誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人探求編

42.ロギルジョーの情報

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『入試の時期ですか。いや、そんな随分前のことを思い出すのは・・・』
『その近辺で誰か不思議な行動をしていたとかでもいいんだけれど』

 ドアのむこう。アウレリウスは、ロージに尋ねる。
 現在絶賛喧嘩中のアウレリウスの声を聞き、私は胸がキュッと苦しくなる。それにしても、入試の一週間前と言えば、私が殺されたタイミング。
 ・・・私が聞いて回ることに不安を感じたアウレリウスが、自分で聞き込みを始めたのか。危ないから私の許可無しに調査はするなと最初に約束したのに。まあおそらく、私と一緒で仲直りのきっかけ探しをしてるのだろう。

 ロギルジョーは、私と同様に扉に耳を押し当てる。

『そういえば会長とジェルド殿が密談していたのがそのあたりの時期でしたね』
『・・・密談?僕が?』
『覚えていませんか?いえ、僕も偶々そこから帰ってくる会長と遭遇しただけですので、密談していたのだろうという勝手な想像なのですが』
『・・・ああ、ひょっとしてあれのことかな』

 アウレリウスは珍しく言い淀む。何か、心当たりがあるかのように。
 あれとはなんだ。密談とはなんだ。くそ、隠れて聞いているだけだから質問も出来ない。ロギルジョーは声が聞き取りにくいのか、魔法を使って内部の音を大きくしようとする。

 が。それがまずかった。

『誰か、扉の前にいるのかい!?』

 アウレリウスは些細な魔力の流れを感知した。
 私とロギルジョーの顔が青くなっていく。これからがいい情報収集の時だったのに、察知されてしまった。ロギルジョーは咄嗟に私の腕を掴み、転移の魔法を行使した。

「ハア、ハア、ハア、っぶねー・・・」

 情報の続きが気になりすぎて、私は唇を噛んでロギルジョーに抗議の顔をする。

「わ、悪かったよ。悪かったからその不細工な顔をやめろ!!」

 まあ、いいや。アウレリウス関連の情報ということは、仲直りの後でゆっくり聞き直せばいい。
 私たちが飛んだのは学園の校舎の屋根。景色が一望できるとても美しい場所だ。

「それにしても、転移の魔法は上位の魔法使いしか使えないのに、よく咄嗟に使えたね」
「ふふ、まあな!俺は優秀な魔法使いだからな!!こんなの、呼吸するくらい簡単に使えるんだよ」

 胸を張って誇らしそうにしている。
 私たちは一度屋根に座り、落ち着くために静かに流れる雲を眺める。青空が広がっていて、とてもすがすがしい。昼間の雲って、どうしてあんなに動いて見えるんだろうな。いつも不思議に思う。

「兄貴の奴、ジェルド教授って言ってたな。ジェルド教授は人を見抜く目があるって、王家でも話題に上がるんだぜ」
「いや、そんな大した目は持ってないと思うよ」
「びっくりした。そんな秒で俺の雑談否定する?」

 否定するに決まっている。あいつは私を「見下してくる」という色眼鏡で見まくる男だ。物事を考えるのに公平ではあっても、私への偏見はすごかった。絶対にそんな評価は認めん。

「でもな、知ってるか?ジェルド教授が補佐に選んだ面々。兄貴以外は全員平民らしいぜ?」

 全員が平民・・・?
 確かに私は今は平民だ。知ってる範囲ではマラカイも平民。ロージは選ばれず。唯一アウレリウスは王族。

「貴族と平民で、両者とも成績が優秀な時にも、迷わず平民を選んだらしいんだ」
「ジェルド教授は今年で六年目だよね。偶然じゃない?」
「昨年まではな。でも、昨年はロージという特に優秀な貴族の男子生徒がいたにも関わらず、補佐を取らなかったんだ。だから、疑惑は確信になっている」

 けれどそれが本当として、平民を優先するからどうしたというのだろうか。ジェルドは平民に近い男爵家。すると、平民の手助けを考えても別に不自然ではない。何もせずとも評価される貴族より、埋もれそうな平民に手を差し伸べるのは至って普通に思えるが。

「ローゼルアリオンとジェルド教授は婚約関係にあったって話、知ってるか?そして両者とも貴族にもかかわらず、平民に対して融和的だった。・・・俺が思うに、ローゼルアリオンを殺したのは、それが気に食わねえ誰かじゃねえかと思ってるんだ。何故なら、あの二人が結ばれてしまえば、より連携が取れるからな」

 私とジェルドが結ばれた先を考えるのが気持ち悪すぎて想像をしていなかったが、確かに外部から見ればそう映る。ジェルドにそういう噂があるのなら、私と奴は互いに平民に対して融和的になる。

「じゃあ、ローゼルアリオンを殺したのは貴族の人間?」
「分からねえけどよ、平民融和政策が全くの無関係とは思えないぜ」

 ただの一説にしかすぎないだろうが、これは得難い情報を拾った。マラカイもアウレリウスも双方ともジェルドを苦手にしている。故に、あの二人が近くにいればこの情報はつかめなかっただろう。
 魔法使いは転移や凶器の作成を簡単に行える。故に、重視すべきは動機ホワイダニットだ。だからこそアリバイよりも、動機の情報は、はるかに貴重なのだ。

 私はロギルジョーの手を握り、握手する。

「面白い話をありがとう。本当に助かったよ」
「そ、そうか。そうだな、俺は常に有益な情報しか喋らねえ男だからな!」

 まあ、所詮は政敵なので粗を探していずれ引きずり下ろすが。今日だけは見逃してやろう。

 さて、私は仲直りの為のクッキーと紅茶を街で買ってこなくてはならない。レモンはいるだろうか。私は紅茶は無糖派だが、ひょっとしたら甘党かもしれないあの子には砂糖が必要かもしれない。

「じゃあ、僕は行くね」
「待て待て待て」

 なんだ?まだ用があるのか?

「その、聞かないのか?どうして俺がこの魔法学園に在籍してないのかって」
「スゴクキニナル!」
「ふふ、そうだろう、そうだろう。俺はこの通り、最強に優秀だから入試に混じったら哀れな子羊どもをぼっこぼこにしちまうんだ。それに配慮して編入試験で勘弁してやろうっつー算段よ。...まあ、もう一つ面倒な理由もあんだけどな」

 編入試験?あれは入試よりも数段難しい試験だ。王家の奴なら常に試験の門戸は空いているが、少なくとも過去10年、これを通った人間はいない。

「やめた方がいいんじゃない?落ちたら恥ずかしいよ?」
「安心しろ。俺の優秀さを前にして落ちるわけがないだろ」

 絶対の確信を持つロギルジョー。確かにあんな流れるような転移は、三年でも使えるのはアウレリウスくらいだろう。
 まあいい。落ちて恥をかいてくれた方がアウレリウスの為になる。

「まあ頑張ってね」
「・・・お前は俺に、気負わず接してくれるんだな」
「なんか言った?」
「別に、何も言ってねえよ!!名前はアリオンって言ったよな」

 私は頷く。そういえばこいつは王族だったよな。王族相手にこんなため口で接していいものだろうか。まあいいか。平民からの目を気にしてるっぽいし、不敬罪で私を裁けんだろ。何より悪役でいえば私のほうが先輩だ。お前が敬え。

「俺がここの生徒になったらお前をお友達にしてやるよ!べ、別に、お前のことが気に入ったとかそういうことじゃないんだからな!」
「あ、ごめんね。僕は生徒会庶務だから会長と動くことが多いんだ。本当にごめんね」
「お、お前、兄貴の手先だったのか!?」

 こちらを指さし、震える。臙脂のくせ毛が少し揺れていて面白い。

「じゃ、じゃあなんで兄貴の弱みを握る手伝いをしてくれたんだ?お前、本当は兄貴の立場を虎視眈々と狙っているのか・・・!?」

 お前の弱みを作ろうとしたんだよ。

「ちくしょう、なるべく俺が早く編入してやるからな。今は辛いだろうがしばらく待っててくれ。それからその、俺とお前が、し、親友、だなんて・・・。あれ、アリオン!?どこ行ったんだ!?」

 私はその場を転移で立ち去り、街に行く。これ以降ロギルジョーと会うことは無いだろうからあいつのことは忘れよう。さて、クッキーはチョコチップが入っていた方が好みだろうか。それともプレーンのほうが好きだろうか。私は授業を放棄して仲直り大作戦を頑張るのだった。

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