・・・兄さん?」
幽霊の私に気が付き、ロージは驚きの目をする。さて、お前が犯人であれば特殊な会話が始まるはずだ。どう出る、我が弟よ。
「兄さん、本当に亡くなったんだね。殺されたときの気分はどうだった?」
性格悪いな弟。殺された相手に殺されたときの感想を、普通聞くか?容疑者メーターがぐんぐん上がっていくぞ。
「まあ、最悪だったろうね。聞いたよ、後ろから光魔法で刺されたんだって?兄さんはあっちこっちに恨みを買っていただろうから、そんな日が来るんじゃないかとは思っていたよ」
私は物陰に姿を隠しておりロージの様子はここからは見えない。できればその表情を確認したくはあるが、声色だけで判断するしかないだろう。
「・・・僕はね、兄さんを越えてジェルド教授に認められたかったんだ。ジェルド教授は僕の影に兄さんを感じて僕を遠ざけた。たった弟という理由だけで、あの人は僕を認めてくれなかったんだ」
悲痛な叫びが暗い廊下に響く。声は固く、今にも泣きそうだ。
「だから魔塔主を目指した。僕が魔塔主になって、貴方を殺せばジェルド教授に弟子として認められると思った。けれど貴方は勝手に亡くなってしまった。死んでしまったらあなたの存在はジェルド殿の中で永遠になってしまう。あなたを越える手段がなくなってしまった!あなたは、僕が殺したかった・・・!!」
そういえば・・・と私は思い返す。ジェルドが婚約者として決定したとき、あいつは顔合わせとしてうちの実家へやってきた。その時の私たちの空気はまあ険悪だったが、ソファで向き合って互いに睨みあう私たちの元へ、ロージは遊びに来た。ロージは魔導書をジェルドに渡し、読んでもらっていた。
一人っ子故に年下から懐かれるのが嬉しいジェルドと、呪われた兄を持つロージ。二人はまるで本物の兄弟のように仲良くしていた。
ロージがジェルドに恋愛感情を抱いていたか?いや、私が見るにそういう類の感情ではなかった。そうであったなら、ロージがジェルドの婚約者である私を見る目はもっと憎々しかっただろう。けれど弟が私を見る目は、越えられない壁を見る目だった。
ジェルドには本当に、将来義兄になる人として懐いていたと思う。けれどそれ以上にあこがれの存在として目指していたのだろう。
「魔法同時術式を応用レベルに押し上げた天才・ジェルド。僕は一体どうすればあの人の元で学べるのか。教えてくださいよ、兄さん・・・」
泣きじゃくる弟の声が響く。
魔法使いの弟子というのは、私たちが思っている以上に大きな意味合いを持つ。血の繋がりに匹敵するほどに重い縁を持つ。
私の体を模した霧は何も言葉を発することはなく、ただ空中に霧散した。
ロージには私を殺す動機があった。けれど、あの罪の告白を受けて、殺人にかかわる人間として認識するには少し難しいと思う。私がそう結論付けて場を去ろうとすると、誰かが私の肩を抑える。
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