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犯人探求編
41.第二王子・ロギルジョー
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生徒会に授業免除特権があってよかった。欠席にも関わらず単位を保証するようなもので、これのおかげで好きにサボれる。
私は各授業を担当している教授陣のことも殺人事件の関与を疑っているため、内容を知り尽くしてていても念のために授業を受けるようにはしているが、まさかアウレリウスと喧嘩したのを理由として放棄するとは。いい大人のくせして、我ながら恥ずかしい。
けれど、一度頭を冷やさないとあの子になんて言葉をかけていいのか分からないのだ。私は口下手で、喋れば大体誤解を生んで終わる。以前アウレリウスと揉めた時に「離れないでほしい」と言われたが、その約束を反故にしてでも一度距離を取りたかった。
私たちは、近すぎる。今日だけでいいから一度離れて、自身を省みたいのだ。
本当はあの子の前から私が消えるのが一番いいのだろう。
長い廊下を、あてもなく彷徨う。アウレリウスは、私の力になりたがっていた。すると、最終的に血という結論に至るのは当然のことだった。どうしてそれに気が付いてやれなかったのか。床を踏みしめる足に力が入る。
廊下の合流地点に差し掛かった時、誰かが私に話しかけた。
「ちょっと、そこのお前」
私は足を止め、声の方向に視線をやる。臙脂色のはね癖のある髪、インナーカラーと毛先は金色、オレンジの瞳に、腕を組んだ偉そうな立ち姿。誰だろうか。知らない男だ。16~17歳くらいか。
「お前だよ、お前。そこのちんちくりん。丁度いい、お前に俺を案内する栄誉を与える」
見るからに面倒そうな男だ。こちらが断ることを考えてもいないだろうその態度。私はな、礼儀を知らんガキが一番嫌いなんだ。ということで無視をして私は廊下を進む。
今晩部屋に戻ったときに、アウレリウスの部屋に寄ろうか。その際に手土産があった方がいい。あの子はケーキでは何が好きだろうか。カフェに行ったとき、意外とおいしそうに甘いものを食べていた。「このケーキの中に私の血が入ってたらどう思う?」というように行動を嗜めて、二度としないように反省はしてもらう。いや、夜中にケーキは重いか。ここは簡単な茶菓子を・・・
そんなことを考えていると、後ろから男が近づいてきて私の脇に手を回す。そして抱えるように持ち上げた。
「放してください!この学園は関係者以外立ち入り禁止ですよ!!どこのボンボンか存じ上げませんが、破壊王マラカイ殿の守るこの学園に侵入とは、四肢をもがれるのも怖くないということですか!?」
「あ~怖くないね~!!このロギルジョー様に傷一つ、つけられるもんなら付けてみな!!代わりにそいつは一族郎党処刑だけどなー!!」
ロギルジョー?一族郎党処刑?
こいつ、まさか・・・。
「第二王子・・・?」
「チッ、気づくのがおせえよ。分かったらさっさと案内しろ。ったく、ここはどんだけ入り組んだ構造してんだよ・・・」
第二王子ロギルジョー。アウレリウスの腹違いの弟になる。
小説の中の悪役の一人。立ちはだかる壁としてはもう察する通り、継承権争いだ。王城で互いだけが味方だった聖女とアウレリウスは、第二王子達の嫌がらせの中、互いを庇い、守りあうことで愛を育んだ。
小説の中のアウレリウスは現実のアウレリウスとは違い、魔法に対する苦手意識が強く、故に王位争いも第二王子が優勢となっていた。しかし魔塔主ローゼルアリオンを華々しく倒したことでその功績を認められ、アウレリウスは王として君臨することになる。なお、ロギルジョーたち第二王子派閥は魔塔主ローゼルアリオンに洗脳されて利用され、切り捨てられる結末を迎えるのだ。
つまりは、小説における私以外の悪役なのだ。
「つまり、君と僕は同族みたいなものか・・・」
「何言ってんの?お前」
でも悪役としての格は圧倒的に私のほうが上である。つまり、こいつが私をこうやって呼び止めるのはカリスマ悪役の私に対して実に失礼なのだ。
私は振り払い、今日のアウレリウスとの仲直りの計画を組みながら歩き出す。そういえば私の部屋には紅茶はない。茶葉とクッキーを用意して、逆にあの子を招くのは・・・
「お前、いい加減にしろ!この俺が呼び止めているのに離れるとは、不敬で処すぞ!!」
「うるさい!!いま仲直りについて一生懸命考えてるんだ!!」
・・・おっと。口に出してしまった。
ロギルジョーは私の発言にぽかんと言う表情をした。
「・・・誰かと喧嘩しているのか?それは、その。呼び止めて悪かったな」
怒鳴られたのが人生で初めてなのだろう。大人しく謝罪をしてきた。
「でも悪いが、俺もやるべきことがあってな。兄貴の場所、しらねえか?」
知ってる。
非常に知ってる。
さっきまで揉めていたから知っているに決まっている。
とはいえ、相手の事情も知らない現段階で簡単に教えるわけにはいかない。こいつは第二王子。つまりはアウレリウスの政敵だ。であるならば、良い目的のためにやって来たとは考えにくい。私は首を横に振った。
「だよな。そんな都合のいいことはねえか。お前は何年だ?」
「1年」
「俺とタメか。人探し、ちょっと付き合ってはくれねえか?」
嫌である。私の襟首を掴んで逃さないようにしてくるロギルジョーに、私は唇を噛んで抗議する。しかしやはり王族。最初からノーなど想定していない。私はズルズルと引きずられる形でロギルジョーに連行されていった。
「ちんちくりん、名前は?」
「アリオン」
「うわ、改名しないのか?不運を呼び込みそうな名前じゃねえか」
王族にまでローゼルアリオンの悪印象が浸透しているとは。ロギルジョーはきょろきょろと周囲を見渡し、妙な方向へ進みそうになるのを私が制止する。・・・今は授業中だ。生徒会はもぬけの殻だろう。生徒会に隠さなくてはいけないものはない、と思うから、そこに案内しよう。
「どうして会長に会いに来たんですか?仲は、よくないのでは?」
「良い訳ねえだろ。あれだよ、前に聖女が誘拐された事件あったろ?あれの調査に俺が派遣されたんだよ」
とうとう王家から捜索の手が来たのか。それにしても、今聖女のことをアマと呼ばなかったか?
「チッ、嫌な奴を思い出した。あの聖女の皮を被ったアマ。兄貴だけじゃなくて俺の顔もタイプと知るや否や、俺の入浴中に乱入しようとしてきやがった。兄貴も兄貴で『惜しかったね。あと少しで既成事実が作れたのに』だとよ。完ッ全に聖女のことを俺に擦る気満々だっただろうがッ!!」
凄いな立木心愛。悪役の私とロギルジョーの二者からドン引きされるとは。なかなかそんな偉業を達成できる人間はいないぞ。それにしても立木心愛、小説を読んでいるのなら、ロギルジョーに近づくのは良くないことを分かるだろうに、その時の感情だけで動いているんだろうな・・・。
「だから今日は調査でここに来たんだが、正直あんな女のことなんざどうでもいい。代わりに、あの腹黒兄貴の弱みを握って俺は帰るんだよ!!」
やはり弱みを握りに来たのか。そういえば、アウレリウスは幼いころに弟王子達にいじめられたと泣いていた。すると、こいつは私の息子をいじめる、成敗すべき相手ということだ。
・・・こいつの首を持っていけば、アウレリウスは笑顔になるのでは・・・?
いや駄目だ、私を殺した犯人の血でしか、この手は汚さないと決めたのだ。すると、こいつを王位争いから蹴落とすための何か情報を土産にすればいい。
第二王子・ロギルジョーの弱みをあら捜ししてやる。
現在は午後一発目の授業中だというにもかかわらず、袖や襟に緑の刺繍がある生徒たちとすれ違う。緑ということは二年生だろう。第二王子が歩く姿に、誰もが驚いて二度見する。
『飛行練のほうで事故があったんだって。だから授業を取ろうとした人たちは今は自由時間になったって』
『え~事故あった人心配~。でも自由時間は嬉しいわ』
どこからかぼそぼそと話す声が聞こえる。なるほど、だから二年生たちが歩いているのか。
私とロギルジョーはこのようにして視線を集めながら、やがて生徒会室前に辿り着く。私たちは装飾の施されたその大きな扉をじっと見た。
「ここだよ。じゃあ僕は行くね」
私にはこいつの弱みを作る良い案があった。私は記録用小型カメラを持っているのだ。いざという時に証拠保全をするために。
このロギルジョーはこれから誰もいない生徒会室に入る。そしてそれを私が激写する。こいつが生徒会室を漁り、去った後で、私は引き出しをこじ開けて重要そうな書類を盗む。
するとどうなるか。こいつの罪を捏造できるのだ。これが悪役、なんという外道。アウレリウスもこれでニコニコになってくれるだろう。完璧すぎる完全犯罪・・・!!
ということで私は激写するためにロギルジョーとは一旦解散ということになるのだ。しかし。去ろうとする私の腕をロギルジョーは掴む。
「駄目だ、俺は今、お供の奴が勝手に迷子になっている状態だ。故に付き添いが無くてはならねえんだ。付き合え」
「迷子になってるの・・・貴方では?」
「ち、違う!!ったく、一体どこ行っちまったんだ」
ロギルジョーは小さく舌打ちをする。元来王族は当然従者を付けるものだが、不死鳥の守りを持つおかげで基本的に暗殺を警戒せずに生活している。特にアウレリウスは護衛が足手まといになるほど守りには長けているため、王太子としては異例なことに一人で気軽に歩いているのだ。
「平民の奴でな、無口で無表情」
「平民をお供にしているんですか?珍しいですね」
「俺たち王族は国民から懐疑的な目で見られやすいからな。お供を平民にするだけで視線が違うんだよ。知ってるか?周辺の国で革命が起きたこと」
たしか、近くの小国で浪費家の王と王妃を処刑したというニュースが流れていた。
我々の世界の世界史でもあったように、どこかの国で王族を処刑すると周辺に思想が伝播する。
「あのローゼルアリオンの魔法学園に向けた施策が、国を段々と平民寄りの思想にしてきたんだよ。一応その甲斐もあって先王の失政による民衆の不平は少しは沈められた。そこから兄貴とかの尽力もあって、今は目立った不満はねえけどな。まあ、功績に目もくれないほどに、あの前魔塔主は魔王のごとく恐れられていたから、それに対抗できるのは王家のみっていうこともあるんだけどよ」
「じゃあ君は前魔塔主のことは好意的なの?」
「好意的っつーわけじゃねえけど、まあ正直ありがたいとは思っていたな。俺たちは王位争い以前に、色々民たちからの信頼を失いつつあった。王家の存続問題を優先しなくちゃいけねえ俺たちとしては、今は手を取り合う時ではあるんだよな」
驚いた。悪役ということで大いに警戒していたが、割と理知的に答えてきたからだ。見た目に寄らず頭使えるんだな。
「・・・じゃあ、民衆から大人気の会長こそが王に相応しいんじゃないの?」
「確かに民衆からの人気は抜群だが、あんな政治に私情を持ち込みたがる奴が上に立ってたまるか。俺こそが一番玉座に合ってるね!」
腕を組み、フンっと鼻を鳴らす。やがて生徒会室の前に近づいていった。・・・しょうがない、付き合ってやるか。探っている瞬間を激写してやる。
「・・・待て。中に誰かいる」
中に誰か?私はそっと近づいてドアに耳を当てる。分厚いドアだが、何とか音を拾ってみる。
『え?入試の前後に何してたか、ですか?』
『うん。教えてくれると嬉しいんだけど』
私と同様に授業を放棄しているアウレリウスと、急遽授業が中止することになったロージだろう。二人が話していた。
私は各授業を担当している教授陣のことも殺人事件の関与を疑っているため、内容を知り尽くしてていても念のために授業を受けるようにはしているが、まさかアウレリウスと喧嘩したのを理由として放棄するとは。いい大人のくせして、我ながら恥ずかしい。
けれど、一度頭を冷やさないとあの子になんて言葉をかけていいのか分からないのだ。私は口下手で、喋れば大体誤解を生んで終わる。以前アウレリウスと揉めた時に「離れないでほしい」と言われたが、その約束を反故にしてでも一度距離を取りたかった。
私たちは、近すぎる。今日だけでいいから一度離れて、自身を省みたいのだ。
本当はあの子の前から私が消えるのが一番いいのだろう。
長い廊下を、あてもなく彷徨う。アウレリウスは、私の力になりたがっていた。すると、最終的に血という結論に至るのは当然のことだった。どうしてそれに気が付いてやれなかったのか。床を踏みしめる足に力が入る。
廊下の合流地点に差し掛かった時、誰かが私に話しかけた。
「ちょっと、そこのお前」
私は足を止め、声の方向に視線をやる。臙脂色のはね癖のある髪、インナーカラーと毛先は金色、オレンジの瞳に、腕を組んだ偉そうな立ち姿。誰だろうか。知らない男だ。16~17歳くらいか。
「お前だよ、お前。そこのちんちくりん。丁度いい、お前に俺を案内する栄誉を与える」
見るからに面倒そうな男だ。こちらが断ることを考えてもいないだろうその態度。私はな、礼儀を知らんガキが一番嫌いなんだ。ということで無視をして私は廊下を進む。
今晩部屋に戻ったときに、アウレリウスの部屋に寄ろうか。その際に手土産があった方がいい。あの子はケーキでは何が好きだろうか。カフェに行ったとき、意外とおいしそうに甘いものを食べていた。「このケーキの中に私の血が入ってたらどう思う?」というように行動を嗜めて、二度としないように反省はしてもらう。いや、夜中にケーキは重いか。ここは簡単な茶菓子を・・・
そんなことを考えていると、後ろから男が近づいてきて私の脇に手を回す。そして抱えるように持ち上げた。
「放してください!この学園は関係者以外立ち入り禁止ですよ!!どこのボンボンか存じ上げませんが、破壊王マラカイ殿の守るこの学園に侵入とは、四肢をもがれるのも怖くないということですか!?」
「あ~怖くないね~!!このロギルジョー様に傷一つ、つけられるもんなら付けてみな!!代わりにそいつは一族郎党処刑だけどなー!!」
ロギルジョー?一族郎党処刑?
こいつ、まさか・・・。
「第二王子・・・?」
「チッ、気づくのがおせえよ。分かったらさっさと案内しろ。ったく、ここはどんだけ入り組んだ構造してんだよ・・・」
第二王子ロギルジョー。アウレリウスの腹違いの弟になる。
小説の中の悪役の一人。立ちはだかる壁としてはもう察する通り、継承権争いだ。王城で互いだけが味方だった聖女とアウレリウスは、第二王子達の嫌がらせの中、互いを庇い、守りあうことで愛を育んだ。
小説の中のアウレリウスは現実のアウレリウスとは違い、魔法に対する苦手意識が強く、故に王位争いも第二王子が優勢となっていた。しかし魔塔主ローゼルアリオンを華々しく倒したことでその功績を認められ、アウレリウスは王として君臨することになる。なお、ロギルジョーたち第二王子派閥は魔塔主ローゼルアリオンに洗脳されて利用され、切り捨てられる結末を迎えるのだ。
つまりは、小説における私以外の悪役なのだ。
「つまり、君と僕は同族みたいなものか・・・」
「何言ってんの?お前」
でも悪役としての格は圧倒的に私のほうが上である。つまり、こいつが私をこうやって呼び止めるのはカリスマ悪役の私に対して実に失礼なのだ。
私は振り払い、今日のアウレリウスとの仲直りの計画を組みながら歩き出す。そういえば私の部屋には紅茶はない。茶葉とクッキーを用意して、逆にあの子を招くのは・・・
「お前、いい加減にしろ!この俺が呼び止めているのに離れるとは、不敬で処すぞ!!」
「うるさい!!いま仲直りについて一生懸命考えてるんだ!!」
・・・おっと。口に出してしまった。
ロギルジョーは私の発言にぽかんと言う表情をした。
「・・・誰かと喧嘩しているのか?それは、その。呼び止めて悪かったな」
怒鳴られたのが人生で初めてなのだろう。大人しく謝罪をしてきた。
「でも悪いが、俺もやるべきことがあってな。兄貴の場所、しらねえか?」
知ってる。
非常に知ってる。
さっきまで揉めていたから知っているに決まっている。
とはいえ、相手の事情も知らない現段階で簡単に教えるわけにはいかない。こいつは第二王子。つまりはアウレリウスの政敵だ。であるならば、良い目的のためにやって来たとは考えにくい。私は首を横に振った。
「だよな。そんな都合のいいことはねえか。お前は何年だ?」
「1年」
「俺とタメか。人探し、ちょっと付き合ってはくれねえか?」
嫌である。私の襟首を掴んで逃さないようにしてくるロギルジョーに、私は唇を噛んで抗議する。しかしやはり王族。最初からノーなど想定していない。私はズルズルと引きずられる形でロギルジョーに連行されていった。
「ちんちくりん、名前は?」
「アリオン」
「うわ、改名しないのか?不運を呼び込みそうな名前じゃねえか」
王族にまでローゼルアリオンの悪印象が浸透しているとは。ロギルジョーはきょろきょろと周囲を見渡し、妙な方向へ進みそうになるのを私が制止する。・・・今は授業中だ。生徒会はもぬけの殻だろう。生徒会に隠さなくてはいけないものはない、と思うから、そこに案内しよう。
「どうして会長に会いに来たんですか?仲は、よくないのでは?」
「良い訳ねえだろ。あれだよ、前に聖女が誘拐された事件あったろ?あれの調査に俺が派遣されたんだよ」
とうとう王家から捜索の手が来たのか。それにしても、今聖女のことをアマと呼ばなかったか?
「チッ、嫌な奴を思い出した。あの聖女の皮を被ったアマ。兄貴だけじゃなくて俺の顔もタイプと知るや否や、俺の入浴中に乱入しようとしてきやがった。兄貴も兄貴で『惜しかったね。あと少しで既成事実が作れたのに』だとよ。完ッ全に聖女のことを俺に擦る気満々だっただろうがッ!!」
凄いな立木心愛。悪役の私とロギルジョーの二者からドン引きされるとは。なかなかそんな偉業を達成できる人間はいないぞ。それにしても立木心愛、小説を読んでいるのなら、ロギルジョーに近づくのは良くないことを分かるだろうに、その時の感情だけで動いているんだろうな・・・。
「だから今日は調査でここに来たんだが、正直あんな女のことなんざどうでもいい。代わりに、あの腹黒兄貴の弱みを握って俺は帰るんだよ!!」
やはり弱みを握りに来たのか。そういえば、アウレリウスは幼いころに弟王子達にいじめられたと泣いていた。すると、こいつは私の息子をいじめる、成敗すべき相手ということだ。
・・・こいつの首を持っていけば、アウレリウスは笑顔になるのでは・・・?
いや駄目だ、私を殺した犯人の血でしか、この手は汚さないと決めたのだ。すると、こいつを王位争いから蹴落とすための何か情報を土産にすればいい。
第二王子・ロギルジョーの弱みをあら捜ししてやる。
現在は午後一発目の授業中だというにもかかわらず、袖や襟に緑の刺繍がある生徒たちとすれ違う。緑ということは二年生だろう。第二王子が歩く姿に、誰もが驚いて二度見する。
『飛行練のほうで事故があったんだって。だから授業を取ろうとした人たちは今は自由時間になったって』
『え~事故あった人心配~。でも自由時間は嬉しいわ』
どこからかぼそぼそと話す声が聞こえる。なるほど、だから二年生たちが歩いているのか。
私とロギルジョーはこのようにして視線を集めながら、やがて生徒会室前に辿り着く。私たちは装飾の施されたその大きな扉をじっと見た。
「ここだよ。じゃあ僕は行くね」
私にはこいつの弱みを作る良い案があった。私は記録用小型カメラを持っているのだ。いざという時に証拠保全をするために。
このロギルジョーはこれから誰もいない生徒会室に入る。そしてそれを私が激写する。こいつが生徒会室を漁り、去った後で、私は引き出しをこじ開けて重要そうな書類を盗む。
するとどうなるか。こいつの罪を捏造できるのだ。これが悪役、なんという外道。アウレリウスもこれでニコニコになってくれるだろう。完璧すぎる完全犯罪・・・!!
ということで私は激写するためにロギルジョーとは一旦解散ということになるのだ。しかし。去ろうとする私の腕をロギルジョーは掴む。
「駄目だ、俺は今、お供の奴が勝手に迷子になっている状態だ。故に付き添いが無くてはならねえんだ。付き合え」
「迷子になってるの・・・貴方では?」
「ち、違う!!ったく、一体どこ行っちまったんだ」
ロギルジョーは小さく舌打ちをする。元来王族は当然従者を付けるものだが、不死鳥の守りを持つおかげで基本的に暗殺を警戒せずに生活している。特にアウレリウスは護衛が足手まといになるほど守りには長けているため、王太子としては異例なことに一人で気軽に歩いているのだ。
「平民の奴でな、無口で無表情」
「平民をお供にしているんですか?珍しいですね」
「俺たち王族は国民から懐疑的な目で見られやすいからな。お供を平民にするだけで視線が違うんだよ。知ってるか?周辺の国で革命が起きたこと」
たしか、近くの小国で浪費家の王と王妃を処刑したというニュースが流れていた。
我々の世界の世界史でもあったように、どこかの国で王族を処刑すると周辺に思想が伝播する。
「あのローゼルアリオンの魔法学園に向けた施策が、国を段々と平民寄りの思想にしてきたんだよ。一応その甲斐もあって先王の失政による民衆の不平は少しは沈められた。そこから兄貴とかの尽力もあって、今は目立った不満はねえけどな。まあ、功績に目もくれないほどに、あの前魔塔主は魔王のごとく恐れられていたから、それに対抗できるのは王家のみっていうこともあるんだけどよ」
「じゃあ君は前魔塔主のことは好意的なの?」
「好意的っつーわけじゃねえけど、まあ正直ありがたいとは思っていたな。俺たちは王位争い以前に、色々民たちからの信頼を失いつつあった。王家の存続問題を優先しなくちゃいけねえ俺たちとしては、今は手を取り合う時ではあるんだよな」
驚いた。悪役ということで大いに警戒していたが、割と理知的に答えてきたからだ。見た目に寄らず頭使えるんだな。
「・・・じゃあ、民衆から大人気の会長こそが王に相応しいんじゃないの?」
「確かに民衆からの人気は抜群だが、あんな政治に私情を持ち込みたがる奴が上に立ってたまるか。俺こそが一番玉座に合ってるね!」
腕を組み、フンっと鼻を鳴らす。やがて生徒会室の前に近づいていった。・・・しょうがない、付き合ってやるか。探っている瞬間を激写してやる。
「・・・待て。中に誰かいる」
中に誰か?私はそっと近づいてドアに耳を当てる。分厚いドアだが、何とか音を拾ってみる。
『え?入試の前後に何してたか、ですか?』
『うん。教えてくれると嬉しいんだけど』
私と同様に授業を放棄しているアウレリウスと、急遽授業が中止することになったロージだろう。二人が話していた。
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