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犯人究明編
68.赤文字の壁
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「すまねえお師匠!!絶対ここから助けてやるからな!!しばらくだけ耐えていてくれ!!」
「全くだ、今度私を宙に浮かせて国王にぶつけたら、闇魔法でお前を燃やすからな」
「罵ってくれ、その資格が俺にはある!!」
私は現在、王宮内の地下牢に収容されていた。原因は国王とぶつかったことによる不敬である。ぶつかった程度で人を収容するとは肝の小さい男だ。私が魔塔主だったころは陰口叩かれようが、私の部屋の前で弟子から求愛のポエムを読まれようが、心の広い私は罰しなかったぞ。まったく。あんなのが本当にアウレリウスの実の父親なのか?いや、認めない。
「直訴してこい。誰が本当のアウレリウスの父親なのか」
「直訴はしてくるけど、怒るポイント違くないか?」
「ああ、私のことは気にするな。元々子爵家では監禁されていたんだ。牢屋生活は慣れている」
その言葉にロギルジョーは悲しい表情をした。私は柵越しに会話するために、片足立ちをして話すという妙な構図になっている。
強がりではなく本当に気にしていない。前世が過労で死んだせいか、何もせずにじっとしていていいといわれると本能的に嬉しくなるのだ。なんならここは子爵家の牢より割と豪華である。ベッドもついているし。
とはいえ殺人犯の捜査をしなくてはいけない以上は、休み明けまでには学園に戻る必要がある。
「最悪冬期休暇明けまでに釈放されればいい。長い目で見てくれればいいから」
「そんなわけにはいかないだろ!!」
「うん、そんなわけにはいかないね」
石の床をコツコツと足音をたたせ、アウレリウスがやって来た。
「アリオン、狭いところに入れられたって聞いて、急いで来たよ。兵士たちに手荒な真似をされた?大丈夫?怪我はない?」
「会長、こんなところまで来てくださったんですね」
アウレリウスは私とロギルジョーが師弟関係ということを知らない。故に口調を咄嗟に戻すが、どこから聞いていたのか。それについては特段追及は無く、ぎりぎり子供の姿でも通りそうな発言から聞いていたようで事なきを得た。
アウレリウスは柵越しに私の手を握り、優しく手を撫でた。しかし振り返り、ロギルジョーに対して冷たい視線を向ける。
「お前の短慮な行動のせいでアリオンがこんな薄暗いところに入れられたと聞いた。何か申し開きすることはあるか?」
「ねえよ。この件は完全に俺が責任を取るべき案件だから、俺が全部どうにかする」
「ロギルジョー、僕は強がりじゃなくて本当に大丈夫だから、無理をしなくていいからね。それに元はと言えば怪我を負った僕が原因で、それを善意で運ぼうとしてくれたんだから」
「でもそのアリオンの怪我を負ったのは、俺を庇ったことが原因だから」
力なくロギルジョーは呟く。こいつ、私の怪我について、本当はかなり思うところがあったのか。だから冬期休暇は私を誘ったと。監視目的や修行目的ではなく、本心は介護目的で。その結果が牢屋行きなのだから、罪悪感は留まることを知らないのだろう。
「会長、お願いですから彼を責めないでください」
私とアウレリウスは至近距離。自然と上目遣いになる。アウレリウスは私の頭を柵越しに撫でた。
「柵越しだといつもとは違う魅力があるね、アリオンは。いつかは閉じ込めたいと思っていたのだけれど、こんな殺風景なところは僕も望んでないんだ。アリオンを囲う時は、大きくてふかふかのベッドに沢山の書物、綺麗な照明とか用意するから」
アウレリウス・・・?突然どうした?ひょっとして今の発言もフェニックスの習性か?
いや、間違いなくそうだろう。私のような男を閉じ込めようだなんて、常人は普通は考えない。
『うわ、兄貴は本気で思ってそうだな。知ってるか?王宮七不思議のひとつなんだが、王の部屋には隠し部屋があるらしいぜ。正妃に隠れて愛人を囲うための』
『そうはさせないために不思議まぼろし動物図鑑を探しているんだ』
『だからなんで動物図鑑?兄貴のこと動物か何かだと思ってるの?まあいいや』
ロギルジョーは私に近づく。
「必ず今日中に釈放されるように頑張るから」
「ロギル、その必要はないわ」
今日は随分話の割り込みが多いな。今度はまた違う人物が訪れる。ヒールのコツコツという音を鳴らせ、お供を引き連れた女性。ロギルジョーの母にして、派手な化粧。王妃だ。
前回この女性に会ったのは、廊下でのおんぶを下品と叱責されたこと。アウレリウスに昔は冷たかったとも聞いているので、正直良い印象はない。しかし、こちらの思惑とは裏腹に、丁寧な所作でアウレリウスに近づく。
「アウレリウス殿下、突然の無礼を謝罪いたします。そこに囚われているものを釈放しに参りました。失礼」
王妃はアウレリウスに一礼すると、後ろのお付きの者たちがカギを持ってこちらに駆け寄る。アウレリウスは錠前から少し体を離し、扉が開く瞬間を見守った。
釈放は嬉しいが、一体どうして。
「・・・王妃、釈放は陛下の意思ですか?」
「いいえ、私の独断でございます。しかし話は全て伺っております。そこの者がこうして囚われる根拠が薄いように判断しました」
王妃の今の発言が頭で理解できずに、私は何度も脳内で反芻する。王妃が自身の判断で助けに来た?何故?
「ロギルのミスによる衝突であること、また昨今の時世を考慮すると平民をいわれなき理由で収容することは避けたいためですわ」
「賢明な判断に感謝します」
今度はアウレリウスが王妃に一礼する。この王妃、私のイメージとは違うな?小説ではロギルジョーを王にするために、なりふり構わない印象があったが・・・。
『だーかーらー、母上は賢い人って言っただろ?』
『でもアウレリウスをいじめた』
『攻撃魔法を使えない奴が王になって、国が危うくなることを危惧したんだよ!だから兄貴を失脚させて俺を推そうとしたんだ。でも、兄貴がどこに出しても恥ずかしくない魔法の実力者と認めてからは、ちゃんと敬意をもって接しているんだよ』
な、なるほど。視点が常に広い妃なのか。険悪な初対面ではあったが、今思うと廊下で王族が平民をおんぶするという行為のほうが確かに非がある気がしてきたぞ。
『まったく、根がいいなら最初からそうアピールすればいいものを』
『それ、一番アンタが言っちゃいけないような』
牢の扉が開けられ、アウレリウスは私に浮遊魔法を使う。そして横抱きにした。
「会ちょ・・・殿下。王宮内で横抱きはちょっと・・・」
「けれど、さっきは浮遊魔法でああなったのだし、僕がこうやって持ち上げる以外にないんじゃないかな」
いや、王妃の目があるからやめてほしい。しかし、王妃は何も言わない。
『王妃と王太子はどちらも最高位に等しい存在だけど、王太子のほうが将来を担うっていう点で位は上なんだよ。だから母上も何も言えねえんだ』
礼節に厳しいということは、序列にもまた厳しい。故に、黙認しているという。
王妃は頭を下げつつ、今後のことについて語りだす。
「アウレリウス殿下。陛下はあの聖女を妄信するなど、近頃は耄碌しております。故に、ここらが潮時かと」
「けれど僕はきちっと三年間、いえ、せめて春告げの儀までは学園に滞在したいんです」
「現状の執政はほぼ私によって回っている状況です。ですから、3か月程度であれば問題ございません。それよりも平民の動きがきな臭いことが気になります」
この会話は、要するに王をすげ替える話だ。下手したら不敬に問われそうなものだが、しかしこの場にいる全員が堂々と議論を交わす。
「壁画の赤文字、殿下もご覧になられたでしょう。王城にもすでに手が回されております。ひとえに我々王侯貴族への警告でしょう」
「ああ。何が書いてあったのか分からない文字ですか」
「何が書いてあったのか分からない文字?」
私が話題に加わったため、全員の視線が私に集まる。この空気では知らないのは私だけのようだ。アウレリウスが説明のために、代わりに口を開く。
「王族しか入れない場所に赤い文字が壁に書かれていたんだよ。何かの警告っぽくはあるんだけど、誰も読めないせいで放置している状態なんだ」
「各所の学者を呼んで今朝から調査をしているのですが、まだ解明には至っておりません」
「そうだ、アリオンも見てみる?こういうの得意じゃない?」
アウレリウスはいいことを思いついたかのように声がうわずった。おそらく、元魔塔主ということで何かしらの知識があることを期待しているのだろう。しかし、事情を知らない王妃はこちらを怪訝そうな目で見る。
「・・・平民の学生なのでしょう?そんな者に見せて解決するとは到底・・・」
「そんなことねえよ!こいつ、なんて言ったって、学園ではすべてのテストで満点を叩きだした神童だぜ!?そうだ、なんでアリオンに見せるっつー案を思いつかなかったんだ!」
ロギルジョーは流れにノリノリである。しかし、この状況はあまりよくない。別に私は各方面での学識があるというわけではなく、外国語についても別に詳しいわけではない。外国語は基本魔法で翻訳する派だが、この様子ではおそらく他の奴らもすでに試しているように思う。
「殿下、僕では力になれないと思います」
「でも、一度見てみるだけ見てみようよ。じゃあ行こうか」
アウレリウスは私を横抱きにしているままで先頭を切って歩き出す。その後ろから王妃、ロギルジョー、護衛たちが続いて歩き出した。まるで百鬼夜行だ。その先頭に抱きかかえられた私がいる。
無機質なエリアを抜け、絨毯の廊下を歩き、豪華な通りを抜ける。すれ違う使用人たちは、層々たる面子の集団行動に、驚きの表情とともに、急いで首を垂れる。おかげさまで私のことをまじまじと見る者はいない反面、あまりにも恥ずかしいために顔を隠そうとアウレリウスにしがみついた。
・・・浮遊魔法での事故の直後に浮遊魔法は使いたくないし、王宮内の転移は基本的に禁止されているし、アウレリウス以外が私を抱えるわけにもいかない。なんという恥辱・・。
拷問のような時間は過ぎ去り、やがて話にあった王族のエリアにたどり着く。
「ここは王位についている者と、その伴侶しか住むことを許されないエリアでね。天鳥宮って呼ばれているんだ」
王宮の中心区にして最上の階。唯一の階段を上ることでしか入れず、その階段は室内であるにもかかわらず豪奢なアーチが施されていた。彫像が立ち並び、一段一段が白くて広いそこにアウレリウスは足を踏み入れる。使用人たちも入れるものは限られているのだろう。王妃付きの者たちは全員がそこで足を止めた。
私はアウレリウスに小声で尋ねる。
「学者は足を踏み入れたんだよな?」
「うん、特例でね。王族と許可を得た人間でなければ目隠しをされてるっていうしきたりだから、壁以外は見ては駄目っていうことにしているんだよ」
「なら私も目を隠すものが欲しい」
「いらないよ。僕が許可を出す。それにアリオンもやがてはここに住むから、予習がてらに中を見ていって欲しいな」
その発言を受けて、私は自分の手で目を覆った。住む予定はないから、見る必要はない。アウレリウスは私の行動に不満を持ったのか、私の体を揺すってくる。
さて、私は謙遜抜きに本当に文字に詳しいわけではないから、分からなかったときはどう言い訳するか。一生懸命それを考えていた。
しばらくすると、歩みが止まった。
「アリオン、ここだよ。ごらん」
自分の手をどけ、言われたとおりの方向をみる。
赤文字だ。乱雑な文字かと思いきや、丸みのある文字。女性の書いたような文字だ。
しかし、そんな文字の分析をする前に、頭の中では意味を拾い上げる。私は震えながらその文面を読み上げた。
「『原作を壊した犯人はお前だ』」
赤い文字は、日本語で書かれていた。
「全くだ、今度私を宙に浮かせて国王にぶつけたら、闇魔法でお前を燃やすからな」
「罵ってくれ、その資格が俺にはある!!」
私は現在、王宮内の地下牢に収容されていた。原因は国王とぶつかったことによる不敬である。ぶつかった程度で人を収容するとは肝の小さい男だ。私が魔塔主だったころは陰口叩かれようが、私の部屋の前で弟子から求愛のポエムを読まれようが、心の広い私は罰しなかったぞ。まったく。あんなのが本当にアウレリウスの実の父親なのか?いや、認めない。
「直訴してこい。誰が本当のアウレリウスの父親なのか」
「直訴はしてくるけど、怒るポイント違くないか?」
「ああ、私のことは気にするな。元々子爵家では監禁されていたんだ。牢屋生活は慣れている」
その言葉にロギルジョーは悲しい表情をした。私は柵越しに会話するために、片足立ちをして話すという妙な構図になっている。
強がりではなく本当に気にしていない。前世が過労で死んだせいか、何もせずにじっとしていていいといわれると本能的に嬉しくなるのだ。なんならここは子爵家の牢より割と豪華である。ベッドもついているし。
とはいえ殺人犯の捜査をしなくてはいけない以上は、休み明けまでには学園に戻る必要がある。
「最悪冬期休暇明けまでに釈放されればいい。長い目で見てくれればいいから」
「そんなわけにはいかないだろ!!」
「うん、そんなわけにはいかないね」
石の床をコツコツと足音をたたせ、アウレリウスがやって来た。
「アリオン、狭いところに入れられたって聞いて、急いで来たよ。兵士たちに手荒な真似をされた?大丈夫?怪我はない?」
「会長、こんなところまで来てくださったんですね」
アウレリウスは私とロギルジョーが師弟関係ということを知らない。故に口調を咄嗟に戻すが、どこから聞いていたのか。それについては特段追及は無く、ぎりぎり子供の姿でも通りそうな発言から聞いていたようで事なきを得た。
アウレリウスは柵越しに私の手を握り、優しく手を撫でた。しかし振り返り、ロギルジョーに対して冷たい視線を向ける。
「お前の短慮な行動のせいでアリオンがこんな薄暗いところに入れられたと聞いた。何か申し開きすることはあるか?」
「ねえよ。この件は完全に俺が責任を取るべき案件だから、俺が全部どうにかする」
「ロギルジョー、僕は強がりじゃなくて本当に大丈夫だから、無理をしなくていいからね。それに元はと言えば怪我を負った僕が原因で、それを善意で運ぼうとしてくれたんだから」
「でもそのアリオンの怪我を負ったのは、俺を庇ったことが原因だから」
力なくロギルジョーは呟く。こいつ、私の怪我について、本当はかなり思うところがあったのか。だから冬期休暇は私を誘ったと。監視目的や修行目的ではなく、本心は介護目的で。その結果が牢屋行きなのだから、罪悪感は留まることを知らないのだろう。
「会長、お願いですから彼を責めないでください」
私とアウレリウスは至近距離。自然と上目遣いになる。アウレリウスは私の頭を柵越しに撫でた。
「柵越しだといつもとは違う魅力があるね、アリオンは。いつかは閉じ込めたいと思っていたのだけれど、こんな殺風景なところは僕も望んでないんだ。アリオンを囲う時は、大きくてふかふかのベッドに沢山の書物、綺麗な照明とか用意するから」
アウレリウス・・・?突然どうした?ひょっとして今の発言もフェニックスの習性か?
いや、間違いなくそうだろう。私のような男を閉じ込めようだなんて、常人は普通は考えない。
『うわ、兄貴は本気で思ってそうだな。知ってるか?王宮七不思議のひとつなんだが、王の部屋には隠し部屋があるらしいぜ。正妃に隠れて愛人を囲うための』
『そうはさせないために不思議まぼろし動物図鑑を探しているんだ』
『だからなんで動物図鑑?兄貴のこと動物か何かだと思ってるの?まあいいや』
ロギルジョーは私に近づく。
「必ず今日中に釈放されるように頑張るから」
「ロギル、その必要はないわ」
今日は随分話の割り込みが多いな。今度はまた違う人物が訪れる。ヒールのコツコツという音を鳴らせ、お供を引き連れた女性。ロギルジョーの母にして、派手な化粧。王妃だ。
前回この女性に会ったのは、廊下でのおんぶを下品と叱責されたこと。アウレリウスに昔は冷たかったとも聞いているので、正直良い印象はない。しかし、こちらの思惑とは裏腹に、丁寧な所作でアウレリウスに近づく。
「アウレリウス殿下、突然の無礼を謝罪いたします。そこに囚われているものを釈放しに参りました。失礼」
王妃はアウレリウスに一礼すると、後ろのお付きの者たちがカギを持ってこちらに駆け寄る。アウレリウスは錠前から少し体を離し、扉が開く瞬間を見守った。
釈放は嬉しいが、一体どうして。
「・・・王妃、釈放は陛下の意思ですか?」
「いいえ、私の独断でございます。しかし話は全て伺っております。そこの者がこうして囚われる根拠が薄いように判断しました」
王妃の今の発言が頭で理解できずに、私は何度も脳内で反芻する。王妃が自身の判断で助けに来た?何故?
「ロギルのミスによる衝突であること、また昨今の時世を考慮すると平民をいわれなき理由で収容することは避けたいためですわ」
「賢明な判断に感謝します」
今度はアウレリウスが王妃に一礼する。この王妃、私のイメージとは違うな?小説ではロギルジョーを王にするために、なりふり構わない印象があったが・・・。
『だーかーらー、母上は賢い人って言っただろ?』
『でもアウレリウスをいじめた』
『攻撃魔法を使えない奴が王になって、国が危うくなることを危惧したんだよ!だから兄貴を失脚させて俺を推そうとしたんだ。でも、兄貴がどこに出しても恥ずかしくない魔法の実力者と認めてからは、ちゃんと敬意をもって接しているんだよ』
な、なるほど。視点が常に広い妃なのか。険悪な初対面ではあったが、今思うと廊下で王族が平民をおんぶするという行為のほうが確かに非がある気がしてきたぞ。
『まったく、根がいいなら最初からそうアピールすればいいものを』
『それ、一番アンタが言っちゃいけないような』
牢の扉が開けられ、アウレリウスは私に浮遊魔法を使う。そして横抱きにした。
「会ちょ・・・殿下。王宮内で横抱きはちょっと・・・」
「けれど、さっきは浮遊魔法でああなったのだし、僕がこうやって持ち上げる以外にないんじゃないかな」
いや、王妃の目があるからやめてほしい。しかし、王妃は何も言わない。
『王妃と王太子はどちらも最高位に等しい存在だけど、王太子のほうが将来を担うっていう点で位は上なんだよ。だから母上も何も言えねえんだ』
礼節に厳しいということは、序列にもまた厳しい。故に、黙認しているという。
王妃は頭を下げつつ、今後のことについて語りだす。
「アウレリウス殿下。陛下はあの聖女を妄信するなど、近頃は耄碌しております。故に、ここらが潮時かと」
「けれど僕はきちっと三年間、いえ、せめて春告げの儀までは学園に滞在したいんです」
「現状の執政はほぼ私によって回っている状況です。ですから、3か月程度であれば問題ございません。それよりも平民の動きがきな臭いことが気になります」
この会話は、要するに王をすげ替える話だ。下手したら不敬に問われそうなものだが、しかしこの場にいる全員が堂々と議論を交わす。
「壁画の赤文字、殿下もご覧になられたでしょう。王城にもすでに手が回されております。ひとえに我々王侯貴族への警告でしょう」
「ああ。何が書いてあったのか分からない文字ですか」
「何が書いてあったのか分からない文字?」
私が話題に加わったため、全員の視線が私に集まる。この空気では知らないのは私だけのようだ。アウレリウスが説明のために、代わりに口を開く。
「王族しか入れない場所に赤い文字が壁に書かれていたんだよ。何かの警告っぽくはあるんだけど、誰も読めないせいで放置している状態なんだ」
「各所の学者を呼んで今朝から調査をしているのですが、まだ解明には至っておりません」
「そうだ、アリオンも見てみる?こういうの得意じゃない?」
アウレリウスはいいことを思いついたかのように声がうわずった。おそらく、元魔塔主ということで何かしらの知識があることを期待しているのだろう。しかし、事情を知らない王妃はこちらを怪訝そうな目で見る。
「・・・平民の学生なのでしょう?そんな者に見せて解決するとは到底・・・」
「そんなことねえよ!こいつ、なんて言ったって、学園ではすべてのテストで満点を叩きだした神童だぜ!?そうだ、なんでアリオンに見せるっつー案を思いつかなかったんだ!」
ロギルジョーは流れにノリノリである。しかし、この状況はあまりよくない。別に私は各方面での学識があるというわけではなく、外国語についても別に詳しいわけではない。外国語は基本魔法で翻訳する派だが、この様子ではおそらく他の奴らもすでに試しているように思う。
「殿下、僕では力になれないと思います」
「でも、一度見てみるだけ見てみようよ。じゃあ行こうか」
アウレリウスは私を横抱きにしているままで先頭を切って歩き出す。その後ろから王妃、ロギルジョー、護衛たちが続いて歩き出した。まるで百鬼夜行だ。その先頭に抱きかかえられた私がいる。
無機質なエリアを抜け、絨毯の廊下を歩き、豪華な通りを抜ける。すれ違う使用人たちは、層々たる面子の集団行動に、驚きの表情とともに、急いで首を垂れる。おかげさまで私のことをまじまじと見る者はいない反面、あまりにも恥ずかしいために顔を隠そうとアウレリウスにしがみついた。
・・・浮遊魔法での事故の直後に浮遊魔法は使いたくないし、王宮内の転移は基本的に禁止されているし、アウレリウス以外が私を抱えるわけにもいかない。なんという恥辱・・。
拷問のような時間は過ぎ去り、やがて話にあった王族のエリアにたどり着く。
「ここは王位についている者と、その伴侶しか住むことを許されないエリアでね。天鳥宮って呼ばれているんだ」
王宮の中心区にして最上の階。唯一の階段を上ることでしか入れず、その階段は室内であるにもかかわらず豪奢なアーチが施されていた。彫像が立ち並び、一段一段が白くて広いそこにアウレリウスは足を踏み入れる。使用人たちも入れるものは限られているのだろう。王妃付きの者たちは全員がそこで足を止めた。
私はアウレリウスに小声で尋ねる。
「学者は足を踏み入れたんだよな?」
「うん、特例でね。王族と許可を得た人間でなければ目隠しをされてるっていうしきたりだから、壁以外は見ては駄目っていうことにしているんだよ」
「なら私も目を隠すものが欲しい」
「いらないよ。僕が許可を出す。それにアリオンもやがてはここに住むから、予習がてらに中を見ていって欲しいな」
その発言を受けて、私は自分の手で目を覆った。住む予定はないから、見る必要はない。アウレリウスは私の行動に不満を持ったのか、私の体を揺すってくる。
さて、私は謙遜抜きに本当に文字に詳しいわけではないから、分からなかったときはどう言い訳するか。一生懸命それを考えていた。
しばらくすると、歩みが止まった。
「アリオン、ここだよ。ごらん」
自分の手をどけ、言われたとおりの方向をみる。
赤文字だ。乱雑な文字かと思いきや、丸みのある文字。女性の書いたような文字だ。
しかし、そんな文字の分析をする前に、頭の中では意味を拾い上げる。私は震えながらその文面を読み上げた。
「『原作を壊した犯人はお前だ』」
赤い文字は、日本語で書かれていた。
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