誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人究明編

67.禁書の闇市

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 事情を知らないものが簡単に立ち入れないように、そこは路地裏をいくつも経由してようやくたどり着く。通の間では共有されている場所なのか、広いエリアには沢山の人が押し寄せていた。ジェルドを加えた私たち三人は、初めて立ち入るそこを物珍しい目で眺めた。

「なんか、知的好奇心がそそられるな。面白そうなものがありそうじゃねえか」
「本当はこういところに王族が立ち寄るのは、問題なんだけどね。もし名前を呼ぶ時があれば偽名でロギルって呼ぶね」

 前から思っていたが、ロギルジョーという名前の響きは、悪役らしく、非常にゴテゴテしている。故に、大変珍しい響きなのだ。一方ジェルドはおぶさられる私の腰を抱き上げ、持ち上げた。

「ここまで大変だっただろ。一旦俺が代わる」
「いや、そいつは軽いから別に疲れてねえけどよ」
「ううん、ずっとロギルの背中に背負われたままだったから、今は教授に甘えるよ」

 私のことを軽いとは言っていたものの、人間一人を既に長時間背負っているのだ。当然疲れているだろう。ジェルドに持ち上げられ、そのまま横抱きにされる。

「・・・教授。あの、おんぶのほうがありがたいです。これはちょっと・・・」
「気持ちは分かるが、背負うと視界が狭まって、お前が本を見つけづらいだろう。どうせどいつもこいつも本にしか興味が無いんだ。周囲の目など気にするな」

 確かに行き交う人たちは、横抱きにされる私に目もくれない。仕方がない、この姿勢で頑張るとするか。この場の進め方についてロギルジョーと念話を交わす。

『正直、容疑者とあんたを二人きりにはしたくないんだが、どうしても欲しい本なんだよな?二手に分かれても大丈夫か?』
『ああ、何かあったら念話を飛ばす』

「では俺はあっちから行くから、お前らは向こうから見て来いよ!」
「うん!また後でね!」

 ロギルジョーと別れ、私とジェルドは近場の屋台から本を見ていく。本だけではなく魔道具や飾りなども売っていて、目的さえなければじっくり見ていくのも面白そうだ。

「ただの興味本位なんだが、その本を入手して何がしたいんだ?」
「親子とは何か、その答えを求めているんです」
「・・・て、哲学の答えを求めているということか?そうか。なんだろうな、マラカイよりもはるかにお前のことが変人に見える気がしてきてな、最近」

 マラカイを越える変人がこの世にいるわけがないだろう。私は抗議の表情をジェルドに向けたが、しかしジェルドは真面目な性格ゆえか、しゃべりながらも本を探している。私も商品棚に視線を戻し、探す。
 そうしてこの屋台、またこの屋台というように移っていくが、しかし見当たらない。

「ありませんね」
「どこの屋台も、取り揃えている品々に規則性がない。これは実に困った」
「魔法生物専門店があればいいんですけれどね。さすがに闇市でそれは難しいのでしょうか」
「そうだな・・・・・・ん?」

 ジェルドは次の屋台に行こうとした途端、突然動きを止めた。そして前方を見て固まっている。その視線を追うと、見覚えのある金髪がいた。

「ふむ・・・・・・」

 屋台の前で考えに耽るマラカイである。私とジェルドの心はこの瞬間通じ合った。絶対に見つかってはいけないと。互いに小声になる。

『あの変人、こんな場所で一体何をしてるんだ?』
『避けましょう!!絶対に見つかっちゃいけない相手ですから!!』

 あいつがここに何をしに来たのかは気になる。ただ、今はジェルドと一緒にいるところを見られたくない。ジェルドは身を翻して人ごみに紛れようとした。しかし。

「おやー?なにをしているんですか、こんなところで?」

 ホラーゲームの敵キャラさながら、何の脈絡もなく視線をこっに向けてきた。怖い、私もジェルドも思わず一瞬震えたぞ。
 マラカイは手に持っていた魔導書を戻し、そのまま凝視しながらこちらにやってくる。ジェルドも観念したように歩みを止めた。

「・・・こちらのセリフだ。魔塔主ともあろう者が、こんなところでなにをしているんだ」
「アハハ、魔塔主ですから色々研究してるんですよー?面白いストラップがあるので、研究してるだけですから」
「ストラップ?見せてみろ」

 ストラップ。白い身代わりのお守りのことだ。マラカイはこの話をサラッと終えてこちらの追求にはいるつもりだったのだろうが、意外なことにジェルドが食いついた。懐に入っていたそれをジェルドはいとも簡単に奪い取り、私を抱えているにもかかわらず手に持つ。

「・・・これは、相当複雑な術式が組み込まれているな。光魔法と闇魔法を起点にしている?」
「うわー!!強盗ですー!!一介の教授がいたいけな市民の私物を盗みましたー!!」
「同時発動術式も入っている。どういうことだ?おい、これをどこで拾った?」

 騒ぐマラカイを無視し、ジェルドは完全に研究者モードに入る。片手で触っている状態だが、親指の腹でつんつんと突いているのが、こいつらしからぬ行動で少し面白い。マラカイは奪還しようと手を伸ばしてくるが、それを私が念話で制止する。

『待て、こいつの意見が知りたい。どのみちお前は資料はとったから実物がなくても大丈夫だろ?』
『その前にせんせー。なんでそいつとランデブーしてるんですか?それもお姫様抱っこで。浮気の現行犯で今からチューしますよ?』

 考えに耽るジェルドと、こちらをじっと見るマラカイ。マラカイは深いため息をついた。

「もー、仕方ないですね。それはあんたにあげますよ。生徒に手を出す淫行教師が、恥を知れ」
「礼を言う。これは一朝一夕では解読できそうにないな。何とも面白いものを入手した」

 マラカイの悪口を無視するな。ジェルドはお守りを浮遊させ、自分の懐に仕舞う。今は私の図鑑探しでそれどころではないため、自分の研究欲を抑えたのだ。残念そうに自身の胸ポケットを見ている。

「じゃ、じゃあ魔塔主様。僕たちは行きますね」
「・・・・・・」

 頬を膨らませ睨み、無言の抗議をしてくるが、しかしここで私に執着すれば私の正体がばれかねない。マラカイがローゼルアリオンにベタベタしていることはジェルドも知っているためだ。故にマラカイは我慢しているのだ。

『ここは見送りますが、何かあったら呼ぶんですよ?』
『分かってる』
『あいつの手が襟元にのびた時も呼ぶんですよ?』
『お前と違ってこの男がやるわけないだろうが!!』

 マラカイはお守りの研究のために、ここにやってきたのだろう。頑張ってくれているようで、そこは本当に助かる。ロギルジョーの言ではマラカイはれっきとした容疑者に入っているが、しかし普段の働きをねぎらって、星辰の祝祭ではプレゼントを渡す予定だ。

「珍しいな、あいつがこんなあっさり引き下がるとは」
「忙しいんでしょうね。そっとしておきましょう」

 流石は王都の下町。知り合いに遭遇する確率が高いな。下手すると他の生徒に遭遇して、私とジェルドの関係を揶揄する輩も現れるかもしれない。なるべく探索は手早く行いたいものだ。
 しかし、努力むなしく、手当たり次第に探したものの、何も見つけられず。私たちはロギルジョーと合流した。

「恥を忍んで店番にも聞いて回ったんだけどよ、知らないってよ。『冷やかしはやめろ、そんなもん児童施設に行け!!』と怒られちまったよ」
「それは・・・苦労を掛けたね」
「だが、一理あるな。誰だってそんなタイトルの本、貴重な学術書とは思わん。ひょっとしたら本当に児童施設に寄付されている可能性はないか?」

 ジェルドの発言に私は驚く。それは盲点だった。確かに、中身を知ってる人間であれば大人向けと分かるが、一々中身を点検しない者が見れば児童書と思うだろう。すると。

「孤児院に寄付されている?」
「可能性は高いな」
「とはいえ、王都は広いぞ。しらみつぶしにするには流石に無理ねぇか?」

 それもそうだ。人口が多ければ孤児院もまた多い。今日はここで調査を終えるべきだろう。

「じゃあロギルジョー。今日はここまでにして王宮に戻ろうか」
「そうだな、情報を集めてから動いた方がいいだろう」

 ジェルドは、もとはと言えば私たち二人でここに来ることを危惧して協力してきてくれた。故に、帰ることを知るや否やロギルジョーの背中に私を戻した。

「ジェルド教授、いい祝祭を」
「・・・。ああ、お前達もな」

 そうして私たちは王宮内へ戻っていく。王宮では暗殺防止のために転移が禁止されているため、徒歩で城前まで向かっていく。

「・・・母上に見られると面倒だ。ここからは体を浮かすぞ」
「いや、いい。私がやる。お前に任せると壁に体をぶつけそうで怖い」
「そんな下手じゃねえよ!?いいから任せとけって!」

 そしてロギルジョーは自身の魔道具である指輪に魔力を流して私を浮かせ、歩き出す。おんぶは下品で浮遊魔法はかろうじて下品にならない基準がよくわからないが、まるでペーパードライバーの助手席に座ったような恐怖の感覚に身が包まれる。こいつは雷魔法の腕は相当高いだろうが、細かい技術を欲する魔法については不得手というのはなんとなくわかる。私は知っている。攻撃魔法を得意とする奴らは、総じて魔法も雑なのだ。

「おい、やっぱり怖いから下ろせ。この浮遊の安定感の無さ、運転初心者マーク特有の緊張感がこちらにまで伝わってくる」
「今から階段行くぜ。ええと、まずはあんたを浮遊したまま踊り場までもっていって・・・」
「ゲームビギナーがやりがちな操作ミスをするなよ!?一旦おろせ!!まずはお前が踊り場に行ってから次の手を考えろ!!」

 しかし集中するあまり人の話を聞かないロギルジョー。そのまま私を勢いよく踊り場まで一直線に動かす。

 しかし。

 丁度上の階から誰かがやってきた。互いに不意打ちの形となり、踊り場で呆気なく我々は衝突する。

「いてて・・・ごめんなさい、お怪我はありま・・・せん・・・か・・・・・・」

 ぶつかった先にいたのは、50代後半ほどの男性だった。
 しかも、ただの男性ではない。非常に高価な服を着た、赤い髪の男性だった。

 ロギルジョーは震えながら自分の口を手で押さえる。

「ち、父上・・・・・・」

 私が正面衝突したのは他でもない、この国の王だった。

 平民とぶつかったショックなのか、その身はプルプルと震えており、また周辺にいた兵士たちは私を颯爽と取り囲む。

「捕えろ、不敬だッ!!」
「ち、違うんです父上!!違うんですー!!」

 そうして私は王宮生活二日目で、まさかの牢屋送りとなるのであった・・・。
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