誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人探求編

35.ロージの懺悔

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 レオ・アバラ・ロージの視線が私に集まり、息をのむ声が聞こえた。

「兄さん・・・?」

 三人が呆気に取られている今も、アバラの体はずるずると鳥かごに吸い込まれている。私は大杖を掲げ、闇魔法の影蝕えいしょくを放った。黒い霧が亡霊の体を覆い、やがて蛇のように筒になっては体中をまとわりついた。

「影蝕、そうか!!アバラ君、レオ君!あの偽兄さんは亡霊じゃありません!!召喚獣です!!いま現れた兄さんこそ本物の亡霊です!!」

 本物の亡霊ではない。私はただの本物だ。
 とはいえ流石我が弟なだけはあり、私の魔法の意図を察したようだ。

「召喚獣・・・?つまり、どこかに契約のキーがあるということ・・・?」

 召喚獣とは幻想生物や魔法生物と契約を結ぶものである。魔法界の生物は人間以上に契約を重視しているため、彼らの力を借りる時は媒介が必要になるのだ。裏返せば、それを壊してしまえば破棄が出来る。
 一番怪しいのは・・・

「ローゼルアリオン、どこを指さして・・・。鳥籠の上のクリスタル・・・?」

 そう、あのクリスタルことが召喚の媒介。私の影蝕は、直接の害を与えることは出来ないが、その人物の急所を指し示す。蛇はやがてクリスタルにまとわりつき、けれど主人たちに情報の提供を終えると役目は達成したとばかりに霧散する。

 ・・・ここまでやれば、あとは大丈夫だろう。
 私はみんなの視線がそれている間に姿を消し、アウレリウスが隠れている場所へと倒れこんだ。姿も元に戻る。

『お疲れ様、アリオン』
『ああ、お前はそのまま、万が一が無いようにあの三人を見守ってやって欲しい』

 アウレリウスはこくりと頷き、すぐ周辺を写し出すことが出来る水鏡を展開した。そっと見守る。
 亡霊は急所を守るために鳥かごからクリスタルを外した。すると、鳥かごは中に人を入れた状態で消えてしまった。しかし、クリスタル自体を消すと自分も消えるのか、自分の体の中心に据え、守るように三人に向かって攻撃魔法を放つ。

「・・・やはり偽物ですね。本物の兄さんなら静かに闇魔法で敵の首を落とす。だというのにこの亡霊は風魔法や氷魔法をぶつけるだけ。もう少し本物の陰湿さを学んでから姿を真似てください」
「そうやぞ!ローゼルアリオンがこんなしゃらくさい真似をいちいち取るわけないやろが!!くらえ!!」

 ロージとレオによる守りの援護もあり、なんとか亡霊の懐にアバラが駆けこむ。そして、身体強化魔法で底上げされた渾身の一撃をクリスタルに放った!!

 クリスタルにはヒビがパキパキと入り、やがて、真っ二つに割れる。

 亡霊の姿は霧散し、床にはただクリスタルの破片だけが散らばった。

「あー・・・終わった・・・。だから幽霊は恐ろしいって言ったじゃん・・・」
「あれは召喚獣やったんやろ?で、後からやってきたのが本物の幽霊。幽霊のわりに、俺たち助けてくれたんやな・・・。なんや、亡くなっても助けてくれるなんてどういうことや・・・」
「人をなんとも思ってないあの兄さんが、どうして助けに来てくれたのでしょう」
「あんたが弟やからとちゃう?」
「そんなわけ・・・」

 アバラの指摘に、ロージは顎に手を当てて考えだす。確かに私は兄として何もすることは無かった。兄弟というつながりがあるのに年上が何もしないということは、年下からすれば「見下している」と認識されてもやむを得ないものはあるだろう。

「兄さんは、本当に人を見下していたのでしょうか」

 戦いが終わり、周囲が散乱する中で、ロージは静かに目を閉じて、やがてぽつりとつぶやく。

「月明花ってご存じですか?一定の時間、葉が月明かりに照らされることで光を蓄える魔法植物です」
「ああ、入試に出ていたね」
「え?そなの?」
「ええ、学園の入試試験に合わせて、出るかもしれないと、おまけ程度に覚えておく花です。僕は兄さんと違って応用を利かせられる天才ではありませんでしたので、そういったおまけの書籍に手を出してでも知識を吸収していました。丁度僕の受験勉強と兄さんの魔塔からの帰省が重なったタイミングだったんですが・・・」

 現代日本とは異なり、模試のような判断手段がないこの学園では、一体何点をとればいいのかはグレーゾーンにある。貴族故に過去問を秘密裏に入手することは出来るものの、毎回教授をランダムに、そして受験者層のレベルアップによって、年々問題の癖が上がってきた。

 故に、ロージも、勉強しても満足できない日々が続き、家のあちらこちらに本を運んでは、忘れてしまう
 という日々が続いた。

 そんなある日のことだった。兄が魔塔から帰省してきたときのこと。普段兄はこちらに帰ることは無いが、弟子が魔塔を半壊したとのことで、急遽今晩だけ寝床の確保に来たのだ。相変わらず兄と自分は一切喋らない。互いを空気か何かだと思っている。

 ・・・いや、違う。ロージは心の奥底では兄に憧れていた。もっと話がしたかった。けれど、兄の目は人を見下したかのような目で、低俗な自分とは関わらないとでもいうように視界にも入れない。それが自分のコンプレックスを刺激して、互いに無関心と思い込まねば心が壊れそうだったのだ。

 その時は受験生で、どのみち兄に構っていられる余裕などない。子爵家の図書に自室から本を持ち込み、静かな空間で勉強していた。そしてふらふらになりながら自室へ戻って就寝する。そんなとき、自分が本を図書室に忘れていることに気が付いた。舌打ちをしつつ、あの本は明日の朝すぐに読み返そうと思い取りに戻る。

 そこには兄がいた。

 そして弟の本を開き、目を通す。さすがは現役魔塔主。読むのも早く、ロージが何度も時間をかけて読んだものもすぐに読み終える。
 そしてロージに本を差し出し、こう言った。

「こんなくだらんものを読むんじゃない。時間の無駄だ」

 兄の、この発言はロージの自尊心を大いに傷つけた。固まっているロージをじっと見た後、その胸にポンと押し付けて部屋から去る。
 ・・・切羽詰まった受験生とは、些細なことにすら大きく心に負荷を負う。と断じられたこと。

 それすなわち、自分自身を無駄と断じられたように心に傷を負う。

 ロージは、受け取った本を床に落とし、拾う気力すらなかった。

「うわ・・・ローゼルアリオン、受験生にどういう言葉かけてんねん・・・」
「それは受験期に僕も同じこと言われたらへこむかな」
「ええ、私も自信を喪失し、けれど兄への怒りに転化させることで何とか自尊心を維持しました。やがて学園に合格し、しばらく一年生として授業を受け、やがて新しい教科書のために、受験に用いた本を整理していた時のことです」

 ロージは手放すべき本を整理していた。まだ入学して一か月。本当は受験の本は入学前に整理するのが本当だろうが、しかし苦楽を共にした相棒たちをすぐに手放す気持ちにはなれなかったのだ。本は貴重だ。故に捨てはしない。親戚の、また学園を受験する子に渡したいと思っている。そうして倉庫に運ぶ作業を自分でこなしていた時、以前に兄から酷評を受けた本が目に入った。

 学園で一か月は授業を受けた。自分も成長をしている。ぱらぱらとページを捲ったときに、月明花の項目が目に入った。そこには『一定の時間、葉が月明かりに照らされることで光を蓄える魔法植物』と書いてある。

 けれどロージは植物学の授業を思い出した。
 月明かりでの蓄光はもう古い説。最新の研究で月明かりに晒されるからではなく、昼間の太陽の光を蓄えて夜に光るという説が今では定説となっている。

「記載の古さは月明花だけではありませんでした。子爵家は金銭難に直面する家。故に、蔵書も入れ替えられる余裕などない。・・・兄さんは、本に書いてある記載内容が古いことに気が付いて忠告してくれたのでしょう。万が一そんな古い説で僕が受験に落ちることが無いように、と」

 けれど、人間というのは快く思っていない相手からの言葉は悪意で解釈してしまう。故に、その本が古いということに気が付いても、兄への怒りは止まない。「だったらもっと言葉遣いを考えてくれればいいじゃないか」というように。本の内容が古いというようにと分かりやすく伝えてくれたら、傷つかずに済んだのに、と。

 故に、兄への好感度が戻ることはなかった。そして忘却の彼方へとこの件を追いやる。

「なんで、命を落とした後に、それでも僕を助けに来てくれたんですかね。どうして。僕はあの人のことを嫌っていて、それどころか『死んでせいせいする』なんて暴言を吐いたのに」

 ロージの声は、震えて涙声となっていた。
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