誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人究明編

69.覇道

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 選ばれた人間しか入れない天鳥宮。。まるで、私を待っていたかのように。

「ゲンサクヲコワシタ?どういう意味だ?ていうかアリオンお前本当に読めるんだな」

 ロギルジョーは、零れるように微かだった私の発言を聞いていたようで、近寄ってくる。けれどそんなロギルジョーの相手など出来ないほど、私は焦燥感に駆られていた。

 これは、どうして日本語で書かれていたのだろう。

 日本語で書かれていた。つまり、日本語を読める相手に向けて書いていた。そして、もし私が壁画を描いた犯人の待望の人物であると確信を抱いているのであれば、私に直接手紙を渡せばいい。けれど実際は違った。王宮のここに書かれた。

 つまり、これは元来であれば王族に向けたメッセージ。しかし、この場の王族は誰一人として読めなかった。

 そう、書いた犯人が知りたいのは、自分以外に原作を知る人間。それをここに書いて試していた。万が一予想していた王族が違ったのであれば、今度は別所にでも書く予定だったのだろう。そうしてエリアをずらして絞っていく。

 そんなメッセージという名の罠を張っていたのだとしたら、犯人は今、何をしているのだろう。

 隠れて、誰が読めるのか。観察しているのではないだろうか?

「立木さん。そこの隠し通路にいるんでしょ。隠れていないで出てきたら?」
「あら、大正解。よく私の存在が分かったわね」

 背後の壁が動く。緊急事態のための隠し通路。それは、原作を読んだものしか知らない場所。立木心愛は壁の真正面に位置するそこに身を隠し、ずっと観察していたのだ。アウレリウスもその場所は知り得ていなかったのか、息を呑んで驚く。

 立木心愛は姿を現し、周囲の面々は凝視する。彼女の衣装は全体的に寒色で、真っ白なローブに身を包む。我々魔法使いが黒いローブを付けるのとは正反対だ。故に、思想がこもっていて不気味である。

「原作を壊して回る犯人、まさかモブのあんただったとはね。私が主人公ってことに嫉妬しちゃった?自分は役すらない端役だから」

 日本語で語りかける。
 こいつは何か狙っている。狙って大事件を起こそうとしているからこそ、唯一の不確定要素である日本人の存在を特定しようとしていたのだ。丁度いい、私もこいつに聞きたいことがあった。

「私も君に聞きたいことがあったんだ。立木心愛」
「本性はそういう喋り方なの。聞きたいこと?何かしら。どうして主人公になれたのか、かしら?」
「君は・・・何歳だ?」

 話している言語がさっぱり理解できずに周囲は静寂に包まれ、ただ私たちの会話に耳を傾ける。一方でまた、立木心愛も質問の意図が理解できずに言葉に詰まる。

「あのな、君の言動は青い。とても若いんだ。その、まるで思春期に特別な力に目覚めてテンションが上がってる中学生くらいに」
「・・・・・・・!!そんなわけないでしょ!!」

 つまりは「中二病か?」と聞いているのだ。返答に間があった。図星か?

「察するに14歳くらいじゃないかと思ってる。・・・逆にそんな年齢でよく学力テストで16位なんてとれたな」
「・・・一応言っておくけれど、私は頭良いわよ?学校で一番頭の良い男子と、対等に会話できるもの」

 学校で一番頭のいい男子なんて例え、持ち出してくる対象がちっぽけなのが、まさに青い証拠だ。

「そういう頭脳にコンプレックスありそうな女性に会話のレベルを合わせることで、簡単に金を引き出させる高学歴男性の話術もあるから気を付けろ」
「そういうアンタは大人かしら?いい年こいて学生だなんて、恥ずかしくないのかしら。あはは!」
「そこ、感情的に喋ることが機転の良さだと思ってるだろ。その程度の観察眼だから、私とアウレリウスの関係性について察しも出来ない」

 自分の名前が出たことに、私をもちあげていた腕が一瞬ピクリと動いた。アウレリウスは何を喋っているのか分からず、けれどただ立木心愛をまっすぐ睨みつけている。

「あんたたちの関係性?まさか、お友達って言うことかしら?あはは!!」
「違う、私たちは親子だ」

 笑っていた立木心愛の表情は時が止まったように固まり、そして真顔になっていく。

「・・・・・・・聞こえなかったわ」
「親子だ。私とアウレリウスは親子なんだ」
「そんなわけないでしょうが!!」
「私が父で、この子が息子なんだ。そうでもなければ王族と平民がこんなに親しく話すわけないだろうが」
「なんで平民から王族が生まれるのよ!!それにあんたの方が年下じゃないの!!あの青髪短髪間抜け面でももう少しうまい嘘を思いつくわよ!!」

 大声で怒鳴る心愛から、アウレリウスは私を隠すように腕を引く。

「・・・どうしたの?一体何を因縁付けられてるの?」
「立木さんが僕と殿下の仲を疑ってるんです。なので本当だと説明していまして。よければ殿下も説得を手伝ってくれませんか?」

 アウレリウスはこくんと頷いて心愛を見据える。

「心愛、言っておくけれど、彼の言う通り僕とアリオンはそういう仲だよ」
「そんなわけないわ!!アウレリウスはそいつに騙されているのよ!!闇魔法で洗脳されているのよ!!」
「それこそ無理だよ。一般人にそんな闇魔法が気軽に使えるわけがないこと、聖女の君が一番知っているはずだから」

 私はアウレリウスの頭を優しく撫でる。すると心地よさそうな表情をした。立木心愛も、それを見てやっと真実だと理解したのだろう。しかし切り替えるように頭を振る。・・・彼女がこうして姿を現したのは、私とお喋りするためではない。なにかしら意図があってここまで来たのだ。
 元来彼女は誘拐の被害者だったはず。しかし、王族しか入れないこのエリアでこのようなことをした以上は罪に問われる。例え聖女であろうと。

 立木心愛は、こちらに両腕を伸ばす。いや、正確にはアウレリウスにだ。

「アウレリウス、貴方を迎えに来たのよ。王宮はいずれ戦火に包まれるでしょう。だから、助けに来たの」
「・・・『助けに来た』?」

 連れ去られたのはお前で、助けを求めるべきはお前なんだ。だというのにこの場所が危ないと知らせてくる。
 立木心愛は意図を理解できていない私を嗤うように見る。

「平民優位の時代がやってくるのよ。民主主義の時代よ。元の世界であんたも歴史の勉強をやってるでしょう?身分制は古くなり、やがて滅びることを、運命で決定づけられているのよ」
「君は・・・攫われた先で民主主義の教育をされたのかい?」
「ええ。何をされると思いきや、優雅な暮らしと人権的な教育が待っていたわ。私は何も悪いことをされていない。それどころか、悪しき制度を打破するために、いろんな人たちが結託しているのよ」

 民主化。

 これまでかき集めてきた情報が、ピースとして並べられる。

 それは、元の世界の先進国であればどこも辿った道だ。そしてそれは、多くの人間の意見を取り入れる理想的な政治形態であるからこそ、現在最も取り入れられているのだ。

 一番正しい政治形態、というわけではないだろう。けれど、平和な未来を歩むためには最も効果的な手段と言える。王制とは雲泥の差であることを、民主主義の偉大さは、我々のような現代人であれば嫌というほど知っている。

 それを、立木心愛達、謎の勢力は浸透させようと動いている。そして、王族はやがて処刑される運命にあると警告しているのだ。

 すると、悪はどちらか。

 やがて滅びるのはどちらか。

 いや、正しいかどうかではない。運命が味方するのは、どっちなのか。

「やっと事態を理解できたかしら?悪役のローゼルアリオンの死を引き金に、世相は動こうとしている。悪役の存在がいなくなり、抑止力としての王家への信頼も薄くなっていくでしょう。私だって本当は聖女の立場を踏み台に王妃になりたかったわ?けれど、シナリオが変わって爆弾を抱えたその状態で、フランス革命の二の舞にはなりたくない。なら、爆発させる側に立てばいいじゃない。愛している人だけは守りながら、ね?」

 栗色の瞳は、まっすぐアウレリウスを見る。

「つまり心愛、君は王家の敵ということでいいのかな?」
「ええ、けれど貴方の味方よ?アウレリウス、私と一緒に行きましょう。ほかの王族を死なせても、貴方だけは助けてあげるから。なんといったって、平民の旗頭はこの私なのですもの」

 平民が力を持つことは止められない。それは元の世界の歴史が証明している。例え貴族に偉大な魔法使いの割合が多かったとしても、時の流れとともに崩れていくだろう。

 思うに、人間というのは考えて、間違いを犯して、それを学習して、少しでもいい方向へと動こうという力が働く。水は高いところから低いところに流れるように、それに抗うのは許さないとでも運命が言うのだ。民主化は、止められない。

 私は力無く、アウレリウスの胸に手を当てる。悔しいが立木心愛の言葉には筋が通っていた。私はアウレリウスに王位についてほしかった。しかし、そのような欲を出してやがては殺される権力者という例は枚挙に暇がない。世界史がそう証明しているのだから。
 この子が平穏に生きていくには、今が最初にして最後の機会なのかもしれない。立木心愛の手を取ってもらうことが、この子にとって最初にして最後の、そして最善の選択肢なのかもしれない。

 歴史は動こうとしている。そしてそれは、個人の意思ではどうにもできない。

 後ろの王妃とロギルジョーも、未来を見据える賢さがある。故に、立木心愛に対して何も言い返せない。正論に押されそうになり、強張った顔には冷や汗が流れていた。賢い人間たちだからこそ、筋が通っている事実に気圧されたのだ。しかし、心愛をとらえるために王妃は場を後にして救援を呼びに行き、ロギルジョーは警戒の体制を解かない。今やるべきことを、必死に選択している。

 そうして場が混乱する一方でしかし。

 不安そうな私を抱きかかえながら。

 

「すると心愛。つまりは君を国家反逆罪で処刑しても問題ないというわけだ。はは、どうやって事故に見せかけて殺そうかと思っていたけれど、君から理由を作ってくれて本当に助かったよ」
「・・・アウレリウス、今は婚約者どうこうの話をしている場合じゃないのよ。世界が動こうとしているのよ?」
「いいや?世界が動こうが、平民が力を持とうが、僕の夢は変わらないんだ」

 まるで私を安心させるかのように、アウレリウスは相手の言葉に動じない。形のいい唇は、自分の意見をまっすぐ紡ぐ。

「僕はね、頭に王妃冠を載せたい相手がいるんだよ。僕が玉座に座る隣に王妃として立っていてほしい相手がいるんだ。それが僕の夢だ。絶対に、絶対に、誰にも邪魔させない。夢が叶えられるのならば、この身を悪魔に売ってもいい。地獄に落ちることも許容しよう。反逆する者は全員処罰する」

 アウレリウスは視線で聖女を射抜く。

「立木心愛。僕の覇道を止めたいのなら、命懸けでかかってこい」
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