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犯人探求編
55.星辰魔導議会④
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雷に直撃し、ドレイヴン教授は崩れる。同時に、森の結界に亀裂が入る音がした。
「が、ぁ・・・ッ!!よくも、この吾輩にッ・・・!」
あれだけの電撃を受けてなお意識を持っているのか。本当に、軍人であれば一流である。そのまま学園で普通の教授でいてくれれば何とも優秀な人材でいられただろうに、どうして誘拐と人体実験などしたのか。聞くことは多い。
私の足はぐちゃぐちゃになっており、安静の必要がある。けれど、情報を洗い出すのが先決だ。
ロギルジョーはドレイヴンの戦闘不能を見届けた後、結界の出入り口から出ていき、救援を呼びに姿を消した。すると救援の面々がここに来るのも時間の問題だろう。
「え、アリオン!?」
「ちょ、おま、安静や!!」
「二人はここにいて、絶対に来ないでね!!」
私は浮遊魔法で自分の体を強引に持ち上げ、ドレイヴン教授に近づく。こちらを見る目には憎悪が宿る。何故ここまで一生徒の私の憎悪を抱くのか。けれど、聞くべきことは順序を要する。
そう。最初に聞かねばならないのは、これだ。
「お前はローゼルアリオンの殺人事件を、何か知っているか?」
完全に口調が違う私の様子に、ドレイヴン教授は目を見開く。しかしやがて笑った。
「いいや、知らんよ。殺したいとは思っていたが、吾輩ではない」
「けれど、死んだことは知っていたな?それも、死んだ本当のタイミングを」
「・・・貴様、本当にどうしてこちらの裏情報をそうも掴んでいるのかね。まあ吾輩も半信半疑だったがな。魔塔を覆う魔力の質が変わった。これはまさか、と思っただけだ」
ドレイヴンは答えながらもこちらをじろじろと見てくる。
「貴様、ひょっとしてローゼルアリオンの殺人事件の捜査を担当している、王族側のスパイか何かか」
私が正体を隠し、潜入調査をしていることに気が付く。さすがにただの16歳が出せる貫禄とは違うことを察したのだろう。
こちらの腹をある程度割ってでも、急いで情報を出させる必要があった。ドレイヴン教授は、この後命を落とす。口封じのために。故に、速攻で知り得る情報をかき集める必要があった。腹の探り合いをしていられる余裕がないのだ。
「すると、授業での魔法さばきはひょっとすると、正体は貴族かな?はは、それを先に行ってくれれば吾輩は貴様のことはターゲットから外していたのに。軍部が欲しているのは平民だからな」
「・・・軍部には貴族だって大勢いる。そして上層部に至っては全員が貴族だ。だというのに貴族が平民に力を渡して、一体何がしたいんだ?」
ドレイヴン教授は嗤う。アバラとレオは私の話は聞こえないようだが、しかしケタケタと笑うドレイヴン教授の不気味さに、恐怖を覚えていた。
「貴族を優遇するために、平民を優遇するのだよ。だから攫った平民には民主主義としての立派な教育を施しているらしい。そうして平民たちが主権を握れるようにな。ローゼルアリオンは、その点で大変邪魔だったのだろうよ」
だから、何故それを貴族がやるんだ?平民が主権を握って貴族側に何の得がある?自分たちの傀儡政権でも作るのか?けれど、平民を援助して権力を奪われる可能性を作るよりも、平民が大頭することを抑えるほうに注力したほうが遥かに楽だろう。
分からない。何もかもが分からない。
「吾輩はまもなく口封じのため殺されるだろう。けれど、これ以上語ってやる義理もない」
ドレイヴン教授は震える手で、身代わりの守りを握った。
「命の肩代わり。革新的な技術。軍部にいた時に、開発したのだ。けれど、あまりの革新性に中途の段階で功績はすべて上層部に奪われて、スパイのように扱われては事実上捨てられた。けれど軍部からは監視され、その後だって吾輩に自由なんてなかったよ」
大事そうに、人形を手に持つ。50代の男性がやる格好としては、中々ミスマッチな光景に思える。
「やがて、この守りは多大な犠牲の果てに完成した。軍部は湧いたよ。私は、やっと自分が認められて嬉しかった。けれど一方で、持ち主の最も大事な者を犠牲にする代償を持つことが後に発覚した。不死と勘違いした上層部は使ってしまったからな。ある幹部は妻子など家族が全員、灰になって消えたらしい」
「・・・そうして代償が発覚したのか。そこから代償の無い完璧を求めて、学園から平民を誘拐し、守りを持たせて殺したと」
本に記載してあった「成功/父親」といった表記は、そういうことなのだろう。生き返った、けれど持ち主の父親は実験で身代わりにされた。本当に、反吐が出る。
「・・・吾輩にも大事な娘がいたんだ。けれど、貴族の馬車にひき殺されて死んだ。私はあの子に、多忙なこの身に代わって守ってくれる人形を持たせていたのに、なんの効果もなかった。だから、狂ったように研究を始めた」
「それがどうして、子供をいじめる教授に成り果てたんだ」
「自分の子供は命を落としたのに、他人の子供がのうのうと幸せに暮らしていたことが憎かった。ただそれだけの話さ」
そして、それだけを言うと、ドレイヴン教授の舌が突然爆ぜる。軍部の魔法だ。情報を漏らしたものを始末する罠魔法。ドレイヴンの口からは血が零れ、やがてむせる。そして苦しそうに命の灯は消えた。
「はーいドレイヴン教授!!生徒への危害の告発を受け・・・」
すると後方にマラカイと、ジェルドとロギルジョーが飛んできた。マラカイは密告を受けるなりドレイヴンを拘束するつもりだったのだろうが、しかしすでに彼は事切れていた。
「あらら、死んでますね~」
マラカイがドレイヴンの体に近づく一方、ジェルドは周囲を見渡す。
「・・・お前達、なんでこんなとこにいるのかは後で聞くとして、とりあえず怪我はないか?」
ジェルドは私たちの体の状態を確認するが、そこでようやく私の足が粉砕されていることに気が付き、一瞬呼吸を止める。マラカイも私の怪我を視認すると、普段の余裕ありげな表情を崩し、フリーズしていた。しかし双方とも腕をまくってしゃがみ、応急処置の為の光魔法を放つ。
「・・・見た目ほど、酷くは無いので大丈夫です。ごめんなさい、僕はまだやるべきことがあるので、治療も後で大丈夫です」
「酷いに決まっているだろ!くそ、千切れていないのは幸いか。そんな状態でどうしてここまで体を持ってきたんだ!?正気か!?」
血痕はここまで続いているのだ。強引に体を持ってきたのは自明の理だろう。
マラカイは何も言わないが、ただじっとこっちを睨んでいた。あらかじめ無茶をしない約束をしたのに、今現にこうして迷惑をかけているのだ。
「・・・理事長さんはまだ役目があるのでしょう?僕のことは良いから早く戻ってください」
「生徒を守るのが理事長の役目ですー。例え決まりを破る不良生徒であったとしてもね」
声色に温度がない。これは、相当怒っている。アバラは心配そうにしているものの、足の惨状に流石に目を向けていられないのか、やがてレオと共に背を向け始めた。
「それにしてもドレイヴン教授、途中なんか変な行動しとったよなー。お守りを自分でエイヤって。あれがなきゃ勝てんかったけど、なんであんなことしたんやろ」
「うーん、思うと変な戦いだったね。軍部出身者を学生四人で抑えられたのは、奇跡だったというか」
私が闇魔法で操ったというのが真相だ。元来闇魔法は現場に痕跡が残るのだが、しかし対象が脳程小さい範囲であれば、まず感知は私のような闇のベテランでもない限り出来ない。故に、痛みを止めている今の状態でも、まさか私が闇魔法を現在進行形で行使しているとは誰も夢にも思っていない。
ジェルドはそんな私たちの会話が聞こえていないようで、一生懸命修復している。
しかし。
「何故だ、どうして足が治らないんだ!?」
ジェルド。私は怪我に慣れている身だからその発言を受けてもあまりショックは受けないが、なるべく患者の近くでそういう衝撃的な発言は避けた方がいいぞ。下手したらショック死するぞ。
何故治らないのか。理由は簡単だ。私は闇魔法に適性がある。故に攻撃は通るが、回復は通りにくいのだ。攻撃が通るなら回復も通ってくれよと思うが、そうは問屋が卸さないのだ。
ジェルドの発言を受けてマラカイは一度手を止める。
「貴方と僕の光魔法が相反する、というわけでもないですね」
流石のマラカイも、何故回復魔法が通りにくいのかと焦っている。いくら天才でも、闇魔法の適性者は少ないためそこまでは知らないのだ。以前マラカイが私の死体を修繕したときは、体内を通る魔力が抜けていたから通用した。だが、生身の今の私はそういうわけにはいかない。
「すると、自然回復しかないということか。チッ・・・!!」
互いに相談しあう二人を差し置いて、私はアバラ達に「来て」とハンドサインをする。
「アバラ、レオ。さっきの証拠品の本を落としてしまったから、疲れている中、本当に悪いんだけど探してきてくれると嬉しいんだ」
まあ、吹き飛ばされる際に風魔法でずたずたになったような気もするが、けれど探して損はない。
「そんなこと、勿論やってくるけどさ!」
「重症人はそんなこと、今は気にしてる場合とちゃうやろ」
気にしている場合なのだ。あれを確保するためにここまで頑張ったのだ。けれど私は証拠品の捜索には向かえない。そんな余裕はない。
『準決勝決着ー!!いよいよ決勝戦だー!!』
そう、いよいよ決勝戦が始まるのである!!私はどうしても見に行かなくてはならないのである!!
「理事長、骨折用の添え木って作っていただけませんか?あと蔓も」
「・・・、はいどうぞ」
「ありがとうございます」
私はマラカイが緑の魔法で作った添え木を足に当て、蔓を包帯のように巻き付ける。血はかろうじて止めてくれたようで、変に動かさなければ大丈夫だろう。
「もう大丈夫です。ジェルド教授、理事長。ご迷惑をおかけしました」
「全然大丈夫じゃないだろ!!今すぐ担架を持って来るから・・・」
「ロギルジョー、ちょっと手伝ってくれないかな」
私は今度はロギルジョーにおいでおいでとした。重症にもかかわらず顔色一つ変えずに処置をする私に全員が化け物を見るような凄い眼で見ている中、ロギルジョーは冷や汗をかきながら私にそっと近づく。
「決勝戦を見に行かなきゃいけないから、転移で送ってほしいんだ。では、僕はこれで失礼します」
「おい、ちょっと!!待て・・・!!決勝戦なんて見に行ってる場合じゃないだろうが!!お前の行先は医務室だ!!」
ジェルドは焦って私を止めようとするが、しかしロギルジョーは諦めた表情をする。
「駄目だ、もうこいつはやることやらないと医務室へ決して行こうとはしてくれない!いっそ会場に連行するよ・・・」
ロギルジョーは私の肩に触れ、会場へと一緒に飛ぶ。すると。周囲の歓声が耳に入る。
(アウレリウス・・・)
これから始まる決勝ということで、優雅に中央に立っているアウレリウスがいた。なんとか決勝戦には間に合ったのだ。しかし、私の後ろにマラカイとジェルドが飛んでくる。
「・・・アリオン、貴様。決勝戦が終わったら、本当に覚悟しておけよ」
「・・・・・・」
後ろからの圧が凄いが、私はそんなことよりも試合のほうが気になって仕方なかった。頑張れ、アウレリウス・・・!!
「が、ぁ・・・ッ!!よくも、この吾輩にッ・・・!」
あれだけの電撃を受けてなお意識を持っているのか。本当に、軍人であれば一流である。そのまま学園で普通の教授でいてくれれば何とも優秀な人材でいられただろうに、どうして誘拐と人体実験などしたのか。聞くことは多い。
私の足はぐちゃぐちゃになっており、安静の必要がある。けれど、情報を洗い出すのが先決だ。
ロギルジョーはドレイヴンの戦闘不能を見届けた後、結界の出入り口から出ていき、救援を呼びに姿を消した。すると救援の面々がここに来るのも時間の問題だろう。
「え、アリオン!?」
「ちょ、おま、安静や!!」
「二人はここにいて、絶対に来ないでね!!」
私は浮遊魔法で自分の体を強引に持ち上げ、ドレイヴン教授に近づく。こちらを見る目には憎悪が宿る。何故ここまで一生徒の私の憎悪を抱くのか。けれど、聞くべきことは順序を要する。
そう。最初に聞かねばならないのは、これだ。
「お前はローゼルアリオンの殺人事件を、何か知っているか?」
完全に口調が違う私の様子に、ドレイヴン教授は目を見開く。しかしやがて笑った。
「いいや、知らんよ。殺したいとは思っていたが、吾輩ではない」
「けれど、死んだことは知っていたな?それも、死んだ本当のタイミングを」
「・・・貴様、本当にどうしてこちらの裏情報をそうも掴んでいるのかね。まあ吾輩も半信半疑だったがな。魔塔を覆う魔力の質が変わった。これはまさか、と思っただけだ」
ドレイヴンは答えながらもこちらをじろじろと見てくる。
「貴様、ひょっとしてローゼルアリオンの殺人事件の捜査を担当している、王族側のスパイか何かか」
私が正体を隠し、潜入調査をしていることに気が付く。さすがにただの16歳が出せる貫禄とは違うことを察したのだろう。
こちらの腹をある程度割ってでも、急いで情報を出させる必要があった。ドレイヴン教授は、この後命を落とす。口封じのために。故に、速攻で知り得る情報をかき集める必要があった。腹の探り合いをしていられる余裕がないのだ。
「すると、授業での魔法さばきはひょっとすると、正体は貴族かな?はは、それを先に行ってくれれば吾輩は貴様のことはターゲットから外していたのに。軍部が欲しているのは平民だからな」
「・・・軍部には貴族だって大勢いる。そして上層部に至っては全員が貴族だ。だというのに貴族が平民に力を渡して、一体何がしたいんだ?」
ドレイヴン教授は嗤う。アバラとレオは私の話は聞こえないようだが、しかしケタケタと笑うドレイヴン教授の不気味さに、恐怖を覚えていた。
「貴族を優遇するために、平民を優遇するのだよ。だから攫った平民には民主主義としての立派な教育を施しているらしい。そうして平民たちが主権を握れるようにな。ローゼルアリオンは、その点で大変邪魔だったのだろうよ」
だから、何故それを貴族がやるんだ?平民が主権を握って貴族側に何の得がある?自分たちの傀儡政権でも作るのか?けれど、平民を援助して権力を奪われる可能性を作るよりも、平民が大頭することを抑えるほうに注力したほうが遥かに楽だろう。
分からない。何もかもが分からない。
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ドレイヴン教授は震える手で、身代わりの守りを握った。
「命の肩代わり。革新的な技術。軍部にいた時に、開発したのだ。けれど、あまりの革新性に中途の段階で功績はすべて上層部に奪われて、スパイのように扱われては事実上捨てられた。けれど軍部からは監視され、その後だって吾輩に自由なんてなかったよ」
大事そうに、人形を手に持つ。50代の男性がやる格好としては、中々ミスマッチな光景に思える。
「やがて、この守りは多大な犠牲の果てに完成した。軍部は湧いたよ。私は、やっと自分が認められて嬉しかった。けれど一方で、持ち主の最も大事な者を犠牲にする代償を持つことが後に発覚した。不死と勘違いした上層部は使ってしまったからな。ある幹部は妻子など家族が全員、灰になって消えたらしい」
「・・・そうして代償が発覚したのか。そこから代償の無い完璧を求めて、学園から平民を誘拐し、守りを持たせて殺したと」
本に記載してあった「成功/父親」といった表記は、そういうことなのだろう。生き返った、けれど持ち主の父親は実験で身代わりにされた。本当に、反吐が出る。
「・・・吾輩にも大事な娘がいたんだ。けれど、貴族の馬車にひき殺されて死んだ。私はあの子に、多忙なこの身に代わって守ってくれる人形を持たせていたのに、なんの効果もなかった。だから、狂ったように研究を始めた」
「それがどうして、子供をいじめる教授に成り果てたんだ」
「自分の子供は命を落としたのに、他人の子供がのうのうと幸せに暮らしていたことが憎かった。ただそれだけの話さ」
そして、それだけを言うと、ドレイヴン教授の舌が突然爆ぜる。軍部の魔法だ。情報を漏らしたものを始末する罠魔法。ドレイヴンの口からは血が零れ、やがてむせる。そして苦しそうに命の灯は消えた。
「はーいドレイヴン教授!!生徒への危害の告発を受け・・・」
すると後方にマラカイと、ジェルドとロギルジョーが飛んできた。マラカイは密告を受けるなりドレイヴンを拘束するつもりだったのだろうが、しかしすでに彼は事切れていた。
「あらら、死んでますね~」
マラカイがドレイヴンの体に近づく一方、ジェルドは周囲を見渡す。
「・・・お前達、なんでこんなとこにいるのかは後で聞くとして、とりあえず怪我はないか?」
ジェルドは私たちの体の状態を確認するが、そこでようやく私の足が粉砕されていることに気が付き、一瞬呼吸を止める。マラカイも私の怪我を視認すると、普段の余裕ありげな表情を崩し、フリーズしていた。しかし双方とも腕をまくってしゃがみ、応急処置の為の光魔法を放つ。
「・・・見た目ほど、酷くは無いので大丈夫です。ごめんなさい、僕はまだやるべきことがあるので、治療も後で大丈夫です」
「酷いに決まっているだろ!くそ、千切れていないのは幸いか。そんな状態でどうしてここまで体を持ってきたんだ!?正気か!?」
血痕はここまで続いているのだ。強引に体を持ってきたのは自明の理だろう。
マラカイは何も言わないが、ただじっとこっちを睨んでいた。あらかじめ無茶をしない約束をしたのに、今現にこうして迷惑をかけているのだ。
「・・・理事長さんはまだ役目があるのでしょう?僕のことは良いから早く戻ってください」
「生徒を守るのが理事長の役目ですー。例え決まりを破る不良生徒であったとしてもね」
声色に温度がない。これは、相当怒っている。アバラは心配そうにしているものの、足の惨状に流石に目を向けていられないのか、やがてレオと共に背を向け始めた。
「それにしてもドレイヴン教授、途中なんか変な行動しとったよなー。お守りを自分でエイヤって。あれがなきゃ勝てんかったけど、なんであんなことしたんやろ」
「うーん、思うと変な戦いだったね。軍部出身者を学生四人で抑えられたのは、奇跡だったというか」
私が闇魔法で操ったというのが真相だ。元来闇魔法は現場に痕跡が残るのだが、しかし対象が脳程小さい範囲であれば、まず感知は私のような闇のベテランでもない限り出来ない。故に、痛みを止めている今の状態でも、まさか私が闇魔法を現在進行形で行使しているとは誰も夢にも思っていない。
ジェルドはそんな私たちの会話が聞こえていないようで、一生懸命修復している。
しかし。
「何故だ、どうして足が治らないんだ!?」
ジェルド。私は怪我に慣れている身だからその発言を受けてもあまりショックは受けないが、なるべく患者の近くでそういう衝撃的な発言は避けた方がいいぞ。下手したらショック死するぞ。
何故治らないのか。理由は簡単だ。私は闇魔法に適性がある。故に攻撃は通るが、回復は通りにくいのだ。攻撃が通るなら回復も通ってくれよと思うが、そうは問屋が卸さないのだ。
ジェルドの発言を受けてマラカイは一度手を止める。
「貴方と僕の光魔法が相反する、というわけでもないですね」
流石のマラカイも、何故回復魔法が通りにくいのかと焦っている。いくら天才でも、闇魔法の適性者は少ないためそこまでは知らないのだ。以前マラカイが私の死体を修繕したときは、体内を通る魔力が抜けていたから通用した。だが、生身の今の私はそういうわけにはいかない。
「すると、自然回復しかないということか。チッ・・・!!」
互いに相談しあう二人を差し置いて、私はアバラ達に「来て」とハンドサインをする。
「アバラ、レオ。さっきの証拠品の本を落としてしまったから、疲れている中、本当に悪いんだけど探してきてくれると嬉しいんだ」
まあ、吹き飛ばされる際に風魔法でずたずたになったような気もするが、けれど探して損はない。
「そんなこと、勿論やってくるけどさ!」
「重症人はそんなこと、今は気にしてる場合とちゃうやろ」
気にしている場合なのだ。あれを確保するためにここまで頑張ったのだ。けれど私は証拠品の捜索には向かえない。そんな余裕はない。
『準決勝決着ー!!いよいよ決勝戦だー!!』
そう、いよいよ決勝戦が始まるのである!!私はどうしても見に行かなくてはならないのである!!
「理事長、骨折用の添え木って作っていただけませんか?あと蔓も」
「・・・、はいどうぞ」
「ありがとうございます」
私はマラカイが緑の魔法で作った添え木を足に当て、蔓を包帯のように巻き付ける。血はかろうじて止めてくれたようで、変に動かさなければ大丈夫だろう。
「もう大丈夫です。ジェルド教授、理事長。ご迷惑をおかけしました」
「全然大丈夫じゃないだろ!!今すぐ担架を持って来るから・・・」
「ロギルジョー、ちょっと手伝ってくれないかな」
私は今度はロギルジョーにおいでおいでとした。重症にもかかわらず顔色一つ変えずに処置をする私に全員が化け物を見るような凄い眼で見ている中、ロギルジョーは冷や汗をかきながら私にそっと近づく。
「決勝戦を見に行かなきゃいけないから、転移で送ってほしいんだ。では、僕はこれで失礼します」
「おい、ちょっと!!待て・・・!!決勝戦なんて見に行ってる場合じゃないだろうが!!お前の行先は医務室だ!!」
ジェルドは焦って私を止めようとするが、しかしロギルジョーは諦めた表情をする。
「駄目だ、もうこいつはやることやらないと医務室へ決して行こうとはしてくれない!いっそ会場に連行するよ・・・」
ロギルジョーは私の肩に触れ、会場へと一緒に飛ぶ。すると。周囲の歓声が耳に入る。
(アウレリウス・・・)
これから始まる決勝ということで、優雅に中央に立っているアウレリウスがいた。なんとか決勝戦には間に合ったのだ。しかし、私の後ろにマラカイとジェルドが飛んでくる。
「・・・アリオン、貴様。決勝戦が終わったら、本当に覚悟しておけよ」
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