誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人探求編

40.飲血

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「ロージを一度確白に置いて、犯行時刻の話を聞きに行くというのは危険な賭けだろうか」

 アウレリウスは私の口元に卵焼きを持っていく手を止める。

 みんなで小屋の調査をした日から大体半月。午前最後の授業を終えた後、アウレリウスはここ最近の日課となっている私のお迎え&ランチタイムにいそしむ。律儀に毎日弁当を作ってくれ、飽きもせず毎日私の口元に食材を運んだ。そして口元を布巾で拭い、幸せそうに笑ってくれる。

 なお、ランチタイムのお迎えにまつわる噂は段々と広がっていき、「生徒会のアリオンと午前最後の授業が被れば、生徒会長を一目見られる」ということで私の予定を聞いてくるものが増えてきた。面倒である。

 ・・・生徒会メンバーでよかった。生徒会メンバーでなければ今頃私とアウレリウスの間によからぬ噂がたっていたところだ。「なんで生徒会長はアリオンさんを迎えに来るのだろう」と世情に疎い上級生の女子同士が話していた中を、うちのアバラが割り込んで「アリオンはなぁ。生徒会の重要な仕事を任されとるんよ。俺も手伝ったことあるけど、見守ったってな」と言ってくれたおかげで仕事の一環と認識されているのは不幸中の幸いだ。
 あいつも役に立つことあるんだな。

 私はアウレリウスの作った弁当を咀嚼する。

「おいしいなこの卵焼き」
「アリオンが好きっていうから頑張って覚えたんだよ。スクランブルエッグとは違って面白いね。ところでロージが何って?『確白』ってなに?」
「ああ、犯行時刻の話をロージに聞こうと思ってな。確白っていうのはまあ、犯人として疑わないっていうことかな」

 確白とはアナログゲームの人狼用語で、「確実に白を出せる」ということである。亡霊騒動の際のロージを見たところ、弟が犯人のようには到底思えなかった。現場にほかの人間がいない中で、あの言動である。あれが実は黒だった場合、主演男優賞を上げてもいいレベルだ。

「確定なんて、まだその段階は早いんじゃない?敵から少しでも疑われたら襲い掛かって来られるかもということを考えると、慎重に動こうよ」
「とはいってもな・・・」

 誰かを信じるということはリスクを負う反面、誰かを疑ったままでは何も進まない。現にこのアウレリウスのことも、私は序盤で疑っていた。それから信じるという段階に至ったから今こうして話が出来ている。
 信じられる人間を少しずつ増やしていくのも、立派な捜査の中に入ると私は思う。

「でもね、アリオン。犯人は闇魔法を使用した可能性だって考えなくてはいけないんだよ。実はロージは犯人の手先とか、可能性は残さなくちゃ」
「闇魔法の中でも記憶干渉は上位に位置するんだが、たとえ教授陣でも滅多には使えないだろ。私のような闇適正があるならまあさておき」
「ふふん、僕は使えるよ?」

 アウレリウスはドヤ顔をする。それを私は驚愕の表情で迎える。

 ・・・使える?なぜ?

 いや、答えてもらわずともなんとなくわかる。原因は私だ。
 私が闇魔法を使うからこの子は話題を合わせるために闇魔法を勉強している。子供が親の趣味を模倣しようとするのと一緒だ。闇魔法などという王位継承における汚点を、この子は私との話題合わせのためだけに作っている。

 アウレリウスは私のことを褒めてほしそうに見ていた。

 説得は・・・出来ないだろう。これまで散々注意してきたことをこの子が守ってきた例はない。とすると、理論ではなく、一度感情論で攻めてみるか。

「闇魔法が使えるなんて、これまでさぞ大変だっただろ。私は闇魔法に呪われた人生故に闇魔法が憎いが、まさかお前も使えるなんて、ぞ苦労をしていたんだな・・・」

 今度はアウレリウスが驚きの目で私を見る。
 ここで大事なのは「私は闇魔法が憎い」という部分である。これまで散々私と距離を詰めようとしてきたこの子のことだ。これで闇魔法と距離を置いてくれると嬉しい。

 現にアウレリウスは隣でしょんぼりとした顔をして下を向いていた。ふう、やっとまともな教育が出来たな。

「・・・でもまあ確かに、仮にロージが私の殺人には関与していないとして、変な質問をすれば悪意無く噂を広げる可能性もある、か。とはいえ私のせいで友達ほぼいないだろうけどな、ロージの奴に」
「そうだよ、アリオンは僕だけを信用していてほしい」

 それも困るが、ともかく直接ロージに聞くのはまだ早い。けれど遠まわしに何かを聞くのはいい手段だろう。それも考えておこう。

 アウレリウスは一生懸命私の口元にフォークを運び、やがて今日も完食した。相変わらず魔力が一気に回復していく。

「ごちそうさま。今日もおいしかったよ。もしよかったら次から私も手伝っていいか?」
「アリオンがお弁当作りに?あー・・・。でも、僕のところについている調理台は狭いから、二人いると逆に効率が落ちるから・・・その・・・」

 アウレリウスの負担を軽減しようと、せめて手伝いを申し出たのだが、一方彼は目が動揺した。こんな言い淀むのは珍しい。いつもなら私と一緒に行動することを喜ぶタイプなのに。

 ・・・なにか、調理中にやましいことでもあるのか?

 魔塔主時代に培った人間観察の直感が、警鐘を鳴らす。

 やましいことが、調理中にできることといえば。なにか、食材に変なものを混ぜた、とか?



 混ぜた?


 これも直感だ。

 嫌な予感がした。

 そうであってほしくないと願い、反射で動く。

 私はアウレリウスの腕を急いで掴み、袖を引き上げた。

「お、お前・・・・」

 

 私はそれを見て絶句する。
 腕を切ると、人はどうなる?
 当然血が出る。
 じゃあ、その血をどうしたのだろうか。

 どうして、弁当を食べると普通以上に魔力の回復が出来た?
 つまりは、作るたびに自分の腕を刻んでいたのだ。この子は。

 私の驚いてる目に対して、アウレリウスは気まずそうに顔を逸らす。

「これはどういうことだ?」
「・・・アリオンの、助けになると思って」

 ぞっとした。
 私の助けになるために、この子はここまで身を捧げるのか?適当に治癒魔法をかけたのだろう。私は傷痕を撫でる。


 

 私が撫でていることにくすぐったそうにしている。なんで、もっと早く気が付かなかったのか。魔法ニンジンくらいであの回復量が出せるわけがない。そんなこと、冷静に計算すれば分かったはずなのに。

 無言になる私に、アウレリウスはしゃべりだす。

「マラカイ殿も、瓶に血を詰めていたよね?僕はそれと同じことをやっただけだよ」
「同じじゃない。お前とマラカイは同じじゃない」
「何が違うの?血を流して、それが好きな相手の体に入る。違いは瓶に詰めたか詰めてないかだけだよ?」
「全然違う。あいつと違ってお前は隠そうとした。つまり、やましいと思っていたからだろ?」

 言い返さず、こちらをじっと見るアウレリウス。

 ・・・考えがまとまらない。頭を冷やしたい。私は一度離れ、その場を後にしようと向きを変える。けれど、私の右腕は後ろから掴まれた。私を止めようとしている手だが、私が一向に目を合わせないのを察し、掴む手に力が入る。

 心が痛い。

 私はこの子に幸せにいてほしいだけなのに、関われば関わるほど不幸になっていく。だというのにこうしてついて離れない。

「・・・アウレリウス。まずは離してくれ」

 先ほどから骨が折れそうなほど強く腕を握られている。自分が力を込めていたことに自覚がなかったのか、私の言葉で少し緩めた。けれど離しはしない。

「次、授業があるから私はもう行くよ。話はそのあと、ゆっくりしよう」
「アリオン、待ってー・・・!!」

 私は転移で、アウレリウスの元から急いで離れる。次の授業は・・・受けるつもりだったが、あの分だとアウレリウスが追ってきそうだ。

 そして私たちは、いわゆる喧嘩状態となってしまった。

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