誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人探求編

39.小屋の調査

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 アウレリウスに横に抱えられ、立木心愛が攫われた小屋の調査を始める。

「魔法って、便利なようで不便だよね。明確な傷は治せても、筋肉痛のような明確な急所があるものには刺さらない。だから、もっと詳しく調べたいって思ったら遠慮なく教えてね。僕が代わりにやるから」

 私はコクリと頷いた。
 先ほど、アウレリウスに「慰み者にする」と脅されたばかりだ。

 ・・・私は「支配のローゼアリオン」と勝手に呼ばれていたが、アウレリウスのことは全然支配が出来ていない。逆にこの子に支配宣言をかけられるとは、なんと不甲斐ない。

 けれど私はこの子に一度命を助けられている。殺人犯を特定することがこの学園でやるべきことではあるが、けれど恩人であるこの子の意思に背いてまで進んではならないのだ。

 とはいうものの、ここ最近のアウレリウスから私への依存心は、流石にどうかと思う瞬間も多い。これは、本当に正しい関係の在り方なのだろうか。

 悩みは尽きない。疑問も、疑念も。けれどそういった心を封印しなくては。この子の興味が他に向くまで、私はアウレリウスの望む人物像を徹底しなくてはならない。色恋だけはこの子の意向に沿う気はないが、やがては父子関係へと軌道修正していきたい。

 心を落ち着かせながら、小屋を見回す。

「この小屋は、元から無かったよな。急遽建てた新しさを感じる」
「誘拐専用の小屋だったのかな?壊されてもいいように本当にシンプルな内装だよね」

 感知を使い、魔法の痕跡を洗う。とはいえ既に入っただろう調査隊の痕跡も残っており、新しい情報は拾えない。

「・・・痕跡がないな。いや、なさすぎる」

 通常魔法とは使用すると何かしら形跡が残る。私の闇魔法のように、適正系統をあまりに極めすぎている場合は痕跡を完璧に消すことも出来ないでもないが、しかし例えそうであってもこれは残らなさすぎだ。

「やはり、結界の件と言い学園の内部の者が手引きしているな」
「教授の誰かかな?」
「だろうな。生徒の中でそんな小細工が出来るのはお前くらいだろうが、そのお前は今こうして潔白の立場だから教師に絞られる」
「アリオン、僕のこと全面的に信じてくれるんだね。ありがとう、僕もアリオンが好きだよ」

 横抱きにしながら頬ずりしてくる。
 他に痕跡がないか探していると、布の切れ端が目に入った。

「この色は、ローブの切れ端か。すると立木心愛の制服だったかもしれないな」
「そうだね、ここでつかまって、暴れたんだろう」
「・・・どこの切れ端だろうか。ローブは学年ごとの色分けの刺繍以外は全部無地なんだよな」

 ローブの裾や襟元などに、色分けがされている。例えば我々一年生は藍、二年生は緑、三年生は赤と決められている。

「胸元も違うか。立木心愛にリンゴの花の刺繍は・・・ん?どうだったかな?」

 女性の胸元をじろじろ見る趣味はない。立木心愛は聖女だが、これは貴族に入るのだろうか。

「心愛は平民扱いだよ。だからリンゴの花の刺繍はない」
「お前には付いているな」
「これはあくまで身分が自分より高い可能性を示す暗号みたいなものだからね。相手が誰なのか比較しやすくするものだから。一方この国に聖女に対して無礼を働くことに対する罰則はない。聖女たるもの、少々の無礼は許さなくてはいけないという、代々の聖女自身が決めたしきたりみたいなものだね」

 それをあの自尊心の塊がよく受け入れたな。いや、おそらくは駄々をこねて、リンゴの花の刺繍をつけたいと言ったのだろう。

「本当に、説得には苦労したよ。一応は生徒間のお約束みたいなものだけれど、今ではもう大人にも認識されているルールになっているからね。そういう例外を認めれば、いずれ無法地帯となって目印の役割がなくなってしまう。彼女、最終的には泣き出したんだけど、面倒だったから放置してたら、次第に僕の制服を盗んで街の中に降りて行ってたらしいし」
「お前の服を着て、あいつは満足したのか?」
「そうなんじゃない?入学式の時に、彼女はわざわざ新しい制服を見せてきたんだけど、その時には付いていなかったから。まあ、数日前に少し強めに言ったのが効いたのかもしれないけど・・・」

 強めに言った。アウレリウスは基本的に穏やかで気品があるたたずまいだ。そんな人物が強く言えば、かなりのインパクトがある。かくいう私も、ここ数日のアウレリウスの気迫に心が何度も乱された。すると、立木心愛も怯えたのだろうなと予測する。

 拾える情報と言えば以上だろう。学園に手引きした者がいる可能性と、立木心愛の刺繍の話。情報がいつどこで役に立つか分からない。私は頭の中にしまい込む。

「おチビ~!!ちょっとこっち来てくれへ~ん!?」

 外からはアバラの声がする。私とアウレリウスは互いに見合って頷き、外へ出る。

「アリオン、これ見て・・・・・・・なんでお姫様抱っこ?」
「あはは、僕たちのことは気にしないで。で、どうしたの?」

 人形型の白いお守りが落ちていた。木製の、手のひらサイズの人形だ。手足の部分は動くようだが、これは、なんだ?

「これって、襲撃犯のリーダー格の奴が持ってたやつとそっくりやんな。なんや、おままごとでもしとるんか?」

 私は手に持って観察する。この場で答えは出せない。マラカイが戻り次第、渡して調べさせるか。

 軍部の暗部組織による生徒誘拐。
 そこに落ちていた白いお守り。
 私の死亡現場に落ちていた、制服のボタン。
 学園側の手引きが無ければ難しいだろう犯行の数々。

 アウレリウスは考え込む私を察したのか、代わりに口を開いた。

「アバラ君とレオくんだったかな。生徒会の仕事を手伝ってくれて礼を言うよ。おかげで重要な物品が入手できた」
「え~俺たち役に立ったん!?礼を言われると嬉しいな~」
「役に立てたなら光栄です」

 アバラとレオは満足げにしている。アウレリウス、ありがとう。この二人はこれ以上深くに首を突っ込ませるわけにはいかない。これは、想像以上に深い闇が待っている可能性が高い。

 ここに二人を連れてきたのは私だが、解散する必要があるな。アウレリウスによって証拠を私の自室に転送して貰った後、たくましい腕から何とか降りて二人に向き合う。腰は痛いが、我慢だ。

「二人のおかげで早く仕事が終わったよ!よければこの後、街に行ってお茶でもどうかな?僕がおごるよ」

 これが一番この場から二人を離脱させるための自然な流れだろう。残念ながら我が部屋には茶も茶菓子も無いため、店かどこかに行ってもらわないと困るが。

「ほんまに!?行く行く!」
「アバラ、引っ越しはいいの?まあ床さえあれば寝られるからどこでもいいのかな。うん、勿論付き合うよ」

 一方のアウレリウスはじっと私を見る。まあ、何が言いたいのかは想像がつくが。

「・・・よければ会長もどうですか?その、王子様のような貴い方が入るようなところではないとは思うので、御断りしていただいても、もちろん大丈夫ですが。ええ、気にしませんので、本当に」
「僕も同伴に預かろうかな。中々こんな機会はないからね」

 アウレリウスは笑顔で即答した。私の誘いに大層満足気である。一方のアバラとレオも、全生徒どころか全国民あこがれの王子様と一緒にお茶が出来る、大変栄誉ある瞬間に立ち会うことが出来て、緊張半分喜び半分の顔をしている。

 私がアウレリウスを誘うことをためらった理由は、喋りにくいからである。相手によって態度を調節する外向きの人格のことをペルソナというが、例えば家族と喋るときと友人と喋るときでは態度が変わるだろう。もし、場に家族と友人がいたら、どっちに合わせて喋ればいいか迷わないだろうか。

 私はすでにアウレリウスに素を出してる一方、アバラとレオには演技を決め込んでいる。そう、喋りにくいのだ。先ほどアウレリウスを誘ったときに演技口調で語りかけたが、素を見せてる相手にそれをするのは非常に違和感がある。
 レオは手を挙げて発言をする。

「アリオンはどこかいいところ知ってるのかな?よければ僕のおすすめとかどう?」
「ありがとう、レオ。助かるよ」

 そしてウキウキのアバラとレオ、それについていく私とアウレリウスという、二列と二列の並びになった。

『今更だけど、猫かぶってるアリオンっていつにない愛らしさがあるね。あれ?アリオン顔赤い?』

 私の腰を支えながら、楽しそうにアウレリウスが話しかけてきた。そうして四人で穏やかな時間を過ごした。
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