誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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犯人究明編

75.軍部の息子・ロキ

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「ひっさしぶりやでおチビ~!!アバラさん、無事実家帰りから生還や~!!」
「実家を死地って思ってる人間を初めて見たよ。アリオン、この間の雑貨屋ぶりだね!元気そうで何よりだよ」
「アバラ、レオ、久しぶり」

 冬期休暇は終わり、学園は再開される。アバラの故郷には因習があるにもかかわらず、元気に学園に戻ってきたようだ。レオも。

 しかし。
 一方の私は外面は元気でも、体の衰弱を悟っていた。

 星辰の祝祭の後、アウレリウスは真っ青な顔をして、私の手を握っていた。彼の視点では子宮を作った直後にああなったのだ。何度も無関係と伝え、医師からもそちらは問題ないと発言して貰ったが、しかして私の寿命問題は解決していない。

 体液接種は続けなくてはならないが、しかし、この生活でこの先、生きながらえるという選択肢など用意されていない。もとより犯人を殺すつもりでいたけれど、明確なタイムリミットと、殺しの必要性の明示に、情報を共有した面々も同様に取り乱した。

『だったらよ、あんたは学園から一度退いた方がいい。学園にさえいなければ、魔力も使わないだろうし』
『いいや、私でなくては出来ないことが多い。もちろん、死ぬつもりはない。どのみち私が死ねばアウレリウスも道連れになる。なんとしても犯人を特定し、殺害しなければならない』

 最高なのは犯人を殺し、私は魔力を回復すること。そうすればすべてが元通りになる。

 けれど犯人特定、もしくは殺害が叶わなかった場合。
 もし「不思議まぼろし動物図鑑」で不死鳥の守りの番の契約破棄がかなえられれば、私が死んでもアウレリウスの後追いは阻止できる。

「ん?おチビ?体調悪いん?なんか顔が浮かんな」
「あ、いや・・・。何でもないよ」

 本当にこいつは勘が鋭いな。アホそうに見えて人のことをよく見ている。今日は新年あけ一発目。私も、切り替えて学園の生徒として振舞わなくては。

 足元を見つつ思考を結論付けると、前方への注意がおろそかになっていた。

「っ痛ってぇな!!おい!!どこ歩いてんだてめえ!!」
「いたっ」

 私の肩と誰かの腕がぶつかり、同時に苦悶の声を上げる。バランスを崩した私は尻もちをついた。

 目の前には長い金髪で褐色の男。こいつは確か・・・。

「お前、一年か?よくもこの俺様に無礼な真似をしたな」

 思い出した。軍部スカルノス家の長男・ロキだ。
 虫の居所が悪かったようで、地面に座る私の胸倉を掴み、ドスを利かせる。そのまま私の胸倉をつかみ、上へと上げた。

「おチビ!?おいあんた、離せ、不注意はお互い様やろが」

 私を持ち上げるロキの腕を、アバラは掴んだ。しかし私を離そうとしないロキにしびれを切らし、手に力を入れる。
 ただ単に力を入れただけではロキは動じない。それを察してか、アバラの眼光は鋭くなり、やがてミシっという音がする。

「ロキ様!?下種め、ロキ様を離せ!!」

 ロキの周辺にいた取り巻き三人は、主人が暴力を振るわれていると判断し、アバラに飛び掛かる。ここに、突発的な喧嘩が起ころうとしていた。しかし接近戦が得意なアバラはいとも簡単にスイングを躱し、またレオも応戦のため、魔法の詠唱を開始する。

 一年生と三年生による、戦いが始まる。

 しかし。

「アコースティカ・マギア」

 美しい男性の歌声が、廊下に響き渡る。

 一瞬、誰もが息をするのを忘れた。 その声が耳に届くと、世界から雑音が消え、時間さえもが緩やかに止まる。歌声は、脳裏で直接語りかけられているような強い引力を持ち、全身の血液が、彼のリズムに合わせて静かに脈打ち始めるのを感じた。

 しかし、同時に心臓が焼かれるような心地になる。それは取り巻きの者たちも同様だった。ロキは無差別に、周辺に音響にて攻撃を加え続ける。私の鼓膜も、体験したことがない痛みをとらえ始めた。

 音響による攻撃魔法。それを、手当たり次第に放っている。

 クソ、ロギルジョーには魔力を使わないようにと言われていたが、仕方がない!私は胸倉を掴まれた状態で、懐の巾着を手に持った。

「ミスティック・シールド」

 魔法陣を展開し、飛来する音波を防壁に沿わせて鏡のように音を反射させる。つまりは、自分の毒で自分の毒が無効化される、という状態だ。
 音源であるロキの方向へと流して無害化させた。やがて自分の音が捻じ曲げられていることに気が付き、ロキは歌うのをやめた。取り巻き達は鼓膜を損傷しているのか耳を抑え、レオは防御魔法を自分とアバラに張っていたようだが、しかし少なからず貫通したようで吐き気を催していた。

「・・・俺様の歌が、跳ね返された?お前、何者だ?」
「・・・アリオン」
「アリオン・・・?お前、ひょっとしてあの王子様と懇意にしているって噂の奴か。はは、なるほどな。これはちょうどいい」

 ロキは私を地面におろす。やっと存分に息が吸えるためにコホコホと咳をするが、しかしそんな私の隙をついて魔道具の巾着袋を掠め取った。

 

「返せッ、僕の大事な、魔道具を・・・!!」
「ははは、それはお前次第だな」

 ロキは巾着袋をお手玉のように跳ねさせ、楽し気にしている。こいつは、私の必死な形相を見るのが滑稽なのだろう。まずい、あれが手元にないと念話が使えず、ロギルジョーに助けが呼べない!

「返して欲しいか?いいぜ。だが、ついてこい。俺様はお前に興味が出来たんでな」

 踵を返し、来た方向とは別方向へと進んでいく。・・・私に拒否権はない。あれが無ければ、十分に魔法を使えない、私にとって命綱である。いや、そうでなくとも、アウレリウスの願いが込められた大切な宝物なのだ。絶対に、取り返す必要がある。

 廊下を進み、亡きドレイヴン教授の魔法実技学の教室があった方向へと進んでいく。あの場所はドレイヴンとの戦いで一度倒壊している。魔法学園の後者は特殊な術式を編み込んでいるため、簡単には修復できないのだ。
 教室の寸前でロキは立ち止まり、やがて小声で何かをつぶやいた。

 なんと、床が動き出し、地下へと続く階段が現れた。なんだ、ここは。原作を知っている上に、魔塔主をしていた、この私すら知らない場所だ。

「驚いただろ?降りろ。お前が前を歩け」

 私のことを警戒してか、ロキは先を促す。暗い場所を、魔法のろうそくが照らしていた。
 湿っているようで、水の滴る音がどこかから聞こえる。石の階段を一つずつ降りていき、やがて一番下に辿り着く。

 これは、こんなところで攫われようものなら、誰にも気づいてもらえないだろう。つまり、亡きドレイヴン教授の本当の拠点はここだったのだ!!ここに人を攫い、実験をしていたのだ。

 そこは、まるでアジトのようだった。壁には本棚が並び、奥には牢がある。私たちがそこに足を踏み入れた途端、照明が輝き、蛍光灯のように部屋を照らした。

「地べたに座れ。敷物、敷いてあるだろ?」

 促されるまま私は敷物の上に正座した。何が始まるかと思いきや、ロキは同様に私の真正面に座る。

「胸元にリンゴの刺繍がないってことはお前は平民だよな。生徒会にも選ばれ、優秀な魔法使いでもある。名前はアリオン。間違いはないか?」
「・・・うん、そうだね」
「なあアリオン。単刀直入に言うが、俺様の仲間にならないか?」

 ロキはその褐色の手をこちらに伸ばす。こいつの勧誘の意図は既に察しがついている。軍部が王権を握るために、平民を盾にして民主化を図る。やがて、そこを乗っ取る。

 私は今、立木心愛のように、捨て駒として勧誘されているのだ。特に私はアウレリウスと懇意にしている。こんな最高の情報源はないのだろう。
 当然引き受けるわけがない。しかし情報を引き出させるため、まずはとぼけよう。

「・・・仲間?何の話でしょうか」
「知ってるか。この学園を卒業した平民がどうなるか。どんなに優秀な奴でも使い捨てにされる末路を。どれだけ優秀なやつでも、成りあがれない事実を」

 ロキは拳を握る。迫真の演技だ。さすがは音響の魔法使い、声の耳触りがあまりにもいい。故に、真相を知らなければこれは

「俺はこんな腐った国を変えたいと思っているんだ。だから、仲間を集めているんだよ。俺様に、手を貸して欲しい」

 こいつは危険だ。軍国主義の指導者に近い、喋りの技術を有している。相手の自尊心を上手に満たし、心をじわじわと鼓舞する。そして敵がなんであるかを仰ぎ、違和感を覚えさせない。

「平民のお前に待ち受けているのは、使い潰される未来か、平民が権力を持つ世界で上の地位を得られるか。その二択しかないんだよ」

 究極の二択の提示は、詐欺師の常套句。そうして思考が他の可能性に向くことを防ぐ。中身が10代後半あたりの学生では、これは流されても仕方がない。さて、私はどうすべきか。

 ここでこいつの手を取れば、私はアジトへ行けるだろう。すれば、情報を得られるかもしれない。喉から手が出るほど欲しい情報が、探し当てられるかもしれない!

 けれどアウレリウスはどうなる?
 私が姿を消したアウレリウスは。
 私を番と認識しているアウレリウスは、これ以上ないほどに落ち込むだろう。

 ロキは勝ちを確信しているかのようにほくそ笑む。自分の語り口調で落ちなかった平民は一人もいないのだろう。いいだろう。乗ってやるよ。

「先輩、そんな凄い野望を持っているのですね!僕もお手伝いしたいです!」
「よし来た!じゃあ・・・」
「でも、僕は第二王子のロギルジョー殿下に、盟約律めいやくりつを共有しているんです!ですので、契約の上書きが必要なんです・・・」

 盟約律。主人にまつわる秘密などを発言や書面に記せない呪い。秘密保持の魔法だ。
 私はロギルジョーと師弟契約を結んでいるが、師弟契約を結ぶと自動的に盟約律も発動する。

「・・・驚いた。嘘は言ってねえみたいだな。脈拍に乱れがねえ」

 こいつ、心音を聞いて真偽判定が出来るのか!?これは、厄介な相手だな。偶然だが嘘をつかなくてよかった。

「殿下に強引に迫られて、結びたくないのに持ち掛けられました」
「・・・ひでえ奴だな」

 これもまた一応真実である。私はロギルジョーに強引に迫られて、最初は結ぶ気の無かった師弟契約を結んだからだ。

「ですので、別の契約で解くしかありません。例えば、運命率の呪いのような」
「運命率って、あれだよな。賭けをして、勝ったら相手から少しずつ主導権をはく奪していくやつ」

 運命率の呪い。
 ロキの言う通り、簡単に言うと賭けをして、勝てば相手に絶対の命令が出来るというものだ。両者が本気で、かつイカサマ無しで行うというのが前提で、マッチを行うたびに強制力が強くなっていく。完全に運任せゆえの、ハイリスクハイリターン。故に極めて強い契約となる。
 盟約律は非常に重い制約。故に、これを破るにはこんな馬鹿げた呪いでもない限り、上塗りは出来ないのだ。

 目の前の小僧一人をどうにかするためだけに、この運命率の呪いを持ち出すのは当然私にとってリスクが大きい。イカサマが出来ないうえに、こちらから魔法も使えないため、細工も出来たものではないのだ。

 しかし当然、ロキ側にとってもリスクが大きい。重要な情報を握っているかもしれないだろうこの私という、たった一人の平民をスカウトするためだけに、そんなハイリスクをどうして犯せようか。

 

「あれ?先輩ともあろう御方が、まさか自信が無いと・・・?」
「・・・・・・!!」
「ですがギャンブルとはいえ、僕は先輩を信じています。だって、賭博において嘘が分かるとはつまり、ブラフも通じないって言うことですからね。先輩の才能なら楽勝ですよ!」

 ロキはにやりと笑った。
 新学期早々で地下に連行されるのは流石に予想していなかったが、来い小僧。大人の怖さを貴様に見せてやる!!
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