誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人探求編

56.星辰魔導議会⑤

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 いよいよ始まる決勝戦。アウレリウスは、観客の誰かを探すように視線をゆっくり滑らせる。そして、やがてこちらを見た。

 すると、私の姿を認識して花の綻ぶような笑顔を見せた。彼の角度からはこのぐちゃぐちゃの足は視界に入らないのだろう。本当に、始まる前に気持ち悪いものを見せずに良かった。

「あれ、会長様、ひょっとして今、私に笑顔を見せてくれたの!?」
「違う、私よ!完全に私と目があったわ!!」

 違う!!私だ!!私と目が合ったんだ!!
 これが、授業参観で親を見つけた子供を温かい目で見守る気持ち・・・!!今日は本当に来られてよかった。あの笑顔を見られただけで、私の心には温かい感情が流れ込むのだ。

 一方の後ろからは冷めた視線を受けている気がするが、気のせいだろう。周辺の生徒はジェルド達後ろの面々に驚き、そしてその前にいる私に気が付き、そして不自然にローブを左足に引っ掛けていることに疑問を持っては、視線をアウレリウスに戻す。

「ねえロギルジョー、会長の相手は誰なんだろう」
「誰なんだろうなあ・・・。悪い、アリオンの左足が気になって気になって、まじで決勝戦のこと心底どうでもいいんだよ俺は。そもそも俺をかばって傷ついちまったんだしな・・・」
「金髪の・・・知らない人が出てきたね。するとああ、イヴリン様は敗退しちゃったか・・・」

 やがて、決勝戦は始まる。
 相手は長い金髪の男性。褐色の肌で、金色の瞳をしている。相手がアウレリウスだというのに、得意げに魔道具の首飾りを触る。

「ああ、あいつは軍部のトップの息子だ。名をロキという。俺も授業を担当したことがあるが、中々に優秀だ」

 ジェルドは解説を入れる。すると、ロキという男子生徒は、突然息を吸って、歌を歌い始めた。

「~~♪」

 決勝戦だぞ!!うちのアウレリウス相手にミュージカルを始めるとは、なんだあの男は!!実にけしからん。

 しかし冷静になって聞いてみると、歌には魔力が込められている。なるほど、音響魔法か。これは、催眠の類だな。

 会場に響く歌声は、もはや空気の振動ではなく、芸術そのものだった。 高く昇る高音は、どこまでも澄み切っていて、深く降りる低音は、どこか温かい。その一音一音が、聴く者の骨の髄まで染み透り、心の奥底に、優しく震わせていく。

 しかし。注意深く聞くと、穏やかな中に、確かに攻撃の意思も感じる。

「教授陣が結界を張っているおかげで、魔力がこちらまで届くことはありませんから安心してください~。けど、あの小僧の防御魔法は、音響魔法を防ぐことが出来るのか、見ものですねー。防ぎきれなくて、惨めったらしく負けてほしいですが~」
「おい、不敬も恐れぬ発言をするな。理事長たるもの、公平たれ」
「あーあーうるさいクソ真面目」

 アウレリウスは防御魔法を張る。ロキの歌声は段々と大きくなっているものの、幕を張っている中のアウレリウスは、びくともしておらず、表情一つ変わらない。
 するとロキの歌声が少し淀み始めた。

「・・・この歌声、焦りましたねー。所詮実践経験の浅い小童。冷静に違う選曲をすればまだ可能性はあったかもしれないのに」
「音響そのものは盾をも貫通するだろうに、有害な魔力部分だけ上手にカットしているのか。僅か18歳でそこまでの境地に達するとは、これはいずれ、ローゼルアリオンを越える最高の魔法使いになれるかもしれないな」
「はあっ!?僕の先生を越える男なんて永遠に現れませんー!!僕の先生が永遠ですから、これだから本当先生エアプは困ります~!!」
「じゃあ具体的に婚約者殿があの守りをどう突破できるのか言ってみろ。あれは正面からの物量で行ったとて通らんぞ」
「先生の魅力にあの小僧は膝を屈するので魔法を使うまでもありませんー!!」
「魔法勝負なのに何故土俵を変える!?」

 後ろで醜い大人の争いが繰り広げられていた。私はアウレリウスの活躍に集中したいんだ、頼むから静かにしてほしい。
 しかし一方でアウレリウスはさしたる苦労もなく、フェニックスを召喚して焼き払う。殺さないように、ロキの周囲を火の海で囲った。やがて酸欠が起こったのか、ロキはあえなく無力化される。

『そこまで!!勝者アウレリウス!!よって星辰魔導議会の優勝者はアウレリウスである!!』

 ワッと、歓声が起こった。会場が決着に湧き、優勝者を歓声にて称える。地面を揺るがすほどの熱狂に、私の心も熱く震えた。

 アウレリウスは歓声に応えるように、手を振る。いや、よく見たら一点に向けて振ってるな。他の観客を無視して、ただこちらにだけ手を振っていた。周辺の生徒たちは自分の体を右に左に動かしてはアウレリウスが自分に向けて手を振っているのかを確認していた。

「よかった、とてもいい決勝戦だった・・・!!」
「そうか?誰一人兄貴のあの守りを突破できなかったっぽいし、一方的過ぎてマジでつまらん試合だったって思うんだけどな俺は」
「あれは決勝の相手が弱すぎですー。というか同年代全員不作ですよ~。僕と同じ代だったら、立ち上がれないくらいに小僧をボコボコにしていましたのにー」
「おいマラカイ、敗者を貶すんじゃなくて勝者を称えろ」

 私は感動の余り、全力で拍手をする。やがてアウレリウスは歓声を浴びている中で、静かに懐からハンカチを一枚取り出した。

 おっと?流れが変わったぞ?

 誰もが拍手を止めた。そしてアウレリウスの動向を見ている。私も手を止めた。それはそうだ。一国の王太子が、ハンカチを一枚だけ持っているのだ。それはつまり、、そういう決意の表れになる。

 そうか、アウレリウスは誰を王妃にするかを決めたんだな。そうかそうか。

 非常に悪い予感がするのを一生懸命抑え、私は歓喜に酔う。あの子は一体誰を選んだのだろうか。でも、出来ればこうしてみんなが見ている前で決意を表すのではなく、前もって父さんに一度話してくれた方が嬉しかったな。こう、ベッドで一緒に寝転がりながら、恥ずかしそうに想い人の話をするような、そんな甘酸っぱい親子の時間を私も体験したかった。

「いやよ、私のハンカチじゃないわ!!そんな、いや!!」
「誰なんだ?あのハンカチの持ち主は・・・?」

 ロギルジョーたちも驚愕の表情と共にハンカチを注視する。ジェルドは自身のモノクルのふちに指を添え、視力の強化をしているようだ。

「ニンジンの刺繍が見えるな」
「んー、僕もニンジンの刺繍に見えますね~。アハハ、あの小僧、農家を相手に選んだんだ~」
「兄貴にニンジンの刺繍を渡した奴がいるのか?一体どこの勇者だ?」

 ニンジンの刺繍か・・・。知らんな・・・。
 私が贈ったのは赤い羽根の刺繍だから、全然違う。今、私の顔は冷や汗がだらだらと流れているが、これは息子と恋バナを出来なかったという機会の喪失を嘆いての冷や汗だ。

「ってアリオン!?汗が凄いぞ!!もういいだろ、早く医務室へ行くぞ!!」
「そそそ、そうだね。さすがにアドレナリンが切れてきたかも」

 闇魔法で苦痛を和らげているためアドレナリンもクソもないが、これから非常に嫌な光景が始まる予感がして私はロギルジョーに両手を伸ばす。直後、会場からは今までで一番の歓声が湧いた。

 アウレリウスがハンカチに口づけをしたのだ。

「ロギルジョー!!左足が痛いから早く医務室へ行こう!!」
「言わんこっちゃねえだろ!!ほら!!」

 私は医務室に飛ばされ、既にジェルドが話を通していたのかそのまま医師らしき面々が私に殺到してくる。医療用に許可されている闇の気絶魔法で意識を飛ばされ、そのまま私は眠りに入った。

 ああ、本当ならアウレリウスが優勝杯を掲げる姿を見たかった・・・。
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